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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン3 chapter3
169/364

夢は陽炎-4

「そんな事って…」


宝田は瑤子からの言葉に驚愕の表情を見せた。

そりゃそうだ…愛する人が死の淵にいる事を聞かされたんだ。俺だったら取り乱して泣きさけんでいる。


「宝田さんお願い!

すぐに日本に帰って美穂さんのそばにいてあげて!」

瑤子の必死の懇願に宝田はうつ向いた。



俺は宝田のこの態度に違和感を感じた。もちろん急な事で気が動転しているだろう。しかし宝田はなにか頭の中で必死にこの現実を整理しはじめている感じがした。そして宝田の返事が予想できた。


「帰れませんわ…」

宝田の返事は俺の予想通りだった。


「帰れないって!?どうして…?」

瑤子の声が高ぶる。


俺は瑤子に落ち着くように言い、宝田に訴えた。

「宝田さん…帰れないってどういう事?」

ある程度理解していたがあえて聞いた。


「帰れませんよ…帰れるわけないでしょ!!

どの面下げて帰れって言うんですか!?

彼女は僕の夢の邪魔になりたくないって隠していたんですよね?

僕はまだなにひとつ叶えていない…!」

宝田は泣いていた。


「アムロです…。アムロが僕の夢です…。

少なくとも…アムロが世界の舞台で1勝するまでは彼女に会わす顔がありません…。

今帰ったら逆に彼女の気持ちを踏みにじる事になる…。」


宝田は高まった気持ちを無理矢理抑えつけて俺と瑶子に語った。宝田だって本当すぐに帰りたいに違いない。


しかし俺も宝田と一緒でそう思う…。


そしてそれこそ美穂さんが望んでいる事だろう。



俺は泣いている瑶子の肩を抱き宝田に言った。

「アムロは間違いなくデビュー戦に勝てるよね?」


「もちろんです…」


「だったらデビュー戦が終わったらすぐに帰ってきてください!

…美穂さんが待ってるから…。」



宝田は無言で頷いた。


キングジョージ当日。


1番人気はもちろんインフェルノ。

2番人気ドリームメーカー。

3番人気シャマルティン。


しかしこのレースで2番人気以下に人気と言う概念は必要なかった。

インフェルノVSその他の馬。そんな雰囲気が漂っていた。



宝田と美穂さんの件は二人に委ねる事に瑤子も納得。

俺と瑤子が美穂さんにできる事はファンタジアの子供たちに活躍の場を与えて元気付ける事だけだ。



「宝田さん、今日ドリームメーカーはちゃんと走りますかね?」

俺の問いに宝田は、

「間違いなく掛ると思います」

と断言した。


なぜ断言できるんだ…?



「ウガーーーーーーッ!」

ドリームメーカーは雄叫びとともにターフに入ってきた。



ゲートに向かうインフェルノとかなり距離をとっている。


「美幸ちゃんには、なるべくレース直前までインフェルノに近づかないようにって言ってあるわ」

瑤子もいろいろ考えてるようだ。



『さぁ英国伝統のレースのゲートが開きます!


キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス…


スタートしました!』


勢いよく飛び出す各馬。


ドリームメーカーはまた大逃げ。


「宝田さん…あれは逃げですか…?」


「いえ…掛っています…」



なんでだよ~!


またか?



いったいなにがおこっているのか俺にはわからなかった…。



俺の隣の宝田は目を凝らしてレースを見ていた。

先頭を爆進するドリームメーカーから最後方の馬まで、まるでなにかを探すような視線で。



宝田の視線の先には、折り合って馬群に身を入れたシャマルティンの姿があった



「なるほど…この【群れ】の【二番手】はドリームメーカーか…」

宝田の言葉に俺は聞き返した。


「どういうこと?」


「………」


もったいぶらずに早く教えろよ!!



レースは終盤に差し掛かりドリームメーカーが8馬身のリードで残り400を切った。しかしすでに勢いをなくしていたドリームメーカーの後方からインフェルノが一気に猛追。


残り200を過ぎてインフェルノはドリームメーカーをスルリとかわして独走に入った。


2番手争いはドリームメーカーとシャマルティン。しかし脚を溜めて自分のレースを進めてきたシャマルティンにドリームメーカーは成す術なくズルズルと後退。


結果、1着インフェルノ、2着シャマルティンが入りドリームメーカーは辛くも3着に入着した。


「思い切った【逃げ】が逆に功をそうしたんとちゃいますか」

あえて【逃げ】と表現した宝田。

たしかにあの暴走で3着に入っただけでもよかったと思えるレースだった。


「なんでドリームメーカーはインフェルノと走る時だけああなるんだ!?」


俺は宝田に詰め寄った。もちろん八つ当たりだ。


「う~ん…ドリームメーカーもやっぱり【馬】であったという事ですわ。逆にインフェルノが【馬の範囲】を超えているんです」


なるほど…ってわかんねぇよ!!



納得いかない俺と瑤子を見ながら宝田が、

「おそらく【集団】ではインフェルノにドリームメーカーは勝てません…」

と静かに言った。



宝田は英国の世界的な生物学者ムツ・ファイブマン教授にこの件の調査を依頼しているそうだ。


現在調査中であるが、俺は宝田の顔からある答えを出している雰囲気を感じていた。



日本に帰る飛行機の中で俺は宝田が言った言葉を思い出していた。


『ドリームメーカーはごっつ強い馬です。今のドリームメーカーなら全盛期のロンバルディアやデビルカッターにも負けませんよ。

そしてさらにまだまだ強くなる…。震えますわ…。

インフェルノにだって【いつもの走り】でなら勝つ可能性はあります。

しかし…インフェルノには類希な競走能力とは別に【生まれ持った能力】があるのです。

もし僕の見解とファイブマン教授の答えが一緒なら…【集団】でインフェルノにドリームメーカーは勝てません…。』


結局宝田はそれ以上の事は教えてくれなかった。


インフェルノは凄い競走馬だ。しかしドリームメーカーだってそんなに差はなく実力は均衡していると思う。


俺にとって競馬の事での宝田の言葉は【神の声】に等しい。

【集団】では勝てない…この宝田の言葉が俺の心に異物のような違和感を与えていた。



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