碧-8
「ウ~~~……」
唸り声の主はもちろんドリームメーカー。
今日はやけにご立腹だ。
調教でドリームメーカーの背に股がるのは天才滝豊。
「いや~一度乗って見たかったんですよ~」
今日は滝豊からのオファーを武田調教師が快諾したのだ。
ドリームメーカーは堅派な馬だ。心を…いや背中を許すのは浦河美幸と村木義男だけだ。
坂路の入り口で動かないドリームメーカー。
天才は手綱を操作して促すがまっっ…たく動かない。
「武田先生!動きませんけど…」
幾多の名馬を乗りこなしてきた天才の声は切なく響いた。
ドリームメーカーは明らかに何かを見つけた。
隠れるようにこちらを見ている浦河美幸の姿を。
天才の指示とはまったく違う方角にゆっくり歩き出したドリームメーカーは、こちらを伺う浦河美幸に近づき奇声を発した。
「バンホーテンッ!」
アイス!?
怒りの奇声に驚いた美幸はドリームメーカーに近づき謝罪した…。
天才は鞍を美幸に渡し寂しく帰っていった。
【ホースニュース】
ドリームメーカー
阪神大賞典へ向けて始動!
昨年のジャパンカップ馬ドリームメーカー(牡4 赤鹿)が阪神大賞典へと動きだした。
気性難が心配されていた同馬だが、まったく昨年と変わらない暴れっぷりだ。
武田調教師は
「(気性難は)この馬のいい所だ、これだからコイツは走る」
と見解した。
天皇賞(春)でGⅠ2勝目を挙げるべく坂路を毎日駆け登る600㎏超の巨漢馬は、今や栗東の名物とされている。
2月を終了して美幸は4勝。これでも昨年のこの時期に比べれば凄い結果だ。
3月に入り古馬や三歳馬の主力馬が動き始める。
美幸の主力馬は、3月二週にステージクロスで弥生賞、3月四週にドリームメーカーで阪神大賞典に出走する。
千賀子は最近ちょっと気にいらない事がある。
夜の生活がマンネリだ。
まぁ…そこは触れずにおこう…。
ステージクロスの調教は順調に進み、弥生賞も断トツの1番人気におされた。
美幸にとって、過酷な春のGⅠシリーズが幕を開けようとしていた。