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イスズビメ娘のトヨを連れて、女王ヒミコに謁見す

[この度の不慮の事故は、妾にとってもこの列島の民達にとっても、想像を絶する不幸な出来事で有ります

。妾は情けない事ですが、個人的に大きな打撃を受け

、未だに病に伏せている状態で有ります。しかし、この列島の国づくりに【連合国】を作り、将来の列島を一つの大きな国家の礎と為るよう様々な問題を取り上げ、一つ一つ合議のうえ民達にとって一番良好な解決策を模索して行かねば為りません。その為に大事な事は、今連合国として名を連ねているいる国々が、一致団結して事に当たらねば為らないと言うことです。連合国の組織を運営していく事は至難な技です。連合国結成の真意は、妾が女王に為る前には、各国独自で国づくりに励み、それぞれ民達と共に安定した生活をした村々や国が数多く有りました。それを、一つの【連合国】として助け合う組織作りにしようとしたのが狙いだったのです。〈連合国〉の段階になると

、今行っていることですが、互いの国々が独自で知り得ない情報の確保と、物資の不足分を分かち合える為に、交換する物々を図る〈物差し〉を決めて行かねば為りません。要は一つ一つの問題の解決策は、しっかりした規律を作って、互いに守って行動するという事に留まるのです。連合国の次の段階は、先々「一つの国家」として発展して行かねば為らないと妾は考えて居ります。国家として運営していくように成れば、今ある連合国一つ一つの問題では無く、国家全体の問題として、大きな視野を持って事に当たらねば為らないのです。特に大きな問題は「人づくり」でしょう。それは、各国で優秀な若者を育てるという事でも有りますが、連合国内では〈専門的な知識〉が持てるよう育て無ければ為らないと言うことです‥、長々とお話ししましたが、妾もいつまでも【女王】としてやっていく積もりは有りません。今回の出雲の件は、イワレヒコ大王に依頼した形に為りましたが、勿論、妾の意志で事に及んだことは間違い有りません。出雲の国の方々に難儀な「通達」によって多大なる御迷惑をお掛けした事についてはお詫びと撤回という事にしますが

、只、百数十年間に掛けて

出雲の【巫-巫頁フゲキ】達の活動により、列島の各地で〈出雲の思想〉が行き渡るのを見て、その力をお貸し願いたく提案した次第だったのです。‥、

【大地】も大事ですが【天の日】を中心に、これからの列島の〈祭儀〉を推し進めて行きますので、【地】の祭儀に使う〈青銅の器具(銅剣、銅鐸、銅矛など)〉は地中に保存したまま、これより以降は、一切利用しないよう通達します

。色んな〈魔除け〉や〈願いが叶える〉物を利用して下さるよう願います。

何も、今までの〈精霊崇拝

(火などの他出雲では龍蛇信仰という特別祭祀が有る

)〉の祭儀までを咎めようとして居る訳では有りませんので‥ご理解を‥、]

 ざっと読み終え‥イワレヒコは、ふっと息を付いて回りを見た。

「何と、青銅の祭儀の器具を使うな‥、という事はどう言う事なのだろう‥!」

「ヒミコ女王は、引退されるお積もりなのか‥、いつまでも女王を続けていく積もりは無いというのは‥、

病状がかなり厳しいものに為って居るのであろうか

‥?」

等々、ざわめいてきだした。

「イワレヒコ殿‥、女王がおっしゃる出雲に代わって

【天の日】の祭儀を推し進めていくというのは、出雲の権威というか影響力を察して、列島の国々に対し、強引な祭儀の変更を強行し

、出雲には口出しをせぬようにという封じ込めか、出雲に迷惑を掛けたくないという信義からですか‥?」

 オオナムチは、ヒミコの

〈親書〉を聞いて、今までの一方的な〈通達〉に怒りを押さえて来たのが、すぅ~~と消えて行くような気がして、素直に此れからの出雲国の態度を決めて行かねば為らぬと感じ、イワレヒコに尋ねてみた。

「‥、いや、私には解りませぬが、女王の気持ちは、そのどちらも含んで居るのではないかと思います。出雲の祭祀さいしは〈ヤマト〉には無い、多種多様な思想が含まれており〈霊〉についても、かなり奥深く追求されて居るように私は感じます。例えば、政と祭儀についてもはっきり区別されています。〈祭儀の主は王であり、政はその現実化である〉と、女王は捉えて居ると思います。故に、女王はいつまでも出雲の思想を〈ヤマト〉と違って守って行って欲しいと願って居るのではないでしょうか」

 イワレヒコは、此れからの列島の行く末をヒミコ女王は、〈度々の戦いの中で一本化して行くだろう〉と承知して居るので、敢えて

、自分の女王の時代に無理な強行策を取らずに、次の世代に受け継いで欲しいと考えての〈親書〉であったのだと思った。



 「まあ~~イワレヒコの末のお姫様ね‥、」

「はい、台与トヨと申します」

 女王の前でも、怖じ気づくこと無くはきはき答えた。

 イワレヒコとイスズビメの間には、三人の男子(

ヒコヤイ、カムヤイ、カムヌナカ)のあと、ようやく年の離れた女子を授かっていた。

 二~三才頃から、じっと人を視る目が座っていて相手を見透かして居るように見えるので、思わず目を反らしてしまうという、変わった物静かな大人しい子であったが、六才頃に為ると鋭い霊感の持ち主で有ることが分かった。

