オオナムチ、出雲国国王に「大国主の尊」
「ホホデミ様、ハコクニ様も驚いたでしようが‥、出雲では現在、〈スサの伯父様〉がオオナムチ様と事態の収拾に当たっていると聞いています。しかし、土着の出雲の民達は、カグツチ
(先の出雲国王タカムスヒの叔母の子)を、国王のナギ祖父様が殺したことに対しては、怒りを持って抗議しているそうです。スサ伯父様は身の安全の為、倭人達の結束に奔走していると聞いています」
その話を聞いてニニギが
「女王様‥、それに、私の妻のコノハナサクヤの父上オオヤマツ様は、如何為されているのでしよう。まさか、ナギ王とご同行されたのでは‥!」
ニニギも少し落ち着いたのか周りを見出した。
「いえ‥オオヤマツ様のことは、〈文〉には書いて有りませんでした。たぶん、不在だったのではありませんか。オオヤマツ様がおいでだったら、祖父の怒りを最悪の事態に為らぬよう押し止めた筈です」
「すると女王‥、出雲は、
一触即発という局面に入っていると‥!!」
ホホデミが危惧しながらも、声を落としてヒミコの答えを待った。
「かも知れませんが、オオナムチの兄上〈アメノホヒ〉様と弟君の〈ヤツカ〉様(両名ともオオナムチの
腹違いの兄と弟)達が、民達の怒りを静めて行くことでしよう」
「そんな中で何故、タキツビメを同行させようと
‥?」
ニニギはやはり、「嫁」
のことが気になって尋ねた。
「そうなの。先ほどはヒコミコ殿には、あのように答えたのですが‥、勿論、久しぶりの再会も含めてですが、何せスサ伯父様は気の荒いお方なので、いつ「緒
」が切れるか分かりません
。このような事態に、王「
ナギ」の息子まで出雲の民達に、反感を買うようなトラブルでも起こしたら、本当に一触即発という事態に成り兼ねません。
そこで、ナミ王妃の妹(ナミ、オオナムチの実の妹)
トヨウケジ様のお子(タキツビメ-スサとトヨウケジ
の子)を出雲に連れて行けば、民達も少々心が和むのではないかと思うのです。
そして、何よりスサ伯父様が、十六年振りに娘のタキツビメを、どう迎えるか楽しみにしているのですよ」
それを聞いて三人とも、今までの緊張がほぐれたのか、スサの顔を思い浮かべるように、さにあらん、さにあらんという顔付きで、
ニタツと顔を見合わせた。
「本当に、スサ殿のその時の顔を見たいものですわ
‥、」
とハコクニが、〈スサ〉の
目尻が下がった親バカ丸出しの顔を想像して、ヒミコの思惑に同調した。
「‥、そうね‥それに問題は、倭人達連合国と同数(二十ケ国)を持つ〈出雲連盟国〉の処遇をどうするかだわ‥、半数は連合国と兼ね合っているから十ケ国そこそこね。それも殆ど〈ヤマト〉から東や北の国々だから難儀なことだわ‥、」
そして少し間を置き
「そう‥、もう一つ難儀な
ことは、出雲の神々と〈フゲキ達〉の処遇の問題ね
‥、」と、
独り言のように呟いた。
〈アメノホヒ〉は、八年
前に〈ヒルコ〉に会って以来、一年おきに出雲と秩父(埼玉県)を行ったり来たりしていた。
両国の特産物の育成の仕方を、互いの地域の民達に学ばせ、土壌や気候に合わせた生産を確保させていた
。
〈ホヒ〉は、一年前に起きた妹の自害、叔父のカグツチが〈ナギ王〉に刺殺され、当のナギ王が
失踪してしまった報を聞いた時は、目の前が真っ暗になるほど、絶望感に襲われてしまっていた。
〈ホヒ〉にとっては、ナギ王は、この列島を強い国にする為には、無くては為らない偉人で有ると信じていたからだ。
しかし、それも夢として消えてしまった。
絶望を背負って、当の〈ヒミコ女王〉が出雲に来るというので飛んで帰った。
ホヒが出雲に着いた頃には、もうヒミコ女王は半月前に来ており、出雲の主要な村々にオオナムチと伴に、行幸されているとのことだった。
帰って来られるのに、あと半月ほど掛かるらしいと言うことだったので、ホヒはその間、甥のスサ(妹のナミの息子)に、この一連の事件の真相を聞き出し、近辺の民達の戸惑いの慰めに回った。
民達は、突然の不幸の連続で動揺していたが、ホヒが戻って来たので、元の出雲に戻ることを期待した。
それから半月ほどして、
女王が戻られたというので
、オオナムチの館に出向いた。
当時の出雲国は、入海(宍道湖)の周りに主な村々が散在し、西側の出雲郷(荒神谷、こうじんだに)にオオナムチの館があった。ホヒの住まいは対岸の意宇郷にあったので、丸木舟で渡った。
「女王‥!初にお目にかかります。意宇で住まいする
アメノホヒと申します。この度は、飛んだ災難に巡り合わせ、わざわざ出雲までお出で頂き、恐縮に存じます‥、」
「まぁ~~伯父様(祖母ナミの兄なので大伯父だが、親しみを込めてそう呼んだ)‥、伯父様こそ、遠い秩父からお出でに成って、お疲れのことと思いますわ‥、」
