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イワレヒコはこの三輪山の祠で、自分の環境の変化に驚愕した。母の死、ナムチは実の父ヒミコ女王は実の姉だそして目の前にニギハヤヒというもう一人の兄が居るのだ

第二章

  第三節

   大三輪山にて


春日の宮(奈良市)から〈

山辺の道〉を半時(一時間)ほど歩いて、ようやく石上(いそのかみ、天理市

)に通りかり、イワレヒコは家人に、「あと半時ほどで三輪山(桜井市)に着くゆえ、〈巻向(まきむく、女王の館の在る所)〉には

寄らずに参るぞ」

「しかし、女王に謁見されずともよろしゅうございますか‥、」

「よいよい、女王の指図での旅路じゃ」

大きな溜池の周りで田や畑を耕す民達に頭を下げて、

オオヒヒ王とホホデミとの会話を忘れようとしたが、なかなか頭から離れなかった。

 付人の二人は、向こうで手を振っている民達に手を送り返したり、両手を合わせて頭を下げたりで、今日はいつものようにお話出来ない事を知らせていた。

 イワレヒコは、三輪山に登る入り口まで来て、このまま真っ直ぐ磐余池いわれいけまで行って初瀬はっせの村へ行こうかと迷ったが、とにかく叔父のナムチに会うのが先決だと思い、左の山道へ入って行った。

 初瀬には出雲の村が有り叔父のナムチを庇護する民達が多数出雲から移住して、三輪山の守り人と成っているらしい。おまけに祖父(母オオヒルメの父)のナギは、先代の出雲国王である。立ち寄る価値はあるが、見知った人がいるかいないか分からないのに、只の挨拶程度で立ち寄るのは

返って失礼かと思い、生い茂った草や木の枝を払いのけながら、人一人通れる急な坂を急いだ。

 まだ日が落ちるまで充分時はあるが、もし、話が込み入ったら帰るに帰れ無くなると余計な心配をしだして、勝手に足が急いだ。

 付人は二人とも二十代なので、イワレヒコの気持ちの焦りをカバーするに遜色は無い。一人が前に出て、イワレヒコの手間を請け負った。

 二人とも荷物をを背に負っているが、杖一つのイワレヒコより身軽に身をこなして行く。

「どうじゃ‥先にまだ何も見えぬか‥?」

 先に行く付人に、そろそろ疲れだした自分を隠すように見通しを尋ねた。

「登り出してもう四半時(しはんとき、三十分)近くに成ります故、そろそろお住まいが見えるかと思います‥、」

「そうか、そうか‥もう少しじゃのう~~でもまあ~~

良くこんな所で叔父上ナムチは何を修行されておられるのかのう~~?」

 叔父のナムチが隠遁生活に入ったのは、従来姉いとこのヒミコ様が女王に成る前からと聞いている。

何故、娘のヒミコ女王も、

祖父のナギ王も何の反対もせず見守っていたのか‥?

周りの人達(母のオオヒルメも含めて)は、次期出雲国王と召されていたナムチ様を説得することが、何故出来なかったのか‥?イワレヒコにとつては未だに分からず、納得出来ない叔父ナムチの存在であった

 何ゆえ、こんな時期(母オオヒルメは、連合国に対する挑戦というか勝手な行動を示唆したと言う疑いを持たれている)に我がのこのこと三輪山まで来て、叔父上の有難いお言葉を聞きに来なければ為らないのか

‥、!」

 イワレヒコは、叫びたく

成るような〈気の発作〉に襲われ全身が震えそうに為った。

「イワレヒコ様!あそこにほこららしきものが

見えます」

 付人達も、イワレヒコの

殺気だった気配に猶予ならぬものを覚え、神が我らに光を差し伸べたような兆しに、救われたように右手を差し伸べた。

「おお~~あったか‥!」

 イワレヒコは、今まで感じていた疑心暗鬼などとっくに忘れたかのように、満面笑みを浮かべ、前にいる付人を追い越してほこらに向かった。

 祠の近くまで来た時、中から嗚咽を漏らす女性の声が聞こえて来たので、三人ははっと立ち止まった。

 外の足音に気がついたのか二人の精悍な男が飛び出して来て身構えたが、イワレヒコの身なりを見て

「どなた様でいらっしゃい

ますか‥、?」

と丁重に尋ねた。

「奴国王の王子、イワレヒコ様じゃ‥、」

 付人の一人が威厳をただして大声で二人の男を威圧した。

「ええ~~イワレヒコ様が

‥、!?」

 祠の中から驚きの声が、

アルトとテノ-ルの〈デユエット〉のフア-モニ-のように低く響き渡って来た。

 一人の護衛らしき男が知らせに入ろうとした時、中から一人の老人が慌ただしく出て来てイワレヒコを見るなり

「オオウ~~イワレヒコ様‥

!こんなに立派にお成りに成って‥、!?」

と言うなり、思いっ切りしゃがみ込んで

「女王様が‥!母上様が

‥!?」

と、おんおん泣きながら訴えた。

 確か、十二~三才の頃母のオオヒルメが辰韓を攻める為、奴国の船団を自ら率いると言うので、日向の西都原(宮崎県)へ迎えに行った時、奴国まで一緒に来た人ではないか。母は奴国に何日も滞在していたが、

