夢は夜ごとの狂奏曲-9
『さぁ日本のみなさん!ドバイシーマクラシック間もなくスタートです!』
俺はドリームメーカーがいつになく緊張しているように見えた。
いつも本馬場に出たら全力疾走でゲートに向かうヤツが、なにやら警戒しながらゆっくり走っている。
やはり異国の地でいつもと違う雰囲気にドリームメーカーでも落ち着かないのか。
まぁレースが始まればいつものアイツに戻るだろう。
『さぁ各馬ゲートに入って…
スタートしました!』
勢いよくドリームメーカーが飛び出す。
「よし!」
俺は叫んだ。
『さぁドリームメーカーが一気に先頭へ!
インフェルノは先行集団2番手の位置!
ドリームメーカーが大きく逃げます!
これは凄い逃げです!』
ドリームメーカーのいつもの爆進だ。
今日も絶好調だ。
しかし宝田の突然の叫びが俺の興奮を不安に変えた。
「アカン!ありゃ本当にかかっとるわ!ドリームメーカーのヤツ、真剣に逃げています!」
(ちょっと!?ドリームメーカー!?抑えなさい!!)
浦河美幸は手綱をひいた。しかしドリームメーカーの勢いは凄まじく、すでに後続とは20馬身の差がひらいていた。
『1000mを通過してドリームメーカーが先頭を爆進します!
インフェルノは馬群の前の方でのレース!』
「どうしたんだ!?」
俺の叫びに
「コナンが脅えてる…」
瑶子が答えた。
脅えている?
あいつが?
そんなバカな!?
なにに脅えているって言うのだ!?
「インフェルノですわ…」
宝田の言葉に俺は戸惑った。
『さぁレースは終盤!長い直線に入った!
ドリームメーカーがなお先頭!
まだ7馬身程のリード!
インフェルノが徐々に位置を上げて2番手に躍り出た!
残り400!
インフェルノが一気に差を詰める!
その差は3馬身!』
浦河美幸は必死にドリームメーカーの手綱をしごきムチを振るう。
しかし美幸が背後に感じた気配は、疾風の如く並びかけてきた。
『ドリームメーカーにインフェルノが並んだ!
残り200!
インフェルノがドリームメーカーをかわして独走!
ドリームメーカー置いていかれたー!』
俺は目を疑った。
アッと言う間にあのドリームメーカーがかわされた。
「はじめのロスが響いたんだわ…」
瑶子の落胆した声。
「いや…インフェルノのマジックにドリームメーカーもかかってしもうたんですわ…。」
マジック…?
宝田はそれ以上口にしなかったが、インフェルノを欧州で間近に見てきた宝田の言葉に俺は心に引っ掛かる異物を感じずにはいられなかった。
『ドリームメーカーは…ズルズル後退!
インフェルノが余裕の圧勝!クールモアが誇る欧州の英雄がドバイの地でその力をまざまざと見せつけました!
ドリームメーカーはなんとか5着!まったくいい所なく敗れ去りました!』