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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン3 chapter6
195/364

夢を信じて-10

『残り400!!

ドリームメーカーにムチが入る!!

インフェルノも必死に逃げるぞ!!


インフェルノがまだ1馬身リード!!

ドリームメーカーにも勢いがある!!』



「執念…か。」

吉野善吉の胸に込み上げるものがあった。


長く生産界を引っ張ってきた社来ファーム。その総帥として数多くの名馬を送り出してきた吉野氏。

しかしその何百倍、いや何万倍の挫折も味わってきた。

その年老いた情熱家が揺るぎない信念をひとつもっている。


『馬は必ず応えてくれる』


天国の親友とかわした約束…情熱だけは忘れない!!

隣で泣きながらターフに叫んでいる親友の息子に言葉をかける。


「いい馬をつくったな…」


吉野善吉…まだその夢は終わらない。



『2頭の激しいレースはラスト1ハロンを通過しようとしています!!

インフェルノが1馬身のリードを守っています!!

ドリームメーカー残り200で差せるか!?』



「そんなもんなの!?

あなたの覚悟は!?」

浦河美幸は心を鬼にした。このレースが終わった時、彼女への非難は凄まじいものになるだろう。【脚の折れた馬】にムチを振るい、命を奪う結果になるかもしれない…。

しかし、そんな事は恐くはない。一番恐れる事は【使命を果たせず】命を落とすかもしれないパートナーに悔いを残させる事だ。


浦河美幸の涙はとまらない…だが、ムチをやめるわけにもいかない!!


「わたしは…あなたが大好きよ…!!」

浦河美幸の最期のムチがドリームメーカーに打たれた。


『200mを通過!!

インフェルノが1馬身のリードでラスト1ハロン!!


!?


ここからドリームメーカーがきた!!

一気に並んだぞ!!』



キャサリンは横に並んだ赤い壁を見て愕然とした。

ドリームメーカーの目は前しか見ていなかった。もう…インフェルノすら見ていない…

絶対的な決意の前にキャサリンは敗北を確信した。


『ドリームメーカーが一気にかわす!!


これは凄い!!


1馬身…2馬身…差がひらいていく!!』



相羽ゆりは責任を感じていた。これは自分が仕組んだレースだからだ。


豪華客船でドリームメーカーに耳打ちした自分の秘密…それは今更瑶子たちに言えない言葉…


「コナンちゃんの大ファンなのよ…」


しかし相羽の心にもうひとつの核心が生まれた。


『わたしは…あなたをもっと好きになったわ…!!』


「ウリリリリーーーーーッ………!!」


『これは完全に勝負ありだ!!

残り100でドリームメーカーが独走!!

浦河美幸の手綱はすでに持ったまま!!』


レースが決着をつく前に照文さんは馬運車を手配してくれていた。すぐに【措置】ができるように…。


ゴールをした後…俺は的確な判断をする腹を決めた。

あいつの苦しむ姿は…見たくないから…。



「コナン!!コナン…!!」

泣き叫ぶ瑶子の肩を抱いた。



俺たちは最高の馬に出会えた…!!



『ドリームメーカー!!

ドリームメーカーが…世界最大のマッチレースを制した!!

1着でゴール!!


インフェルノは3馬身遅れ!!


これは歴史的な勝利です!!


セーフ・ザ・チルドレン・スペシャルチャリティーレースはドリームメーカーが制しました!!


おっと…浦河騎手が下馬します…


やはりなんらかの故障があったのでしょうか?』



俺たちはすぐにターフに降りた。馬運車に乗せる前に…瑶子と会わせなくてはならない…!!


ゴールした瞬間盛り上がっていた観客スタンドは、徐々に事態を把握しはじめざわめきたっていた。



ターフには原辰巳に綱を持たれたドリームメーカーと座り込み泣き叫ぶ浦河騎手の姿があった。


すぐに走り寄る宝田。ドリームメーカーの脚を確かめる。


「ごめんなさい…!!

うう…ごめんなさい…ごめんなさ…い…!!」

俺たちに謝り続ける浦河騎手に手を差し延べた。


武田師が浦河騎手に叫んだ。

「おまえは悪くない!!よくやった…よくやったよ」



その通りだ…ありがとう浦河騎手…辛いレースを最後までよくがんばってくれた…きみが乗ってくれて本当によかった…。

「コナン!!いやよ!!いやよ!!コナン!!」

瑶子の腕の中で穏やかな顔をするドリームメーカー。


プヒンプヒン…



宝田は俺の顔を見た。その目には涙が大量に溢れていた。


「とりあえず…馬運車に乗せましょう…」

宝田の指示で号泣の原がドリームメーカーの綱を引いた。


俺は瑶子をドリームメーカーから離してそれを見送った。


引きずる右前脚…再びその脚を踏ん張りドリームメーカーは立ち止まった。


振り返りまたこちらに向かってくる。


瑶子が恋しいんだろう。原もすでに綱を引いていない。


近づいてくるドリームメーカーは瑶子の隣にいる俺に鼻をスリよせてきた。


!!


バカヤロウ…俺なんかに気を使うな…

バカヤロウ…バカヤロウ…


ううっ…ドリームメーカー…ぁぁ。


プヒンプヒン…


俺の耳の錯覚か…!?

ドリームメーカーが「ありがとう」って言った気がした。



「ドリームメーカー…」

宝田にもそう聞こえていた。


「コナン……行かないで…!!」

そして…瑶子にも…。


再び原に引かれたドリームメーカーは浦河騎手の頬にまるでキスをするように鼻をスリよせ、静かに馬運車に乗り込んだ。


いやだよ…ドリームメーカー…

寂しいよ…ドリーム…メーカー…


ドリームメーカーァァァァーーーーーーーーッッ!!!


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