この方は保護者のように母を見守っていたので、母の

従弟ではないかと当時は思っていたので良く覚えていた。

 そうか‥、もうあれから二十年ほど経っているのだ。益々老いているが何となく面影はあるな‥とじっとその様を見つめていたが

‥、ええ~~今、何と言った!?

 一瞬、イワレヒコは意味もなく聞いていた自分に気付き

「今、何とおっしゃった

!?」

 イワレヒコの問いに、老人はおんおん泣くばかりで答える気力を逸してしまったようだ。

「この方は、日向の西都原王国の大臣を為さっている

〈ククノチ〉様とおっしゃいます」

「ククノチの叔父が何故こんな所に居るのじゃ‥、!」

 イワレヒコは、先程のククノチの訴えは尋常ではなかった。母が危篤に陥ったような言い方だった。

 いや‥、待てよ。そんなことをククノチの叔父が何故叔父のナムチ様に‥、ヒミコ女王に先に知らせるべきではないのか‥?

 イワレヒコは頭が錯綜しながらも、最悪の事態を覚悟していた。

「オオヒルメ様が身罷りました」

 一人の男が静かに言った。

イワレヒコは、紙垂しでのついた縄を引き裂くように、祠に脱兎のごとく飛び込んだ。

 間口は狭かったが祠の中は二十畳ほどの広さで、正面に座る上座の脇したに左右蝋ロウの灯りが室内をぼんやり映し出していた。

 右端に老婆が、左脇に正装した男が座り、正面に泰然として物に動ぜぬような人物の左後ろに、暗がかりの中でも微笑みがうっすらと浮かぶ女性が居ることが

、イワレヒコには咄嗟に目に映った。

「叔父上‥、!母のオオヒルメが身罷ったと聞きましたが誠ですか‥!?」

 イワレヒコは正面に座る男がナムチと判断し食い入るように見つめながら真偽を問うた。

「‥、!」

 座の者達が、イワレヒコの第一声に驚いてため息をついた。

 イワレヒコは、その反応の意味が分からず

「皆さま‥如何なのですか

‥?母のオオヒルメが身罷ったのは本当なんですか‥、!」

「イワレヒコ様‥、貴男の

目の前に居られる方は、貴男の叔父では無く‥お父上様なのですよ‥、」

 右に座る老婆が、たまらず悲しそうに訴えた。

「‥、!?」

 一瞬、イワレヒコは彼女が何を言っているのか意味が分からないまま、頭が混乱して白く為って行くのも構わず

「小母様‥何を言っているのですか‥?ナムチの叔父上が私の父上ですって

‥、!?」

 食い付くように老婆に問い

「叔父上‥、この女性かたは何を言っているのですか‥!」

とナムチに向かって冷静に聴こうと姿勢を正した。

「‥、」

ナムチは、ニッコリ笑って頷くだけであった。

「イワレヒコ様。このナムチ様とオオヒルメ様のお子として貴男が【生】を受けたのには間違いございませんことよ」

 ナムチの少し後ろの左脇に座っていた美しい女性が

、微笑みなが静かに言った。

 イワレヒコは、じっとナムチの顔を見ていたが、その発言にびくっとして顔をそちらに向けた。

「貴男様のお隣に座って居られる方も、オオヒルメ様のお子のお一人ですわ」

飛んでもない重大な事をすらりと言ってのけた。

 今度は慌てて首を横に向けた。

「ニギハヤヒ‥と申す」

 男は、何事も無かったように自分の名前を言い、左手を差し出して、ナムチの右横に霊代(たましろ、位牌)が立て掛けてあるのを見るように促した。

 イワレヒコは、この一連の話が今、自分の身に起こっているのかと思うと、頭が真っ白に成って、急流に突き落とされて必死にもがいている自分に気付き、そっと目を閉じた。

 周りの人達もイワレヒコの心情をおもんばかり、じっとイワレヒコを見守った。

 母の死。叔父のナムチは自分の実の父親であること。隣に座る男が連合国を

騒がしている張本人のニギハヤヒであること。そして彼は自分の兄者なのだ。それと大変なことは、ナムチが実の父親となると、ヒミコ女王は自分の姉上になる‥、という事実だ。女王はその事を知っていたのではないか‥、オオヒヒ王やホホデミ様もそれに感ずいての言動であったのだ。ふぅむ~~とイワレヒコは目をつむって腕を組んだ。





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