オオナムチ、出雲国国王となる「大国主の尊」
「ホホデミ様、ハコクニ様も驚いたでしょうが‥、出雲では現在、〈スサの伯父様〉がオオナムチ様と事態の収拾に当たっていると聞いています。しかし、土着の出雲の民達は、カグツチ
(先の出雲国王タカムスヒの叔母の子)様を、国王の
ナギ祖父様が殺したことに対しては、怒りを持って抗議しているそうです。スサ伯父様は身の安全の為、倭人達の結束に奔走していると聞いています」
それを聞いてニニギが
「女王様‥それに、私の妻のコノハナサクヤの父上オオヤマツ様は、如何為されているのでしよう。まさか
‥ナギ王とご同行されたのでは‥!」
ニニギも、少し落ち着いたのか周りを見だした。
「いえ‥、オオヤマツ様のことは、〈文〉には書いて有りませんでした。多分、
不在だったのでは有りませんか。オオヤマツ様がおいでだったら、祖父の怒りを最悪の事態に為らぬよう押し止めた筈です」
「すると女王‥!出雲は、
一触即発という局面に入っていると‥!!」
ホホデミが危惧しながらも
、声を落としてヒミコの答えを待った。
「かも知れませんが、オオナムチ様の兄上〈アメノホヒ〉様と弟君の〈ヤツカ〉様(両名ともオオナムチの腹違いの兄と弟)達が、民達の怒りを静めて行くことでしよう」
「そんな中で何故、タキツビメを同行させようと‥?
」
ニニギはやはり、「嫁」のことが気になって尋ねた。
「そうなの。先ほどはヒコミコ殿には、あのように答えたのですが‥勿論、久しぶりの再会も含めてですが
、何せスサ伯父様は気の荒いお方なので、いつ「緒」が切れるか分かりません。
このような事態に、王の息子まで出雲の民達に、反感を買うようなトラブルでも起こしたら、本当に一触即発という事態に成りかねません。そこで、ナミ王妃の妹トヨウケジ様のお子(タキツビメ-スサとトヨウケジの子)を出雲に連れて行けば、民達も少々心が和むのではないかと思うのです。
そして、何よりスサ伯父様が、十五年振りに娘のタキツビメを、どう迎えるか楽しみにしているのですよ」
それを聞いて三人とも、
今までの緊張がほぐれたのか、スサの顔を思い浮かべるように、さにあらん、さにあらんという顔付きで、
ニタッと顔を見合わせた。
「本当に、スサ殿のその時の顔を見たいものですわ‥、」
とハコクニが、〈スサ〉の
目尻が下がった親バカ丸出しの顔を想像して、ヒミコの思惑に同調した。
「そうね‥、それに問題は
、倭人連合国と同数(二十ケ国)を持つ〈出雲連盟国〉の処遇をどうするかだわ‥、半数は連合国と兼ね合っているから十ケ国そこそこね。それもほとんど〈ヤマト〉から東や北の国々だから難儀なことだわ
‥、」
そして少し間を置き
「そう‥、もう一つ難儀な事は、出雲の神々と〈フゲキ達〉の処遇の問題ね‥、」と、
独り言のように呟いた。
〈アメノホヒ〉は、八年前に甥の〈ヒルコ〉に会って以来、一年おきに出雲と
秩父(埼玉県)を行ったり
来たりしていた。
両国の特産物の育成の仕方を、互いの地域の民達に学ばせ、土壌や気候に合わせた生産を確保させていた
。
〈ホヒ〉は、一年前に起きた妹の自害、叔父のカグツチが〈ナギ王〉に刺殺され、当のナギ王が
失踪してしまった報を聞いた時は、目の前が真っ暗になるほど、絶望感に襲われてしまっていた。
〈ホヒ〉にとっては、ナギ王は、この列島を強い国にする為には、無くては為らない偉人で有ると信じていたからだ。
しかし、それも夢として消えてしまった。
絶望を背負って、当の〈ヒミコ女王〉が出雲に来るというので飛んで帰った。
ホヒが出雲に着いた頃には、もうヒミコ女王は半月前に来ており、出雲の主要な村々にオオナムチと伴に
、行幸されているとのこと
だった。
帰って来られるのに、あと半月ほど掛かるらしいと
言うことだったので、ホヒはその間、甥のスサ(妹ナミの息子)に、この一連の
事件の真相を聞き出し、近辺の民達の戸惑いの慰めに回った。
