夢見る幼駒じゃいられない!-3
菊花賞はスターレジェンドが春の鬱憤を晴らすかのような快勝で最後の一冠を飾った。
迎えた10月五週。
うちの牧場にとって重要な1日がやってきた。
なぜなら日本では天皇賞(秋)にファンタジスタ、アメリカではBCターフにドリームメーカー、英国ではニュータイプのデビュー戦。
長い1日が始まろうとしていた。
今回の人員配置を説明しておこう。
まず天皇賞が行われる東京競馬場には俺が行き、アメリカのハリウッドパーク競馬場には瑶子、英国エプソム競馬場にはもちろん宝田だ。
まずは日本のファンタジスタ。
前走の宝塚記念から休養明けの本番だ。
オールカマーを勝ったフサイチチャンプ。
京都大賞典でロンバルディアに勝ったフェニックス。
毎日王冠でもホワイトファングがドラゴンウイングを下していて、4歳馬の勢いは凄まじい。
そして今年の皐月賞馬ウルトラソウルも参戦。
世代交代の波はもうすでに旧世代を飲み込む寸前にあった。
『さぁ秋の天皇賞!
勢いを増す4歳勢!
新勢力の3歳馬!
受けて立つ最強世代!
各世代が威信を賭けて戦います!
今日の1番人気はホワイトファング!今年の宝塚記念馬!前走毎日王冠でも快勝!GⅠ3勝目を狙います!
2番人気はフェニックス!前走の京都大賞典で再びロンバルディアに勝利!天皇賞春秋制覇なるか!?
3番人気ロンバルディア!新勢力に圧されていますが今だ3着以内は外しません!起死回生なるか!?
4番人気ウルトラソウル!皐月賞馬が参戦します!中距離からマイルに焦点を絞り早くも古馬に挑戦状を叩きつけます!
5番人気フサイチチャンプ!常に比較される兄ロンバルディアを超えるため万全の仕上がりで挑みます!
6番人気ドラゴンウイング!今年は4戦して1勝2着3回!得意のこの距離で盾奪りなるか!?
7番人気ファンタジスタ!世界に喰らわした雷脚を再び!妹のシャイニングハートもGⅠ馬になりました!蘇れ電撃!
以上18頭!』
東京競馬場に詰め掛けた観衆と同じく、馬主席も盛り上がりを見せていた。
ホワイトファングの馬主である金村慎介氏に絡むフサイチチャンプの房一。
静かにターフを見守るロンバルディア馬主ダーリージャパンの高橋氏。
さっきから俺にまとわりつくドラゴンウイング馬主龍田仁。
ウルトラソウルの馬主である社来ファーム社長の照文さんと、ファンタジスタ馬主社来HC社長春文はいつもの兄弟喧嘩寸前のやりとり。
もちろんアドバイザもいる。
俺的にはこのレースにドリームメーカーも出走させたかった。
ぶっちゃけ勝てると思う。
しかしヤツの執念はインフェルノに向いている以上邪魔はできない。(邪魔しそうになったが…)
ファンタジスタは相変わらず気配は変わらずにいた。
当初予定していた京都大賞典を発熱で回避してからさらに調子を落ちている。
俺は春文に、もうこれ以上走らせずに【とりあえず】繁殖に上げてやろうと提案したが、「肉体的な衰えではない。精神的に前を向けばまた蘇る」とファンタジスタの復活を信じている。
春文はなんとしても高額なシンジゲートを組みたがっていた。もちろんそれだけの功績も残している。
しかし俺はファンタジスタには流星の系譜を引き継いで欲しい…絶対に無事に種牡馬になってもらわねばならない。
一度【引き際】を誤った俺たちは、また同じ過ちを繰り返してしまっている気がしてならなかった。