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息も絶え絶えにヒミコが「宇佐」に帰って来た。母のツクヨミはもうヒルメはとっくに死んだと聞いて居たので何故、なぜヒルメがこの宇佐へ

「ええ~~ヒルメ‥!?」

ヨスケがヒルメの肩を抱きながら、ゆるやかな坂を登って来た。

 ツクヨミは一ヶ月前に、ヒミコ女王が崩御したという事を、交易船の船乗りから連絡を受けていた。

 いくら年老いたとは言え

、自分がたった一人の娘の弔いの席に、参列も出来ずに居るのが、口惜しく寂しい思いに駈られていた矢先だったので有る。

「母上‥!?」

 ヒミコは母の顔を見るなり、思いっきりの笑顔を向けたままぐったりして倒れかかった。

 後ろから就いて来ていたワタツミが、すっと寄って来てヨスケと二人でヒミコを抱きかかえた。

「奥様‥、お久しゅう御座います。ワタツミにございます」

 自分より少し年下のワタツミを見て、ツクヨミは又びっくりして

「ワタツミ様‥!まあ~~良くご達者でしたのね‥!?

 もう二人とも八十歳は遠に過ぎて居るのに、無事に生き長らえて来たことに感謝の笑顔を交わした。

「ワタツミ様‥ヒルメは一ヶ月ほど前に亡くなったと聞いて居りましたのに‥、どうして此処に‥?」

「ツクヨミ様‥後でゆっくり事情をお話致しますので‥取り敢えず女王をお部屋の方へ‥、」

 ワタツミの後ろから、見たことの有るような男に声を掛けられ

「トシ‥!早く寝間の段取りを‥、」

「かしこまりました。奥様‥、」

「貴男は‥?」

「はい‥、ホホデミですよ、お母様」

「まあ~~ホホデミ様ですか‥!?」

「お懐かしゅう存じます。その節はいろいろご厄介をお掛けして、何のお返しも出来ずに今に為って仕舞いましたました。申し訳御座いません」

とペコリと頭を下げた。

「何をおっしゃいます。此方こそ娘の為に、いろいろご苦労なさった事を聞いて居ります。今まで有り難う御座いました」

又、ツクヨミもペコリと頭を下げた。

又、後ろから

「ヤマトビメに御座います

。ヒミコ様が女王に為られた時の付き人だった者です

と、ヒミコの介護の為に付き添って来たヤマトビメが挨拶した。

「いいえ‥、良く覚えていますわ。初代連合国のクニクル王様のお孫さん達ですね。ヒルメからお二人の付き添いのお姫様に良くして頂いた事を、昔ヒルメからの〈文〉でよく覚えているのよ」

とニコニコしてヤマトビメに又、ペコリと頭を下げた。祖父ミナカミヌシの弔問の時、三名は参列していたが会話がなかったのだ。

 ヤマトビメは、解らないのは私達の方で、十七才の年の若いヒミコ女王の聡明さに、モモソビメと二人でよく舌を巻いたものだ‥、と昔をふっと思い浮かべた。

 ツクヨミは三人を部屋に招き入れ、自分は奥の間に寝ているヒミコをそっと覗いた。

 ヒミコはかすかな寝息をたて、すやすやと寝入っていた。

 脇で心配そうに付き添っているトシが、気配を感じてペコリとツクヨミの顔を見て頭を下げた。

「もうとっくに亡く成ったと思っていたのに‥、どう言う事なのです‥、」

そしてふと、ヒミコの死相の寝顔を見ながら

「この年老いた母より先に往くなど‥、」

 ツクヨミは、年老いても、昔の名残のある凛々しい顔付きのワタツミに、恨めしそうに問い掛けた。

「はい奥様‥、今回は私は付き添いで参っただけで、事の事情ははっきり解りません。甥のホホデミが女王のご指示で、全て存じて居りますので‥、」

「ツクヨミ様‥女王の命はこの後いつまで長らえるかは分かりません。私と此処に居られるヤマトビメとモモソビメを呼ばれたのは昨年の事でした。その時は、まだしつかりされて居られたのですが、二ヶ月前に又、三人呼び出されて、自分が亡く成った後の処理を命じられたのです」

「何ですって、ヒルメはもう自分の寿命を知っていたと言うのですか‥!?」

「はい。数年前は出雲でのスサ王とオオゲツの死が有り、今回はヒルコ様の息子の狗奴国の王ヒムココとの闘いが、全て自分の政策の手違いで起こった事に非常に心痛され、女王の霊魂がさ迷い始めたとおっしゃって居られました。霊感の衰えを感じ、霊的な意識を高めて行くことが出来なく成ったと‥、そして【日蝕】によって自分の寿命が尽きることを予感し、私達三人に自分が亡く成った後の処理を命じられたのです」

「【日蝕】と言うのは、お日様が欠けていく事ですね

。それで〈ヤマト〉ではそういう事が起こったのですか‥?」

「はい。先月の九月五日に、最後は全部見えなく為り(皆既日食)昼間が夜に為りました」

「欠けるだけでは無く、皆消えてしまったのですか

‥!」

「はい。欠ける事はあつても全部無く為ることなど聞いたことも在りません」

「そんな不吉な現象をヒルメは予知していたと‥!?

