ヒミコ女王、公孫氏の使者を向かえる為、〈宇美の里(大宰府-福岡)〉に館を造営させる
「女王‥!〈曹操〉が、漢王朝のジヨウソウ(総理大臣)に成って、王室を牛耳ったようです」
「そうですか‥、それだけの力を持てば〈劉備〉や〈孫権〉もオチオチ出来なく為りましたね‥、」
「いや~~それが‥、」
ホホデミは、報告する順序を間違えたか‥と少し戸惑った。
「どうしたのですか‥、ホホデミ様。ナンシヨウメの報告に、何か重大な事が含まれていたのですか‥、?
」
三年前にナンシヨウメ達の交渉のあと、公孫氏との
和解があって、列島の国々
は、待ち受けたらように〈交易船〉を〈帯方郡〉へ向かわせた。
大した〈交易料〉も取らず、公孫氏側は打って変わったように、各国の交易船への扱いが丁重になり、逆に公孫氏側から、列島への交易船の入港を求めて来た。
ヒミコは、何か魂胆があろうかと危ぶんだが、互いの交流が深まれば、列島の
国際性も上がり、又、列島の活力も自然に増すだろうと、大いに歓迎した。
しかし、翌年の春には向かいたいと通達して来た公孫氏の交易船に、公孫度王の使者も同行させると添えてあった。
ヒミコは、急遽ホホデミとイワレヒコを伴って、ヤマトから伊都国へ向かった
。
伊都には、ニニギ、ヒコミコ、ハコクニに〈吉野ケ里〉の〈チヌヨング〉王が
控えていた。
「さて、どうしたものでしょうねぇ~~」
ヒミコは、座に座るなり皆に問いかけた。
ヒミコが円陣の中に混じって膝を揃える光景など、
今まで見かけた事がなく、
皆は戸惑ったまま、下を向いたままだ。
「あ~~ら‥、お葬式みたい‥!」
ドアを開けて入って来た
タキツビメは、びっくりして、皆を見回した。
「これ!タキツビメ‥、」
ヒミコが、後ろを振り向いて小声でタキツビメを窘めた。
鮮やかな白装束の女王蜂
が、立て膝ですわり、周りの働き蜂を叱っているような光景に思わず出た
言葉だが、タキツビメはニッコリ笑ってヒミコを見た
。
「本当に相変わらずね‥貴女は。お茶を持ってくれたのね‥、どうぞ皆様にも差し上げて‥」
その言葉に、家人の女性達が入って来て、一人づつ
客の横に茶を添えていった
。
タキツビメも、持っていた茶をヒミコに差し出し、愛らしく引き下がった。
「皆様‥、お茶でもお飲み
に成って‥」
ヒミコは、座を和らげるように、自分から飲み出した。
「女王‥公孫度王の狙いは
、何なんでしょう‥、」
ヒコミコが、ぐっと茶を
飲んだあと、ヒミコと同じように問いかけた。
「そりゃあ、この倭人国の
様子伺いではないですか」
ホホデミが、当たり前の
ように答えた。
「それはそうでしょうが、
何かの提案事か約束事を作って、使者に返事を持って帰らせようかしているのでは‥、」
「う~~ん‥、それは無いと思うよヒコミコ。有ると
すれば、どれだけの戦力を
持てるような国なのか、その技術力を探るぐらいなもので、大した成果が上がる
とは思ってはいないだろうし、どれくらいの国の大きさかを知りたいくらいじゃないの‥、」
と、ニニギは、そんなに深刻に考える必要は無いのではないか‥と楽観的な見解
だ。
「しかし、ちと私が腑に落ちないのは、あれだけ馬韓
を追い詰めながら、女王の
〈文〉と〈フゲキ達〉の使いで、手のひらを返したように、和解を承知するとは
考えられないのです。女王のことも、列島の内情も対して情報を持っているとは
思われないし、当事者でもない倭人が口出ししたところで、素直に応じる国とは
思われません。〈ミナトベ〉達が無事に帰られただけでも、信じられないことでした」
吉野ケ里からも、頻繁に
楽浪郡へ〈交易船〉を送っていた王としては、公孫氏の内情には詳しく、今回の
決定には解せぬ思いであった。そして、この席に何故
自分が呼び出されているのかも、問いたいところだ。
「いやぁ~~チヌヨング王殿、ご不信に思われるのは
ごもっともなことです。今回の公孫度王の決定は、ヒミコ女王にとっては、然るべき確信があっての交渉だったのです。そうは言っても、ミナトベやナンシヨウメ、トヨタマジにとっては
、死を覚悟しての使いであ
ったのは間違いありません
。女王を信じ、自分達の勤めを果たす事が、この列島の将来をより一層の揺るぎない国力を高める為の責務
だ、との信念があったから
こその、公孫度王の心を打ったのではないかと、私は
そう信じています。
ハコクニは、列島の殆ど
の王達が、チヌヨング王と
同じ気持ちで、一時的な和解に応じたのであって、将来的には火だねが消えた訳ではないので不安が残っているのは、承知でチヌヨングに理解を求めた。
「しかし、ハコクニ様‥今回の使者の件は、どう理解
したら宜しいので‥、」
「ヨング様‥心配には及びません。公孫度王は只、列島とヒミコ女王のことを知りたいだけです。女王の分析こらすると、公孫氏は領土を拡げるような愚策は避ける筈だと。そう考えると
、自然に公孫度王の思惑が
図れてくるのでは‥、」
「う~~ん‥、それで、私が此処に呼ばれたのは‥、?」
「‥、‥?」
