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「大物主」の側にオオヒルメの位牌を置いている為に疫病が蔓延したと噂されトヨウケジはヤマトを出てオオヒルメの安住の地を求めて旅にでた。朝鮮では公孫淵が呉王孫権と組、魏朝の司馬懿を迎え撃つ体制に望んだ

「トヨウケジ様‥、トヨウケジ様‥?」

三輪山の麓の三輪村の外れで、ひっそりと夫婦の奴婢と暮らしているトヨウケジの元に、三輪山のほこらから降りて来て、モモソビメが小さく声を掛けて来た。

 棟つづきで隣の茅葺きの建物から、ぴょこっと顔を出した女が

「あら、まあ~~モモソビメ様‥、どうなされました、こんなに早くに‥?」

 ちらっと声の主に顔を向け、モモソビメは

「ヨネさん‥トヨウケジ様はお出でじゃないの‥?」

と憂いの顔で尋ねた。

「いえ、お出でですよ。部屋の奥に祭ってある

【霊位(たましろ、位牌)

】に朝のお供えにお忙しいのでは無いですか‥ちょっと声を掛けて来ますわ」

と言いつつ、モモソビメに礼をしながら部屋に入って行った。

 暫くして、何があったのか‥と慌てて、トヨウケジが出て来た。

「モモソビメ様‥どうぞ」

と家に入るよう案内した。

 付人の少女と嫁のヨネが

、二人が入って行くのを心配そうに見た。

 三輪山の祠に祭っていた

〈オオヒルメ〉の【霊位】に毎朝手入れとお供えに通っていたトヨウケジは、ククノチが日向(宮崎県)に帰る時、オオヒルメ様を見守るのが自分の役目だと、ヤマトに残った。

 ところが昨年、三輪山の周りの村々で、流行病はやりやまいが発生し、かなりの民達が死亡した。

 村の民達は、三輪山にオオヒルメの【霊位】を【大物主】と同席させたことに寄るたたりだと噂し出した。

[祟りとは何方かが恨みつらみで、自分を死に追いやった者に対する怨霊おんりようでは有りませんか

‥、どうしてオオヒルメ様が、愛した男性(ナムチ、大物主)に見守られて、静かに常世とこよで暮らしていくのが駄目なんですか‥、それに何方に怨まれているとおっしゃるのでしょうか‥?」

 周辺の村々の民達の流行病が、オオヒルメの【霊位】が原因だと知らされた時、トヨウケジは猛烈に反発したが、その祟りの本人が、オオヒルメの妹の「ツクヨミ」であると聞かされて唖然とした。

 オオヒルメは、妹のツクヨミの夫〈ナムチ〉と恋に落ち息子イワレヒコまで産んでしまったのだ。互いに家族のある身だったので夫婦とは成れなかった。

 以来、ナムチは大和に来て【大物主】となり、ツクヨミを側に呼び寄せることも出来ず、娘のヒルメ(ヒミコ女王)が十才でフゲキとして旅だった後は、一人ぼっちの寂しい人生を送らされる事に成ってしまった。

 まだ健在であったが、七十才もとっくに過ぎたツクヨミに対して、三輪山の周りの民達の中でも特に〈出雲出〉の民達には、ツクヨミをさておき、不倫相手のオオヒルメの【霊位】を、ナムチ【大物主】の側に置くことには、憤懣やる方無いという状況での噂であった。

 やむなくトヨウケジは、三輪の里にオオヒルメの【霊位】を持って来て、小さな佇まいながら台を拵えて、毎朝水とご飯を備えてオオヒルメの霊を見守っていたのだった。

 「モモソビメ様‥まだ、疫病は収まりませんか‥?」

 トヨウケジは、モモソビメに食い入るように顔を近づけ、拝むように尋ねた。

「いえ‥もう半年以上も経つと言うのに、まだ死人が出ているようなのですよ‥困った事だわ‥、でもね‥

当初、女王様ヒミコがいち早く流行病の原因を調べさせて、以前〈交易船〉から取り入れた食材の中に、外国の物があったのですが、それが原因では無いかと突き止めさせましたわ

