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ヒミコは生誕地「宇佐」で死亡。ヤマトの箸墓には三十年後に移送された

「モモソビメ様、女王の代わりと言うことは、貴女が自決して‥、と言う意味ですか‥!?」

 同席して居たホホデミが聞き返した。

「はい。私も死期が迫って居る身です。先だって女王様とお会いした時、ご自分が亡く成った後の事を私達に託されましたが、実際、女王様がお亡く為りに成れば、

この列島は又、何十年に渡って権力争いが続き、民達を絶望の世界に突き落とす事にに為りかねません。女王様は後、数ヶ月で【日蝕】が起こる事を予言し、その時にご自分の命が尽きるとおっしゃいました。もし申し訳ありませんが、女王様がもう少し生き長らえられたら、この今の戦を終結させ、次の体制を作っておいて欲しいと思うのです」

 モモソビメは、自分の言う通り体力が衰えて居たのか、か細く語った。

 謁見の間で、御簾の向こうにヒミコがじっと三人を見ながら話しを聞いていた。

 斜めの横に控えて居るのは、いつもの二人の付人の娘達で無く、女官のミマキビメが心配そうに座っていた。

 ミマキイリヒコが、いつものように御簾の外の端に控え、正面にホホデミ、左右にヤマトビメとモモソビメが対面しそうな形で座っていた。

 三人で話し合える形を取っていた。

「それでモモソビメ様‥、段取りはどうするお積もりですか‥?」

 ヒミコがモモソビメの提言を否定すること無く尋ねた。

 座に居合わせた四人は、ええ~~!と声が出そうに成ったが、互いに顔だけを見合わせた。

 イリヒコとミマキビメは御簾越しであったが、その類に漏れることはなかった。

 神に対する冒涜ではないか‥!?それどころか、列島の全国民に対する裏切りでは無いか!?と驚きの声を出し損ねたので

「女王様‥、其れは‥!?

と言いかけたが、実際、ホホデミの声だけが響いた。

「私は巫女です。霊感によって神のお告げを賜わり、民達を救う事も出来たのです。一般の常識からでは何の答えも出なかった事が多かった筈です。そして神からまだ、もう命が尽きても良いと言うお告げを戴いて居りません。しかし、今まで出会った事が無い完全に無くなるお日様〈皆既日食〉に巡り遇えば、その時、神から死のお許しを得るかも知れません」

 ヒミコは、モモソビメと引けを取らないか細い声で皆に伝えた。

「今、箸墓の小高い山に小さな祠(ほこら、社)が出来て居ります。女王様のご指示で作ったのですが、ゆくゆくは、回りに池を作って誰も出入り出来なく為るようにします。ですから従来のような土葬では無く、石棺を拵えてその中にそのままの状態で、私は納まる‥、と言う寸法です。勿論、その時まで私の息が途絶えて居なくてもです」

「ええ~~!モモソビメ。神からのお告げで死を許されるのではなかったの‥?」

「ヤマトビメ様‥!」

 ホホデミが小さな声で、ヤマトビメが揶揄している様に感じたので、冗談はお止し下さいと言わんばかりに眼で叱った。

「ええ~~モモソビメ。そう言う積もりではなかつたのよ。ごめんなさい。でも‥やはり、悲しいわ‥」

 モモソビメとヒミコ女王の霊魂同士は、自分達の知らない世界で話し合って居るに違いない、とヤマトビメは感じた。

「其れでホホデミ様‥、女王をお子さんの〈ナカツワタ〉様の交易船で【宇佐】にお連れして行って欲しいのよ。女王を私の身なりに代えて‥、」

「ええ~~宇佐へ‥?」

 モモソビメの提言に一瞬驚いたが、ホホデミはうんうんと頷いた。

 女王の母上のツクヨミ様の元へ。最後は、実の母に看取って貰うのが女王の本望では無いかと言うモモソビメの気配りに、ヤマトビメもミマキビメもしくしくと声が漏れるのを防ぐように、口に手を当てて泣き出した。

 ヒミコもじっと皆の話のやり取りを聞いていたが、眼にはキラリと輝くものが光った。

親不幸な娘の死に、最後まで立ち会わねば為らない母ツクヨミの悲しみを思うと、いくら神のご意志と言えど、何と酷い仕打ちなのだろう。うわ~~と大声を出して泣き叫びたい所だが、ヒミコにはもうその気力が失せていた。

「この戦がある程度終結したら、妾の跡目にイワレヒコの娘の〈トヨ〉に継がすようイワレヒコに伝えては下さらぬか‥、ホホデミ様」

「はあ~~すると今までの体制に変わり無く、イワレヒコ様が〈政〉の王ということで御座いますね。でもトヨ姫さまはまだ十三才に成ったばかりで、連合国の王達が納得致しますでしょうか‥?」

