何故じゃ‥、?何故なのじゃ‥、!!ナギ・ナミの運命は‥、!?
その時、ドアが開いて、慌ただしく家人が入って来て、ニニギに走った。
「これ、ヨシノ‥、走っては駄目よ‥!」
とサクヤがびっくりして諌めた。
ヨシノはピタッと止まり、しずしずと歩いてニニギに
「宗像のイワナガヒ様がお越しに為られています。出雲のオオナムチ様より、急ぎヒミコ女王様に〈文〉を届けるよう、依頼があって来られたそうです」
ニニギは、オオナムチの名を聞いてびっくりした。
すくっと立って
「女王‥!出雲のオオナムチ様より〈文〉が届いており、急ぎ女王様にお渡しせよと、宗像からイワナガヒが来ております」
「ええ!オオナムチ様から、急ぎの〈文〉‥、と
‥!?」
ヒミコもさすがにびっくりして
「イワナガヒ様に、直ぐ来られるよう‥、」
と言われるやいなや、ヨシノは又、走ってドアへ向かった。
ドアの外で待っていたのか、ヨシノと入れ替わりにイワナガヒが入って来て一礼し、しずしずとジュウタン道を歩いて、ヒミコに向かった。
「まぁ~~貴女様がアズミ様の姫で、ヒコミコ殿のもう一人のお嫁さんね‥、」
と言うなり、ヒコミコをチラッと見て、イワナガヒに
にっこり笑って
「お便りありがとう」
と労った。
「女王様、お初にお目にかかり、大変光栄に思っております‥しかし、今は、オオナムチ様より急ぎと言うことで慌ただしく参りました。
どうぞ、これを‥、」
と、オオナムチからの〈文〉(急ぎの印に竹軸に赤の封印を施してあった)
をヒミコに手渡した。
ヒミコは手早く受け取り、封印を外し、竹筒を開きながら読み出した。
イワナガヒは、列の末端に向かった。
何と‥!ヒミコの顔は、見る見るうちに驚愕し、次第に涙が溢れんばかりの悲しみに陥ったようだ。
室内は、そのヒミコの悲壮な変化に、一体、出雲に何が起きたのか、不吉な想像さえ思い浮かばず、ただ身を震わせて来る思いだった。
ヒミコは〈文〉を閉じ、涙も拭かず
「出雲国の〈王妃ナミ様〉
が見罷られました‥!?」
「おお‥、!!」
と、どよめきが響いた
この列島で、ナギ・ナミ
夫婦が、出雲を立て直し、倭人の権威を高めた名声は
、誰もが認めていることであった。
もう今では、列島の何処へ行っても、子供から大人まで民達が崇拝する伝説の夫婦であった。
その一辺が崩れることは、一つの節目を迎えた、
ということに為るのだ。
「皆様‥!私は、これから
出雲へ向かいます。それで
、ホホデミ様はヤマトへ戻って下さい。代わりに私の
伴として〈イワレヒコ(ヒミコとは腹違いの弟。父ナムチとオオヒルメとの子。
ニニギとも兄弟で父が違う
)〉を指名します」
と宣言した。
ホホデミは、意義を唱えようとしたが押し留まった
。
[オオナムチ様の〈文〉には、もつと重要な何かが記して有る筈だ。それを女王が発表しないと言うことは、飛んでもない事態が出雲に起こっているのだろう
]
ホホデミは、自分が検索すべき領域で無いと感じた
。
「ホホデミ様、ヤマトへ帰って二つのことを私の代わりに努めて下さい。父ナムチの住む大神山の麓に在住する出雲出身の民達に村から暫く動かぬよう指示して下さい。そして、御所のワカタケヒ様(クニクル王の叔父)、オオヒコ様(クニクル王の長男)、岩清水のワニ様(クニクル王の世継ぎヒコオオヒヒ王の親代わり)、田原本のテジカラオ様(ナギが派遣したヤマト国の管理監)
達と相談して、私が戻るまで、クニクル王(倭人連合
国の政治を司る責任者)の
手助けをして、〈ヤマト〉の警護を抜からぬように心
がけて下さい」
「はい‥承知致しました‥
それで、女王は出雲でお弔いが終わったら、すぐヤマトにご帰還される予定で
‥?」
ホホデミは、今の指示で
出雲の異変を確信したが、
半ば何気ないように、平凡な質問をした。
「はい。そのようにしたい
ところですわ。でも、何が
