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イスズビメは、イワレヒコに愛を打ち明け結婚を迫った

 その様子を見ていたイッセイは、こりゃあ駄目じゃわ‥今のこのイスズを見たら、目を回してひっくり返ってしまうじゃろうなぁ~~。何しろ兄のこの私が見ても、「天女」が地上に降りて来て、話掛けているとしか思えん美しさなのだ。

「ほら、二人ともあの山々を見てみなさい‥、」

 イワレヒコは二人を見ず、片手で東の山々を指した。

「此処から直ぐ右手に見えるのが〈畝傍山〉、その少し離れた東に〈香久山〉が控え、香久山の真北に〈耳成山〉が等間隔で鎮座してして居るのが見えるだろう

 イワレヒコは二人に確かめるよう促す為、後ろを振り返った。そして不幸が始まった。

「あぁっ!」

と、イッセイが小さく呟き

「まぁ~~ほんとう‥!まるで三角形で結ばれているようだわ‥!!」

「おお~~ぅ‥おぅ‥、」

とイワレヒコが呻くようにばったり‥と倒れた。

「あら叔父様‥たら、どうなさったの‥!兄上、私何か変なこと言ったかしら

‥?」

「イスズ‥、大丈夫だよ。叔父上はちょっとめまいをされただけだよ」

と言いながら、イワレヒコの体を起こしながら、背中をぐっと押さえ活を入れた。

「ううぅ‥うぅ‥天女が‥

天女が‥、」

 イスズが素早く、イワレヒコの顔に近づき

「叔父様‥叔父様‥、姪のイスズです‥!分かります‥!」

「これ‥、イスズ‥!」

 イッセイはイスズがイワレヒコの顔を覗き込もうとしたので慌てて止めに入ったが、もう既に遅かった。

 目を開けて、イスズの顔をまともに見たイワレヒコは

「おぉう~~天女が‥!」

と言いながら、又気絶した。

「バシ~~ン」

と、顔に平手が走った。

「うわぉ~~!?」

 イワレヒコが、体全体を飛び上がらせて、その痛さとは別に、何事が起こったのか、回りを探るように注意深く見回し、正面を見た。

「イスズビメ殿か‥!」

「叔父様‥!イスズよ‥私は姪のイスズです‥、天女じゃなんか無いわ‥、」

と悲しそうに微笑んだ。

「おおぅ~~そうかそうかイヤ‥悪かった‥悪かった

。吾は悪い夢でも見ていたのかのう‥、」

と言いながら、後ろで抱えていたイッセイに礼を言うように頭を下げ、起き上がった。

「うん‥何があったのか

‥、ちょっと手前どったが‥、」

と照れ笑いしながら、先ほどひっぱかれた頬を撫で

「あの三山の間柄は‥」

「ご免なさい叔父様‥叔父様が心配で‥、」

と泣きべそをかきながら誤った。

「イスズ‥殿、何をおっしゃる。吾とて普通の男じゃ。余りの美しさにぶつかると気もそぞろに為るのは世の習わしじゃ。何も案ずるで無いぞ‥、で」

と声がつまり、何を話していたのか、ちょっと考えた。

「あのヤマト三山の間柄は‥、とお話しされようとしたのでは‥、」

 イッセイが助け船を出した。

「うん、そうじゃ。人間で例えて言うなら、畝傍山は猛々しく、耳成山は性は分からぬが、男で言うなら、山の形が整った律儀で紳士に見えるし、女で言うなら清楚な初々しい寂しそうな山にも見えるのだ。そして香久山は形といいその撫でらかさは、女性が寝そべって男を誘って居るようにも見えるのだ‥、」

「ええ~~そうなの‥!」

 イスズがびっくりして香久山を見直した。

「これ、イスズ‥、」

 イッセイは、イスズの反応が余りにも素直に飛び付くのて、少し間を置いて話を聞くように注意した積もりだが

「いやいや、此は吾の曾てな想像なので、そんなに真剣に問われると困るのだが、しかし、ヤマトの者達はこんな風に例えて言っているので、吾が感じるのはそう当て外れでは無いと思うのだ。それは、耳成山と香久山が畝傍山に対して、恋敵として争っているとも‥、又別の見方では、