民達は、突然の不幸の連続で動揺していたが、ホヒが戻って来たので、元の出雲に戻る事を期待した。
それから半月ほどして、
女王が戻られたというので
、オオナムチの館にで向い
た。
当時の出雲国は、入海
(宍道湖)の周りに主な村々が散在し、西側の出雲郷(荒神谷、こうじんだに)にオオナムチの館が有った。ホヒの住まいは対岸の意宇郷
に有ったので、丸木舟で渡った。
「女王‥!初にお目にかかります。意宇で住まいするアメノホヒと申します。この度は、飛んだ災難に巡り合わせ、わざわざ出雲までお出で頂き、恐縮に存じます‥、」
「まあ~~伯父様(祖母ナミの兄なので大伯父だが、
親しみを込めてそう呼んだ
)‥、伯父様こそ、遠い秩父からお出でになって、お疲れのことと思いますわ
‥、」
ヒミコは、この〈アメノホヒ〉の協力をどうしても取り付けて置かねば為らなかった。
伯父の〈ヒルコ〉の動きが
、気になっていたからだ
「それでヒルコ伯父様(ヒミコの父ナムチの長兄)には、お達者でお出でですか
‥、?」
「ええ~~幼い頃から、北の果てまで行ったり来たりしていたせいか、なかなかの精悍な頼もしいなりに成ったのですが‥、田畑の
仕事は思ったより付いて行かず、頭ばかりが発達して行くという案配で‥、いや
~~元気にやっております
‥、!」
「うふふふ‥ホヒ様ったら
面白いお方‥、」
と、初対面の印象を、ホヒに投げ打った。
ホヒも、ヒミコの仕草や物言いを見て、内心[何と
気品があって、色香の漂う女性だ‥、これで霊力で呪われたら、たまったもんじゃないわ]
とまるで、ヒミコを〈鬼女〉にしか例えられないのか‥、それでも、妖しげな
魅力に取り憑かれそうになった。
「いや‥、それで‥、ヒルコは常陸(ひたち、福島県)で嫁を貰い、息子がもう十四才にも成ります、」
[伯父様ったら、何を慌てているのかしら。うふふ
‥、」
「そうなのですか‥私の従弟ね‥、」
「そうです‥ヒムココと言います」
「ヒムココ‥それは良い名
を付けなさったわ‥、」
[何か、私の名を男の子にした見たいだわ‥いや、私はヒルメだから‥どちらか言うと伯父のヒルコ様の方が似ているのか‥伯父、姪だから似ていて当たり前なのに‥私バカ見たい]
誰でも、身内のこととなると、在らねところでまごつくのは、他人が想像出来ぬのが通常であろう。
アメノホヒとの遣り取りが落ち着いた頃、〈ハコクニ(出雲国先王タカムスヒの従弟)〉が皆を集め
「この度‥、この出雲国と倭人が推進する連合国の将来に、多大な汚点を残すような、重大な事態に相成り、ヒミコ女王自らこの
出雲国にお越しに為られ、
事態の収拾を図りたいとのご意向で、皆様にご足労願いました」
ヒミコは、出雲国に来る前の伊都国での、ニニギ、ハコクニ、ホホデミとの会合の締めくくりに、三人に
これからの行動を指示していた。出雲国での状況次第では、思い切った策の指示を出さねば為らぬとの判断をしたからだ。
「この会合より先に、私ハコクニが、女王より事態の収拾に当たり、幾点かのご指示を仰いで居りますので
、これから順次発表していきたいと存じます。各々方の吟味は、このご指示の発表の後、ご検討願いたいと存じます。
まず一点。カグツチ殿の死についてですが、例え本人の咎が有ったにせよ、国王として然るべき裁断を経て処罰すべきであった。やむを得ぬ事情が有ったにせよ、私情を挟んで、自ら殺害に及ぶべきではなかった
。よって〈ナギ王〉には、王位を剥奪すべきが相当と思う‥、」
「何と‥、!!」
一部でざわついた。
「お静かに‥、!」
ハコクニが制した
「次期王位には、先の国王
タカムスヒ様の〈女啇-男〉オオナムチ様に委ねたい。よって本日より、オオナムチ王が
出雲国を束ねるように‥、
との女王のご指示が御座いました。
先ほども申しましたように、女王のご指示の検討は、全てのご指示を話し終えた後に、改めてお願いしておきます」
少しざわつきがあったが
、場内は次のハコクニの話を待った。
