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イスズビメ(ヒミコ女王の娘)登場

第二章

 第一節 イスズビメ(ヒミコ女王の娘)登場


 「ねえねぇ~~兄様、私の母は実の母様ではないの

‥?」

 八代(やつしろ、熊本県)への買い出しに行っていて、旅から帰って来たばかりの兄に、お疲れ様の労いもなく、いきなり嬉しそうに尋ねた。

「ええ!イスズ何を馬鹿なことを言っているんだ。それも嬉しそうに‥!?」

 イッセイは何があったのか気になりながらも、強く叱咤した。

「何もそんなに怒らなくても‥、でもね‥昨日、母様と一緒に梅の盛りなので、

梅林に見学に行った帰りによ‥、通りすがりの畦道で

母様と同じ年くらいの女性

が急に私達の前に立ち止ま

って、私の顔をじっと見る

なり〈まあ~~何なのかしら‥!女王様と生き写しね

‥!!」

とびっくりした顔で、母と

私を見比べるのよ‥、母様は別に驚きも咎めもせずに

‥その方に軽く礼をして〈

まあ~~そうかしら‥、ありがとう〉と言って、その

女性と私にニッコリ笑って

、私に先を急がせたわ。ねぇ~~兄様‥女王様って〈

連合国の女王〉ヒミコ様の

ことかしら‥?」

 当時「ヒミコ女王」は

年若い女性達の憧れの的で

あった。イスズビメも例に漏れずにその一員であった

ので〈良く似ている〉と言われ、悪い気持ちでは無い

 イッセイは少し驚いた顔をしたが、

「そうか‥そういうことが

あったのか‥、」

と少し考え込むようにして

いたが、

「いや、そうではないよ。

御祖母のオオヒルメ様も、

昔から〈女王〉と呼ばれていたので、その女性は若い頃の御祖母様によくイスズ

が似ていたので、びっくりしたのではないの‥、」

「まぁ~~そうだったのかしら‥あの女性が余りにも大袈裟に驚いていたので、私の方がびっくりしたくらいよ。兄様‥私バカみたい‥、」

 兄のイッセイに、イスズは恥ずかしそうに安心した

笑みを送った。

 しかし、イッセイは、確信はしていないが、イスズが母のタマヨリの実の娘で

ないことを感じていた。

 祖母のオオヒルメが、フキアエズ・タマヨリ夫婦、子の、イツセイ、イスズビメを、自分の身内として西都原国さいとばるこくの王室へ引き入れたこと。

イスズの乳母(めのと、実母の代わりに幼児に乳を与える女の人)が、乳離れしたイスズを残して、ヒミコ

女王の実家の有る「宇佐」へ帰ってしまったことが気になっていた。女王「ヒミコ」はオオヒルメの姪なのだ。

 イスズビメはさておき、

自分達親子は、祖母のオオヒルメとは血筋が違うのだ

 何らかの事情で、ヒミコ女王は自分が産んだ子を伯母のオオヒルメに預けたに違いない。そして、あの女性が〈女王と生き写し〉だと映ったのは、正しくイスズビメがヒミコ女王の娘ではなかったかと確信を持った。

