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ヒミコ女王は不吉な「日蝕」の異変に気づき「天の安河原」の「三神」を高千穂の岩戸へ派遣した

 その頃、イスズビメ達は

ようやく天神山の麓近くまでたどり着いた。男達は、

僅かばかりの平地があって

、女性達が休めるよう、簡単な要垣内(ようがち。垣の囲い)を作って安全を図った。

「明日の夕暮れまでは、オオヒルメ様にお会い出来そうね‥アメツクメ‥、」

「はい。私もこの道程は初めてですが、高千穂岳があれだけ近くに見えるので

、大丈夫と思います」

「そう~~良かったわ‥、明日にもお日様が隠れる恐れがあるので、それまでに

着けたいのだけれど‥明日中に着ければ安心だわ」

ねぇ~~小母様‥、そんなにお日様が隠れるって、不吉なことなの‥?」

「いいえ‥、私もはっきりしたことは分からないことよ。でも昔からあり得ない

事が起こるので、皆怖がっているのは確かだわ。寸刻でも昼が夜になるなんて、お日様が私達人間に対して、何か忠告しているような気がするのね。この前に

私が出合ったのは、下の娘のオオゲツを〈宇美の里〉という所に預けに行った時

だったわ。お日様が全部隠れた訳ではなかったんだけど、それでも昼が夜のようになった時はびっくりしたわ。預けた娘の身に何か起こるんじゃないか‥、と。

もうこんな日に何故‥て

。悔しくて‥悲しくて自分の運命を呪ったくらいだわ

。だから良く覚えているの

‥、」

「へぇ~~!」

 昔の辛かったことを寂しそうな顔をして話すトヨウケジの顔を見て、イスズビメはまだ会ったこともない

〈日蝕〉が、人の運命を変えてしまうのかも知れない

‥、と案じた。


 遠くの山あいへ曙を手渡そうと高い山向こうから、日の光がうっすらと兆しを

見せ始めた頃、番所の方から七~八人の男女が坂道を

降りて来た。

 所々に伏せていたヨンギジヨン達の前を、全員が通り過ぎたあと、二組の隠れていた兵達が後をつけた。

 途中彼らは別々に別れ、一組は低地に土を掘り起こし畑のようになった所へ降り立った。もう一組は、少し離れた桑畑に入って行った。

 ヨンギジヨンとチョンギルの二組は、番屋のすぐ近くまで行って様子を伺うことにした。番屋から洞窟までどれ程で行けるかだ。途中、護衛達の宿舎が有り、まだ幾人が残っている筈だ。番屋には、先ほどから

見ているが二人しか居らぬ

。ヨンガンの話では、護衛は十人くらいだろうと言っていた。まだ幾人か何処かに居るに違い無い。ヨンギジヨンは、何か探る方法は無いかと焦った。日が上がったら身動きが取れないのだ。

「チョンギル!お前達は此処に残って、あの二人を倒すのだ。我々は、この下の谷底から何とか向こうの道へ這い上がって、洞窟へ向かう。あと何人か居るはずの護衛を倒しておかねば、

オオヒルメを追い詰める前に、こちらが倒されるかも

知れん。日が欠けるまでじっと待つのだぞ‥、!」

「はい‥、よく承知して居ります!」

 チョンギルは、小声で頭が安心するよう答えた。

「しかし、この谷底をどうして乗り切るのですか‥、!?」

 もう、そちらの方が心配で声が震えていた。

「心配ない。真っ暗ではない。昔から何処の山でも谷底が有れば、何らかの方法で川魚などを取りに行く道をこしらえているものだ」

 後ろを振り返って

「ではいくぞ!」

と小さく怒鳴って二人の部下を睨み付けた。

 二人は震えて萎縮している筈だ。人間はその気になれば何でも出来るのだ。という気力を二人に吹き掛けたのだ。

「へい‥、!」

と同時に答え、目が輝いた。

 皆、腰には二メ-トルほどの細い布を巻き付けている。これが命綱に為るのだ

 昼のうしの刻(十二時)に入った頃、日が段々欠け始めた。

「ワァ~~!」 「ワァ~~!

という驚きと恐ろしさの声が、小鳥やカラスの鳴き声と伴にあちこちで聞こえ出した。

 そして〈寸刻〉もせぬうち

「キャ~~!!」「キャ~~!