。それでもその疫病に効く薬草を、このヤマトと河内国の全薬師くすしに探すよう指示されたの‥、」

「何か良い薬草が見つかったのですか‥!」

 トヨウケジは期待を込めて尋ねた。

「ええ‥最近、漆(うるし

)のような木の樹脂と何の薬草か聞いてませんが、混ぜて煮込んだ汁を飲むと、食欲の出てくる者が出て来まして、病人の数が減って来ているという朗報が入って来たのでほっとしているところですわ‥トヨウケジ様‥、」

「ええ~~それは本当ですか‥!」

 トヨウケジはあらぬ噂で、オオヒルメの怨霊が宙にさ迷っているかと思い、早く流行病が収まることを一日千秋の思いで待ち望んでいたのだ。

「それが‥、その薬草を香久山で探し出し、樹脂と煎じて病人に飲ませる事を勧めたのが‥オオヒルメ様のお孫さまらしいのですよ」

「ええ‥!イスズビメが‥

!?‥おぅおぅ~~オオヒルメ様が病に伏せられてからは、あちこちの薬草探しに奔走していたイスズビメが

‥、こんな時にお祖母様を

助けてくれるなんて‥!‥

おぅおぅ‥、神様!!」

と傍目も構わずおんおん泣き出した。

「何ですって‥!二年ほど前にイワレヒコ様のお妃に成られたイスズビメ様が、

オオヒルメ様のお孫さんですって!!」

 モモソビメも何と縁というものの計り知れない深さを改めて知った思いだった。

「どうか為されました‥?」

 付人の少女とヨネが、トヨウケジの泣き声と普段慎ましい話し言葉しか聞いた事が無いモモソビメのびっくりしたような声に、慌てて部屋の入り口からこつそり顔を出して、心配そうに尋ねた。

「いいのよ‥、心配しなくて‥」

 モモソビメが、相変わらずの優しい言葉でニッコリ笑い、声をかけた。

「失礼しました‥」

 二人は礼をして表に出た

「モモソビメ様‥私、オオヒルメ様の【霊位】が安住出来るような地を求めて、旅に出たいと思うのですが

‥、」

「ええ‥この〈三輪〉からオオヒルメ様を遠ざけようというお積もりですか‥!」

「いいえ、そういう訳では御座いませんわ。オオヒルメ様が、真から愛されたナムチ様(大物主)の側に置いて差し上げたらと思い‥この三輪山まで【霊位

】を持って参ったのですが

‥、しかし、回りの事情も考えずに私の気持ちだけで

、この三輪山に安住してはいけない‥、とようやく気がついたのです。私も〈出雲国〉の出の人間です。〈初瀬の出雲の里(桜井市)〉には沢山の知り合いも居り、ましてや、ナムチ様は私の甥(トヨウケジはナムチの母ナミの妹)でもあります。オオヒルメ様どころか、私さえもこの三輪山は私の安住の地でも在りました。しかしそれは、オオヒルメ様も私も勝ってな我儘でした」

「それは‥、どういう事ですか‥!?」

 モモソビメは、この流行病の件が解決すれば、周りの民達の余計な噂も消え、今居る三輪の里で、オオヒルメの【霊位】を守って行ける筈だと思っていたのだ。

 ただ、イスズビメが煎じた薬が実際、この流行病の完全な治療薬であるかは、もう少し様子を見てみないと分からないが‥、という不安があったが、一体トヨウケジ様は、何を感じて懸念されているのだろう。

 トヨウケジ様は、田畑の育成には、この三輪の里だけで無く回りの民達にとっては無くては為らない女性であり、食材を上手に使って様々な料理を作れる女性でも在るのだ。あの〈オオゲツ〉の母でもある。

 モモソビメは、どうしてもトヨウケジにはこのヤマトに残って欲しいと願っていた。

「ええ‥、それは良く考えてみれば、ナムチ様はヒミコ女王のお父上様ですわ。女王のお母上様の〈ツクヨミ〉様がご生存されているのにツクヨミ様のお姉様のオオヒルメ様が亡くなつたとは言え、さも正妻のようにデ~~ンと構えるのは、ちょっと理不尽のような気がしましたものですから、

