イワレヒコ(神武)に兄〈ニギハヤヒ〉がいた。母オオヒルメの隠し子である
第二章
第二節
イワレヒコ(神武)に兄が居た。母の隠し子だった
「ええ~~!何と…!?」
「はい、ヒルコ叔父が制していた熱田(名古屋市)を
、アメノホアカリという武将が追い出したそうです」
「ホアカリ‥、?」
「はあ…聞くところに依りますと、昔、伊都国王であつたオシホミミ王の甥の
ニギハヤヒ様の重鎮だそうです」
ホホデミの代わりに、弟のイワレヒコが報告に来ていた。
ヒミコは「ニギハヤヒ」という名に始めて出会った。
「して‥、そのニギハヤヒという方は、何方の意志で
熱田を制するという行動に出られたのかしら‥、?」
「はい、まだ詳しい情報は得られませぬが、ホアカリという方の近親者から、ニギハヤヒ様が、私の母のオオヒルメから依頼された‥
と洩らしていたそうです」
「ええ~~!そなたの母上からの依頼ですと!!」
ヒミコは驚きのあまり、
思わず声を荒げてイワレヒコに問い返した。
「はい!私にはどういうことなのか、良く理解出来ませぬが‥、?」
イワレヒコは、ヒミコ女王が自分の母オオヒルメの姪であることは理解していたが、自分の兄の〈ニニギ
〉の他に、まだ兄がいることなど聞いたことなど無いのだ。
そんなことより、母のオオヒルメが、女王の知らぬところで勝手に指示して、
事を起こしているとなると
、「倭国連合」に迷惑がかかってしまうことは目に見えている。母が何故そんなだいそれた事を‥、
「申し訳ありませぬ!母が勝手な行動を起こしてしまい…、」
と思いっ切り床に頭をつけながら謝罪した。
ヒミコは、それを見てにっこり笑い
「ばかねえ~~貴男が謝ることではないのよ。伯母様には伯母様なりの考えがあっての策かも知れないわ。
伯父上のことは
、私もずっとどのようにして話し合おか迷っていたところなのよ‥、だからイワレヒコが、責任を感じることでは無いわ。黙って様子を伺っていなさい‥、」
「はあ‥、?」
頭を下げ、イワレヒコは怪訝な目でヒミコを見た。
日頃は物静かな表情だが、
民達への思いやりの欠如や
、連合国の結束に理不尽な
行動を起こした者への処罰は厳しく、言葉では言い表せない表情に変わってしまうのだ。神のお告げを伝える巫女の顔なのである。
しかし、今はそうではない
。にこっと笑ってまるで弟に優しく話しかけているようなのだ。確かに従姉ではあるが‥、
ヒミコは、じっと怪訝な顔つきのイワレヒコを見て
[そろそろ姉弟であることを、知らせる時期かもね‥、]
と、又優しく笑った。
「イワレヒコ‥、貴男、私の父の〈ナムチ〉が【大物主】となって、三輪山に鎮座しているのは知っているわね」
「はい‥、それは存じております」
イワレヒコは、又戸惑った。何故、今頃叔父上(母オオヒルメの弟)の話など‥、?
「近々にでも三輪山に行って、ご機嫌伺いでもして入らしたら。今は連合国王の
〈オオヒヒ様〉の姪の〈モモソビメ様〉も側にいらして、オオヒヒ様の若き頃の
武勇伝も聞けるわよ」
「ええ~~私がですか‥、何故‥今頃‥?」
「そうねえ~~貴男もそろそろ、このヤマト(大和)
の古からの伝えや、いろいろな部族同士の関り合いかたをお勉強する時期じやないかしら‥、」
「はい、それはもう~~」
「母上様のことは私に任せなさい。何も案ずることは
なくってよ」
「はい、分かりました。女王様からそのようにおっしゃって頂くと、心強い限りです」
ようやく平常心に戻り、イワレヒコは座を立った。
イワレヒコが去ったあと
、後ろに控えていた巫女に〈ホホデミ〉を呼ぶように
伝えた。
「何と!?女王が静観するようにとおっしゃったのか
‥?」
オオヒヒ王は、イワレヒコの報告に信じられない顔で不満をぶちまけた。しかし、語尾は下げて、イワレヒコを恨めしそうに見た。
「申し訳ありません。我の母が勝手な行動を指示したとは、想像がつきかねます
‥、詮索しようと申し上げたのですが、女王は我に静観するようにおっしゃっただけです。ただ、この時期に三輪山におられるナムチ叔父に会いに行くよう指示
されたのも、我には納得いかないご指示なのです」
「して、そなたはヒルコから熱田を奪い返したという〈ホアカリ〉という者を存じているのか‥、?それで
‥どういう関係でオオヒルメ様のご指示と言っているのだ。又、熱田での兵士達をホアカリは何処から連れて来たのじゃ‥、けしからん!けしからん‥!?」
語尾が強くなり、オオヒヒは居たたまれなく為って
