ヒミコ女王はヒルコの息子ヒムココと自分の親友のオオゲツの出現で熱田以北の連合国参画を時期尚早と‥、
当然、連合国内では〈ナギ王〉が統括して新しい列島(日本)の国づくりを進めて行くとばかり思っていたので、連合国内では反発もあったそうです。それでなくても、〈巫女〉を統括女王にして、政と分別するので有れば筑紫(九州)の大国〈伊都国〉や〈奴国〉の王を抜擢するのが筋ではないかという申し出もあったそうですが〈ナギ王〉は頑として聞き入れなかったのでした。それは、筑紫や出雲(島根県)が朝鮮半島や中国大陸に近いせいで〈連合国の首都〉をそのような場所に置きたくなかったというのが大きな理由であったそうです。その頃の事を長男のオオヒコ様は良く覚えていて、列島でも片田舎の〈ヤマト〉の王の父に、
連合国の長に推挙するぐらいの信頼を寄せていたナギ王様の長男のヒルコ様が、
今、連合国に反発しているのを見られて、どんなにクニクル王が心を痛めているのか見ていて辛い‥、とおっしゃって居ました」
「それで‥それでオワケ臣様、オオヒコ様は何と‥、
」
「これ、叔母上‥いや、オオゲツ、話の腰を折ってはいかん‥!」
少し顔を赤らめて、ヒムココはオオゲツを制した。
オオゲツはヒムココが又
、叔母上と言いそうに為ったのでチラッと睨み、サクに恥ずかしそうに
「オワケ臣様、申し訳ございません‥、」
と小さく頭を下げた。
それを見て、サクと横に座っている若者が顔を見合わせてニコリと微笑んだ。
「奥様~~膳が整いましたわ‥!」
大きな声で、サキがオオゲツを呼び掛けた。
「サキ‥!そんな大きな声を出さなくてもよく聞こえるわ」
二人に頭を下げてそっと抜け出し、サキと一緒に酒と食事を運んで来た。
「いやぁ~~これはこれは
、大変豪華な馳走のご計らいで恐縮でございます」
若者も一緒にびっくりして頭を下げた。
「何をおっしゃいます。オワケ臣様、私達がヤマトに居た頃、大変お世話になった事を考えれば、これしきの料理で喜んで貰えるなんて大変幸せですわ‥、ねぇ
~~サキ」
「そうですわ奥様‥、サク様お久しぶりです」
「おお~~サキ殿‥!此処までご一緒にお仕えされておりましたか。お元気そうで何よりです」
ヒミコ女王の依頼でヤマトへ行ったが、何せ他者である。周りの民達は気を使って接触して呉れたが、〈四国の田畑の神様〉として崇められていたという触れ込みで、オオゲツはヤマト、カワチ(河内)の田畑の検分で急がしく、なかなか村の民達とは親しみを持って接する事が出来ず、サキと寂しい思いをしたものだ。そんな二人を見て、政の王として連合国を仕切っていたクニクル王は、サクに命じて、
二人を〈巻向〉から自分の館の有る〈磯城〉に向かい入れて家族のように扱って呉れたのだ。
「この娘も、わたしに似て亭主を貰って、もう二人の子達が居りますのよ‥
」
オオゲツは嬉しそうにサキを見て、サクにうんうんと頷いた。
「そうですか‥、嫁ぐのではなく亭主を貰いましたか
‥!」
「あはははぁ‥、」
とどっとその言い草に、隣の付人達も一緒に為って笑い出した。
ヒムココは苦笑いし、オオゲツとサキも恥ずかしそうに一緒に為って笑った。
食事は子供達も含め、和気あいあいと進み、酒の追加に急がしく立ち回っていたオオゲツとサキが落ち着いた頃を見計らって
「ところで‥、十数年前にヒルコ様が熱田から倭人でも連合国側に組する民達を追い出した時の件ですが
‥、」
サクがおもむろに来訪の赴きを告げねばと、相変わらずニコニコと話出した。
「さあ~~貴方達はもう食事が終えたんでしよう‥、
サキ‥!皆を自分達のお部屋へ連れて行って‥」
オオゲツは事の次第を察知して、膳の後片付けをしていたサキに急ぐよう目配せして命じた。
夫のヒムココが、不器用にサクの話に相づちを打つていた瞳が、キラッと光ったのをオオゲツは見逃さなかった。
「オワケ臣様‥またひどい昔のことを、此処まで来られて面白いお話を為される訳でもありますまいに‥
おほほほぅ‥、」
ようやく来訪の目的を話だそうとしたサクも、オオゲツが亭主のヒムココに気遣かって、出来るだけ穏便にヒムココと話し合って欲しいと願っているのに気づいて
「いやいや、私もそこまで暇人じゃ有りませんよオオゲツ様‥、のぅ~~ヒムココ殿」
