碧-4
「バカヤロウっ!!!」
坂田調教師の罵声が響き渡った。
「すいません…」
うなだれる美幸。
「馬は行く気満々なのに、前が壁になって脚を余すなんて…おまえは今までなにをやってきたんだっ!?」
美幸はシンガリ追走好位置にいながら、早めの追い出しで馬群に入れてしまい抜け出す事ができなくなり4着。
まったく初歩的なミスであった。
「もうやめちまえっ!!下手クソっ!!」
美幸もわかっていた。最低の騎乗であることが。
「次同じ失敗したら二度と馬には乗せんからなっ!!」
坂田は怒鳴りつけて一人帰ってしまった。
デァアマイフレンドの次走は2月一週京都牝馬ステークス(GⅢ 京都競馬場 芝1600m)だ。
坂田にこっぴどく叱られた美幸はひとり半ベソで帰り支度をしていた。
「美幸~元気だして!」
声をかけてきたのは先輩女性騎手の堀江純子だ。
いつもの事だが変な帽子をかぶっている。
「純子さぁ~ん…」
美幸がヘマした時には必ず純子に慰めてもらう。朝まで飲み明かすのだ。
堀江純子はデビュー10年目。中央競馬初の女性騎手だ。
しなやかな騎乗センスには定評があるが、重賞勝ちこそないが、200勝を達成した女性騎手のパイオニア的存在だ。
しかしプライベートでは奇抜なファッションで周囲を驚かせ、なぜかセクシー写真集まで出してしまう変な女だ。
居酒屋マッキー
「いいじゃない美幸はさぁ~
GⅠだって勝っているしさ~
私なんて重賞勝ちすらないだから~」
酔っぱらった純子はいつもちょっと嫌味を言う。
「でも今年は純子さんの3歳馬で凄い馬いますよね~?」
美幸の問いに純子の目が煌めいた。
「フォーザモーメントの事?」
純子の目から、もっと聞けオーラが出ている。
美幸は純子の気さくな人柄が好きだった。