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イワレヒコにはナギ家と出雲国の過去の出来事をどうしても知っていて欲しいのです。「父上何故大物主に為られたのですか」ナムチはニコッと笑い「それはこの山の懐が暖かいからですよ」

 ナムチは、ククノチの慌てぶりにちょっと驚いていたが

「ククノチ殿‥ここは私の住む祠でもないし、そなたの言う下世話な話ではないですよ。イワレヒコには、

どうしても知っていて欲しいことなのです。彼には〈ナギ家〉や〈出雲国〉の過去の出来事を誰かが伝えなければいけなかったのですが‥、どうも身内の者は

、彼には腫れ物にさわるようにしか接触していなかったように見えるのです。実は私はイワレヒコがもっと早くこの三輪山に来るとばかり思って居りました‥勿論私を父親と知っての上ですよ‥、今ヒミコ女王と、

ある程度行動を共にしていると聞いて居ります。私が思うにヒルメ(ヒミコ女王)も打ち明ける機会が無かったようですね。以前、

ヒルメからは〈文〉が届き

、自分の弟であることは父の私から伝えねば為らない事を書いて寄越して来ました。今日がその日だと私は思っているのですよ」

 イワレヒコはナムチが自分の事を、片時も忘れず気遣っていたことを始めて知った。

「父上‥それでナギ家と出雲国との関係とはどういうことなのですか‥!」

「そうなんだ。イワレヒコ

‥、父ナギは若い頃祖父トコタチの元で、ずっと出雲のフゲキとして全国を行脚していた。トコタチの先祖は、半島の辰韓国の慶州で

ずっと流民として生活していたが曾祖父の頃から倭族の長として倭人を仕切るようになつた。しかし、辰韓は弁韓や馬韓と違い、常に対岸の列島(日本)には行き来することが出来なかったのだ。若い頃トコタチとしては

どうしても、未知の国だが

半島との繋がりを持ちたくて、父は倭人の族長であったが説得して、まだ元気な祖父に任せて、列島に行く決心をとりつけた。

 トコタチは当時十人ほどで出雲に向かったと聞いている。移住してまでとは考えていなかったに違いない。それが何と出雲に着くと、もう二百年ほど前から倭人が出雲の民として生活していたのだ。

出雲国の王家は、陸奥(むつ、青森市)の三内円山からの移住民で、もう三百年も前から出雲国を制覇していたのだ。トコタチは、その出雲国王の皇子タカムスヒ様と懇意に成り、出雲国が推進していた列島の同盟化を目指したフゲキ活動に参加して、何が作用したのか、トコタチは出雲国の名を列島の各地に名を発したのでした‥、」

「父上‥我の母の話はまだまだですか‥!」

 イワレヒコは、朗々と話す父に釘を刺した。

 ナムチはじっとイワレヒコを見、何と親のナギに似て人の話を最後まで聴かぬところはそっくりじゃと思い、苦虫から笑顔に変わり

「そうじゃそうじゃ‥昔話ばかりでは退屈じゃろう

‥いや、これからなんじゃ本題は‥、私の父ナギが祖父のトコタチの教えで全国にフゲキとして行脚した先で、西都原の〈オオトマジ

〉様、宇佐の〈ナキワサメ

〉様と言う王様達の娘と恋をしてしまい、お子まで授かる仲に成ってしまったのです。父はどちらもその地で留まり、自分の責務を果たす覚悟だったのですが、どちらの父達(王達)も出雲のフゲキの使命を大事に思っていたのか‥、父を解き放したのです。父はやむ無く出雲に戻り、正式に出雲国王のタカムスヒ様の娘

〈ナミ〉と結婚したのでした」

すかさずイワレヒコが

「父上‥すると、オオトマジ様の娘が私の母のオオヒルメで、ナキワサメ様の娘がヒミコ女王の母のツクヨミ様‥と‥!」

「そうじゃ‥イワレヒコ」

「ええ~~!?」

 座内がざわめいた。

「皆様‥まだ話が終わっていませんよ‥、」

 モモソビメが、しつかりした口調で座を静めた。

 ククノチは、ほら大変なことに成るは‥、と先行きを案じた。

「私の母ナミは、長兄にヒルコを産み、三つ下のスサ、五つ下の私ナムチ‥と三人の子を授かりました。私の名のナムチは、母の弟の〈オオナムチ(現出雲国王)〉様にあやかり名付けたと聞いております。オオナムチ様は、そこに居られる〈トヨウケジ〉様の兄上でも有らせます」

「ほぅ~~!」

と座は改めて新発見でもしたかのように感嘆の声を上げ、うやうやしくトヨウケジを見た。

「大物主様は、私の甥に当たりますのよ‥、」

と恥ずかしげにぼそっと小声で、紹介でもするように言ったが‥眼には自慢の色が滲み出ていた。

 ナムチは話をつづけた

「父ナギと母ナミは、次兄のスサが生まれた頃、長兄のヒルコが海に流され水没したのを機に、私が生まれた五年後に半島の慶州に渡りました。祖父のトコタチが病で慶州の倭族を統括出来なくなり、父のナギが跡を継いだのです」

