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中華三国時代の行く末を見据えるヒミコ女王の狙いは‥、?

 ヒミコは急に話が飛んだので、驚いて幼なじみのナンシヨウメに子供ように尋ねた。

「いやぁ~~女王申し訳ありません。話が後先に為ってしまい驚かせてしまいました」

 ナンシヨウメも、ヒミコが昔の子供時代のように、

あどけない仕草でびっくりしたので、一瞬自分も幼なじみに話すように返そうかと思ったが、気を取り直した。

 昔はいつも、ヒルメの頭の良さと霊感の鋭さに、驚いてばかりいた自分の言葉を、今は逆にヒミコが発したので、自分の長い報告を楽しく慎重に聞いてくれていたのを嬉しく思い、臣下

(しんか、王の部下)として、倭国の女王が将来の中国との交渉に見誤らないように、報告をしっかりしておかねば‥、と心に誓った

「女王‥私が思うのは、形の上では曹操の思惑通りには行かなかったと思います。劉備と孫権の刑州ケイシユウでの長い戦いは

、結果的には領土を半分に別けての統治ということに収まり、劉備と曹操との戦いでは昨年、〈漢中〉を劉備が曹操から奪い取る‥という羽目に為ってしまいました」

「ええ~~劉備は、曹操と孫権の二人を相手にして優位に戦いをしている‥と」

「はい‥何せ劉備には天才と云われる軍師諸葛孔明が

おり、百人力と恐れられている関羽カンウ張飛チヨウヒ、〈走-貢〉チヨウウンという三人の猛将が控えております。孫権軍も曹操軍も兵の数はまさっていても、なかなか

劉備軍を追い落とすことは

出来なかったようです。それ程諸葛孔明の軍略が勝れていたということではないでしょうか‥、孔明は、あらゆる兵法を駆使し、敵の軍師の策を読み取って裏を返したり、気を敏にして猛将達を上手く操っているとしか思われません」

「‥、‥、」

 ヒミコは報告を聞きながら、じっと目をつむり深刻な表情で物思いに耽っているようだった。

 孔明の凄さは分かっている‥でも、曹操と孫権を敵に回して中華を統一するとは信じられ無いのだ。赤壁の戦いのように、孫権と組んで始めて事がなし得るかどうか‥、なのだ。

 ナンシヨウメは、まだ報告が終わっていないのに、女王が考え込んでいるので焦った。

「女王‥、!」

 ヒミコは、はたっと目を開けてナンシヨウメを見た

「昨年の暮れに、関羽が孫権軍に殺されて仕舞いました」

「ええ‥!!」

 流石にヒミコは驚きの目を発し、先ほどナンシヨウメが言った、三国の争いに成るだろうという意味が理解出来た、と思った。

「曹操側は、中原の〈漢中〉を奪われた事で危機感を増し、総攻撃で〈漢中〉に襲いかかりました。〈漢中〉を守っていた〈走-貢〉チヨウウンは、急ぎ孔明に援護を申し出たが、当時孔明は関羽、張飛と共に、刑州を確保する為の策を練っている最中でした。孔明は、刑州より〈漢中〉が大事と関羽を残し張飛と〈漢中〉へ向かったのですが、その後、孫権軍に猛攻撃をかけられ、関羽が戦死した‥ということなのです」

「ようやく、曹操の策が功を奏した訳ね‥、それで〈

漢中〉はどう成りました‥

?」

 ヒミコは、関羽の死を聞いて驚いたようだが、劉備が孤立していたと知って、何れは魏と呉に追い込まれてしまうだろうと想定していたので、関羽の死はやむ得ぬ結果だ‥と冷静に受け止めていた。

「何とか収まったのですが

、軍の兵士達に信頼の厚い

関羽の戦死は、劉備軍に取っては大打撃だったようです。軍の士気は一気に陥って仕舞いましたが、そこはそこ、孔明は軍の士気を挙げる為、劉備を〈属漢シヨッカン〉の王として祭り挙げ、〈漢王朝〉を廃して〈魏王朝〉に換えようとしている曹操に相対する為

、〈漢王朝〉の再生を掲げて、軍の兵士や民達に生気を与えました。そして〈長江(揚子江)〉西部(上流地域)の〈成都〉に王城を築き上げました」

「ほほぅ‥!遂に劉備も領土を確保して〈王〉に成りましたか」

「はい‥故に、私はこれからは魏、呉、ショクの〈三国時代〉となり、中華は益々戦乱に明け暮れるのではないか‥、と」

「成る程‥それでこの数年来、流浪の民がこの列島(日本)に流れ込んで来ているのですか‥?」

「そうだと思います。特に、田畑が常に戦場に為って耕地が確保出来ない民達や、技工で職を為していた者達だと聞いています。皆、ほとんど朝鮮半島経由で韓人と共に列島に入り込んで来るのですが、中華の海岸沿いの津(港)から直接東シナ海を乗り越えて来る者も多々いるそうです」

