夢は夜ごとの狂奏曲-7
「ところで社長。ベルノーファの仔はどうでっか?」
宝田が俺に聞いて来た。
ベルノーファは社来から昔買った牝馬だ。正直まったく繁殖成績はふるわなかった。しかし最後の種付けとして一昨年ステイゴールドの仔を生んだ時に宝田が「この馬はめっちゃ走る」と言ったので俺は手元に置く事にした。アムロと同じ歳だ。
「今年、武田厩舎に入るよ。名前はまだ決まってないけどね」
俺が言うと瑶子が、
「【ベルノーファソード】って名前で登録したけど…」
と言いやがった。
俺はいつになったら自分の馬に名前をつけられるのだ…。
夜の競馬場を熱気が包み、ドバイシーマクラシックの発走が近づいた。
ドリームメーカーは砂の国で第一声をあげる。
「ウェーーイッ!」
黄金のタテガミの馬と、黄金の髪をなびかせた騎手は決戦の地へと赴いた。
浦河美幸にとっては海外デビュー戦。もちろんドリームメーカーも。
俺たち三人は祈る気持ちでヤツを見ていた。
「フー…フー…」
ドリームメーカーの呼吸の異変に浦河美幸は気づいた。
(どうしたの?)
首筋を撫でた時にドリームメーカーの異常な発汗にも気づく。
まったく動かないドリームメーカーの目線の先にインフェルノがいた。
どんなに強敵でも闘志を剥き出しにしてきたドリームメーカーが見せた初めての恐怖心。
手綱から伝わる重い雰囲気に浦河美幸の緊張感も高揚していった。