起こるか分から無いので、
宜しくお願いします」
と、ヒミコも合わせて答えた。
「女王様‥、大変な折ですが‥ここは一息入れて、そろそろ皆様にお食事でもどうかと‥?」
タキツビメが手を上げて
申し出た。
ニニギとサクヤが、びっくりして押し留めようとしたが
「そうね‥余りにもせっかち過ぎたかしら、タキツビメ様‥、」
ヒミコはにっこり笑って
「お父様の〈スサ伯父様(
ヒミコの父ナムチの実兄)
〉とは、最近お会いに為って‥、」
「いえ、私が六才ぐらいの時に会ったきりです。十年ほど前にこの伊都に来たみたいですが、私は宗像でしたので‥、」
「そう‥それは寂しいでしょう‥、」
「いえ、アズミの父に可愛いがってもらっていましたので、そんなことは‥、」
「そうですか‥お姉様のタギリビメ、サヨリビメ、それに今度お義姉さまのイワナガヒ様(タキツビメの育ての親アズミの実娘)と一緒に、ヒコミコ殿と添い遂がれたのですから、お幸せにお暮らしですね‥、」
ヒミコにとっても従妹の
幸せそうな顔を見て、心から祝福の言葉を贈った。
「はい、それにお義父様やお義母様にも良くして頂いて‥
ただ、自分がお勉強しなくては為らない事で一杯です
‥、」
「そうですか‥それはそれは、頑張り甲斐の有るお勉強ですこと‥、」
ヒミコは、ちょっと首を斜め上に向けて、何か思いついたように
「そうそう、どうタキツビメ様‥、出雲にご一緒しませんか‥?久しぶりにお父上にお会いになったら‥」
「ええ~~本当ですか‥!!
」
タキツビメは、思わぬ女王の発案に、顔がパッと色めいた。
「女王様‥、それは!?」
サクヤが言いかけたが
「サクヤ様。心配は要りませんわ。私がタキツビメ様をお守り致します」
と釘を刺され、敢えてそれ以上の口を挟むことを控えた。
「ヒミコ女王‥、何ゆえに、出雲に混乱が生じているか分から無い時期に、妻を随行させようとしているのですか。時期が来ればお義父様が会いに来られるのでは‥?」
「ヒコミコ殿、私は無理強いなどして無いわよ‥ただ、十年も音沙汰なしと聞いて、良い機会と思っただけよ‥、」
と、ニコッと笑って、先ほどのイワナガヒと話していた時に、流し目を送った時と同じように、意味ありげに含み笑いをした。
[三人目は私でどう‥、]
「もう‥イヤだな~~女王は‥、」
と幼い頃のヒルメとの遣り取りに戻ったように照れ笑いした。
食後にヒミコは、アズミにナンシヨウメ達の帯方郡行き、ホホデミのヤマト行きの便を依頼した。
又、日向(宮崎県)の西都原のオオヒルメ女王には
〈文〉を書くので、それを直接、アズミが手渡すよう頼んだ。
「承知司りました。それで
女王様‥、途中、宇佐に立ち寄る便は御座いませんか‥、!」
アズミは、どうしても宇佐には立ち寄りたかった。
宇佐のミナカミヌシ王の弔いの為である。
「そうね‥アズミ様。母にも〈文〉を書くので、ヤマト行きのホホデミ様にお願いしますわ
。それでアズミ様には、西都原の伯母オオヒルメ様の
御返事を聞いた帰りに宇佐に寄って、母を連れて出雲に来て欲しいわ」
「はい承知ですが‥女王様は、出雲にどれくらい滞在ですか‥?」
「はい、まず一ヶ月は離れることは出来ないと思いますわ」
「はい承知つかまつりました。其れまでには、ツクヨミ様を必ず出雲にお連れ致します」
皆は、少し驚いたような気色をかもし出したが、何か女王の考えがあっての一ヶ月以上の逗留なのだろうと、ヒミコに一礼して、大広間から退座し出した。
ヒミコは、ニニギ、ホホデミ、ハコクニには居残るよう指示した。
イワレヒコが、何かヒミコに尋ねようとして引き返そうとしたが、ヒコミコに止められ大広間を出た。
三人の重役を残したのは、これから先、まだ重要な打ち合わせが有る‥、と
言うことなので、イワレヒコには、話が終わってから
尋ねたら良いと話しておいた。
