私は孫と一緒に眠れる場所が有れば良いのとツクヨミが言った時タマヨリは後ろにいるイスズビメにこの方が貴女のバアバアよと言えない苦しみが爆発した。そしてヤマトのヒミコの元へ
「姫さま‥皆さまの準備が整いましたわ‥、」
とトシが知らせに来た。
各部屋に旅の疲れを癒さすように挨拶に回ったあと、最後にツキヨミとタマヨリは、イスズビメ達の部屋に入った。
部屋に入った二人を見て
「ツキヨミ様、お初にお目にかかります。西都原のククノチの息子アマツクメと申します。暖かきお計らいありがとうございます」
と感謝の礼をした。
当時は、大臣の息子と言えども王族の家族(タマヨリ達は西都原王家である)と膳を共にすることはなかった。
ツキヨミとタマヨリは座って
「アマツクメ殿‥何も遠慮することは無くってよ‥」
とタマヨリもツキヨミに頭を下げた。
「アマツクメ様ですね‥、
タマヨリ様もそう言ってらっしやゃるし‥これからも無事の旅路をお祈りしておりますわ。ねえ~~タマヨリ様、二~三はごゆりとされて行かれては‥、」
「いえ、ツクヨミ様‥明日の日が開ける前には出発致したく思いますわ‥、ありがとうございます。急にお邪魔して置きながら嘗てな段取りで‥」
タマヨリは深く頭を下げた。
「まあ~~そうなの‥、もう少しゆっくりされて行かれるかと思ったのに残念ね‥皆様」
座をゆっくり見回して、右手を差しのべ
「さあさぁ、お食事ぐらいゆっくりしていって下さいね‥、」
「ありがとうございます‥
ツクヨミ様、勝手なお願いですが、食事の後〈ミナカミヌシ様〉の墓前にご案内して戴けます‥、昔、大変可愛いがって頂いたのに
、お墓参りも出来ずにお暇してしまうなんて‥、」
泣きそうに頼んだ。
「はいはいタマヨリぃ~~
馬鹿ね~~めそめそして‥
皆さまの前ですよ‥、お食事も不味くなるわよ‥」
ツクヨミは、タマヨリを慈しむように手を温かく握った。
「済みません‥、」
タマヨリは、ツクヨミにニコッと笑みを返した。
「さあ~~皆、お食事を戴きましょう」
と箸を手に取り皆を促した。
「は~~い‥、」
それぞれ、嬉しそうに返事をして箸を取った。
ツクヨミとタマヨリの母子のような会話に楽しい家族の家庭を改めて感じたようだった。
横穴式の小高い円墳の中に入って、正面の石棺にお参りした後
「あれ~~ツクヨミ様、ミナカミヌシ様の左と右に空間があって、後から二人同葬されるように出来ていますが‥どうしてでしか‥、
?」
タマヨリは不思議がつて
尋ねた。
「いえね、ヒルメが‥いえヒミコが昔、祖父の葬儀に来た時、自分を必ず曾祖父と一緒に葬って欲しいと頼まれたので、その為のスペースを確保したのよ」
ツクヨミは、当時のヒミコの必死の熱意を思い出したように苦笑いした。
「でもお二方‥に為っていますが‥、」
「そうね、ヒミコも大和の女王で生活しているのですから、遺体をこの宇佐に持って来ようとする人は、誰も居ないと思いますのよ。もしそれが可能で有れば、勿論正面にはヒミコで、両サイドは祖父のミナカミヌシと母のナキワサメに成るように段取りはしてあるの‥、」
「では‥ヒミコ女王の母上のツクヨミ様は‥、」
タマヨリは驚いて、ツクヨミの顔を見た。
「ええ~~いいのよ。私は孫と一緒に眠れる場所が有れば‥、」
と嬉しそうに言った。
「ええ‥、!」
タマヨリはびっくりして
、後ろに付いてきたイスズビメに振り返りそうに為ったが、思いっ切り踏み止まって
「うわぁ~~‥!!」
と大声で泣き出してしまった。
「母様‥、!」
「母上‥、!」
二人の兄妹は、遺体の前で取り乱している母に慌てて抱きつきに来ようとした
。
「いいのよ‥、」
と、ツキヨミが二人を押し留めた。
二人は、この宇佐に来る予定が無いのに、母がアマツクメに宇佐に立ち寄るように指示したのは、このミナカミヌシの霊前に来るのが目的であったことが、始めて分かったような気がした。若い頃、この地に来てどんなにお世話になったのか‥、二人は想像もつかなかったが、母にとっては大切な人だったんだと改めて思い知らされた気分だった
。
「ごめんね、タマヨリぃ~~ありがとう‥、」
ツキヨミは、タマヨリの肩を撫でながら、自分もタマヨリと同じような気持ちだと言わんばかりの様子で、何度も何度もタマヨリの肩をを撫で続けた。
実は、二人の兄妹が思っているような事では無かったのだ。
タマヨリは、どうしてもツキヨミに孫を会わせたかったのだ。本当に母親のヒミコと違い、祖母のツキヨミは、死ぬまで一度でもいいから、孫のイスズビメに会いたいと願っているに違い無いと思い、予定に無い宇佐にアマツクメに有無を言わせず立ち寄らせたのだ。