畝傍山と耳成山が香久山に対して恋敵である‥、と

か」

「まあ~~叔父様ったら

、女性の気持ちが分かるのですか‥、先ほど奥様が

[木偶の坊]とおっしゃっっていましたが、飛んでも無い旦那様ですこと‥、うふふふ‥、」

 イスズは口に手を当て、又、イワレヒコを覗き込んだ。

 イワレヒコは、又、ひっくり返りそうに成ったが今度は、思いっきりイスズを見返し

「うん、うん、‥」

と何の意味か分からぬ返事をした。

 イワレヒコは、このイスズビメがどうしてこんなにヒミコ女王の生き写しの顔をしているのか‥、という疑念はあったが、今の自分はこの美しい女性といつまでも離れたく無い‥、という感情の方が先に立って

「イッセイ殿‥、しばらく吾がこのヤマトの国を案内するのでご一緒願えるかな‥、」

 イスズの兄を身近に置いておけば、いつでもイスズビメに会える機会も多かろ

 単純な身勝手でも、イワレヒコにとっては、始めての恋と言える事件に出くわしたのであった。

「はい~~有難きお計らい

‥宜しくお願い致します」

 イッセイは、自分の身の置き所が定まらない状況であったので、義理の祖母のオオヒルメの死が、飛んでも無いところで導かれて行こうとしているのがはっきり分かり、改めてオオヒルメの【霊位】(たましろ)に頭を下げたい気持ちで一杯だった。

「ええ~~兄様だけ‥!?」

 イスズビメは、何も分からずヤマトに来たけれど、

実の母(ヒミコ女王)と分かっていても、自分には遠く、母子おやこと名乗れ無い以上、只、自分は一人の女性として生きて行かねば為らない身なのだ。

叔父のイワレヒコは、自分をヒミコ女王の化身として

しか見ていない感がある。私を気に入ってくれても奥様が居られるし、私を貰ってくれそうも無いのだ。

でも‥私はイワレヒコの叔父様の嫁に成りたい‥、

その結果の叫びであった。

「ええ‥!?」

二部合唱のように、イワレヒコとイッセイは驚きの声を発した。

 暫く間があった。三人三様の思いが一瞬のうちに交差し、大和三山とは違う思惑がそこにはあった。

「イスズ‥それは無理だろう‥、」

 イッセイはちらっとイワレヒコを見ながら、可愛いい‥妹を置いて旅に出るなど、本来想像も付かなかったので、妹の寂しさが始めて胸にジ-ンと来てしまった。

「イスズビメ‥殿。ヤマトが連合国の主たる国と言っても、まだまだ、意に添わぬ国が多く有り、軍を率いて挨拶に行かねば為らない地域もあるのです。戦いに行く訳では無いのですが

、そこに女性が

居るとなると[妃]として紹介せねば成りません‥」

とそこまで言って、イワレヒコはじっとイスズビメを見た。

 イスズビメは、イワレヒコが助け船をくれたかと思い、じっとイワレヒコを見返し

「奥様が承知して下さるなら‥、私、叔父様の妃に成ります‥、!!」

 もう張り裂けんばかりの胸の内を、思いっきり吐き出した。

「ええ~~‥!」

「ええ~~‥!?」

またもや、イワレヒコとイッセイの驚きの声が、今度は輪唱と成って響いた。


 一年も経たぬうちに、イワレヒコとイスズビメが恋仲に成り、式を挙げたいと言い出した時には、さすがのヒミコも柄にもなく腰を抜かすほどびっくりして喜んだものだ。

 腹違いではあるが弟と実の娘との結婚である。

 当時としてはそう大して珍しいと言う程でもない関係相手での連れ合いであったが、当のヒミコにとっては、自分が押し付けるまでも無く、当人同士が愛し合ったと言うのがヒミコにとって想像出来ない喜びであったのだ。

 その五年後に、ヒミコは連合国「政」の王にイワレヒコを指名し、イスズビメが皇后と成った。

 オオヒヒ王には、ヤマトの春日から西の京一帯を管理するよう指示して、息子の〈ミマキイリヒコ〉をヒミコの〈側用人そばようにん〉として仕えさせた。

 そして、〈ニギハヤヒ〉には、巻向と三輪山の入り口である「磐余のいわれのさと」に警護を任せ、河内(大阪)側に配置しているニギハヤヒの身内の管理も任せた。

当のオオヒルメが逝去した以上、ニギハヤヒの身内もオシホミミ王の一族も暫くは静観せざるを得ないだろう‥と。


  

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