、イワレヒコを睨み席を立とうとした。
「オオヒヒ王‥!お待ち下さい‥、」
血相を変えて、ホホデミが部屋に入って来た。
警備の二人も、後ろに付いて思いっ切り床に頭を下げた。
王の接客中に、断りもなしに他者を引きとどめる事が出来なかった‥という怠慢とホホデミの有無も言わせぬ剣幕に同調してしまったというやるせない気持ちの二人だった。
「どうしたのです‥!ホホデミ様‥!?」
オオヒヒも、これだけ激しく動揺しているホホデミを見るのは始めてだ。イワレヒコも後ろを振り向いて
ホホデミの慌てぶりにびっくりして、ホホデミの為に
席を空けた。
座るなりホホデミは
「イワレヒコ様もよくお聞き下さい‥、」
と横に向いて呼び掛け
「オオヒヒ王‥!熱田に仕掛けたのは、オオヒルメ様の息子の〈ニギハヤヒ〉という者だそうです‥!!」
「ええ~~!?」
オオヒヒとイワレヒコは、同時に顔をみあわせ驚きの叫びを上げた。
横に座るイワレヒコにも
気を遣ってホホデミはぐったりと為って息を整えた。
「それは誠ですかホホデミ様‥、!私は兄のニニギ(伊都国王)や父(奴国のアシナカツ王)からも、そのような兄弟がいたなど聞いたことございません。何かの間違いではないのですか‥、!」
イワレヒコは、寝耳に水と言わんばかりに、横に座ったホホデミをに覗き込むように訴えた。オオヒヒには無実の罪を問われた罪人のように懇願した。
母のオオヒルメとは、十二、三才の頃会っただけでこの年に為るまで音信不通
のままだ。勿論兄のニニギも同様で兄など西都原に行った事もなく、生き別れのような関係になってしまっていた。
オオヒヒは、オオヒルメのことは噂で良く知っていた。
彼女が若い頃、当時日向
(宮崎県)の西都原を武力で牛耳っていた馬韓(朝鮮の三国の一つ)兵をほとんど皆殺しにして追い出した事や、辰韓(朝鮮の三国の一つ)との海戦で、辰韓兵を威嚇して震わせ、辰韓船団が恐ろしさの余り散り散りに敗走し、倭人船団の勝利を導いた武勇伝が、列島各地で、倭人の勇者として持て囃されていたのを、オオヒヒも良く記憶している
。
‥、そのオオヒルメの息子とい言う者が、連合国の規律を無視して行動に出たのだ‥、
「イワレヒコ殿‥、そなたも伊都国王のニニギ様もご存知無いということは、その者は奴国王のアシナカツ王とオオヒルメ様との間に出来たお子で無いと言うことになるが‥、何か父上様からそれらしき話を聞いておらなかったのかね‥?」
「はい‥、申し訳ございません。父のアシナカツからは何も‥、」
オオヒヒが、少し怒りを静めた話し方をしてきたので、イワレヒコは少し安堵したものの、そのニギハヤヒという者が誠‥、自分の兄弟であつたとしたら、己にも連坐の責任は免れぬはずであるから、無実が晴れたという訳にはいかないのである。
「イワレヒコ様‥今、オオヒヒ王が率直にお尋ねになったので、母上のオオヒルメ様について、私が知る限りの事をお話させて頂きますので、ご了承して頂きたいのです‥、」
「ええ‥、!母上には、父や兄上、我の知らぬ隠し事が有る‥、ということですか!」
「はい。本人を目の前において言いづらいのですが、何れ明白な事実として証されていくと思いますので、
この際‥、イワレヒコ様も
知っておいた方が良い‥、
と思います」
「いえ‥、ホホデミ様、私にはお構い無くお話し下さい。今後の連合国のあり方や、ヒミコ女王の判断を待たなくては為らないでしょうから‥、」
イワレヒコはオオヒヒ王に向かって一礼した。
「ええ~~女王も未だニギハヤヒがオオヒルメ様の息子だと、知らぬ事なのか
‥、!」
「はい、オオヒヒ王‥、先ほど女王から私に呼び出し
が参りました。詳しくご報告し判断を仰がなくては為らないと思いますので、オオヒヒ王からも私に、今回の件についての処置をお申し付け下さい」
「そうよのう‥、女王の身内となれば、我も直接判断
しかねる故、女王のご指示を待とうと思うのじゃ‥、
して、そのニギハヤヒというのは誰とのお子と言うのだ‥、?」
オオヒヒ王は、ヒミコ女王がオオヒルメ様の息子と
知らず、イワレヒコに〈静観〉するよう指示した。何故だ‥、何故、身内かどうか分からず、オオヒルメ様の指示で熱田を奪回したと
言っている者達を信じているのか‥、?いやそうではあるまい。ヒミコ女王のことだ。何か策を考えているはずだ。
「はい‥、ニニギ王の前の伊都国王オシホミミ様の弟の〈ミカハヤヒ王〉とのお子だと言うことです」
オオヒヒ王の思いを吹き消すように、ホホデミは
即答した。




