漆-2
5月三週、
『ヴィクトリアマイル!
トゥザウィンが1着!
2着には追い込んできたディアマイフレンド!
春の牝馬女王はトゥザウィンです!』
ヴィクトリアマイルで2着と善戦したディアマイフレンド。
美幸はレース後のインタビューで秋への決意を述べた。
翌週オークス。
NHKマイルカップ勝利から中1週で挑んだビンクオメガが劇的な勝利。
ラヴィアンローズは2着。
アーデルハイドは4着。
純子のフォーザモーメントは5着に終わった。
美幸のトゥナイトは10着。
そしていよいよダービーウィークに突入した。
皐月賞馬ホワイトファングは抜群の出来を見せていたが、それよりトラックマンの視線を集めたのはステージクロスであった。
東京2400を走る為に生まれてきたステージクロスに各紙1面で大本命を打った。
しかし、
【ただひとつの不安は鞍上である…】
業界トップのホースニュースは美幸が不安材料であると大きく載せた。
日本ダービー初騎乗で体震わす美幸にはこれ以上ないプレッシャーである。
そして…日本ダービー当日、ステージクロスは1番人気に推された。
日本ダービー(GⅠ3歳限定 東京競馬場 芝2400m)
『昨年はファンタジスタが制した日本ダービー。
今年はどの馬が栄冠に輝くか!
1番人気はステージクロス!皐月賞は3着に敗れました!
しかし坂田調教師の万全の仕上げで本日1番人気!
ルドルフからテイオーへ受け継がれた皇帝の血は今この馬に引き継がれました!ステージクロスと浦河美幸!
2番人気はホワイトファング!皐月賞を勝ち2冠に挑みます!
滝豊は昨年の覇者ファンタジスタに続いての連覇がかかります。
3番人気はフサイチチャンプ!兄のロンバルディアは昨年2着!弟が雪辱を晴らす!
4番人気アドバイザキューブと三田 崇!
前走皐月賞を2着と惜敗しました!今一番ノッている三田を背に!今日もあの追い込みが炸裂するか!?
以上18頭です!』
「美幸!このレースは落とせないぞ!」
坂田の気迫に背中を押されてターフに出た美幸。
ダービー初騎乗で1番人気となったプレッシャーの中、美幸は絶対に勝たなくてはならない大勝負に挑むのだ。
そして…このダービーは美幸にとって運命を左右するレースとなった…。
日本ダービーが終わり、美幸が姿を消してから一ヶ月が経った。
坂田は美幸の居場所を知っていたが、あえて迎えには行かずにいた。
自分で乗り越えなければならない…。
坂田は美幸の帰りを待っているのだ。
『日本ダービー!
スタートしました!』
美幸は中団の後方にステージクロスを待機させ徐々に徐々に前へと位置を上げた。
『さぁー!最終コーナーを回って直線へ!
先頭はホワイトファング!
フサイチチャンプもいい位置だ!
外からステージクロスが一気にやってきた!
外ステージクロス!
内にホワイトファング!』
美幸は何発もステージクロスにムチを入れた。競馬界最高の栄誉のゴールは目の前だ。
ホワイトファングさえかわせば…
美幸はさらにムチを入れステージクロスに限界の走りを要求した。
残り200の標識を過ぎた時、ステージクロスがホワイトファングをかわした。
しかしこれ以上に長く感じる200mはなかった。
美幸はさらにムチを降り下ろした。
突然…美幸の視界が変わった。それは緑のターフ…。
そして最後は漆黒の暗闇。
『ステージクロス故障!前のめりに倒れたステージクロスから浦河美幸が投げ出された!
大観衆のスタンド前でステージクロス競走中止!!』