?」

という悲鳴に変わった。

 ヨンギジヨン達は、宿舎に残っていた二人の護衛を

打ち破り洞窟に向かった。

後ろからチョンギルと部下が追い掛けて来た。一人は

番屋で討ち死にした。

 何と!洞窟から数メ-トル下の平地に、一人の大男が身の丈もありそうな太い丸太ん棒を持って待ち構えていた。

 五人は、七~八間(けん、約十五メ-トル)ほどの距離まで近づき立ち止まった。

「構わぬ!打ち崩せ‥!!」

 ヨンギジヨンが、鬼に会ったかのように怯んだ部下に大声で発破をかけた。

「ウォ~~!」

と雄叫びを上げながら、大男は片手で丸太を振り回した。

少し後づさりしたが、その木霊こだまを背に一挙に行動を起こした。

 二人は渾身の力を振り絞り槍を投げた。

 三人は槍を両手で持って少し前屈みになり、脱兎のごとく突進した。

 しかし、槍は二本とも跳ね飛ばされ、突っ込んだ三人とも槍が届く前に、大男が素早く後ろに下がって丸太を振り回して来たので、慌てて引き下がった。

 寸刻、睨み合いが続いた

大男からは仕掛けては来なかった。ヨンギジヨンがチョンギルに目配せした。

 瞬間、ヨンギジヨンが両手で槍を持って、真っ直ぐ大男の胸を目掛けて突っ込んだ。

大男は思いっきり丸太を振った。ヨンギジヨンは瞬時に、水に飛び込むようにジャンプし、腹這いに為った。大木は空を切り、返す瞬間チョンギルが同じように突っ込んだ。

 チョンギルは、体もろともに吹っ飛ばされた‥、が

、ヨンギジヨンがすぐさま立ち上がって、大男の脇腹を突き刺した。

 大男は大木を落として、ヨンギジヨンの頭を掴み、首をひねって投げ飛ばした

 その時、同時に一人の兵が突っ込んで来た。大男は

、腹から槍を抜いて立ち向かった。腹からは血がにじみ出て、大男の足下にポタポタ落ちてきた。大男は血を止める為腹を押さえた。槍を拾った二人も大男に構えた。

 三人の兵達は、無理に攻めずとも体力が落ちて行くのを待った。

 その時、洞窟の横から男と女が現れて、この凄まじい状況を見てびっくりしていたが、

 「タヂカラオ‥、大丈夫か!」

 フツヌシが腹を押さえてしゃがみそうに為ったタヂカラオの様子を見て、飛んで行った。

 三人の兵士がそれを見て

、飛びかかりそうに為った

時、女が貫頭衣ワンピースをさっと脱いで、フツヌシに投げ渡した。

 三人の兵士は、真っ裸に

為った女を見て、余りの美しさに、今の我の行動を躊躇させられてしまった。そして女は裸で踊り出したのだ。

「お、ほほほ‥、」

と笑いながらも、手には小石を握っている。

 年は重ねても、アメノウズメの色香は変わらなかったのだ。

 その間にフツヌシは、貫頭衣を引きちぎって、タヂカラオの腹に巻き付けて血止めをした。

 少しの油断は禁物であった。洞窟から少し離れた〈天の安河原〉から護衛の

者達が三名駆けつけて来たのだ。

 一人の兵士がウズメに向かって槍を投げつけた。

 ウズメは、ヒョイと身体をかわして、つぶ手(小石)をその兵士に投げつけた。

 途端

「きゃあ~~!!」

とウズメの後ろから悲鳴が

上がった。

 びっくりして振り向くと、オオヒルメの付き添いの〈ワカヒルメ〉の胸に槍が突き刺さって、ばったり仰向けに倒れるのが見えた。

 槍を投げ打った兵士は、ウズメのつぶ手が顔に当たってうずくまつている。

 護衛の者達の出現で、二人の兵士は、一目散に逃げて行った。

 うずくまつていた兵士は

、もう首を折られて死んで

いるヨンギジヨン

横目に見て、ニッコリ笑い

、自分の小刀で自決を図った。

 洞窟から出て来た正装の

女性を見て兵士は、咄嗟に

オオヒルメだと思い‥、奇しくも我らに天は見放されなかった‥と‥、間髪を入れずに槍を投げ命中させたのだ。


 オオヒルメの慟哭は、周りから見れば気が狂ったようにしか見えなかった。

「私が無理やり止めて置けば‥、こんなことには成らなかったのに‥、!」