「父上‥祖母ナミ様には、

三人の他‥ご兄弟が、まだおいでだったのですか‥、

?」

 イワレヒコは、昔、ヒミコ女王に付いて出雲国に行った時、会議の席で出雲国の重鎮の中でも、かなり身分の高そうな方が居られたので、先の出雲国王タカムスヒのお子さん達かと思っていたので確認してみた。当時の出雲国王は、ナムチの父のナギであつたが

、ナギが〈重大な問題を起こし〉連合国の女王としてヒミコが、ナギを出雲国王の地位を剥奪して追放してしまったのだ。その会議にはナギ王は居られなかったが、ヒミコ女王にとっては祖父を、二度と出雲には戻れぬ厳しい処分に処したのだ。

 イワレヒコは当時の事を思い浮かべ、改めてヒミコ女王の恐ろしさを感じ身震いした。

「いや、ご兄弟は何人か居られたはずじゃ。タカムスヒ出雲国王の皇后〈カミムスヒ〉様のお子としては、長女のナミ、長男のオオナムチ、次女のトヨウケジ様三人だけだったが、他に私の知っているところでは、アメノホヒ様、ヤツカ様、スクナビコ様じゃった‥、

イワレヒコ‥、どうした身体が震えておるみたいじゃが‥?」

「いえ何でも有りません。それで十年後に先ほどククノチ様がお話しされていたように、この列島にお帰りに為られた‥と言うことですね‥父上」

 今頃昔の事を思い出して身震いするなど‥情けない男じゃ‥、と自分の不甲斐なさを隠すように、父をじっと睨むように見つめた。

 ナムチは不思議そうに見返そうとしたが、ニコッと笑い‥元の顔に戻って話をつづけた。

「私は、宇佐のツクヨミと結婚しヒルメを授かり、そのまま落ち着けば良かったんだが、父からの教えで、出雲のフゲキとしての活動を諦めきることが出来なかったのです。父や母と同じように、子を親に預け、ツクヨミと一緒に旅に出れば良かったんだが‥ツクヨミの祖父の〈ミナカミヌシ〉様が〈秦朝(秦の始皇帝)

〉の末裔である為、出雲の教えをどこまでご理解されていたのか不安であったのだ。大事なツクヨミを連れ去って行くなど、ご理解出来る筈が無いと思い

、ツクヨミを説得して一人でのフゲキ活動に出たのです。まず筑紫に寄り、伊都国や奴国の発展ぶりに驚かされたりして、出雲に帰ったのですが、父母のナギとナミはフゲキ活動に出て、居られなかったのです。その時、ふと昔から話にだけ聴いていた〈伯耆大山

(ほうき、鳥取県)〉に行きたく為ったので、そちらに向かいました。私は幼い頃から霊感が強くて目眩を起こすことが良くあったのです。伯耆山の麓に着いて

、なんて美しい山なんだろうと眺めていたら、急にめまいがして倒れそうになり

、頭の奥の方から【自然に逆らっては駄目だ!】と小さくうごめくような

声が聞こえてくるでは有りませんか‥私は【イヤ~~何も!】と叫んでも声には成りませんでした。霊感が何かを暗示して危険を予知したのかも分かりません。

私は登山を諦めて吉備(き

び、岡山県)へ向かい、内海(瀬戸内海)沿いにフゲキ活動をつづけながら宇佐に戻りました」

「うっふん‥、」

と小さな声で誰かが咳払いをした。

 ナムチは、話に夢中に為って回りを見ていなかった。

 はっとして周りで互いにキョロキョロしているのを黙って見ていた。

 ナムチの【霊】が霧のように周りを包んでしまったのだ。

 トヨウケジは昔、ヒルメ(ヒミコ女王)がオオヒルメと話していた時と同じ状況に陥りそうに為ったので、一瞬両手で耳をふさぎ目をつぶつたのだ。暫くして手を解き放ち、目を開けたら案の定、周りの人達は宙を舞っているように正体を失っていた。

「ええ~~父上‥今、何の話をされていたのですか

‥、」

イワレヒコが瞬時に父の声が消えたので、確認を余儀なくされ、ナムチを不思議そうに見た。

 ナムチはうんうんと頷き

「いや‥三年後に宇佐に帰った話をしただけだが‥?

