鬼神-5
翌週の新聞の1面を飾ったのは、秋華賞(GⅠ3歳牝馬限定 京都競馬場 芝2000m)を勝ったラヴィアンローズ。南部杯のトウキョウシチーも小さく載っていた。
そしてさらに目立つ位置に載っている美幸の記事が世間の関心を集めた。
『浦河美幸騎手
同性愛疑惑
年上女性と同棲中』
美幸にとって1番の心配は千賀子の事だった。
所詮ゴシップ記事だろうと見る者もいれば、真剣にスキャンダルとして受け止める者もいるだろう。
ある程度の視線の中で生きる美幸とは違い、普通の看護師として平凡に生きる千賀子を下品な視線に晒してしまう事に胸が痛んだ。
「全然平気だよ~」
と笑顔で答える千賀子だが、おそらく職場でなんらかの圧力もあるだろう。
まだまだ日本では認知されない恋愛に身を置く二人であった。
美幸に関しては特に仕事での影響はなかった。一部の関係者の視線が変わっただけだ。
菊花賞では乗る馬が無く同期の応援をする事になったが、来週の天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念はドリームメーカー、マイルチャンピオンシップはディアマイフレンド、ジャパンカップダートにファイナルアンサーと大レースが続く。
そして結城氏の所有する期待の二歳牝馬シャイニングハートの主戦騎手に抜擢され、デビュー戦も来週に控えていた。
『さぁ!フサイチチャンプが先頭で菊花賞は残り400をきった!
アドバイザキューブもいい脚だ!
ホワイトファングは後退していく!
フェニックス!フェニックスが3番手に!
フサイチチャンプをアドバイザキューブが差して先頭に躍り出た!
フェニックスが一気にやって来たぞ!』
美幸は京都競馬場ジョッキールームのモニターに釘付けだった。
アドバイザキューブと三田。フェニックスと野田新之助。同期の二人の叩き合い。
通算GⅠ3勝の三田 崇。
かたや重賞勝ちのまだない野田新之助。
デビューして4年目、良きライバルとして競い合ってきた仲間が菊花賞の舞台で直線凌ぎを削っているのだ。
三田くん!新ちゃん!がんばって!
美幸は心の中で祈るような応援をしていた。
『野田のムチにフェニックスが伸びる!
アドバイザキューブは置いていかれた!
フェニックス!フェニックス!
菊花賞はフェニックスーーっ!
なんと野田新之助は初重賞制覇がGⅠ菊花賞!見事な騎乗でした!』