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オオヒルメは生存中、息子のイワレヒコのヤマトでの地位確保の準備をタマヨリに依頼していた

 イッセイが、オオヒルメの【霊位】(たましろ、位牌)を持って現れるりと室内に緊張が走り、タマヨリとアマツクネが正面を空け

、それぞれ横に座り直した。

 イッセイは、霊位をイワレヒコの前に置き、自分はアマツクメの横に座った。

 静寂が続き皆頭を下げ、それぞれの思いでオオヒルメとの追憶を巡らしながら、安らかに天国に向かい、神と成って此れからの自分達を見守って戴くよう祈った。

 しくしく泣き出す者も居たが、アヒラビメだけは、自分の運命を左右したオオヒルメ女王を恨んだ時期もあっただけに、その思いは格別であった。今のこの幸せを運んでくれたのもオオヒルメであったのだ。

「姉上‥、この【霊位】を持って帰って宜しいのですか‥?」

 イワレヒコは、ナムチの洞窟では遠くで対面していたが、今実際、自分の目の前に母が在るのを、感慨深げに直視し、此れからの自分の一生をどう操って行こうとして居るのか答えて欲しいという思いで一杯だった。

「イワレヒコ様‥どうぞ。貴男の為に持って来たのですから‥、此れからは、母上様に負けない立派な方に成って戴くのが私の夢ですし、オオヒルメ様も今、目の前でおっしゃっているのではないですか‥、」

 タマヨリももう泣きながらのオオヒルメとの別れであった。

「うぅ‥!?」

と室内は嗚咽が漏れ始め、タマヨリの寂しさに自分達も置き換えて行ったのだった。


「只今、帰りましたわ‥、お客様がおいでなの‥?」

 シ-ンと静まり返った部屋の外から、明るい弾んだ声の中に、しとやかな琴線が混じっているのが耳の奥で心地よく鳴り響く。

「まあ~~先ほどの旅の方達だったのね‥お客様はわ

‥、」

と嬉しそうに兄のイッセイの横に座り、皆に挨拶した

 アヒラは、いつ聞いても心地よい声に聞き惚れ

「主人のイワレヒコのお母様の霊位を受け取りに参りましたのよ。そうだったのですね‥、今井村では、忙しい最中に手を止めさせて仕舞いましたわ‥、」

「いえいえ、飛んでも御座いませんわ‥、朝早くから段取りして居りましたので

‥ちっともお構いすることは御座いませんわ」

とアヒラに笑みで答え、先ほどから、挨拶もせず、じっと自分を見つめているイワレヒコに

「叔父様のイワレヒコ様ですね‥、」

 少し屈んで、自分をずっと見つめ続けているイワレヒコの目の奥を覗き込んだ。

 ええ、っと何の行動も動作も起こせずじっとイスズビメを見つめている自分に気が付いたのか

「はい、叔父のイワレヒコです‥!」

と思い切ったように大きな声で答えた。

「うふふ‥、」

と、含み笑いの女性陣

「何と‥、」

とため息混じりの男性陣の声が漏れ

「もう貴男ったら‥そんなにあからさまに一目惚れを他人に晒したんじゃ‥、成るものも成らないのよ‥」

 アヒラビメも、そこまで気に入ったのか半信半疑であったが、イヤ、何かが違うなあ~~と感じた。

 タマヨリがぽ~~んと手を叩いた

膳の仕度を終え待機していた奴婢達が、部屋に入って来て素早く各自に料理を整え、最後に温かい吸い物を一つづつ置いていつた。

「皆様、その吸い物は、イスズビメが日向の西都原でいつも作っていた物なんですが、このヤマトにも〈三つ葉〉が咲いているのを見つけて取って来たものです。とても香りが良くて食が進むお吸い物ですわ」

とタマヨリが紹介した。

 イスズビメは、ニッコリ笑って片手を前に出してどうぞ‥と進めた。

「うん、なかなかの味じや‥、のうアヒラ」

と横にいる妻に相づちを促した。

「まあ~~何と香り豊かな吸い物ですこと‥、」

 イワレヒコがようやく正気に戻ったのか、普通の感覚で喋ったので、ほっと安心した。

 しかし、タマヨリとイッセイはイワレヒコの戸惑いに不安を感じていた。

 イワレヒコは、いつもヒミコ女王と会っている筈だ

、イスズビメを見た時、女王と生き写しで在ることに驚きの声も出なかったのだ。少年の頃からヒミコ女王と接しているので、若かりし頃のヒミコ女王を目の当たりにしてどう話して良いのか考えが纏まらなかったのだ。