「それで、その流浪の民達が流れ着いた村々の民達は

温かく迎え入れているのですか‥、」

「韓人と共に入り込んでいる者達は、それぞれの村々

の民達に取り成して貰って居るようですが、直接入り込んで来た流浪の民のことは、はっきり実情は掴んでいないようです‥いえ、女王に会う前に〈奴国王〉の

〈ヒコミコ〉に聞いた話ですかが‥、」

「ええ、ヒコミコに会って来たの‥!」

 ヒミコは、急に懐かしい名が飛び出したので、顔が綻び、ナンシヨウメをキュッと睨み付けた。

「あはは‥はぁ、女王申し訳有りません。意地悪で名をだした訳では無いですが

‥、」

 と、左手を頭の後ろに当てペコリと頭を下げた。

「ヒコミコはお元気だった

‥?」

「はい、益々腕に自信をみなぎらせておりました」

「まあ~~何の自信かしら

‥又、彼のことだから女人を何人も侍らかせて居るのでしょうね。う~~ふふ」

 ヒミコは、言った自分の口に手を当てて恥ずかしそうにナンシヨウメを見つめた。

 ナンシヨウメはびくっとし、これはまずいと思い、凸差に両手を前の床に付け、頭を下げ、つつっと座りながら後退りした。

「女王‥、そうでは御座いません。その流浪の者達の中には〈呉〉の兵士や技工士が民達と混ざって居ると

、ヒコミコは〈八代(熊本県)〉からの報告を受けている‥と」

「ええ‥〈呉〉の兵士が混ざっていたと‥!」

 ヒミコは懐かしい思いから、急に現実に呼び戻された。

「孫権から逃れて来たとでも‥?」

「いや、そうでは無いと思います。孫権は曹操が亡くなった今、漢帝の大将軍を返上して〈呉国〉の再建を目指していると思われます

。息子の曹不一ソウヒが漢王の〈献帝〉から譲位を受け〈魏朝〉を樹立する筈ですから、〈漢〉が滅ぶれば、〈漢〉の大将軍という名目も意味を為さなく成ります。曹不一ソウヒの力では、孫権を抑え込むことは出来ないでしょう」

「すると‥その兵士達は、孫権が〈倭国〉を探索させる為に送ったと‥、!」

「はい、詳細は分かりませんが‥、中華は益々混乱が続き、統一国家の望みはまだまだ先の話ではないか

‥、と」

「‥、‥、」

 ヒミコは又、目をつむって考え込んでしまった。

 沈黙が続いたが、暫くしてヒミコはゆっくり目を開き

「ナンシヨウメ‥〈ウネ〉様はお元気ですか‥?」

 急に女王が話を変えて来たので、ナンシヨウメは又

、びくっとして

「はい、今〈イ加弥(カヤ、朝鮮半島最南端の国、連合国)〉で息子の〈トシクリ〉と村の者達に慕われて静かに過ごしています」

 咄嗟にナンシヨウメは答えたが、女王の意図していることが分からず、訝しげにヒミコを見た。

 しかし、ヒミコはナンシヨウメの戸惑いの視線を無視して

「そうですか‥でトシクリはもう幾つに為ったの」

「はい‥十二才で御座います‥、女王!中華の情勢に

、私ども家族に何か案ずる事が御座いましたか‥?」

「ええ‥、今、貴男から報告があつた、三国時代に入って行くのは分かりましたが、中華の歴史の礎は、黄河流域の〈洛陽〉や〈長安

〉という大都市を制した国々が延々と築いて来ました。孫権と劉備は〈長江(

揚子江)〉という大河とはいえ、急流に阻まれて交易に困難な地域に領土を確保しています。両国とも何れ

洛陽、長安を制しなければ

、天下を取ることは出来ないのです。〈漢朝〉から〈

魏朝〉へ移行するという事ですから、曹操が亡くなったとは言え、魏は万全の体制づくりをして来ている筈です‥、」

 ヒミコは、今まで曹操が近々劉備と孫権を曲がりなりにも制して、中華の統一を成し遂げるだろうと想定していた。しかし、曹操が

亡くなった今、魏は完全に劉備と孫権を叩き潰さねば、中華統一は果たせないだろうと考え始めていた。

 ヒミコの話が止まったので

「すると女王‥、この朝鮮では〈公孫氏〉の時代がまだまだ続くだろう‥という見通しですか‥?」

 ナンシヨウメは、自分の家族とどういう関わりが有るか聞きたかったが、今は女王の考えに衝いて行かねば‥と。この後、女王が何を提案してくるか分からないので、神経を尖らせた。

 その問いには答えず

「孫権は曹操が亡くなった今、近々〈漢帝〉いや〈魏帝〉の配下から離脱し、先ほど貴男が言ったように、

呉王として再び勢力を盛り返して来る筈ですです。

曹-不一ソウヒも無理して孫権を追い込むより、劉備との〈漢中〉での争いに必死ですから、刑州ケイシユウを確保している孫権が、劉備を牽制してくれる方が得策と考える筈です。それに劉備は、生涯の

