ヒルメ(卑弥呼)の霊感は父ナムチ(大物主の尊)の引き継か
同じ倭人でも出雲国人と同化し[この時期には、ナギ様が時期出雲国王に成られるときく]その教えは、列島の各地に浸透し、出雲同盟国と言う主力の国々が、各地で確たるく国づくりを行っている。しかし、あくまで互いの交易国どうしの付き合いに止まり。将来、倭人が中心となって連合国を造り挙げて行かなければ、この列島全体の強い国づくりには成り立たない‥とワニは理解していた。
葛城の王は四代前のミマツヒコから倭人が推挙され、弁韓系の倭人として筑紫の伊都国とは懇意の仲だ。韓の国々、中国の漢にも交易の便宜を受けていた。
「兄上‥!オオヒヒは、どのようにして護衛をかいくぐったのですか‥?」
王のヒコクニクルは磯の宮に着くなり兄のキビツヒコを強く問い詰めた。「いや~~あ、それがよく分からんのじゃ。なにせ暗闇のこと故じゃて‥!?」
キビツヒコも甥の行動には面食らっていて、弟の形相にも対応出来ないでいた。
「常時、張り番は四人置いておったのじゃが、皆気が付かなんだそうだ。妃付けの侍女〈かわや〉に行く時に妃が居なくなっていることに気付き、家人のサクに伝えたということじゃが‥、まさかヒコオオヒヒの命(指示)で連れ去ったとは‥、!‥?」
「何故にオオヒヒ‥、と‥?」
「サクが侍女から話を聞いて楼閣に上がって辺りを見回すと、東の方に灯が二、三動いているのが見えたそうじゃ。そこで侍女に長のウシカを起こして、後から来るよう伝えよ、と言いざま走ったそうじゃ」
「それで追い付いて、オオヒヒに会って確認したと‥!?」
「そうじゃ。しかしオオヒヒではなく長のワニじゃったとは」
「何ですと!ワニが‥!?」
「ワニは追い付いて来たサクに、クニクル王にイカガシコメ様を返していただいたと伝えよ‥、!と」
「うぬ‥、!うワニめ‥!?」
クニクルは呻きを吐き出し、両こぶしを思い切りにぎりしめた。
「恩を仇で返しおったわ。オオヒコ‥!すぐに人を集めて連れ帰って参れ‥!」
「しかし父上。ワニ達が館に入って来なかったのは、他の侍女が妃を手引きして、外に連れ出したとしか思われません」
「そると、シコメが自分の意思で我から逃げ去ったと言うことか‥、!」
「いや、分かりませぬが‥?そう言うことも考えられます」
「ええ~~い。彼奴も比奴も我を馬鹿にしおつて‥、!」
ぐっと息子を睨み返し
「オオヒコ‥!何れにしても、大罪を犯したのじゃ。このまま放っておくわけにもいくまい。家人達を連れて走ってくれまいか」
「承知しました父上」
オオヒコは弟の遣り口も尋常ではない‥、と憤懣やるかたなかった。来年には皇太子として推挙される予定[当時のの慣習では次期王になるのは末弟が優先]のが決まっておるのに‥、!と弟の安易な行動が腑に落ちなかった。この弟の行動で、まかり間違って自分が王になるチャンスが芽生えた‥と
いうところか‥?いやいや、とオオヒコは首を振って、取り敢えず、説得に行かなければ‥
家人のウシカに
「ウシカ‥、軽の宮に行って、家人も含め五十人ほど戦の準備をして、こちらに参れと伝えて来てくれぬか」
「はい‥オオヒコ様」
ウシカは、磯の宮の家人達にも準備して待っているよう指示して走り去った。
「おお‥!確か、布留(ふる、天理市)に出雲国の王のご子息、スクナビコ様がおいでじゃと聞いたわ。これ‥、ヨシツケ、布留に行って事の事情をスクナビコ様に伝えに行ってくれ‥、!」