ヒミコは、この〈アメノホヒ〉の協力をどうしても
取り付けて置かねば為らなかった。伯父の〈ヒルコ〉の動きが、気になっていたからだ。
それでヒルコ伯父様(
ヒミコの父ナムチの長兄)
には、お達者でおいでですか‥?」
「ええ~~幼い頃から、北の果てまで行ったり来たりしていたせいか、なかなかの精悍な頼もしいなりになったのですが‥田畑の仕事は思ったより付いて行かず
、頭ばかりが発達して行くという案配で‥、イヤ~~いや元気にやっております
‥、!!」
「うふふふ‥、ホヒ様ったら面白いお方‥、」
と、初対面の印象を、ホヒに投げ打った。
ホヒも、ヒミコの仕草や物言いを見て、内心[何と
気品があって、色香の漂う女性だ‥、これで霊力で呪われたら、たまったもんじやないわ]
とまるで、ヒミコを〈鬼女〉にしか例えられないのか‥それでも、妖しげな魅力に取り憑かれそうになった。
「いや‥それで‥ヒルコは
常陸〈ひたち(福島県)〉で嫁を貰い、息子がもう十四才にも成ります‥、」
[伯父様ったら、何を、慌てているのかしら、うふふ‥、]
「そうなのですか‥私の従弟ね‥、」
「そうです‥、ヒムココと言います」
「ヒムココ‥それは良い名
を付け為さったわ‥、」[何か、私の名を男の子にした見たいだわ‥イヤ私はヒルメだから‥どちらか言うと伯父のヒルコ様の方が
似ているのか‥伯父、姪だから似ていて当たり前なのに‥私バカ見たい]
誰でも、身内のこととなると、在らぬところでまごつくのは、他人が想像出来ぬのが通常であろう。
アメノホヒとの遣り取りが落ち着いた頃、〈ハコクニ(出雲国先王タカムスヒの従弟)〉が皆を集め
「この度‥この出雲国と倭人が推進する連合国の将来に、多大な汚点を残すような、重大な事態に相成り、
ヒミコ女王自らこの出雲国にお越しになられ、事態の収拾を図りたいとのご意向で、皆様にご足労願いました」
ヒミコは、出雲国に来る前の伊都国での、ニニギ、ハコクニ、ホホデミとの会合の締めくくりに、三人に
これからの行動を指示していた。出雲国での状況次第では、思い切った策の指示を出さねばならねとの判断をしたからだ。
「この会合より先に、私ハコクニが、女王より事態の収拾に当たり、幾点かのご指示を仰いでおりますので、これから順次発表していきたいと存じます。各々
方の吟味は、このご指示の発表の後、ご検討願いたいと存じます。
まず一点。カグツチ殿の
死についてですが、例え本人の咎があったにせよ、国王として然るべき裁断を経て処罰すべきであった。やむを得ぬ事情があったにせよ、私情を挟んで、自ら殺害に及ぶべきではなかった。依って〈ナギ王〉には
、王位を剥奪すべきが相当と思う‥、」
「何と‥、!!」
一部でざわついた。
「お静かに‥、!」
ハコクニが制した。
「次期王位には、先の国王タカムスヒ様の〈女啇-男〉オオナムチ様に委ねたい。依って本日より、オオナムチ王が出雲を束かるように‥、との
女王のご指示が御座いました。
先ほども申しましたように、女王のご指示の検討は
、全てのご指示を話し終えた後に、改めてお願いしておきます」
少しざわつきが、あったが、場内は次のハコクニの話を待った。
ハコクニは、この出雲に来る船の中で、何度もヒミコの主旨を確認し、文章を仕上げた。
「第二は、現在出雲国と友好的な関係にある〈同盟国〉が二十ケ国有ります。その半数は〈連合国〉に組しますが、残りの半数は、ヒミコ女王率いる連合国を
〈倭人連合国〉と称して、未だ連合国に組しておりません。
連合国設立の主旨は、列島で生活しているいろいろな種族や民族の方達と、一つの大きな国づくりを目指して行くことなのです。
皆それぞれ、先祖からの教えを守りこの列島に住み着いている訳ですから、列島の全住民が豊に成って行くのを望んでいる筈です。
この列島の先々を憂慮して
、豊かな〈国づくり〉を目指す連合国の賢明なる勇気有る取り組みに、反発している国々には、何とも理解し難い光景です。
決して倭人が、独自で他民族を制覇しようという暴挙は、ゆめゆめあり得ないことです。将来は、列島の
全住民が同じ歴史を作って行けば、単一の民族として統一されて行くからです。
その主旨が理解出来ず、
反発する国々の王達も民達に慕われ、民達の信頼を得て、責任ある立場で有りましょうから、地元の国の繁栄を考え、是非〈連合国〉に参画されるよう、この席におられる皆様のご尽力に
、期待しているとの女王のお言葉です。さすれば、先祖から地元で頑張って来られた民達も、こぞって、自分達の国の王の英断に拍手を送ることでしよう。