「はい、女王は、天体についてはかなり博識だったのです。ですから、民達が行っている〈持喪ジサイ(身内が渡海する時、その無事を祈って喪に服し、難に遇えば殺される)〉と同じように自分も責任を取らねば為らぬと‥、」

「それでどうして〈宇佐〉へ‥、〈ヤマト〉で葬る事が出来なかったのですか

‥?」

「はい、〈巻向(まきむく

)〉と言う場所にその準備をしていたのですが、女王は【日蝕】が起こった後でも、身は衰弱しても気は確かでした。女王は意を決して自決されようとされたのですが、モモソビメが止められました」

「モモソビメ‥、とは?」

「はい、私の妹で、女王様の最初の付き人です」

 ヤマトビメが悲しみに耐えながら答えた。

「自分が女王の代わりにお墓に入る事を、ヒミコ女王に進言したのです」

「なぜ‥!何故そのお姫様がヒルメの代わりなど

‥!?」

 ツクヨミは合点が行かず叫んでしまった。

隣の部屋からトシが顔を出し

「奥様‥!」

 指を口に当てて静かに‥

と言う仕草をした。

ツクヨミははしたない自分に驚いて、トシにうんうんと頷いた。

「モモソビメは〈三輪山の【大物主様】の奥様です」

「大物主‥?」

 ツクヨミは、何処かで聞いたような名だと思いながら、ワタツミに不思議そうな顔で見た。

「奥様のご主人のナムチ様のことです」

「ええ‥!?」

 ツクヨミは昔、ナムチに会った時、確か〈三輪山〉で修行して居た事は聞いたことがあったが、もう自分の元には戻って来ない人だと思っていたので、久しぶりに名を聞いて安堵したと同時に、何故あの姫がヒルメの代わりなど申し出たのか、その事でびっくりしたのだ。

「モモソビメは、〈大物主様〉が数年前お亡く成りに為り自分も近々後を追いたいと思っていたので、女王が本当に命が尽きるまで長生きして貰いたい、 この列島を守って貰いたいと思っていたのかも知れません」

「ええ~~何と‥!」

 あの姫が自分の代わりに主人ナムチを見守り、今度は、娘のヒルメの代わりに墓に入るなど‥、もう

、自分には想像もつかぬ出来事に、もうイヤだわ。主人よりも娘よりも長生きするなんて‥、と思いつつ、馬鹿だわ私、隣の部屋ですやすや寝ているヒルメはまだ亡く成っては居ないのよ

‥、と自分のホッぺをピシッと叩いた。

「まあ~~」

「おほぅ~~」

とかの声が聞こえたが、ニコッと笑って三人を見た。



 「イッセイ殿‥!大丈夫か‥!?」

敵の流れ矢に足を射られ、イッセイがばったり倒れた。

 見ると、左足のアキレス腱の真上に矢が刺さりイッセイが抜こうとして居たのを

「イッセイ殿、今抜いては駄目だ。オ~~イ誰か血を止める塩を持って居らぬか‥!!」

「如何為された大王‥!!

 ミチノオミの声が遠くから聞こえ、駆け込んで来る足音にイワレヒコはほっとした。

「ミチノオミ、血止めの塩を持って居らぬか‥、」

 ミチノオミは、イッセイの足に矢が刺さって居るのを見て、自分が身に着けている袴を解いでびりびりっと破り、矢の回りに塩を振り掛け布を当てて、思いっきり矢を引き抜いた。血が吹き出したが布を当てて傷口に在りったけの塩を塗りつけ、新しい布を二重にも三重にもして固く結んだ。

「うぅ~~ん‥!!」

 イッセイが痛みを堪える為に、思いっきり唸った。

「イッセイ様‥もう大丈夫です。暫く動かずにじっとしていて下さい。その内血が止まれば動けるように為りますので‥、」

 イッセイはうんうん頷いてミチノオミに頭を下げた。

「ミチノオミ、助かったぞ礼を言う」

 イワレヒコは、咄嗟のミチノオミの処置に舌を巻いたが

「戦況はどうじゃ‥?ホアカリめ‥!女王が亡く成ったと聞いた途端に反旗を翻しょったわ。やはり、列島を二国に分断しようと言う腹があったのじゃ‥、女王の言われていた通りじゃ」

「ニギハヤヒ様の軍が応戦して居りましたが、なかなか、熱田の兵士達や民兵を追い落とす事が出来なかったのですが‥、先ほど急にホアカリ達が退却し出しました」

「ええ~~何故じゃ‥!ニギハヤヒ殿が何か策を見つけたのか‥!?」

「いや、ニギハヤヒ様の軍も急な退却に戸惑っていたので‥、何故の退却か理由が分かりません。我々も皆、ほっとしている所なのです‥、大王」

「そうか、そうか。其れは良かった。しかし狗奴国のヒムココ殿も、良く承諾して呉れたものよ。先日、早々に民兵を引き上げて呉れたので、女王の策が功を奏したものと安心して居たのに‥、ホアカリの無謀さにも呆れたものよ‥、」

