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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン2 chapter4
126/364

鬼神-6

「ちっくしょーう!!」

ホロ酔いの三田が悪態をつく。

美幸のマンションで、千賀子が作る手料理を食べながら、野田新之助の到着を待っていた。


「よりにもよって新之助に負けるとは…」

悪態をつきながらも三田は嬉しそうな顔をしている。ローカル回りをしながら今日までひたむきにがんばってきた野田新之助を誰よりも理解しているのは三田だからだ。


「主役はまだかしらね~」

千賀子がメインディッシュの入ったオーブンのスイッチをなかなか入れられないでいた。


主役の野田新之助は馬主や関係者達との祝勝会の後にやってくる予定だ。


美幸は勝利騎手インタビューを受ける野田新之助の顔を思い出した。泣きながら大きな声で「ありがとうございます!」と言ったグリグリ頭の野田新之助の姿に感動して泣いてしまった。



「新ちゃん来たら朝まで飲むわよ!」

とりあえず主役が来るまで三田と千賀子と三人でしこたま飲む事にした。



しかし野田新之助はその夜、美幸宅には来なかった。


何度か三田が野田新之助の携帯電話にかけたが留守番電話に変わり、「おそらく酔っ払って寝ちまったな」と三田の言葉に納得させられ主役不在のまま宴はお開きとなった。



翌朝、ソファーで寝かされていた三田は飛び起きて美幸や千賀子を叩き起こした。


「美幸!これ見てみろよ!」

三田から渡された携帯電話を見た美幸は寝惚け眼が一気に吹っ飛んだ。

「これ…どういう事なの…?」


驚愕の表情の美幸。手元の三田の携帯電話を隣の千賀子が覗き込みハッと息を飲んだ。


「今…知り合いの記者からメールが来てさ…」

戸惑いを隠せない三田が美幸に答えた。



そのメールには、

『野田新之助騎手が昨夜、暴力事件を起こして逮捕されました。

ご存じでしたか?』

と書かれてあった。


三田はメールをくれた記者に、今現在わかっているすべての情報を聞き出した。


昨夜、京都市内のホテルでの祝勝会の後、関係者数名と居酒屋にて二次会を開始。

その店にいた客と口論になり、酒に酔っていた野田新之助はその客の顔面を殴打。

すぐに警察に通報されて傷害の現行犯で逮捕された。



美幸は信じられなかった。野田新之助はたとえ酒に酔っていたとしても絶対人に暴力を振るうような人間ではない。


「せっかくGⅠ勝った日に…なにがあったんだ…」

三田も落胆の表情をしていた。



「三田くん…私信じられないわ…」

美幸の涙声に三田は立ち上がり言った。

「俺だって信じられないさ…!とにかく今から知り合いの記者と合流して詳しい事情を聞いてくるからおまえはここで待っていろ!」

三田は美幸のマンションを飛び出して行った。


三田が部屋を出た後、千賀子が電源を入れたテレビのワイドショーから野田新之助の事件が報道されていた。



『クラシック菊花賞を制した騎手がその夜に起こした事件』

これほどセンセーショナルな事件はなかった。


昼過ぎに三田から連絡があり、栗東トレセンの鹿山厩舎にすぐ来るように言われて美幸は車を飛ばして向かった。


フェニックスを調教する鹿山達夫調教師の厩舎に到着した美幸は三田を見つけた。

「昨夜、新之助と一緒に居酒屋にいた真田さんだ。」

三田のとなりにいた真田厩務員は頭を下げた。

「いったい…なにがあったんですか?」

美幸の問いに真田は三田を横目に見た。

「美幸…聞いたらたぶん辛いぞ…?」

すでに事の内容を聞いている三田が美幸に言った。


少し不安がよぎったが美幸は頷いた。


三田は目で促し、真田は口を開いた。


「昨夜…京都のホテルでの祝勝会が終わった後…野田騎手がうちの厩舎のスタッフ達を誘ってくれて居酒屋に入りました…。

初めてのGⅠ勝ちをくれた僕達にお礼がしたいって…。」


美幸は頷きながら聞いている。


「本当に楽しく飲んでいました。よっぽど嬉しかったんでしょう…。もちろん僕達だってうちのフェニックスがGⅠ勝ったのですから本当に嬉しかったですよ。一緒に勝利の美酒に酔っていました…。

しばらく飲んでいたら、隣の席にいた客が野田騎手に絡んできまして…。なんでも菊花賞の馬券を野田騎手のせいで外したとか…。相手もかなり酔っ払っていたんで野田騎手は笑いながら適当に相手していたんですが、僕達が無理矢理間に入って客との壁を作ったんです。野田騎手にもしなんかあったら申し訳ないですから…。

そうしたらその客が一言、野田騎手に言ったんです…。

その一言にキレた野田騎手は…突然立ち上がってそいつの顔面を殴りまして…そりゃもう何発も…必死に僕達は止めたんですが、すでに店側から警察に通報されていまして…。」


美幸は恐る恐る聞いた。

「そのお客さんは…新ちゃんになんて言ったんですか…?」


真田はまた三田をチラッと見た。

「真田さん、その客が言った通りに美幸に教えてやってください。」

三田の言葉に真田は深く息を吸って躊躇いながら言った。



「お前の同期のあばずれレズビアンは今日も盛ってんのか…って…」


美幸は目を閉じた。あの温厚な野田新之助は、美幸をバカにされた事を怒って人に暴力を奮ったのだ。

そして美幸は悲しくなった。なぜなら野田新之助は美幸が同性愛者である真実を知らないからだ。


その野田新之助は今も拘置場にいる。

美幸の胸になにかにでエグられたような痛みが走った。

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