「ね~~え兄様‥、私、母様と一緒に御祖母様の居る〈高千穂(宮崎県山麓〉

へ行くことに成ったのよ

。久しぶりに御祖母様に会えるのが楽しみだわ‥、もう何年ぶりかしら。お病気は少しでも良く為ったのかしら‥?」 


 オオヒルメはこの十年、休養も兼ねて幾度か秀麗な

高千穂岳に登り、人里離れた厳粛な岩屋で瞑想に耽っていた。今までの壮絶な自分の人生に終止符を打つべき時が来たことを感じ、又

、この列島(日本)の行く末を案じて奔走している姪のヒルメ(ヒミコ女王)を

援護するには自分は何をすれば良いのか‥、と。

 三年ほど前、吉野ケ里(

佐賀県)に身を寄せている

「ニギハヤヒ(オオヒルメの息子)」に〈文〉を送った。彼は、弁韓(三韓の一国)王の血を引く伊都国(福岡)王〈オシホミミ〉の甥

だ。昔、オオヒルメは弟の

スサに命じてオシホミミ王と皇太子を暗殺させ、長男の〈ニニギ〉を伊都国王に

立てた。それは、倭人連合国設立の為のやむ得ぬ決断であったが、オシホミミ国王一族は、思わぬ策略に遇い離散を余儀なくされた。

さぞかし、連合国を恨んでいるであろうし、わらわが母であることなど遠の昔に置き去ってしまった

であろう。今更であったが

、オオヒルメは、そのニギハヤヒにどうしても会いたかった。そして昨年、ようやくニギハヤヒが一族の

「フトタマ」、「アメノコヤネ」、「アメノホアカリ」を引き連れてやって来たのだ。


 「へぇ~~明日行くんだ

。それで村ん中が騒々しい

んだね‥半年ごとに食料や必需品を届けていたけど

、もうあれから半年も経

ったか‥、」

 イッセイも半年前にククノチの長男アメノオシヒと

高千穂に行っていた。

「それで、何方達と行くのだ‥?」

「ええ、御祖母様の孫の〈

イワトワケ〉様と〈ククノチ(西都原国の大臣)〉様のご次男の〈アマツクメ〉様、それに〈トヨウケジ〉

様もご一緒すると聞いたわ

‥、」

「ええ~~!トヨウケジ様も

行かれるのか‥、険しい道のりなのに大丈夫なのかい

「でも小母様はとても張り切ってらっしゃるわ。まだまだ若い人達には負けないわって‥皆を笑わせている

みたいよ。それに、久しぶりにオオヒルメ様に会われ

るのを楽しみにされているらしいわよ」

「そうなんだ。この月は高千穂にいる護衛達も含めて

家人(女王に仕える家来)の交替の時期だし。それに

イワトワケ様にそろそろ政務を預かって貰わねば、トヨウケジ様も大変だろうしね‥、」

「そうなの‥?私はそこまで聞いていないけれど、かなり大勢の方達とご一緒に

行くのね‥、楽しそうな旅になるわね‥うふふふ‥」

「バ~~カ、遊びに行くんじゃあないよイスズ‥いつもトヨウケジ様の側に居て

ご面倒見てさしあげないと‥!それよりイスズ、御祖母が安心するよう、ちゃんとしっかりした御返事が出来るようおさらいをして来たのか‥?」

「分かっているわよ‥兄様、それに、どんなお病気か良く知らないけれど‥、

いろんな病のお勉強をして

薬草を揃えているのよ。すこしでも御祖母様が回復出来るよう手立てを考えているのよ」

「ええ~~イスズも頑張るね‥、」

「うふふ‥気持ちだけは兄様に負けないわ‥、」


 西都原から一瀬川の河口まで舟で下り、陸沿いに

日向灘ひゆうがなだを北上して日向の美々津港までの舟旅に一日、美々津から陸路高千穂の三田井までの二日の行程である。

 「美々津から険しい耳川沿いの陸路を行くよりも、門川まで一気に舟旅にて五十鈴の河口まで行き、それから川沿いに陸路を取った

方が、叔母様方が一緒なので無難でございます。二日ほど日程は余分にかかると

思いますが‥、」

オオヒルメの従弟の孫イワトワケが、ククノチ親子とトヨウケジ、タマヨリ達と

明日に控えた出発前の打ち合わせを行っていた。

「しかし、これまでずっと

そのコ-スで行き帰りして

来たのに、初めてのコ-スは危険ではないですか‥?

若様」

親代わりをして来たククノチは、心配そうにイワトワケに行程の変更に不安を投げ掛けた。

「イワトワケ様‥女性でも

オオヒルメ女王は、何度も

行き帰りされておられるので、トヨウケジ様やタマヨリ様も乗りきられるのでは

ないですか‥、」

 長男のアメノオシヒも、

父と共に行程の変更を思い

止まるよう促した。

「いや叔父上。先だって

日向の〈ホセリ王〉にお会いした時、門川から高千穂までの道のりをお聞きしたところ、五十鈴川から五ケ瀬川の川沿いにたどり着け

れば、そこから高千穂までの道のりは、耳川沿いから

高千穂に向かう険しい陸路に比べたら、まだ幾ばくか

安易であろう‥、と、お話

しされていました。ホセリ王様は[しかし、オオヒルメ殿が何故、険しい高千穂なんぞに行かれて暮らして

いるのか、さつぱり分からん‥、]と笑っておられました‥が」

「まあ~~そうでしたの‥ホセリ王様らしいご批評ね

。それで、イワトワケ様‥

イナヒ様(ホセリ王の孫娘)もお連れする訳ですね

 トヨウケジは、イワトワケの本意をズバリ読み取り、少々意地悪な目付きで

微笑み、イワトワケを慌てさせた。

「いや~~小母様、私はそんな積もりで言ったのでは

ありませんよ。小母様やタマヨリ叔母様のことが心配で、少しでも緩やかな道のりを探したかっただけですよ‥いや本当ですって、小母様」

「でもイワトワケ‥イナヒ様をお連れして、大伯母様

(オオヒルメ)に会わせたいんでしょう‥、」

 タマヨリがニッコリ笑って甥のイワトワケに、落ち着いてお話しなさい‥、と

フォロ-した。

「はい、叔母上!」






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