ほとんどのものが退座すると、ヒミコの後ろに座っている付き人のヤマトビメ、モモソビメ(両名ともクニクル王の孫)に
「ねぇ~~ヤマトビメ‥、女の人は、還暦(六十才)に近い歳に為っても〈月の物〉が有るの‥?」
姉ヤマトビメにぼそっと尋ねた。
「ええ~~女王様‥!そんな女性は滅多に居りませんわ‥!!どうしたのですか
‥、そんなことをお聞きになって‥?」
「いや、少し気に為ることがあるのよ‥そう‥皆無ではないのね‥、」
「ええ~~一度、私が幼い頃に、還暦前の女性がヤマトで〈身ごもった〉という話を聞きましたわ‥、」
「そう‥、」
と呟いて、何か考えを巡らせていた。
じっと座に居残っていたホホデミが、痺れを切らして
「女王‥少しお聞きしたいのですが‥、先ほど、公孫度王に会いに行く元〈フゲキ〉仲間と言えば、〈韓〉に彼らの〈長〉として同行していた〈イクツヒコネ〉様が適任ではなかったのですか‥?」
「そうね‥でもイクツヒコネ様は、二年前に出雲に帰ってしまったらしいわ。それにナンシヨウメの報告によると、イクツヒコネ様よりも〈ミナトベ(ヒコミコ、サヨリビメと同行の長)〉様の方が、韓、漢の情勢を良く把握していて、いざという時の対処が勝れていると聞いたからですわ」
「そうですか‥それともう一つ、女王‥以前からずっと不思議に思っていたことですが、〈フゲキ〉達が何故〈韓の国〉まで活動しに
行ったのでしょう。技術や知識もずっと我々列島の人間よりも進んでいる国まで行かせて、何をさせようとしたのでしょう‥?」
「そう、そうね‥、私も今まで〈ハコクニ校長〉には
、お聞きしませんでしたが
‥多分、〈出雲の教え〉を
、揺るぎ無いものにする為の技術や知識を、より深く学ばせる為ではないですか
。それに、韓や漢の人達に
、列島の倭人を含む出雲の〈フゲキ達〉が、民達に文明の開眼を活性させる為の活動を見て、これまでの単発的な倭人達との接触をより広範囲な視野の元に見直して行くのではないか‥、
という一種のデモンストレーションとしての思惑があっての〈フゲキ達〉の派遣
だったと思うのですわ
‥、ねぇ~~校長‥」
ハコクニ(先の出雲国王タカムスヒの叔父の子)は
、ヒミコの話をじっと目をつぶって聞いていたが、時たま頷き、目を開けてはヒミコの顔を嬉しそうに見つめて、又、目をつぶって満足そうにこくりこくりと頷いていた。
「いや、女王‥まさにその通りです。先代の出雲国王のタカムスヒ様と王の娘のナミ様が嫁いだ現ナギ王と
私の三人で決めたことですが、ヒミコ女王の言われているところまでは考えていなかったと思います。気持ちはその通りなのですが、
イクツヒコネ達には只、〈
韓の国〉へ行って勉強して来なさいと言ったきりでした。イクツヒコネは、私達三人の意向を知ってか知らずか、帰って来てからの行動は、どうも、自分の重責に耐えられなかったのではないか‥、と思われます」
「と申しますと、王達の思惑は失敗に終わったと言うことですか?」
ホホデミは、自分も〈フゲキ〉として活動していたので、その趣向(フゲキ達の韓国行き)には、当時興味を持っていたのだ。しかし、現時点では倭人の連合国の台頭によって、フゲキの活動は支離滅裂と為っているのだ。
じっと二人の遣り取りを聞いていたヒミコは、話を戻そうとホホデミに、[もういいでしよう。その辺りでいいんじゃない‥、]
と目で促した。
「失礼しました女王‥、それで、我々には何か別にご指示でもあるのですか‥、
」
ホホデミが、三人の意向を代表して尋ねた。
「いや、そうでは有りません。ご三方には、出雲の状況をもう少し詳しく説明しておこうと思いましたので
残ってもらったのです」
[やはり、そうか‥何か重大な事が起こっているような、先ほどの指示であった
]
三人とも、同時にコクリ
と頷いた。
「ナミ王妃の死は‥、己自身の罪を背負って自害したそうです‥、」
「ええ‥、!自害ですと!?