いえいえ‥今のモモソビメ様が、大物主様ナムチのお妃に成って居られるのとは意味が違いますのよ。それで三輪から去らねば‥

と思ったのですわ」

「まあ~~私も、理不尽の内ですわね‥女王様ヒミコから見れば‥、」

とニッコリ笑った。

 モモソビメは、その後姉の「ヤマトビメ」にオオヒルメの【霊位】(たましろ

)とトヨウケジが、安全な旅が出来るよう同行を依頼した。



 「うん‥?トシクリの顔が見えぬが‥〈伯済ペクチエ〉王殿‥甥のトシクリ殿は如何した‥?こんな目出度い日に列席せぬとは、飛んでも無い不届きな奴じゃわい‥!」

 声は荒げているものの目は満足そうに笑みが漏れている。

「はい、申し訳有りません

。トシクリは、今嫁探しの為、倭国に戻って居ります」

と伯済の〈オンソ王〉は申し訳無さそうに軽く礼をした。

「何、嫁探しじゃと‥!何を考えて居るのじゃあ奴は

‥?この朝鮮にも可愛い娘が沢山居ると言うに‥、あははは‥そうかそうか親父

(ナンシヨウメ)の国である倭人の娘が恋しいのか‥」

 淵王はトシクリとは年が近く、彼の才能には舌を巻くほど信頼していた。

 今、自分が〈リヨウ東郡〉から朝鮮全土を含めて

エン」という国を立ち上げる為、各国の王や重鎮達を呼びつけて、承諾させようという大会合なのだ。

 それは、トシクリの中華の情勢を探索させての報告結果で決心したことであった。

〈燕〉という国号は古からこの地域の強大な力を誇っていた大国であった。

この朝鮮も三百年前までは〈衛氏朝鮮〉と呼ばれていた。その始祖は、やはり〈燕〉の国の人だった。

 公孫淵は祖父の〈度〉が

、この〈リヨウ東郡〉の大守に任命された五十年前の記念として、〈中華〉とは完全に断ち切り「燕国」を立ち上がらせる決心をした

「我の先祖も〈燕〉の出であるし、中華が強力な国が出て来ぬうちに、我らがこの地域に強力な国づくりをして置けば、そう容易たやすくは「魏」も手出しはして来んじゃろう。こちらは「呉の孫権王」にも話は着けて居るし‥、のう〈オンソ王〉殿!」

 淵は、オンソ王の妃が倭人のトヨタマジビメであることを頭において声をかけた。

強力な高句麗や扶余、濊国等の国々の王や重鎮達を差し置いて、馬韓の一国にすぎぬ伯済のオンソ王に相づちを打つよう促した。

 勿論、小国と言えど伯済の後ろ楯には、倭国の女王ヒミコの存在がちらつく。

 他国の王達もその事は百も承知だが、もし倭国の女王が、この場に居て、淵王に賛同しても、実際、魏軍が攻めて来たら、〈リヨウ東郡〉に近い我々(高句麗扶余、濊)が迎え撃つ羽目に為るのだ。

 三国の重鎮達は、苦虫を噛みながらも愛想笑いをしながら、オンソ王を見た。

「しかし淵王‥イヤ燕王様

。魏が昔(三十年前)シヨクや呉との戦いに敗れたのは、属の諸葛孔明という大戦略家の存在があったからの敗退と聞いて居ります。その諸葛孔明が亡くなった今、又魏が勢力を盛り返そうとしているようです。そこの所の判断は如何ように‥?‥それと愚問では御座いますが‥「燕王」とお成りに成ったのは

、〈リヨウ東郡〉の近辺を包括しての「燕国」ということでしょうか‥?」

「勿論、楽浪郡、帯方郡はそのままじや。何も朝鮮半島を包括する積もりはない

。ただ我々は、昔の「燕国」が支配していた地域(リヨウ東半島の西部、北京や山東省も含む)を領有していくのが夢だったのじゃ。それとオンソ王、先ほど言っていた魏のことじゃが、魏が恐れていた孔明が陣没したのは幸いだったが

、魏も総司令官の〈陳氏〉も亡く為っているのだ。後を「司馬懿」という男が継ぐであろうが、オンソ王もご存知のように、諸葛孔明が死んでいるのも気付かず、何日も右往左往している内に、葛軍の大半を取り逃がすとは‥、無能ぶりが押して図れるというものじゃ。こちらが万全を期せば何十万と攻め掛けて来ても対処出来る‥、という訳じゃ‥そう思わぬか‥どうじゃお集まりの方々‥、その節はどうか力を貸して頂きたいのじゃ」

「ははぁ~~燕王様‥、仰せのままに」

 座の者達が殆ど同時に答えた。









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