 涙顔を上下させ

「私が外に出ることを止めて置けば‥、!!」

そして、又気が狂ったように泣き始めた。

 トヨウケジは、側に寄って静かにオオヒルメを抱き寄せた。

「何も貴女のせいではなくってよ。ワカヒルメが貴女を救って下さったのよ。そうでなければ、又貴女を恨む人間が何人も出て来るかも知れないわ。もう終わったのよ‥もう終わったの

‥、」

とオオヒルメを強く抱きしめた。

 オオヒルメは、子供のようにトヨウケジの胸に顔を埋め嗚咽を漏らし始めた。


 「で‥何故、タヂカラオ、フツヌシ、ウズメ様が

こちらへ‥、?」

 トヨウケジは、どうしても解せぬことを、生き延びた護衛の兵士に尋ねた。

「いや~~私にも分かりませぬ。オオヒルメ女王は、ヒミコ女王のお節介には呆れた顔をして笑って居られました。それは、私どもには理解出来ぬ事です‥、」

「そうなの‥、ありがとう

‥」

と、トヨウケジは護衛の兵士を引き下がらせた。

 タヂカラオは大和ヤマトで、フツヌシは出雲で、各国を管理している重要な立場にある人達だ。それとは別にウズメは、幼き頃オオヒルメ様に付き人として仕えていた姫であり、オオヒルメが奴国王の息子アシナカツに嫁入りした時にも付き添っていた。そんな時、宗像のサルタビコと恋仲になり、伴に伊勢に行ってしまった女子(おなご

)だ。サルタビコはトヨウケジの二度目の夫で二人の娘まで授かっていたのだ。トヨウケジにとっては、自分の人生を変えてしまった

憎くき女子でもあった。

 それにしても‥、それらの三人をこの高千穂に来させていた‥?いったいヒミコ女王の意図は何だったんだろう‥?病院見舞いで

この三人を寄越すはずはない。

 ‥、はた‥、とトヨウケジは閃いた。

ヒミコ女王は「日蝕」が四年早く為ったことに気付き

、オオヒルメ様の不吉を予感したからなのだ。

 又、トヨウケジは、まだ

ヒミコが十六才の時、西都原で会った際、何と美しく何と理知的な女性であつたことの記憶が蘇った。そして、美々津の港(宮崎県)で〈何か騒がしい耳鳴りがする〉と言った。

 あの人の霊感がオオヒルメ様を救ったのだ。

‥、トヨウケジは、じっと考え込んだ。

こうしてはおられぬ。一体

何者が、この岩戸を襲ったかを調べなくては為るまい

。オオヒルメをそっと寝かせて、急いで十二人の死体を放置している場所へ走った。

 岩戸から逃げ降りて来た

二名の兵士は、トヨウケジ達より早く出発して岩戸へ

向かったアメツクメ達に遭遇し、戦いの末討ち死にした。

 トヨウケジは一人一人じっと見つめながら途方に暮れた。皆、見たことも無い。生きておれば凛々しい若者達ばかりだ。何故、この者達は、病弱で隠遁しているというオオヒルメ様を襲ったのであろう‥、?

 そして、最後に首を折られて、顔かたちが変わってしまった年のいった死体を見た時

「ええ~~!これは…!?」

と驚いて座り込んでしまった。

あの忌まわしいヨンギジヨンの顔を、忘れるはずがなかったのだ。


 この事件は、数日もせぬうち至る所へ知れ渡った。

 まず西都原、次に八代、吉野ケ里、伊都国、奴国、半島の〈イ加-イカヤ〉、済州島、馬韓、プヨ、ペクチェ。半月後には

出雲、大和へと。

 それぞの立場で、今後の

対応等に大わらわと為った。

 数日後、高千穂に西都原の嵐は収まった。ただ秀麗な御岳にオオヒルメの余生をかけた夢だけが残った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] とりあえず参考までに……神武天皇実在論者諸氏は『記紀』の伝承の「古さ」を立論証していることが理由です。それは当該伝承が、いわゆる後世の造作ではないことを立論証していることでもあります。 つ…
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