」
三人とも驚きの余り、腰を抜かしそうになった。
「事はそれだけでは有りません。カグツチと言う祖母の叔父に当たる人が、その原因だと知り、怒り狂った祖父が
、そのカグツチという人を、切り殺したそうです
‥、」
「ええ‥、!!」
三人とも、本当に腰を抜かしてしまった。後ろに控えていた付き添いの二人も「キャ~~!!」
と悲鳴を上げた。
「これ‥、静かになさい‥、!」
ヒミコが後ろを振り向いて叱咤した。
ドアが開いてヒコミコが顔を出し
「どうかされましたか‥!」と急いで部屋に入ろうとした。
「ヒコミコ殿‥、何とも有りませんわ‥、!」
とヒコミコの入室を封じた。
日頃のヒミコ女王に似合わず、語気の強さに、ヒコミコは一礼してドアを閉じた
ヒコミコは、ナンシヨウメの時とは違って、今度は三人の重鎮との寄り合いには、少々気になる会合であった。
[出雲では、大変な事が起きているのだ。先ほどの会食の際には、ヒミコは話題にしなかったオオナムチの小父様からの〈文〉で、事態の深刻さがヒミコ女王の〈驚愕した顔と涙〉で推し量れるが‥只〈ナミ王妃〉の死だけではあるまい。大神山の麓の出雲出の民達の避難指示や、クニクル王への徹底した援護の指示は、出雲国人と倭人連合との大掛かりな衝突が引き起こっている‥、と暗示しているようだ]
ヒコミコは、何とも腑に落ちないヒミコの言動に
、ふっと連合国の将来を危ぶんだ。
ヒコミコの出現で話が途切れたが、ヒミコは顔も変えずに
「それでもう一つ重大な事が起こってしまっているのよ。出雲では‥、」
もう座の者は、誰もが顔が青ざめて、抜かした腰の養生をしながら、恨めしそうにヒミコを見ているだけだった。
「祖父様〈ナギ〉が、後事をオオナムチ様に託して、何処に行くとも言わずに出雲から去ってしまったのよ‥、」
「ええ~~!?」
最後の止めを刺すとは、このような時に使うのだと云わんばかりの、ヒミコの手の込んだ一撃だった。
「女王様!!出雲国はどうなるのです‥、!連合国はどうなるのですか‥、!?」
ニニギが喚くようにヒミコに問い詰めた。
「ニニギ様、落ち着いて下さい‥、!」
ホホデミもハコクニも、今までの成り行きを聞いて参ってしまっていたのに、ナギ王の失踪は、流石に天変地異が当に起こった、としか考えられない状況に陥った事を悟った。
「それで女王!出雲に行って、何を為されるお積もりですか‥、又、我々には何かすべき事が有るのでは
‥、?」
ハコクニは、気が動転していたが、年長の自分さえも狼狽えてしまっては、収拾がつかぬと思い、至って物静かに尋ねた。現にヒミコ女王は、今後の事をどう為すべきか考えているような落ち着きだ。