友として戦友として共に歩んで来た〈関羽〉を孫権が殺したことによって、大軍師の諸葛孔明の反対を押し切ってでも弔い合戦に挑む筈です。その劉備の〈情〉

が〈ショク〉を分散させてしまうことに成るでしょう」

「すると女王‥、中華は益々戦火に明け暮れる‥と 」

「三国の争いは続くでしょうが‥、それが何も公孫氏の安泰に結びつく訳では有りません」

「‥、」

「魏朝は、中原の〈漢中〉

さえ孔明から奪い取れば、北方の領土奪回に動く筈です」

「公孫氏の追い出しに動く

‥という訳ですか‥、女王!その時期はいつ頃に成るとお考えですか‥?」

 ナンシヨウメは目を輝かして、先の見通しに的確に状況を判断し、準備を指示して来た女王に、ようやく公孫氏を朝鮮の地から追い出す事が出来るのか‥と一人でいつの間にか笑みに変わって返事を待った。

「もう~~本当ににナンシヨウメったら。昔から大人しくって、冷静な所があるかと思ったら、早とちりして違う所へ飛んでしまうところがあったりしてたわね

‥小さい頃とちっとも変わらないのね‥うふふふ‥、

 ヒミコは、中華の情勢をナンシヨウメの報告で、出来るだけ可能性の高い流れを判断して、仮の見通しを立てようとしたのだった。

それを、ナンシヨウメは直ぐにでも事態の変革が起こるはずだと判断して、自分の結論を待っているのをみると、急にヒミコは、可笑しく為って笑ってしまった

。」

「はあ~~女王‥!申し訳ありません‥、」

 急にヒミコが笑い出したので、何か失礼な事でも言ったのか、訳も分からず頭を下げて謝った。

「いいのよナンシヨウメ‥

ところで、〈トシクリ〉には漢語のお勉強をしっかりさせているの‥?」

「はい、二~三年前から、

中華へ行商に行っている者達に付いて行かさせておりますので、そこそこ身に付けていると思います」

「そう‥、将来は貴男以上の博学を身に付けて欲しいわね」

「はあ~~私もそう願っており」

 そう答え、ナンシヨウメは息子にも何か期待しているものがあるのだ‥、と始めて家族の事を問いただして来た意味が分かったように思った。

沙伴サホ王と古爾コニ王との関係はどんな感じなのかしら」

皇子の沙伴王が無事に仇首

(クス)王の跡を継げるのか‥という問いと判断したナンシヨウメは

「何せ、百済〈ペクチェ(

後のクダラ)〉の軍を仇首王の弟の古爾王が掌握しているので、何とも今の状況では判断しかねますが、順当に行けば〈トヨタマジ〉の義父の沙伴王が継いで行くのではないかと‥、」

 皇子沙伴王は、トヨタマジの夫の〈オンソ王子〉の父であり、古爾王はナンシヨウメの嫁の〈ウネ〉の祖父であったナンシヨウメもトヨタマジも百済の王家の一員として重要な位置にあった。

「そうですか‥、」

「‥、」

 ナンシヨウメは、ヒミコが何を考えているのか、真意が掴めなかった。

「ナンシヨウメ‥、将来〈

魏朝〉が公孫氏を攻めて来ても決して援護を送らせては行けません。その為にはナンシヨウメ‥貴男は古爾王を、トヨタマジ姫はには

沙伴王をしっかり日頃から目を離させないよう注意して下さい。公孫氏との懇意な付き合いは、百済を危険な状況に追い込むことに成る筈です」

「はあ‥?女王!それでは

、魏朝が公孫氏を攻めて来たら百済は逃げろ‥、と

おっしゃるのですか」

「そうではありません。負傷兵や女子、子供は面倒みても、決して百済軍が魏朝軍と戦っては駄目だということです」

「公孫氏が強力に百済軍を要請しても断れ‥、と言うことですね」

「そうです。百済の反発で

、公孫氏が百済を攻める余裕は有りません。魏軍は大軍で攻めに来るでしょうし

公孫氏軍は戦いにけて居ませんから、決着が早くつくことは明白です」

「分かりました女王。トヨタマジ様にも女王の指示を伝えておきます」

「トヨタマジ姫様にも宜しくお伝えしてね‥、遠くからでも、いつも身の安全をお祈りしていると‥、」

「承知しました。ありがとう存じます。トヨタマジ様もそれを聞いたら、心強く思われるでしょう。それと女王‥〈辰韓〉にはどう対処すれば‥、」

「ナンシヨウメ‥大丈夫よ

。イ加-カヤの〈アキツ王〉に私から依頼しておくわ‥、それよりナンシヨウメ‥今日はゆっくりして行ってね‥、」

 精一杯の労いの言葉をかけて、ヒミコはナンシヨウメにねだるように誘いの笑みを送った。


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