タマヨリは、自分の感が本当に当たっていたのでホッとしたが、ツクヨミが最後に[娘のヒミコでは無く、孫のイスズビメと一緒に眠れる場所が有れば‥、]と言った時には胸が張り裂けんばかりになり
[この方が貴女のバアバア‥、よ]と押さえ切れずに言ってしまいそうになって、正直に告白出来ない親子関係に、何と理不尽な‥
ともどかしい思いが爆発して、恩義の有る方の柩の前で、脇目が有るのも忘れ大声で泣き出してしまったのだった。
「ええ~~タマヨリ様が子供達を連れて‥、!」
ホホデミがヒミコの女官に、特別に取り次いで欲しいと頼んで来たのだ。
女王に会って直接話が出来るのは、当時ホホデミと従弟のイワレヒコしか居ないのは女官も承知の上である。
ホホデミは、女官に女王がお世話になった大切なお方だと女官を説得して面会を承諾させたのだ。
大きな館の中でも少しこじんまりした部屋に通された三人は、それでも二十畳以上も有りそうな大きさには驚いたが、正面には御簾
(みす)が垂れ下がりその向こうには三人の女性が座っていた。
真ん中に女王らしき人と少し後ろに下がった両サイドに、若い二人の女性が傅かえるように緊張した面もちで控えていた。
御簾の手前の右隅に座っていた女官が、中の様子と同じような座り方を指示した。
三人は横一列に並んで座っていたが、それに気付き
、タマヨリが二人に二歩下がって座るよう促した。
すると中の主から、女官に何やら手招きをするように指示を出した。
女官は少しびっくりしたようだが、裾に居る二人の女性に手を上げた。
タマヨリ達からは見えなかったが両脇から一人づつ出て来て、御簾を互いに顔が見える位まで上げて、途中で巻きつけた。
ちょっと一段上がった先にヒミコの顔が見えた。
三人はちょっとビクッとしたが、ヒミコが優しく微笑んで、こちらをじっと見つめて居るのを見て、慌てて頭を下げた。
それをじっと見つめていたヒミコは
「三人とも顔を上げて良く私に見せて戴けませんか‥、」
初めて聞く女王の第一声であったが、子供二人は何と厳かで、天からの声が呼び掛けてきたかのように聴こえた。そして、顔を見た時、眉目秀麗さの中に優しい美しさを醸し出しているのを見て、又三人は
「ははぁ~~‥、」
と頭を下げた。
「まぁ~~タマヨリ様ったら‥何を驚いて居るの‥、
昔のヒルメが年を取っただけよ。貴女の親友に間違い有りませんことよ‥、タマヨリ様‥もっと前に来て良く私に顔を見せて呉れませぬか‥、」
と、女官に目配せした。
女官はつつっと座りながらタマヨリの方に移動して
、ここまで前に来るよう、タマヨリに頭を下げて願うように指示した。
ヒミコ女王の態度に、女官はタマヨリ達親子に失礼のないよう配慮せねば成らぬことを痛切に感じたのだ
。
タマヨリは指示されるまま、つつっと前に出て
「女王様お久しゅうございます。益々の荘厳さにびっくりしてしまいました。一瞬見間違えたのかとこのタマヨリ慌ててしまいましたのですわ‥、」
「何をおっしゃっているの‥私はちっとも変わらなくてよ。そうねえ~~もう二十年以上も経つのね‥、でもタマヨリ様が来られたと聞いて分かって居るから、昔の面影を追って貴女を見ていたのよ‥、」
「いえ‥そんな‥お恥ずかしい‥、」
「それはそうと、タマヨリ様‥、今日はどうしたの、
子供達二人を連れて‥、西都原に何かあったの‥?」
「ええ~~女王様!まだお耳には入ってはいなかったのですか‥!?」
「ええ~~どういう事ですか‥、タマヨリ様!」
「ええ~~!オオヒルメ様がお亡くなりに為ったのですよ‥、まだ女王様にはお報せが無かったのですか‥、
!?」
「ええ~~!伯母が身罷ったと‥!?」
突然、ヒミコの顔がみるみるうちに真っ青に成り、両手で天を仰ぎ、正にオオヒルメを探し求めるように獣の遠吠えを上げた。
「うわ~~ぁ~~!?」
思いっ切り前に身体を伏せた途端、地響きが起こったような錯覚に捕らわれ
周りの者達は、その形相と叫びに地と天がひっくり返ったような衝動に身を伏せるように這いつくばった
「うぅっ‥‥うぅっ‥、」
という小さな咽び泣きに、
皆、何となく生き延びていたのだという実感に救われ
、恐る恐る頭を上げた。
ヒミコの二人の付人も、
女官もタマヨリも、イスズビメもイッセイも皆、互いに顔を見合せ、無事であることを確認し合った。
タマヨリにとっては、ヒミコの霊感の鋭さは何度か立ち会ったが、これ程までの霊魂の狂おしさを初めて見知ったので、それなりに改めてその凄さを感じとつていた。イッセイとイスズビメは、青天の霹靂というべきか女王の恐ろしさを目の当たりに見て、自分達とは違う別世界の生き物にしか見えなかった