「心配には及びません‥ホホデミ様。トヨの霊魂は、霊感の衰えを日増しに感じている妾よりも、霊的な意識を高めて行く力強さを持って居ます。鋭い霊感による神からの啓示をもとに、彼女は、国々や民達を導いて行く筈です」

「すると、ヒミコ女王に代わって、父上をお助け出来ると言う事ですか‥!」

「いえ、其れは成りませぬ。〈トヨ〉はあくまで国を守り、民を慈しむ【巫女】に徹せねば為りませぬ。そして将来は、この列島を統合する王は【政も祭祀】(まつりごともさいし)も統括して【神の子】として、国々の王や列島の民達を守って行かねば為らない【男王】の体制と為らねば成りませぬ。イワレヒコには、当面隠居してもらい、そこに居られる〈ミマキイリヒコ〉殿を連合国の大王(崇神天皇)と為って、〈トヨ〉を助けて貰いたいと思っているのです」

 そこまで言って、ヒミコは一息入れ、静かに眼を閉じた。

 周りの者達はあつけに取られ、物言う事も忘れ、互いに顔を見合わせる事しか出来なかった。



 「女王‥、お初に拝謁致します。〈王キ〉将軍の属官〈張政〉に御座ります」

 二名の軍服を着た将兵を後ろに控えさせ、御簾の向こうに鎮座している若い女王に力強く言上した。

 まともに正面の女王を見て、張政は、何とまだ子供では無いか‥、ヒミコ女王が亡く成って、国内では多数の兵士達の犠牲者を出すほどの一波乱が起こった様だが、其れでもこのような幼い女王を擁する事に寄って、国内が治まるとは信じられ無いことだ。よほど

【倭国】と言うのは、〈巫女様〉の威厳というものに心痛している民達なのだ‥、と改めて感心せざるを得ないのだと張政は思った。

 自国では信じられ無い光景である。成る程、ヒミコ女王は五十年以上も連合国の王達を引っ張って来た偉大な女王で有ることは〈太博の司馬懿〉様からも伺っていたが、しかし、其れでもこの女王は幼すぎでは無いか‥、とちらっと、御簾の左端に座るミマキイリヒコを見やった。

 イリヒコはニコッと笑みを浮かべてうんうんと頷いた。

「張政様‥、遠路はるばる当地にお越し願い、非常に心苦しい思い出一杯です。昨年は宿敵狗奴国との闘い時は魏軍の〈黄幡コウドウ

〉を戴き、〈檄〉を作って告諭して頂きました。お陰様で、狗奴国を退かせる事が出来ました。この倭国が、魏帝の〈親魏倭王〉という勅のもとに、いつも見守って頂いて居ることのあかしを示されました。幼い身で在りますが、この台与トヨもヒミコ女王の意志を継ぎたく精進致したく思いますので、どうぞ行く末まで‥、ご計らい下さいますよう‥、尚、この倭国も微弱で在りますが、魏朝に少しでもお役に立てるよう万端を期しておりますので〈太博司馬懿様〉に宜しくお伝え下さいますよう‥、」

透き通ったような中華語で、詩を歌うような音律が響き渡り、張政らは心地良い気分に、頭を下げていた顔を上げ、その声の主の顔をじっと見た。

 御簾越しでもその眼ははっきり見えているような気がしたが暫くして、急に睡魔が襲ったのか、頭を左右に振って耐えようとした。

「女王様‥!」

鋭く細い小さな声が飛んだ。


 「そう~~ですか‥、あの子が‥、」

呟くような声だが、その様に聞こえた。

 ヤマトビメは顔を近づけて、耳でヒミコの息づかいを確かめた。

 〈宇美の里の仮宮〉から帰って、わずかに意識のあるヒミコに、台与トヨと中華の属官の〈張政〉との遣り取りの報告をした後のことだった。

 静かな弱々しい息づかいが急に止まった。

ヤマトビメは、真っ青に為ってヒミコの胸に耳を当てたが、間もなく

「女王様~~!?」

と大声で泣き出した。

 ツクヨミもホホデミも、

遂に来たかと分かりながらも、ヒミコの寝間の脇に寄り、ヒミコの身体を触りながら

「ヒルメ~~‥!?」

「女王~~‥!?」

と控えめに揺すりながら泣き出した。

 外に居る者達も全員

「女王様~~‥!?」

と踞りながら、声を落として泣いた。

〈ミナカミヌシ(ヒミコの曽祖父)〉と祖母ナキワサメを挟んで中央にヒミコの霊位(たましろ、位牌)を立て、宇佐の小高い横穴式の墓に木棺を納めて、小山の上に神籬(ひもろぎ、社)を設けた。

 ヒミコの木棺が、いつ

〈ヤマトの箸墓〉に移ったかは定かでない。


     [ 完 ] 

  

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