夢を信じて-9
『おっと!?インフェルノがドリームメーカーをかわした…!?
……浦河美幸がドリームメーカーの手綱を抑えている!?
故障発生か!?
これはドリームメーカー故障発生!!
しかし…ドリームメーカー止まらない!?
再びインフェルノに並びかけた!!』
「ドリームメーカー!!止まりなさい!!
ドリームメーカー!!
お願い…!!止まって…!!」
力一杯手綱を引く浦河美幸。
しかし凄まじいドリームメーカーの馬力に手綱の主導権を奪われていた。
『2頭は残り600mを通過!ドリームメーカー止まらない!!
大丈夫なのか!?
浦河騎手は手綱を引いたままですが…』
「あなた…なんで走っていられるの!?
脚が折れてるのよ!?」
『さぁインフェルノが1馬身リード!
ドリームメーカーは必死に追走!』
「ウガーーーーーッ!!」
叫ぶドリームメーカー。
その叫びは浦河美幸に向けてのものだった。そして浦河美幸はその叫びの意図をはっきり理解した。
「あなた…死んじゃうかもしれないわよ…」
「ウガーーッ!!」
浦河美幸はゴーグルの中で溢れた涙を堪えながら腹をくくった。
「わかったわ…すべての汚名を私が被ろう…すべては私の責任…
あなたに勝たせてあげる…!!」
浦河美幸は手綱を持ち直し、騎乗スタイルの体勢を整え…ムチを振り上げた。
「アカン!!完全に脚をヤってしまっとる!!」
宝田が身を乗り出し絶叫した。
早くなる俺の鼓動…。
「いや…コナンとまって…!!」
瑶子の声に涙が混じる。
「おい!?なにしてんねん!?早くドリームメーカーをとめんかっ!!」
宝田が浦河騎手に向けて叫んだ。
「美幸ちゃん!!とめてっ!!」
瑶子も声を振り絞り叫ぶ。
浦河騎手に聞こえるはずがない…そんな事はわかっている…
だけど二人は叫んでいた。
『残り400m!ドリームメーカーにムチが入った!!』
「浦河っ!!やめろっ!!」
宝田の絶叫は絶望を含んでいた。
「いやーーっ!!美幸ちゃんお願い!!もうやめて!!」
瑶子も…。
俺は涙が止まらない…
わかるんだ…あいつの意志が…
とまるはずないじゃないか…
すげぇ痛いだろう…すげぇ苦しいだろう…だけど…あいつが勝負を途中で捨てたりするわけない…
もう何年もあいつの走りを見てきたんだ…
浦河騎手は必死にとめたさ…でも止まらないあいつの意志を尊重してくれたんだ…
「黙って見てろっ!!
宝田!!瑶子!!
最後まで…最後までしっかり見届けろっ!!
これが…あいつの生きざまだっ!!」
俺の叫びに反応した二人。
宝田だって…瑶子だって…本当は気づいているんだ…。
ドリームメーカーが
【脚が折れたぐらい】
で自分の夢を諦めない事を…。
俺はターフのドリームメーカーに叫んだ。
「ドリームメーカーがんばれ!!
絶対に勝つんだ!!」
「…コナン…コナン…
コナンがんばって…!!」
「うっ…
このあほんだら…
ドリームメーカー!!
うう…
がんばらんかワレっ!!」
すでにレースは終わった…
キャサリン・エバンスはそう思っていた。
脚の折れているドリームメーカーをその目で確認している。
後ただ…ゴールまで走るだけでいい。
しかしキャサリンは背後に殺気を感じた。
背中を鋭利な刃物で突き刺されるような視線。
キャサリンは振り向いた。
怒濤の勢いで迫る赤い馬体。
!?
なぜ!?なぜあの脚で走っていられるの!?
キャサリンには今の現状が把握できなかった。
しかし唯一理解できた事がある…
それはこのままでは負けると言う現実…。
キャサリンはムチを振り下ろした。
赤い戦慄は折れた脚で必死に追っていた。
浦河美幸の【涙の決意】とドリームメーカーの【決死の覚悟】。
【芯】を失った筋肉の鎧は【信念】のオーラに包まれ、【奇跡の脚】となり栄光の先にある【破滅の道】へと爆進していった…。