 ナムチは自分が霊感の話をしだすと、自分の霊が自分の意思とは関係無く、周りの人達にまとわりついて行くのを度々経験していたので、説明するのを避けた。

「それで、ツクヨミ様は何と‥?」

「ツクヨミは、フゲキの有り様には理解出来ないでいたが、祖父のミナカミヌシ様は、慶州でトコタチ様そして宇佐でナギに会っていたせいか、出雲の教えや倭人の今後の出方次第では、

この列島(日本)を変えて行く大きな力と為って行くのではないかと、大いに期待されている方だった。何とも博識の有る方で、娘のナキワサメ、孫のツクヨミ

まで、出雲と倭人に振り回されようとは思わなんだと、私の前で高笑いされて居られた」

「父上、ミナカミヌシ様は

、秦王朝の末裔とおっしゃっていましたが‥何故、出雲と倭人を信頼されて居られのですか‥、」

「いや‥先ほども言ったように、かなりの博識で有られたので、世の動き‥というか、外に対して活力有る動きをされている集団が有れば、必ず次の社会の礎に為って行くだろうと判断されていたようだった。当時の外来人(勿論、原住民とか列島に長年先住民と住み着いた人種では無い)は、辿り着いた場所で、如何に在来人と同化していって、自分達の居住いを確保するのに精一杯であった筈だったのだ。ミナカミヌシ様から見れば、出雲人や倭人が何と夢ある種族として映ったに違いないと私は理解しだしていた」

「父上は、其れを利用して又、旅に出たのですか‥?

 きついイワレヒコの発言に、皆が静かにざわめきだした。

「いや、そうでは無いのだよ‥、イワレヒコ。祖父のミナカミヌシ様は、出雲を利用して倭人がこの列島(日本)を支配して行かねばならぬ‥、と」

「ええ~~!?」

洞内は驚きの大合唱で、耳がつんざくように響いた。

「皆様~~!まだお話しが終わって居りませぬ!」

 モモソビメが、出来るだけの声を上げて静粛に‥、

と示唆した。

 声が静まった頃

「私はまだその当時は、ミナカミヌシ様の考えなど及びもつかなかったのですが

、たまたま昔、周防灘に入り込んだ時に、宇佐まで誘導してくれた〈スクナビコ

〉様と出会い、四国経由で

ヤマト(奈良)に向かいたいとおっしゃっていたので

同行することにしたのです。勿論、ミナカミヌシ様からは許可を得ていたのですが、嫁のツクヨミは同行を断ったのです。娘のヒルメ(ヒミコ女王)を六才に為ったら、出雲国の筑紫(

九州)の拠点である【宇美の里(北九州市)】の学校に連れて行かねばなりませぬ‥と。私はその時、何を言っているのか良く分からなかったのですが、ミナカミヌシ様は、出雲の教えと倭人の列島での活躍の将来を、ひ孫の〈ヒルメ〉に見届けて欲しい‥、と。そのような事をツクヨミに話していたらしいのです。私は

ツクヨミだけは連れて行きたいと思っていたのですが

、スクナビコ殿は、心配しなくともツクヨミ様は、貴男のこと一生信じられている女性です‥と言われ、後ろ髪を引かれながらも、いにしえから大国と知られている筑紫(九州)の南の果てに近い〈西都原〉へ向かいました」

「そこで、母のオオヒルメ

とお会いに為った‥、そういうことですね‥、父上!

 少し口調がきついがヒミコ女王の父である。何かイワレヒコから見れば、世俗を逃避しているだけではない事情を知りたかった。

「父上‥何故、大物主に為られたのですか‥、?」

 ナムチはニコッと笑い

「それは、この山の懐が暖かいからですよ‥、」

 周りの者は、その一言で納得がいったように深く頭を下げた。

 ナムチはじっとその様を見、間を置いて

「ニギハヤヒ殿、ヒミコ女王は規律に厳しい人です。

本意では無いと思いますが

、女王とオオヒヒ王にお会いして、今後の処遇をお聞きになったらどうですか

‥、」

 世俗のことは疎いと思っていたが、オオヒルメの〈

霊代(たましろ、位牌)〉

を横に置いて代弁したように見えた。

「ははぁ~~有りがたき幸せに存じます‥、!」

 三人は深く礼をした。

「イワレヒコ‥、この山から見ると、左に見えるのは

香久山かぐやま、正面に耳成山みみなしやま

、その少し左後ろに畝傍山

(うねびやま)が寂しそうに孤立した小さな山に見えるのじゃが‥どうだろう

‥、イワレヒコ、畝傍山の麓に館を建てて香久山と

耳成山を見守ってくれぬか

「ははぁ‥、?」

 イワレヒコは、父のナムチが今まで世俗の人として接していたのに、急に【山

の神】として言葉を掛けてきたので、びくっとしたが

「はい‥ヒミコ女王にお頼みして、そのように出来れば、仰せのとおり見守って行こうと思います」

 その時、バタッと立て掛けてあった、オオヒルメの霊代が倒れた。

 ナムチはそれを見て

「終わりましたよ、オオヒルメ‥、」

と、そっと霊代を元に立て直した。

  



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