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スサとオオゲツの惨事は、出雲の在り方を大きく変えて行く。倭国の民達がどのような「神」を崇めようと出雲はいつも受け入る‥、と

 明くる朝、日が昇る頃に、静寂を破る大声が浜辺に響き渡った。

「イワレヒコ大王‥!伯父のスサじゃ‥、船から降りて来られい‥!!」

 張番の兵士の戸惑いも構わず、イワレヒコは浜辺に降りて一人スサに向かった。

ミチノオミが慌てて後ろに付いた。

「伯父上‥お久しゅうございます。今回の件で度々御迷惑を掛け申し訳ございませぬ。是非今回はオオナムチ王と話をして決着を付けたいと思いますので、どうか杵築までご一緒願いませぬか‥

 イワレヒコは、スサが連合国の重鎮として協力して呉れる筈だとばかり思っていたのだ。

「馬鹿者‥!このワシが出雲を捨ててまで、連合国の為に働くと思っていたのか‥!!」

 厳しいこの言葉に、イワレヒコは様子がおかしいのに初めて気が付いた。

 林の中から民兵が険しい顔つきで、群がってイワレヒコに向かって来た。

 其れを見て、軍船の前で様子を伺っていた兵士達が

「ウァ~~!!」

と勢いよくイワレヒコを守るように、浜辺を駆け上がった。

「かかれ~~!!」

 スサは後ろを振り向いて、民兵達に発破を掛けた。

 ところが民兵達は、イワレヒコを避けるように

、扇形では無く、羽を拡げた鷲が降り立つような戦法で攻め込んで行ったのだ。

 スサはそのさまを見て、何故だ‥?イワレヒコ大王を追い詰めて、今後の交渉に利用しようと思っていたのに、民兵の心の様は我には非ずか

‥、」

 スサは林から出、自らやいばを抜いた。

「伯父上‥!!止めて下され、皆を止めて下され‥

!?」

 イワレヒコは林に向かって走り出し、スサに必死に呼び掛けた。

 不幸なことに、若い海軍兵士には、老いぼれた頑固爺としか見えなかったに違い無い。

 二人左右からスサに斬りかかったが、スサの動きは素早く、一瞬、遅れた兵達には見向きもせず、片方の兵の刀を吹き飛ばし、片方の兵が空を切った瞬間、肩から斬り下ろし、刀を失った兵が逃げようとした後ろから斬りつけた。

 続いて三人の兵が、手強い相手だと知って身構えた。

 その時、何処にいたのか

従兄あにさま~~!お止め下さい‥!!」

 突然、イワレヒコをかばうように両手を拡げて、スサの前に立ちはだかった。

「オオゲツ‥!どけい~~退かぬか‥!!」

 瞬間、たじろいだスサに向かって斬りつけた兵の刀は、スサの肩をかすったが、振り落とした姿勢のまま、スサに斬り殺されてしまった。

「伯父上何ゆえに、このような無謀な事を‥!?」

 イワレヒコは、必死の形相でスサを責めた。

「イワレヒコ‥、海軍まで配備して何ゆえの相談じゃ。ヒミコ女王に伝えておけ‥、スサはソナタの夢だけで出雲を失いたく無い‥、と。其もどうだか‥、そなたもこの場で命を落とすことに成ろうとは‥、どけ‥!オオゲツ!!」

