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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン3 chapter4
176/364

夢見る幼駒じゃいられない!-5

今夜予約しているホテルはちゃんとホースチャンネル完備だ。

同じ過ちは繰り返さない。


次のレースはニュータイプのデビュー戦だ。



ガッツリ飯を食らいシコタマ酒を飲んでテレビの前に身構えた俺。かなり機嫌がいい。なぜってファンタジスタが5着とはいえ久しぶりの手応え感じるレースをしてくれたからだ。

【ファンタジスタ】とは、なにがおこるかわからない…なにか奇跡をおこしてくれる…見る者すべてに期待と興奮を与える人の事を言う。この興奮は俺の暴飲暴食に火をつけて、ホテルに戻った時にはアムロ…いやニュータイプのデビュー戦が始まろうとしていた。



アムロはファンタジアの最期の仔。父はディープインパクト。うちの牧場にとってダンステリアにトニービンをかけた時以上の大博打的交配だった。


待ちに待ったこの日を無事に迎えられたのは、一緒に欧州に渡った宝田がしっかりアムロを支えてくれていたからだろう。




「いい顔してるな…」

テレビに映ったアムロへの感想だ。

3ヶ月前にドリームメーカーが走ったキングジョージの時にアムロをベンゲル厩舎で見たが、あの時よりさらに競走馬らしい顔付きになっていた。


黒い馬体に鮮やかな流星。やや小さい体は父親似か…。


鞍上にはオリバー・ペリアと完璧な布陣で挑むデビュー戦。



6頭立ての芝1600m。


俺の鼓動はまるでレースへのカウントダウンのように高鳴っていた。


ふと思い出すファンタジスタのデビュー戦。

四天王と言われて高い期待を集めたデビュー戦は、鮮烈な差し脚を世に知らしめるものだった。


まさに電撃デビュー!

AV女優のキャッチに使われそうだが、まさに電撃のデビューだった。


アムロ…いや、この名は競走馬になってからは意味のない名。今のあの馬はニュータイプ。

世界中に流星伝説の幕開けを呼ぶために海を渡った英雄の化身。


すでに現地では【黒い彗星】と呼ばれている凱旋門賞馬の弟。

おそらく伝説の英雄のライバルだったキャスバル将軍のあだ名から取ったのだろう。


いざ伝説はゲートと共に開く…。


『さぁ遠く海を渡った日本の若駒が、世界の舞台でデビューします!

飛田牧場で生まれたファンタジアの仔は、母の祈りと兄の誇りを胸に英国にやってきました。


落ち着いています。

ニュータイプ…ゲートに入って…


スタートしました!』


「行けっ!」

ベットに横になっていた俺は立ち上がっていた。


最高尾につけたニュータイプ。

だがほぼ一団。


6頭の集団が第3コーナーの丘を登り、一気に下ってくる。


直線は緩やかな下り坂。長い直線集団はまだ動かない。


しかし徐々に集団がバラけ、横に広がった6頭の1番大外にニュータイプの姿が見えた。


まだシンガリ。残り600。ペリアはまだ動かない。


他の馬が追い始めた残り400m。まだペリアの手は動かない。


俺は興奮していた。しかし不安はない。宝田に共に海を渡る決意をさせた馬だ。俺はニュータイプがどんな勝ち方をしてくれるか…それだけを信じていた。


残り200でムチが入る他馬。ペリアは手綱を持ったまま。

しかし必死に追う5頭の大外を徐々に上がっていくニュータイプ。


これは次元が違う…!!


持ったまま残り100で先頭に立ったニュータイプ。


もちろんフランスのトップジョッキーは見せ場を作る。


ペリアは先頭に立ってやっとムチを振り上げた。

しかしペリアのムチは振り下ろされず、ニュータイプの顔の横に突き出された。

まるで自分たちの進む道を指差したかのように、ビュンと見せられたムチにニュータイプは反応した。


残り100で一気に加速したニュータイプの体が霞んで見える…!!



俺は腰から砕けた…そして涙が溢れた。

『ニュータイプがグングン後続を突き放す!


これは凄い…!!


残り100で一気に5馬身ちぎってゴーーールッ!!!!


兄が電撃なら…


弟は神の(イカヅチ)!!



ニュータイプが世界の舞台で衝撃的なデビューを飾りました!!』



ニュータイプぅ~…


見事な勝ちっぷりに感涙にむせぶ俺。


世界中に叫びたい!!ニュータイプの名を忘れるな!!この名は来年の英国ダービーを制する者の名だ!!



競馬場以外は見知らぬ街東京のホテルの一室…ひとり感極まる35のオッサン。


別に同情などいらぬ!!


なぜって俺は本当に嬉しいんだ…。

あの日ファンタジアは、この仔を愛すがために命を落とした。

あのまま終わっていれば悲しい親仔の話だっただろう。しかし競馬と言うドラマは血を紡ぎ夢を繋いだストーリーを我々に与えてくれる。

辛く悲しいファンタジアの死は、光輝く栄光への序章となったのだ。

欧州競馬はシーズンオフに入る。ニュータイプの次走は来年になるだろう。

今日はあくまでもデビュー戦に過ぎない。

栄光を掴む者にとって勝って当然のレースである。

来年ニュータイプが始動した時こそ、本当の戦いが待っているのだ。

英国ダービー…世界中のダービーと名のつくレースの頂点に君臨するダービーの中のダービー。


今日のデビュー戦の舞台であるエプソムに来年6月2週に帰ってくる事が目標ではない。

6月2週にこのエプソムの覇者になる事こそが目標でありニュータイプの使命である。



もう一度言おう!!ニュータイプの名を忘れるな!!来年の英国ダービーを制す者の名だ!!



レース後に宝田は飛行機に飛び乗った。

もちろん行き先は美穂さんの待つ日本へ…。



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