 母のイスズビメは、自分の母のヒミコの幼い頃など知る由しもなかったが、ひよっとして娘の〈トヨ〉を見ていると、ヒミコの生まれ変わりでは無いかと恐れた。

 しかし、ヒミコ女王が病に伏していると聞き、思い切って女王に謁見させた。

女王にとっては実の孫なのである。

 昔、タマヨリと女王の生母の〈ツクヨミ〉に会いに行った時、イスズビメはヒミコが自分の実の母とはつきり分かった。タマヨリは、ヒミコの代わりに自分を育ててくれたのだ。どのような事情でそうなったのか、当時イスズビメは理解出来なかったが、ツクヨミは周りの目も構わず、イスズビメを泣きながら抱きしめ、自分が祖母とはつきり言えない悲しみで、イスズビメに何度も詫びているのが、抱かれながら胸に響いて来て居たのをはっきり覚えていた。

 そうなんだ、私は女王の娘であっては為らないのだ。

 その時から、イスズビメは自分は一人ぼっちで有ることに気づいたのだ。

 実際、ヒミコと初めて会った時にも感激はひとしおであったが、親子の対面という劇的な感動など起こらなかった。

 ヒミコの胸の内は、どうであったかは分からなかったが、目が潤んで居るのははっきり自分の目には映った。

 しかし、言葉はあくまでタマヨリの娘として扱わざるを得なかったに違い無い。

 やはり自分は、女王の娘であっては為らないのだ‥

と改めて感じ、その日から自分の生きる道を探さねば

‥、と自分の運命を恨んだものだった。

 自分は母タマヨリと兄イッセイと伴に、女王より与えられた相応の土地を、地元の民達と力を携えて実のある田畑を作り上げて行くことに専念せねばと‥、心に決めた。

 ところがひょんな事から、女王の弟のイワレヒコ

(オオヒルメの息子)と出会い、その人柄に惚れ、自分の連れ合いはこの方しかいない‥、と強引に求婚してしまった。

 その場に居合わせた兄のイッセイと当のイワレヒコは、余りの積極的なイスズビメの言動にびっくりしたものの

兄のイッセイは、日頃から清楚で大人しい中に事の重大さに出くわした際には、きりっとした観察力と判断のうえ、人の思いもつかぬ決断を見い出し行動する妹を見て居たので、思わずイワレヒコの出方を咄嗟に見ると、案ずる事無くイワレヒコは、元よりイスズビメにぞっこんだったのだ。

 西都原(宮城県)の〈王家〉にタマヨリ一家を引き入れた〈女王オオヒルメ〉の狙いは、連合国女王に成ったヒミコの娘を、何とか息子のイワレヒコの嫁にしたいという思惑があった。

死に際にタマヨリを呼び何とかヤマトに居るイワレヒコの元に連れて行ってやって欲しいと遺言していた。

又、ヒミコもタマヨリに与えた地を、イワレヒコの館の近くにしたのは、弟のイワレヒコとイスズビメが出会う機会も在ろうかと、含んでの贈与であった。

 オオヒルメもヒルメ(ヒミコ)も、望んで生を得たにも関わらず、寂しい人生を歩む事に為るイスズビメに、自分達に出来ることは、最良の伴侶を選ばせるそれしかないと、それぞれの思いで手を尽くしたのだ。


「それで‥お幾つに成ったのトヨ‥、」

 語尾が孫に話し掛けるような口調に成った。

「はい、九才に為ります‥

祖母さま」

「ええ~~!」

 思わず、イスズビメは驚いてトヨの顔を見た。

 御簾の端に座っていたミマキビメも、トヨとヒミコ女王を咄嗟に見比べた。

「まぁ~~可愛い‥、どうして分かったのトヨ‥?」

「はい、女王様の霊が私の霊に話し掛けられて来たので、間違いないと思いました‥、」

と、初めて笑った。

「母様は、それをご存知かしら‥、」

「いいえ‥いえ、母様はそう思っていても言い出せないのでは‥、でも、誰が見ても分かりますわよ祖母様。母様と祖母様は瓜二つですもの‥、」

「そうよね‥、イスズビメ‥そなたは妾を母とずっと思っていたわね‥、どうして、そう呼んで呉れないの‥?」

「はい、女王様の立場上、その様に呼ぶ事は憚ら無ければ‥、と」

「‥、」

「女王様がお子を授かった時、タマヨリの母に預けて自分の子として育てて欲しいと依頼された時から、私は女王様の娘では無くなったのですから、女王様自身がタマヨリの母に戻して欲しいとおっしゃっらない限り、私は女王様を母と呼ぶことは出来ませぬ」

「タマヨリ様に憚ってと言うことですか‥?」

「いえ、そうでは在りませぬ。女王様が、連合国の重要な決めごとを〈祭司〉として決定される立場上と言う意味でございますわ‥」

「私が貴女を身ごもったのは、女王に為る前のことだわ」

「でも女王様は私を友人に預けて‥、ご自分は子の養育を放棄されましたわ。子を産むだり養育されると霊感が衰える‥、と聞きましたが、当時はその事を守る為に又、人に知られたくない‥、という心境だったのでしょうか‥、女王様」

 痛いところをつかれ、ヒミコはじっとイスズビメを見た。

 通常は、ヒミコの霊が相手に入り込もうとするのを、一瞬目を反らして難を逃れようとするのだが、イスズビメは、逆にヒミコの霊に取り込もうとした。

「何と‥!」

 ヒミコがびくっとして、

自分を取り戻そうとした。

寸刻も経たないと思ったが

御簾の向こうには、もう母子の姿はなかった


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