宗像三神・(タギリビメ・サヨリビメ・タキツビメの生い立ち)
私は、娘を連れてムナカタ(宗像市)に逃げました。私はフゲキです。出雲の教えを守らなくてはなりません。伊都国では、私の役目は終わったと思ったのです。恋は恋、それを何も出雲は否定しません。その宗像で、王の息子のサルタビコと出会い結ばれました。又娘が出来て幸せでした。ところが、二人目の娘が出来た時、サルタビコはアマノウズメという女性と恋仲になり、三年後に二人は伊勢に行ってしまいました。
私は、オシホミミとの子とサルタビコの上の子の二人を宇美の里にいる叔父のハコクニ様に預けました。宗像の王は優しく、二人とも宗像の娘としていつでも引き取るので、貴女は自由にフゲキとして生きて下さい‥、と。有り難きお言葉に甘えて出雲に帰るつもりでした」
「で。そのサルタビコ様との二人目の子はどうなさったのですか‥?」
オオヒルメが怪訝そうに尋ねた。
「ええ、オオゲツという娘なんですが宇美にはツクヨミ様がおいでで、同じ年の姫様もおられるというので、安心して叔父に預けました。当のサルタビコが知ってかどうかは?」
「ええ~~!、ではあのオオゲツは、トヨウケジ様のお嬢様だったのですか‥?!」
ツクヨミはびつくりして、トヨウケジに聞き返した。ハコクニからは、自分の姪の子で,事情があつて預かっていると‥、勿論、二人の姉達には、オオゲツが自分達の妹であることは知らされていない。
ツクヨミは、ハコクニをチラツと見た。ハコクニは頷き、申し訳ないという目でツクヨミをじっと見つめていた。
「はいそうなのです。それで、サルタビコがアメノウズメ様と伊勢に行かれたので、私は宗像を去って、出雲に戻りたかったのですが、その時伊都に来られていたスサ殿に会って、又、子を授かりました」
びくつとしたスサ
「イヤ!父ナギの命で,新しく王になったオシホミミ殿に会って来いと言われた時です‥、」
「で,ちゃっかりトヨウケジ様と出来たということか‥!」
ナギはチヤカシてスサをなじつた。
スサは、じっとトヨウケジを見、今は自分には妻がいることを悟らせようとした。
「スサ様、ご安心下さい。何も私はスサ様を困らせようとは思っておりません。でも、一つだけお願いがございます。私の三人の娘達を是非、貴方の娘として行く末お守り下さいますよう‥?」
スサはほっとして、すかさず
「う~む‥、!あい分かり申した」
席にいた一同は、訳が分からなかったが、
「それで、三人の娘達は何というお名前かな」
いつの間にか、ナギの右隣に座っていたトヨウケジに,ナギが尋ねた。
「はい。伊都国王の子のタギリビメ、サルタビコの子サヨリビメ、スサ殿の子のタキツビメにございます」
「あい分かりました。この度、筑紫に行く機会があるので、宗像王に会って代わりに私が事情を説明しておこう」
スサは、自分を差し置いてさっさと話を決めていく父に異議を唱えようとしたが、横に座っている母のナミが、スサに目で合図を寄越したので、黙って父の意に従った。
「ありがとうございます。三人の娘達が心配だつたのですが、本当に安徳しました。オオゲツは、先ほど申しましたように、ツクヨミ様のお嬢様とご一緒と聞いていたので、申し訳ございませんが、そちらにお願いした方が心強いかと‥?」
「トヨウケジ様、本当に私の娘のヒルメとは親友というか姉妹のような仲ですので、ご心配は入りませんわ‥、!」
ツクヨミは、ヒルメとオオゲツの仲を良く知っていたので、胸を張って答えた。
これで、出雲国から発する、列島の情勢を動かす案は整ったが、ただ一人、カグツチだけは何の命も与えられず、お開きとなった。
ナミは、じっとカグツチの不満の様子を窺い、彼のこれからの動きに警戒を強めた。
オオゲツと別れ、この宇佐に来てもう三年になる。ヒルメの生まれ故郷だ。宇佐の王ミナカミヌシの曾孫にあたる。母のツクヨミはミナカミヌシの孫である。
ミナカミヌシの娘ナキワサメとナムチの父ナギの間に生まれたのがツクヨミなのだ。ナムチとツクヨミとは腹違いの姉弟だが結婚してヒルメが生まれた。
ヒルメは、ミナカミヌシの博識を教授してもらう為に長居していたのだ。
勿論、宇美の里の校長ハコクニと母のツクヨミの思惑からである。
ミナカミヌシの博識は、当世の長老達の中でも並外れており、孫のツクヨミでさえ、彼の教えには就いて行けなかった。
フゲキで一生終えるのも大事だが、二人にとってヒルメは特別であった。もしかしたら、ヒルメはミナカミヌシの博識を全て譲り受けるかも知れない‥?と。
ヒルメは、あらゆる分野に於いて広く教授を受けていた。
先進大国の中国に根付く道教・儒教の教え。これは、現在活動している出雲の教えにも通ずるものであるが、ミナカミヌシはもっと深くヒルメに教授した。
文字も、韓国風の読み方が基本であったが、実の漢字の読み書きを教えた。
又、天に起こるいろいろなことの仕組みを知ることによって、人間や他の生物にとって、どれほど大事なことかも、いろいろな物証を例にとって教えた。
月の周期を見ての暦の作り方、太陽との関係、幼稚であるが星座の占い、それは星の運行を見て、人間の運命や将来を占う(占星術)等々。
それらは、宇美の里で十才まで習った延長でもあるが。
三年間に習ったその深さは、ヒルメにとって計り知れないものとなった。
それにも増して、ヒルメが関心を持ったのは、この列島のいろいろな民族の移動と合体の歴史であつたろう。