ハコクニも、そこまでは
ヒミコの読みが見えなかった。
「丁度良かったわ。ハコクニ様、チヌヨング様‥、ヨング様、吉野ケ里の館の防備の造りを、宇美の里に作って貰えませか、小さくて
良いのです」
ヒミコが嬉しそうに、二人に笑みを投げた。
チヌヨングは、初めてヒミコの笑顔をまともに見て
[うわ~~何と美しく厳かな女性だ。この人が、今、
この列島を動かしているのか‥、!信じられ無い]唖然として見とれたまま、ヒミコが依頼していることが
、耳に入らなかったようだ。
「ヨング様‥、ヨング様‥、!」
ニニギがヨングの様子を見て、慌てて肩を揺すった
。
「はあ‥、?」
「ええ~~宇美の里に、小さな吉野ケ里を作って頂けません‥、?」
「はあ‥、?」
まだ正気に戻っていない
「ヨング王‥宇美の里に、
吉野ケ里のような館の防備の造りを、小さくて良いから作って欲しいとの女王の
申し出だ。今度、公孫度王の使者が来たら、そこにお招きしたい‥、とのお考えじゃ」
さすが、ハコクニ様だわ‥、
ヒミコは、ハコクニに目をやって、ゆっくり頷いた。
「はい‥、承知致しました。まだ、宇美の里の造りは見届けて居りませんが、
期限はいつ頃まで猶予頂けましょうか‥、」
「そうですね‥使者は来年の春とおっしゃっていたので、四ケ月ほどでお願い出来るかしら‥、」
「ええ~~承知しました。四ケ月ですね‥吉野ケ里の全住民を駆り出しても、仕上げて見せます‥、」
チヌヨング王にしてみれば[この女王の為なら命懸けでも‥、]という、若き時代の恋人に思う気持ちの
ように、躍り上がっていた
。
座の者が、どっと笑い、
ヒミコは
「まあ~~本当に面白いお方だこと‥!」
と、皆に合わせて、礼も含めてヨング王の気概に答えた。
「それで、ニニギ王様とヒコミコ殿、伊都国と奴国から百名づつ、吉野ケ里の造営に協力して頂けません
か‥、」
ヒミコは、チヌヨングに
、余りの負担を掛けさせる
のも行き過ぎている‥、と気付き、ニニギとヒコミコに協力を求めた。
「ええ‥、よう御座いますとも、女王‥、!」
二人とも、女王の前で始めて普段着のまま、会話出来たことに、無類の満足感を覚えた。
「それとお願いが、有るのですが、チヌヨング王‥」
突然、
ホホデミが、難しい顔をして、座を白けさせるような顔付きで、話しかけた。
「ホホデミ様‥何か重要な問題でもあるのですか‥、
造営に関してのことでしょうか‥、?」
ヨング王は、自分が道化役者の立場にされているのに、心地よい余韻に甘んじようとした矢先の横やりだった。
「いやぁ~~皆様‥座を白けさせるような発言をお許し下さい。私は、只、ヒミコ女王の望楼のような祭壇と寝所を造るには、〈ヤマト〉に有る現物を、王が一度見に行かれた方が、良いのではないかと‥、」
少し詫び程度、声を落として言った。
「おお‥、そうだ!あの造りは簡単には思いつかぬ建物であつたな‥、」
ハコクニは、はたと座っている自分の膝を手で叩いた。
「そうでしたなあ~~」
ニニギも思い浮かべるように、相づちを打った。
「ええ~~そんなに難しい‥、造りなのですか‥、
!?」
チヌヨングは、一辺に弱気に走った。
「もう~~本当にホホデミ様は、皆様を白けさせてしまいましたわね‥、うふふ
‥、」
ヒミコは、思わず口に手を当てて、吹き出しそうになった。
「あの祭壇と寝所の造りは
、私がクニクル王に図を送って、作られた建物ですわ‥、」
「ええ!女王が作った図面ですか‥!?」
座の者も、ハコクニと同様に、何と多才な女王であることに改めて感心し、尊敬の眼でヒミコを見た。
「それでは、〈使者〉には
〈ヤマト〉へはご案内せぬ
‥という算段でのお考えですか‥」
ニニギは、ヒミコが〈宇美の里〉での接見を予定しているので、そのまま使者
を帰してしまうのかと問う
た。
「いや、そうでは有りませんわ。ご希望であればご案内して差し上げますわ」
「ええ‥、!女王自らですか‥、!?」
ヒコミコが、周りの春の
反応を見て、驚いて問い返した。
其れで有れば、わざわざ
〈宇美の里〉に〈館の装備〉などせず、〈ヤマト〉で待っていれば良いことではないのか‥、と。
ヒミコは、又、ニコッと笑った。
「ヒコミコ殿‥そんな先走った心配など無用ですわ。
ナンシヨウメ殿の報告では
使者の〈魚孟、ぎょもう〉とか言う人は、一般人で旅行好きのお方と記してありました。そういう類いの人達の
関心は、行き先の国々の権力者の器とか性格、住んでいる人々の生活内容や、国の広さや形を調べて、〈紀行文〉を作って生業にしている人が多いそうですわ。先ほど、ニニギ様がおっしゃったように
、私(ヒミコ女王)や倭人と言う人種の生の
姿を見届けたいという発想からの、公孫度王の〈使者
〉なのですわ。小さな島国であっても、全島を見回るには何年も掛かります。おまけに、中華の人々は船旅‥、など習慣にありませんから、無駄なご足労を掛けさせぬように、出来るだけの便宜を図って差し上げたい‥と言うことなの」
そして、ヒコミコにニッコリ微笑んだ。