ワニは、側にいた精カンな若者に指示した。実際、王の癇癪玉が破裂して全面的な戦を仕掛けて来られたら、もう立ち向かう術すべはない。
ワニはクニクル王の性格からして、まずはオオヒコ様に命じて、おどしを掛けて来るに違いない、とふんだ。
農耕の民には、道すがらの田畑の各所に立ち並ばせ、戦になれば田畑の被害が計り知れないことを訴えさせる。〈民の幸なくして王の幸なし〉ということじゃ。オオヒコ様も、すこしはたじろくじゃろう。守りの兵は三十人ほどしかいないが、農耕の民達の他、職工の民達にも、つぶ手の投げ方、棒術や弓矢のい方を、常日頃から教えているので、少しは役に立とう。仮に一戦を交えても、そう易々と引き下がらんわ。
ワニは、一人ぶつぶつ言いながらも、何か見落としが無いかと案じた。
そうだ‥、長期かした時の応援と、オオヒヒ様の皇太子の推薦挙をどう引きとどめられるかだ。
クニクル王は、大罪として推挙を取り下げるかも知れん。
オオヒヒ様は、その覚悟で決行されたろうが引き下がれば、それだけでは済まない。一族郎党に危害が及ぶ恐れがあるのだ。
春日、平群の長達に、今日の一戦が終え次第使いを出そう。
そこまで考えて、後はスクナビコ様が来られて相談しようと思った。布留には半時(一時間)ほどで往復出来る道のりだ。
[ワニは、王軍より先にスクナビコが到着するのを
待ちわびた。]
〈語り〉が終わった。ナムチは頭を下げた。
座ないはシイ-ンと静まり返えったままだ。
「それで、その第一戦はどうなった‥?」
ナギが腑に落ちない‥、という風に顛末を話すよう
促した。
「はい!王軍が押し寄せ、巻向の宮では緊張が極度に達したのですが、やはりオオヒコ様も、農耕の民達の出現に少したじろぎ、とにかく、弟のオオヒヒと話し合わねばと、二、三人の家人を連れ宮へ入りました。遣り取りは決裂に終わり、兵を引き上げ磯の宮に戻ったそうです」
「えらくあっさり引き上げたものよ!」
「いえ、スクナビコが、〈女子の取り合いで大騒ぎし、民を困らせるのは良くありません‥!〉と」
「それで事が済んだわけではなかったのだな ‥~?」
「はい。王は、イカガシコメを嫁にする事は許さん‥、!と新たに別にオオヒヒに合った連れ合いを寄こすので、認めれば皇太子の推挙も認める‥、と
オオヒヒ様は認めには応ぜず、今、両側の睨みあいが続いている、ということです」
「あい分かつた。葛城のその件は、後日の情報を待って考えよう」
そして、ナギはナムチをじっと遠越しに見つめ
「そちの霊感の鋭さは幼き頃、私も感じていたが、娘もそちを引き継いだ‥、ということかな」と、ツクヨミに問うた。
「はい、私もそう思っております。ヒルメの虚ろな眼が光った時、私はまともに
彼女の眼とかち合うことを避けていました。自分自身を見失いそうになるからです」
「ほほう‥!それほどに強烈な霊感を持ち合わせていようとは‥!?」
「いや、それだけではありません‥、!」
ハコクニが、皆に披露するのを待っていたかのように、弾んだ声で喋り出した。
「ヒルメ様は、昨年〈フゲキ〉として、十才で旅立ちましたが、幼き頃からの霊感の芽生えに付け加え、年を重ねるうち、回りの状況を把握する鋭さに、その対処するに要する知恵が並外れていました。そしてフゲキとして旅立つ頃には、出雲国や倭族の歴史をもかなり習得しているようで、これから先知識や実働を積み重ねして行くようになれば、空恐ろしい女子に成るのではないかと、ツクヨミ様と話していたぐらいです!」
「ほほう‥、!それほどに‥?」
祖父のナギが驚いて呟いた。