 タマヨリは、今のアヒラとの会話で、イワレヒコはイスズビメにヒミコの幻想を断ち切って、一人の女性に接して見ようと思ったに違い無い。

 食事も進み、頃合いを見計らって

「イッセイ‥、イスズと叔父様と一緒に表に出て、田植えの出来ばえを見て頂いたら‥、ねえ~~アヒラ様」

 急にタマヨリが振って来たので、箸を下ろして

「そりゃあよう御座いますこと。民達の苦労が分からない王様何ぞには成って頂く分けには行けませんわ‥

おまけに、木偶でくの坊のまんまじゃ‥、私が

持ちこたえられませんことよ‥、」

と、ニタッと笑ってイワレヒコに表に出るよう目配せした。


 タマヨリは、イワレヒコが二十五才に成った時、アヒラビメを無理やりヤマトにいるイワレヒコに嫁がせた経緯いきさつをオオヒルメから聞いていた。

[私は女王ヒミコの伯母じゃ。息子のイワレヒコはヒミコの実の弟じゃ。イワレヒコは近々、連合国の重鎮に成ろう。いつまでも独り身では重みが無い。そこで、この日向から嫁を当てがって置かねば為るまい。いずれ王に成ればイワレヒコを援護出来る集団を確保して置くのじゃ。そしてタマヨリ‥、そなたに頼みたい事がある]

[はい、如何ような‥?]

[妾わらわが身罷れば

、そなたはイッセイとイスズを連れてヤマトへ行ってはくれまいか‥、]

[まぁ何と気弱なことを‥

!]

[いや‥、そう先の事ではない。妾は明日にでも気が失せるやもしれん‥、そなたの夫の〈フキアエズ〉には悪いがこの西都原に残し

、王の〈イワトワケ〉の援護をして、ククノチと共に相談し、この日向の地から逸材をよりすぐつて、ヤマトへ送り出す準備をして貰いたいのじゃ]

 アヒラビメを、有無とも言わず強引にヤマトへ送り込んだのは、そういう思惑があっての懸念の先取りだったのだ。

[でも義母上‥、私達親子が何故ヤマトへ‥?]

[その事じゃ。そなたに頼みたいことは‥、イスズビメを将来、イワレヒコの妃として嫁がせてくれまいかのう~~タマヨリ]

 オオヒルメは、せがむようにタマヨリに頼み込んだ。

[ええ‥!イスズビメをイワレヒコ様に‥!?いえ‥

私よりもヒミコ女王様が何と‥?]

[うん‥そうよのう‥、しかし、、妾が思うにヒミコもまんざらでも無さそうに思うのじゃ。今までのイワレヒコの扱いは、まるで実の弟のように厳しく教育していると聞いている。自分の跡継ぎとしてだがね‥、ヒミコはもうイワレヒコが実の弟だと分かっていての態度で在ろうが、イワレヒコはまだ実の姉とは知るよしも無かろう‥、]

[‥、?]

[いやいや‥妾の曾てな思いじゃが、ヒミコも娘のイスズとイワレヒコが一緒(

夫婦)に為って欲しいと願っているのでは無かろうか‥、とね]

[ええ~~そうなのですか

‥!でも、イワレヒコ様もイスズに会えば、すぐ疑われると思いますよ‥、]

[そうじゃろう‥、イスズはヒミコと生き写しじゃものなあ~~あはははぁ案ずるなタマヨリ‥ともかく、ヤマトへ行って、イッセイにも、イワレヒコの側に居てやって欲しいのじゃ‥、

頼むタマヨリ‥、]

と、手を合わせて頼んできた。

[義母上!何を成されます

‥、そのように仰々しく、私は義母上様の意のままにお仕えして来ましたのに、今に為って他人行儀のように振るまわれては悲しくなりますわ‥、]


 そんな当時の事を思いながら‥、さてこの先‥どう為るのやら‥とタマヨリは、もうヒミコ女王にも会ったし、イスズに親子対面もさせたし、イワレヒコはイスズを見て声も出ないくらい驚いているし‥と、何か思ったように捗っているので、後はイッセイに任せば良いわ‥と、一人でニコニコし、膳の後片付けに勤しんだ。


「おおぅ~~何と麗しく眺めじゃのうイッセイ殿‥」

「はい叔父上‥、我らはこの列島の南の果ての日向から参りましたので、このような広々としたヤマトの景色を見ていると心が晴れ晴れとして、別世界に居るよいな気分に為っております‥のうイスズ‥、」

 貫頭衣から着替えて、少し赤、黄、緑の刺繍を織り込んだ白装束で現れたイスズビメにイッセイは、同調を求めるように声を掛けた。

 「まあ~~お兄様ったら、まるで、西都原が洞窟だらけの山岳地帯と思われますわよ。イワレヒコの叔父様‥兄の言葉をそのまま鵜呑みにされると、飛んでも無い所に連れて行かれますわよ‥うふふふ‥、」

 イワレヒコは、イスズビメををまともに見ることは出来なかったが、姿を見ずとも、声だけ聞いていても、自分が変に為りそうなので出来るだけ自分のぺ-スで話を進め、何とかこの場を切り抜けて行こうと決心した。



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