ハコクニは、この出雲に来る船の中で、何度もヒミコの主旨を確認し、文章を
仕上げた。
「第二は、現在出雲国と友好的な関係にある〈同盟国
〉が二十ケ国有ります。その半数は〈連合国〉に組しますが、残りの半数は、ヒミコ女王率いる連合国を〈
倭人連合国〉と称して、未だ連合国に組して居りません。
連合国設立の主旨は、列島で生活しているいろいろな種族や民族の方達と、一つの大きな国づくりを目指していくことなのです。
皆それぞれ、先祖からの教えを守りこの列島に住み着いて要る訳ですから、列島の全住民が豊かになって
いくのを望んでいる筈です。この列島の先々を憂慮して、豊な〈国づくり〉を目指す連合国の賢明なる勇気ある取り組みに、反発している国々には、何とも理解し難い光景です。
決して倭人が、独自で他民族を制覇しよういう暴挙は、ゆめゆめあり得ないことです。将来は、列島の全住民が同じ歴史を作っていけば、単一の民族として統一されて行くからです。
その主旨が理解出来ず、反発する国々の王達も、民達に慕われ、民達の信頼を得て、責任ある立場で有りましょうから、地元の国の
繁栄を考え、是非〈連合国〉に参画されるよう、この席に居られる皆様のご尽力に、期待しているとの女王のお言葉です。さすれば、先祖から地元で頑張って来られた民達も、こぞって、自分達の国の王の英断に拍手を送ることでしょう
。
そして、女王が最も気に為されている第三点は、列島の各地で活動して来た〈フゲキ〉達の処遇です。
この数年間、訳の分からぬ内に、〈移動〉を禁じた通達が有り、戸惑いながら
この出雲の教えを、列島に
息づかせて来ました。そして、ほとんどのフゲキ達は
、その地域、地域に根づいて同化していき、土着の民達や長に慕われ、村々を色んな分野で守っています。
そして、フゲキ達の意思
は、その村々の民達の意思とも為り、それは、将来の子孫の繁栄を考えて行くことに成って行くことでしょう。
訳の分からぬ移動の禁止は、〈幸か不幸か〉この数年間で、フゲキ達がその村々で、生き延びて行くことを決意させたように思います。
それは、村々の民達が〈守り神〉として受け入れるのに、確かな足掛かりと
成りました。そして、将来は〈守り神〉と成ったフゲキ達には、出雲の故郷に
〈年に一度〉帰って来て貰いたいのです。
それは、各地に散らばる仲間達との情報交換をするのが望ましいからなのです
。
勿論、フゲキ達がその地域地域で、自分だけが〈守り神〉でなく、古から土着の民達が崇めていた〈守り神〉が同居していることが
、分かっているからの指示
です。その神を、フゲキの仲間達に紹介して行くようにすれば、沢山の〈神々〉が、民達を守って行くことでしょう。
ヒミコ女王のお考えでは
、[人間は、毎日を生きるのに必要な全ての物事に、自分達で為し得ない事は、あらゆる物〈自然の現象で
あれ、人々であれ先祖であれ、周りにある色んな事物であれ〉に手助けして貰わなくてはなりません。そしてその願いの為には、礼を尽くして崇めることに依って、自分達の存続を確保していくことが出来るのです。故に万物が神なのです
]とおっしゃっています
しかし、そういうフゲキ達とは別に、地域で残留を由とせず、意に添わぬ〈フゲキ〉は、遠慮せず出雲に帰って頂きたい。列島の各地でいろいろな経験を積んで来られたのですから、これからは、出雲の村人達を守ってやって欲しい‥、
と、〈フゲキ様達〉への、ヒミコ女王のご指示です
長々と成りましたが、最後に〈連合国〉の内容と将来の有り様、について女王の決意としての説明をして置きたいとのことです。
それと、申し遅れましたが、先ほど〈フゲキ達の処遇〉についての話の中で、
年に一度フゲキ達を出雲に呼び寄せる、という件ですが、ヒミコ女王とオオナムチ様‥、本日よりオオナムチ王様ですが、お二人で、皆を呼び寄せる場を〈稲佐の浜、出雲市〉の近くに大きな〈社〉を作って迎えたいとのお話があったことを
申し添えておきます。
では、話を戻します




