夢は1㌧より重い-6
突然隣にいた瑤子が馬場に飛び出した。
驚いて呆然とする俺は瑤子をただ見送る事しかできずにいた。
瑤子が係員に止められる…事なく逆に誘導されるようにコースの先、ゴール地点に辿りついた。
龍田がニヤリとした顔で俺に呟く。
「ニクイ演出だろ?」
再び瑤子を見ると、
「コーーナーーンーー!おいでーー!」
と叫んだ。
なるほど…龍田、かなりの策士だ。
はじめから瑤子や馬場の係員と決めていたんのだ。
第1障害で間違いなくつまずくドリームメーカーに瑤子と言う最高のムチを打つ。
すでに瑤子とドリームメーカーの関係は競馬ファンなら誰でも知るエピソードだ。
この以上にない演出だ。
俺の視線はドリームメーカーに移された。
「ウガーーーーーー!」
蘇った猛獣は第1障害を超えた。
第1障害を超えたドリームメーカーは凄まじい猛追を見せた。
栗田勝二はすでにムチを振っていない。
なるほど…あれも演技か…。
すでにトップを走るトカチハナコは第2障害を超えゴール手前で一息入れていた。一番辛い場所だ。
ドリームメーカーはまるで1tのソリを引いているとは思えない走りで第2障害へと辿りついた。
今まで幾度とドリームメーカーには驚かせてもらったが今日ほど目を疑う光景は初めてだ。
ヒダカタロウも第2障害を超え前2頭の争いとなりつつあったが、ややトカチハナコが優勢に見えた。
一方第2障害へと底知れぬパワーで爆走してきたドリームメーカーはさらに一気に坂を登る。
「アーッハーーー!」
雄叫びと共に障害を超えるドリームメーカーの姿に俺は失神寸前だ。
気がつけばドリームメーカーは3番手にいた。
先頭のトカチハナコの体はすでにゴールを超えていた。しかしばんえい競馬のゴールは通常の競馬と違い【ハナ】でなくソリもすべて通過してゴールとなる。トカチハナコのソリはまだゴールを通過しておらず脚はすっかり止まっていた。ここからが正念場だ。
ヒダカタロウは最後の力を振り絞り頭がゴール地点にを超えた。あとは体とソリを通過させれば優勝だ。しかしヒダカタロウもここで脚が止まる。
ゴールライン上で必死の優勝争いをする2頭の後ろを戦慄が走った。
まったく一息も入れる事なく追い込んできたドリームメーカー。
ドリームメーカーの体がゴールラインを超えたところでトカチハナコがすべてをゴールラインから超えて優勝。
ドリームメーカーのソリの先端がゴールラインを通過した時に、ヒダカタロウがソリの後部を通過させ2着。
なんと…ドリームメーカーは3着に入った…。
「もうこんな茶番は二度とお断りだ!」
激昂した武田調教師は早々に引き揚げて行った。
はい反省しております…。
瑤子から離れないドリームメーカーを無理矢理馬運車に乗せ、東京競馬場経由でドバイ行きの飛行機に乗せる。
それにしても凄まじい馬力だった。
今後ドリームメーカーが何処まで行くのか楽しみでならない。
「いいイベントだったよ。」
突然背後からダーリージャパンの高橋氏が声をかけてきた。
あんたか…正直言ってあんたから声をかけられると身構えてしまう。またとんでもない話を提案されそうでね…。
「飛田社長。実はいい話があるのだが…」
ほら来た…。
俺は警戒を強めた。