サクはヒムココに顔を向け、ニッコリ笑って同調を誘った。
「オオゲツ、そんな冗談など言うもんじゃないよ。オワケ臣様でしたか‥大変なお覚悟でわざわざこの狗奴国に来られたのは私にも分かります‥、
どうぞお話を続けて下さい」
ヒムココは、今連合国側がこの狗奴国に対して、どう対応しようとしているのか早く知りたかった。
「いやぁ~~有難いお言葉に恐縮します」
とヤスは頭を下げ、オオゲツに横目で片目をつぶった
。
オオゲツは安心して、大袈裟に深々とヤスに頭を下げた。
「当時、ヒミコ女王は中華の情勢に大変関心を持っておられて、部下のナヲシヨウメと言う方にいろいろ詳しく情報を提供するよう指示されておられたそうです
」
「ええ~~ナンシヨウメはまだ朝鮮にいるのですか‥、!」
オオゲツは、ナンシヨウメと聞いて、考えも無く口を挟んでしまった。
「叔母‥オオゲツ、話を聞いてからにしなさい‥!」
ヒムココが、オオゲツを叱咤した。
「いやいや、ヒミコ女王とオオゲツ様は、ナンシヨウメと言う方とは幼なじみと聞いております。びっくりするのは当然です。彼は今、百済という国の王族の娘と結婚されお子もおられるそうですよ」
オオゲツは、びっくりしたような顔付きつで慌てて頭を下げた。
ヤスはさもありなんという顔付きで、オオゲツには頭を下げ、ヒムココに向き直った。
「中華の漢王朝は、随分と前から権威が失墜し、何時滅ぼされても致し方ない状況だったそうです。その中で曹操、劉備、孫権という武将が立ち上がって、三者の争いのなかで操曹が群を抜いて両者を圧倒して行ったのですが、劉備には諸葛孔明、孫権には周喩という軍師がおり、その二人の為に曹操は大敗戦して、一時鳴りを潜めたそうです。その時の作戦で諸葛孔明という軍師が、占星術と霊感で持って大風を吹かせたということが、ヒミコ女王の耳に入って、女王は大変ショックを受け、自分の治政の仕方に疑問を覚えてしまったのか、暫く食事もされない日々が続いたそうです」
「ええ!ヒミコがどうかしたの‥!?」
もう、黙っては居られなかった。オオゲツは、泣きそうな声で叫んだ。周りの者たちがびっくりしてオオゲツをみた。
サキは隣の部屋から走って来て
「奥さま‥、奥さま‥!」
彼女も、何が起こったかわからず泣きそうな声で飛んで来た。
「おお‥!我もまた、とんでも無い話し方をしてしまったもんじゃ‥あははは
~~」
相変わらずサクは陽気に笑い、ヒムココには申し訳なさそうに頭を下げ
「オオゲツ様、何もヒミコ女王の身に起こったのでは有りません。自分のこの列島(日本)での国づくりの仕方を変えたいと思っただけですよ‥!」
そうはっきり伝え、慰めながら、何とヒミコ女王を慕っておられたのだなあ~
と考え深げにそっとオオゲツの肩をたたいた。
オオゲツは又、ヤスとヒムココに申し訳なさそうに
、目礼して顔を伏せた。
ヒムココは苦笑いしてサクに頭を下げた。
サクも笑みを交わし
「結局、ヒミコ女王は孔明のように占星術の研究と霊感との関わりを調べる為、
祭壇の楼閣に閉じ込まれたのですが、それは民に対しての自分の為す事をはっきり役目を果たす為だったのです。日照りや大雨の為に、稲や畑の作物が不作になる年が続かないように天候の変化を出来るだけ早く
察知して、民達に知らせ無ければ為らないと言う事だったのです。そして、今まで自分の指示で政を仕切っていたクニクル王から、若い次男のオオヒヒ王に変えたのも、自分が指示しなくても率先して自分の考えで動ける王を据えたということです」
ちょっと間を置き、ヒムココとオオゲツの顔を見ながら
「そして、先ほど申し上げた熱田での出来事の時、ヒミコ女王は一時驚いて、早まった事を仕出かされてしまったと心配されていましたが、それでも静観されていたのは、ヒルコ伯父の考え方や意見を良く承知していた為だと言われています
」
「それはどう言う風にですか‥?」
初めてヒムココが興味ありげに問うた。
「ヒミコ女王に取ってヒルコ様は伯父ですが、そのヒルコ様の伯父で
〈アメノホヒ〉と言う方から、時折ヒルコ様の行動や生活状況などをヒミコ女王は聞いていたそうなのです
。ヒルコ様は、東や東北地方の国々の連合国への参加は時期尚早であるとアメノホヒ様に言っておられたそうで、どうしてもその事を
ヒミコ女王に伝えておいて欲しい‥、と」