 その時、〈ミチノオミ

〉が正面から、スサに斬りかかって来た。

 スサはミチノオミの刀を跳ね返し、横からミチノオミを斬り返した。

 ミチノオミは、思いっきり地面に這いつくばった。

「ぎゃあ~~!!」

スサの振り切った刀は、オオゲツを横切りで斬ってしまった。

 後ろで、オオゲツを抱えてどかせようとして居たイワレヒコは、一瞬の惨事に目が真っ暗になり

「オオゲツ様~~‥、オオゲツ様‥!?」

と泣きながら抱え上げようとした。

「オオゲツ‥!?オオゲツ

‥!?何故、お前が此処に居る。オオゲツ‥!?何故此処に‥、」

 斬り捨てた刃(やいば

)に、憎しみの炎を燃え上がらせ、その刀を自分の腹に突き刺した。

「おおぅ~~おおぉ~~!?」

 周りに居た互いの兵士達は、余りにも凄ましすぎる情景に、ただ悲しみと地獄の絵図に吸い込まれて行くような思いであった。


 使いをやって三時半(

七時間)後に、ホホデミ達が〈ヤマトの巻向の女王の館〉に入った。

 自分の判断の甘さで、思わぬ惨事を招いてしまい、痛恨の思いで長い回想を思い巡らせていた〈

ソコツワタ〉は、父の顔を見るなり、泣きそうに成って事の事情を話し出した。

「何だと‥!スサ王がオオゲツ様を斬り殺して自決したと‥!?」

 父のホホデミは、張り裂けんばかりの声を上げて、ソコツワタを睨み返した。

〈ワタツミ〉も〈ヨンソン〉もホホデミと同じく

、ソコツワタの強烈な第一声に、耳を疑って仰天したが‥、そこはそこ、二人とも海軍大将を勤めて来た強者つわもの

じっと目をつぶって冷静さを取り戻そうとして居た。

「して‥、女王のご様子は‥?未だに目覚めぬ‥、

と言う事か!」

 怒ったようにホホデミが唸った。

「それで‥、〈ミマキイリヒコ〉殿はどうされたのじゃ。館には居らぬようじやが‥?」

「伊勢に居られる〈トヨウケジ〉様のご病状が思わしく無く、〈タマヨリ

〉様と〈イスズビメ様にご同行されて、三日前にお出かけに成ったとミマキビメ様がおっしゃって居られました」

「ええ~~妻(サヨリビメ

)の母上のトヨウケジ様が具合が悪くなったと言うのか‥!?」

 ワタツミがびっくりして問い返した。

「はあ~~大叔父上(ワタツミは父ホホデミの父の弟)‥、その様にびっくりされても、私にはとんと分かり兼ねますので、後でミマキビメ様にお聞きに成って下され」

 ソコツワタは、女王のお側役のミマキイリヒコが居らぬので、急遽父達を呼んだのを理解して欲しかったのだ。トヨウケジ様の件は申し訳ないが、後回しにして、早くヒミコ女王の指示を仰いで、急いで出雲に戻りたかったのだ。

 ミマキビメ様に、自分ではもう女王に取り次いでもらう手段は無いのだ。

「父上、私にはもうミマキビメ様に取り次いでもらうすべが有りません。女王の様子を何とかお伺い出来ませぬか‥

?」

 元、お側役の父なら、何とか為る筈だと懇願した。

 ホホデミは、うんうんと頷きながら席を立った。



 狗奴国に戻った〈ワカトシノ〉と〈ナツノメ〉の二人は足取りが重かった。

〈サキ〉は、五十年近くも仕えた主人オオゲ

の不慮の死に、自然自分も後を追って死ぬ積もりであったが、イワレヒコに[オオゲツ様の尊い実績を子孫に伝えられるのは貴女だけなのです。そして田畑の神とまで崇められ、民達に慕われたオオゲツ様の一生を見守って来られたのは貴女しか居られ無いのででは無いですか‥?サキ殿、オオゲツ様は死ぬ直前に、自分を間違って切ってしまったスサの伯父上にニッコリ笑って息を引き取ったのです。是非この出雲に残って、彼女の側に居てやって呉れませんか。私には何もできませんが、貴女が側に居る事で、安らかに民達を永遠に見守って呉れると思うのですよ]

と言われ、イワレヒコが涙ながらに頼んで居るのを見て、死を思い止まったのだ。

 そして、ワカトシノとナツノメに、私は出雲にに残るので自分サキの家族に、事の次第を伝えて欲しいと依頼されて居た。

 そんなことも、サキの家族にどう説明して良いのか途方に暮れて、半年ぶりに国へ帰って来たのだ。

「何だと‥!母上が間違ってスサの叔父に殺されただと‥!?」

 案の定、二人が泣きながら母の死を告げると、ヒムココは気が狂ったようにワカトシノを罵った。

「馬鹿者‥!!お前が付いていながら‥、スサの叔父上を切ってでも母を助けることが出来なんだと言うのか‥!?」

 もうそこら辺りの置いてある物を、ワカトシノに投げつけた。

「祖父様‥!!お止め下され‥!?」

 ナツノメが、ワカトシノを庇いながら、ヒムココにぶつかるように抱きついた。

 腕もぶっつけられながら自分の胸に飛び込んで来た孫を跳ね退け、立ち上がって、武者振りつくようにワカトシノに抱きつき

叔母上オオゲツが死んだ‥! 叔母上が死んでしまった‥!!」

と叫びながら泣き出した。


 祖母の〈カミムスヒ〉と姉〈タギリビメ〉に見守られ、秋鹿あいか郡の佐太社さたのやしろにオオゲツは葬られた。

 そこには、出雲でも屈指の田畑に恵まれた地で、オオゲツの魂が未来永劫消え入ることが無いよう願って〈神簾(ひもろぎ、常緑樹の回りに玉垣という柵を巡らせて目印としたもの)〉を作った。

 サキは近くの民家に世話に為りながら一生、オオゲツに仕える事と成った。


 海軍大将のソコツワタが、ヒミコの「親書」を持って出雲に戻って来た。

 イワレヒコは、オオナムチ王と出雲国の重鎮に集まってもらい、女王の「親書」を読み上げた。

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