 その時、どかどかと二~三人の兵の足音が聞こえた。

「大王、大変で御座います‥!狗奴国の動向に同調していた連合国の一部の国々が、一斉に蜂起して各地で戦闘に入っているという報が届きました」

 留守を任せていたタギシミミが、畝傍の館(橿原市)からこの瀬田(滋賀県)まで二日がかりで駆けつけて来たのだ。

〈文〉をイワレヒコに渡すと、二人の付人と共にぐったりへたり込んでしまった。

「おぅおぅ~~難儀、難儀‥、ご苦労であった‥、ゆっくり休め‥!」

 イワレヒコは〈文〉の竹筒を取ると、三人に労いの声を掛けた。

[ご存知の通り、狗奴国に同調して動き出した国々が蜂起しました。筑紫の八代

、佐伯、四国の阿波、讃岐

、紀伊の熊野ですが、阿波と讃岐は〈オオゲツ様〉を崇めている民達の国々です

。八代、佐伯、熊野は、古の中華の覇者〈呉〉、〈秦〉の流れを汲む子孫が国を牛耳って居る所です。

我が海軍は、越(福井)の沖に二十隻、周防(山口)に十五隻、住吉(大阪)に十隻、淡海(滋賀)に十隻

播磨(兵庫)に五隻待機させて居ります。讃岐には播磨と吉備(岡山)の連合国の国王達が説得に動いて居りますので大事には至らないのですが、筑紫の西南の八代は、中華の呉国の〈孫権〉の部下も入り込んで居ると聞き及んで居ますので

我が海軍二十隻の他に、伊都国と奴国の軍船十隻を依頼しました。吉野ヶ里国(佐賀県)、西都原国(宮崎県)から兵士と民兵約七百人が八代(熊本県)へと向かって居ります。佐伯(大分県)には周防国と宇佐国と海軍とで鎮圧に当たって居ります故、大王には阿波の民達への怒りを静めて欲しい事と〈熊野の民達〉に連合国への参画を説得して貰いたくお願い申し上げます。住吉の津にてお待ちして居ります,、ソコツワタ]

「何と長い〈文〉じゃこと、竹筒を三本も使って居るわ‥、」

「ソコツワタ様に取りましては、女王の死など考えても居りませんでしたし‥、もうイワレヒコ大王にお縋りするしか無いのではないですか‥、」

 タギシミミが少し気が収まったのか、ソコツワタの

〈気〉を弁護した。

「何を言っとるか、人間に不死身など無いわ。ヒミコ女王と言えど、何れかは身罷るのじゃ。ソコツワタのホホデミや大叔父

(ワタツミ)様は、何も無い所からヒミコ女王を助けて今の連合国を作りなさったのじゃ。何も案ずる事は無い‥!」

 イワレヒコは喋って居る間、始めて姉のヒミコが死んだ事に気が付いたような気がした。

 [ええ~~!?姉が死んだって‥、]

話し終わって、その場にへなへな~~と倒れ込んだ。

「大王さま~~‥!?」

 周りの者達が全員、何事が起こったのか駆け込んで来た。



 「そうですか‥、妾が亡く成ったと聞いて百人ほどの巫女や奴婢達が後を追った‥のですか‥、」

 「ヒミコは三日ぶりに意識を取り戻したが、もう死期が迫って居るのを感じていた。

 過去毎年、列島の各地から巻向に百人ほどの巫女達が謁見に来ていた。

 彼女達は、ヒミコの思想

(巫女の生きざま)を教わりに来ていたのだった。

 皆、それぞれ大なり小なりの霊感を備わっている。皆、それぞれ自分の国や村の人達の為に占いをし、霊感のもとで人々を導いて来ていた。

 しかし、女王はその様な事も国を守ることも、同じように正面からぶつかり、確実な判断と人を威圧する確固たる決断力のもとに国を守って来た。一体どういう思想なんだろう‥、と言う。少しでも近づきたい‥、という単純な憧れからであったが、謁見した後何を学んだのか、彼女達は国に帰ると人が変わったように、村人達と田畑の手入れを勤しむ勤勉な民達の一人と成った。少しばかりの時間を利用して、自分の霊魂と向き合い、霊感を研ぎ澄まし、神のお告げを受けられるよう、励ばねば為らない‥、と言うのがヒミコ女王の思想というものであったのだ。

 ヒミコの存命中、幾度も訪れる巫女達も多かった。

その内の何人かは、ヒミコの死と共に後を追った。

 絶望からでは無く、神のお告げによって死を許されたのであった。

 ヒミコは、数ヶ月前の巻向の館で最後の力を振り絞って話した事を思い出していた。


「女王様‥、私が代わりにお墓に入りましょうか‥」

 突然のモモソビメの発言に

「モモソビメ‥!一体何を言ってれの‥!?」

 従姉のヤマトビメがびっくりして、モモソビメが言ってる事が解らず聞き返そとした。







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