表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/126

草壁の殯の日に再び舎人は訪れたが遠くで眺めた。相変わらず皇后も他の皇子供達も来ぬとは今宮廷では何が起こっているのか‥、その時柿本人麻呂の挽歌の朗唱は習いであつた

 その右手には坂田寺の堂が見える。厩戸皇子(うまやどのみこ、聖徳太子)の父帝(用明天皇)の病気平癒を祈願して、仏師鞍作止利ぶっしくらのつくりのとりの父多須奈(たすな

)が建てたという。先帝(

天武)の崩御ほうぎよの時、無遮大会(むしゃだいえ、国王が施主となり、一切の人々を供養-布施する仏会ぶつえ)を、飛鳥の主要四社(大官寺・飛鳥寺・川原寺・小墾田豊浦寺

(おわりだとようらでら)

と伴に営んだ尼寺だ。

 やはり、皇后は来ぬか。

他の皇子達も来ぬとはよほどの事じゃ。

 舎人が、もう今日はよそうと引き返そうとした時、

朗々と良く響く声が聞こえて来た。

 天地あめつちの初め成るとき

 ひさかたの天の河原に

 八百万千万神(やおろず

 ちよろずのかみ)の神

 集ひ集ひいまして 神

 かり分かりし

 時に

 あま照てらす日女

(ひめ)のみこと 

 天をば知らしめす と

 葦原の瑞穂みずほ

 国を 天地のよりあひの

 極 知らしめす神の命

 と

 天雲あまくもの八重

 やえくもわけて 

 神下かみくだしいま

 せまつりし

 たか照らす日の

 皇子みこ

 飛鳥の浄御きよみ

 の宮に 神ながら太敷(

 ふとし)きまして

 天皇すめらぎの敷き

 ます国と あま

 原石門はらいわと

 開き 神上かみあが

 り上がりいましぬ

 吾がおうきみ 

 皇子みこの命(み

 こと)のあま

 した知らしめす

 世は

 春花の貴くあらむと

 望月もちずきの満

 (たた)はしけむと

 天の下四方よも

 人の 大船(おおふね

 )の思ひ頼みて天(あ

 ま)のみず仰(

 あお)ぎて待つに

 いかさまにおも

 ほしめせか つるもな

 き真弓まゆみの岡

 に

 宮柱みやばしら

 ふとしきいまし  御在所みあらか

 高知たかりまして

 朝ごとに御言(みこと

 )はさず 日

 ひつきの数多く

 (まぬく、あまた)な

 りぬる

 そこゆえに 皇

 子の宮人みやびと

 ゆくへ知らずも


 哭礼の後の、挽歌ばんかの朗唱は習いであったが

「何と貴高い、お歌なんだろ」

 十四歳の舎人であっても、その神秘的壮麗さがわかる。

 柿本人麻呂の朗唱であった。舎人は後で知った。

 【天地の初め成る時から】とは、天地創造の時

からの神々を天皇家の祖先として、もうこの方(人麻呂)は決めて居られる。

大津皇子様が、帝の言葉としておっしゃっていた。天照らす神こそ天皇家の祖神である。という事を知って居られたのであろうか。

 神の御子が、現人神(

あらひとがみ)としてこの国を治めるべくものなのだ。天皇という聖なる存在を、降臨こうりん昇天しようてんという神秘性を兼ね添えることに

よって、絶対なる服従を意識させて居られる。

 何と壮大で説得力ある歌の調べであろう。

帝(天武)が天地を往復ゆききし、皇太子(

草壁)が若くして身罷(

みまか)われた悲しみがあっても、草壁も帝と同じように神そのものと為って

天界てんかいへ戻られたのだから、いささかも案ずる事は無い、と。


 舎人は馬を返して、もう一度蘇我馬子の墓の正面に立った。

 皇后(讃良)はもう称制(しようせい、帝の代理

)ではなく、真の帝に成る為の準備をされて居ると

聞く。

 皇太子は何だつたんだろう。皇后は我が子であっても臣下としてしか扱わなかった。古の習いはいざ知らず、余りにも酷い仕打ちだ。

 他の皇子、王達の動きも如何ばかりや。

 大津皇子謀殺の事件が全てだが、舎人はまだ当時十一歳だった。何が何だか解らず、悔しさと悲しさで暫く食事も喉を通らず、幾日も泣き明かした。   

  

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