「女王はその件について父のヒルコには何と答えたのですか‥?」
「当時のヒミコ女王は、女王に成ったとはいえ、歳も浅かったので、何とも答えては居ない筈です。連合国の旗揚げに忙しく、参加した国々との団結や規律の為の政策や作成などに時間がかかっており、目標は列島
(日本)全体を見越しての連合国の結成である為、反対意見は当然あっても黙認する訳には行かなかったでしょう」
「すると、熱田から先の東国や東北に対して積極的に参画するよう、倭人連合国が仕掛けていても黙認せざるを得なかった‥、と」
「当然、当時はそうだったと思います」
「当時は‥、と言うことは今、現在では女王の考え方は違うと言うことですか」
「そのようです。私は直接女王と話をした訳では有りませんが、クニクル王を通じて何らかの指示があったと思います」
「それは今日、此方に来られたオワケ臣様が、私達にその指示をお伝えに来た‥
、と言う事ですか」
「そうです。その前に連合国側が熱田を攻めて、貴方達を追い出したのは、ヒミコ女王の指示ではなく女王の叔母の〈オオヒルメ〉様のお子の〈ニギハヤヒ〉と言う方が独断で取った行動らしいのです」
「やはり‥そうなんだ。ヒミコは知らなかったんだわ」
オオゲツはしたり顔をして、ヒムココにうんうんと頷いた。
「すると、連合国の中で指示系統が二つに成ったと言う事ですか」
「いや、そこまでは為っていません。ニギハヤヒと言う方が何故行動したかは、私にははつきり分かりませんが、ヒミコ女王が警戒しているのは確かです」
「やはりそうだったんだわ。ヒミコ女王の指示ではなかったんだわ‥、」
「どうして、そう感じたのですかオオゲツ様‥?」
「私達が熱田を占拠して五、六年経つた頃、熱田を奪い返しに来た連合国側では、〈オオヒルメ様〉の意向のもとに、東の拠点である熱田は倭人連合国の民達で結集せねば為らない‥、
故に、我らに反発する者は武力で持つてしてでも追い出す所存である‥、と。速やかにこの熱田から去って欲しい‥、大将ホアカリという人が脅しを掛けて来たのでしたわ。私はヒミコ女王の元の名は〈ヒルメ〉だったので、その時は気が付かなかったのですが、後で考えて見ると、その大将は
〈ヒミコ女王〉の意向のもとにとは言わなかったので、不思議に思っていたのです
。ヒルコ兄さんは私と同じように、当初ヒミコ女王が
時期尚早と訴えていた自分を無視して、武力で持って
取り返しに来たので、大変落胆され武蔵の秩父へ帰られてしまったのですが‥、
やはり、オオヒルメ様をヒルメと思ったのでしょうね
‥、」
「そうですか‥、ホアカリ殿はそこまではつきり言われましたか‥、」
「と言いますと‥、」
「いや、当時ヒミコ女王は身内の伯父の騒動なので、ヒルコ様の行動に疑問を抱きながらも、その対処に静観するよう皆に指示されました。ところが後ほど、その思い切った行動は、ヒルコ様の息子のヒムココ様と
、自分の親友のオオゲツ様が主導されたと聞き、びっくりされていました。しかし、女王は半ば安心されておられたようです」
「ええ‥、ヒミコ女王が安心されていたと‥、それはオワケ臣様、どういう事ですか‥!」
ヒムココが驚いたようにヤスに食いかかった。
「貴男!‥、そんなに向きに成らず、もう少しお話を聞いたら‥」
オオゲツも、何ゆえにヒミコが半ば安心したのか聞きたいところだが‥、結果的には、熱田を占拠したのは相手が伯父のヒルコでは無いので、ヒミコ女王は攻めやすく為ったと判断したからだ‥、とヒムココと同様にオオゲツも感じた。しかしそれはそれ、ヤスの話をもう少し我慢して最後まで聞かねば‥、と。
ヒムココも一瞬そう受けとっての反抗的発言だったのだろう。黙ってヤスに申し訳なさそうに頭を下げた。
「いやいや、又々、言葉が足りぬ説明に為ってしまいましたな‥、あはははぁ~~」
「オワケ臣様‥、どうぞお話を続け下さいませ」
オオゲツもヤスに頭を下げて詫びた。
「私が思うに
、女王が半ば安心されたようだとクニクル王から聞かされた時、不思議に思いましたが、お二人が主導されたと言う事で有れば、ヒミコ女王は熱田以北を強引に連合国に参画させる事は、半ば諦められたと言う事ではなかったか‥、と」
「ええ~~オワケ臣様‥本当ににそういう事だったんですか‥!」
オオゲツがびっくりした声を上げた。




