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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン3 chapter3
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夢芝居は初舞台-2

俺はファンタジスタに少し違和感を覚えた。

ファンタジスタが勝った2年前のダービーや凱旋門で感じた【漆黒のオーラ】がまったく感じないのだ。


屈腱炎を発症し1年間の休養期間をとり復帰した昨年の有馬記念で2着に入ってから、その気配が消えた。

それはまるで翼を無くしたペガサスのような…。


春文もそれは感じているらしく、前走10着に敗れた時、俺に一言ポツリと漏らした。

「もうファンタジスタは終わったのかもしれない…」

と。


凱旋門を勝ち世界競馬の頂に立ったファンタジスタ。

今俺の目に前にいるのはファンタジスタではなく、【ビンゴ】だった。




「よう貧乏人!だいぶ人気を落としているな。」

龍田が近寄ってきた。今日午前中の500万下と未勝利戦でコイツの馬が2勝している。


「ドラゴンウイングは金鯱賞だって?」

龍田のドラゴンウイングはこの天皇賞を回避して金鯱賞に向かう。

「ふん。残念ながらここじゃ勝ち目はない。得意な距離で走らせてやりたいからな。」


最強クラシックと言われた世代で有力とされながら無冠に終わったドラゴンウイングだが、晩成が本格化して今同世代では最も勢いがある。


「それにしても…なんでダーリーは今年ロンバルディアを種牡馬に上げなかったのだ?

もう充分だろ?


ピークも過ぎた感があるし…」


龍田はターフのロンバルディアを指差して言った。



レースがスタートした。


序盤、逃げるフサイチチャンプを先行馬集団ロンバルディア・ホワイトファング・デーモンヒルらが追走。ファンタジスタとライラポイントは中団に構え、フェニックスが最後方からと各馬まさに【自分の位置】で展開をした。


京都の3200m。

日本GⅠ最長距離。

馬券を買う側にとってはこのレース程【手堅い】レースはない。言い方を変えれば【本当に強い馬が勝つ】レースであるから。


名馬と呼ばれる馬たちの戦歴には欠かせないレースであり、数々のドラマも生み出した日本競馬最高ランクに位置するレースである。


世界的に長距離レースの権威が失われていく中、日本が今も京都3200mに威信を保ち続けていられるのは、この数々のドラマが血となり次の世代に受け継がれているからであろう。


俺たち馬主や生産者、騎手や調教師にしてもクラシックと同様にキャリアに名を刻みたい大レースであり、手に入れたい栄誉だ。


俺はダーリーの高橋氏と昨日話をした。

昨年の覇者ロンバルディア。すでに日本競馬の頂点に君臨する馬だ。

本来ならば今年からダーリーUSAで種牡馬として後継馬を残す第2の仕事に就くはずであった。

しかしダーリージャパンは今年も現役を続行。

もうひとつ手に入れなければならないタイトルがあるのだ。


【ジャパンカップ】

昨年敗れた国際GⅠ。


同じロイヤルチャージャー系列の血を持つ米三冠馬ラストハリケーンが来年必ず繁殖に上がってくる。

ロンバルディアがアメリカ競馬に幾多の名シーンを彩ってきた【風の一族】に太刀打ちするには、国際レースでの【勝利】と言うキャリアを戦歴に刻まねばならなかった。



ファンタジスタは中団を走り脚を溜める。

本来のファンタジスタなら見る者すべてに【電撃】を走らす末脚が炸裂する。


しかし前走では電撃はおろか存在まで霞んで見えた。


一昨年の有馬記念で優勝した後で故障が発覚。

社来グループはファンタジスタの引退も検討した。

ダンスインザダーク産駒としてサンデーサイレンスの血を受け継ぎ、世界最高峰レースを制したのだ。高額なシンジゲートも組まれ種牡馬になる予定も準備されていた。


しかし…競馬はある時は麻薬のような快楽と興奮を分泌させる効力がある。

ファンタジスタが日本ダービーで見せた【二の脚】。凱旋門賞で炸裂させた【三の脚】。

あのレースを見た者は【ファンタジスタ】と言うドラッグを血管に注入された【中毒者(ジャンキー)】となってしまった。

社来の社長である照文さんがファンタジスタを引退させようとした時に、必死に抵抗したのは春文であり、呼ばれもしないのに俺も加わりゴネまくった。


俺と春文こそ世界一の【ファンタジスタ中毒】であった。


昨年の有馬記念で1年ぶりのレースを2着に食い込み、俺と春文の禁断症状は鎮静され、さらなる頂を欲し始めた。


だが、ファンタジスタは今年に入り一気に【ドラッグとしての効力】を失い、残されたのは【中毒者の後悔】だけとなってしまった。


『あの時…引退させるべきだった…』

と…。


本来出るべきではない多量のアドレラリンを分泌していた俺たちは冷静な判断ができなかったのだ。


レース最後の直線に入った。早めに抜け出したロンバルディアが早くも先頭に立ち、後方からフェニックスが追い込んでくる。


俺は馬群に目をやりファンタジスタを探した。

浦河美幸のムチを浴びながらもがくファンタジスタ。

2年前の栄誉はすでに過去のもの…。

チャンスのタイミングを逃したファンタジスタには種牡馬に上がる前にもうひとつ大きな【結果】が必要とされる。



俺は天を仰いだ。



最強クラシック世代の中心だった四天王+1。

ダートや芝マイル~中距離の独自路線で息の長い活躍を見せるユリノアマゾン。

クラシックシーズンは無冠に終わったが遅い本来化を迎え今が充実のドラゴンウイング。

5歳になって衰えるどころかまだまだ進化過程にあるドリームメーカー。


この3頭と比べて、すでに競走馬としての旬を越しながら中距離~クラシックディスタンス~長距離と言う【古馬王道路線】を歩まざる得ないロンバルディアとファンタジスタ。

一気に成長して一気にピークを過ぎるのはサンデーサイレンス系のクラシックホースによく見られる傾向だ。サンデーサイレンス系に【早熟馬】が多いのも事実だ。



そして【王道路線】で王道を歩み続ける事も難しい。毎年クラシックでまさに【王道距離】で戦ってきた勝者が続々と【路線】に加わってくるのだ。


新たな世代の勢いと旧世代の意地がぶつかりあう…これこそが【王道路線】の【王道】たる理由だ。



俺はターフに視線を戻した。

新たな世代の波が旧世代を呑み込む…。

絶対に避けられない、いや避けてはならない現実が目に飛込んできた。


『春の天皇賞!

勝ったのはフェニックス!

2着にロンバルディア!

新世代が最強クラシック世代に勝ちました!』


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