宗像三神、無事に嫁ぎ先を見つける。次女サヨリビメの見事な策略の元、母親(トヨウケジ)の代わりを成し遂げた
オオナムチはさも自慢そうに、タギリビメの驚く様を見たさに拍車をかけた。
「七年前の〈辰韓〉との合戦での事ですがね‥タギリビメ様。その合戦で〈イ加
-イ邪郡〉を〈倭人国〉として半島(朝鮮)の一部に食い込ませたのは、ヒコミコ殿の大いなる功績に依るものだったんですよ」
「ええ‥!血筋だけで無く、戦にも秀でているの‥!?」
と驚いたあと、さもオオナムチがその人であるかのように、尊敬の眼でうっとり見つめた。
その眼差しに、オオナムチが逆に拍車をかけられた。
「そうなんですよ‥、タギリビメ様。ヒコミコ殿は、筑紫から伊都軍と奴国軍を率いて、半島の金海から
〈イ加-イ邪〉に入り、それまで劣勢であった倭人軍に勢いを取り戻させて、倭人軍の長のアキツヒコに代わって全軍の指揮を執り、辰韓軍を蹴散らしてしまったんですよ‥、のうワタツミ殿」
とワタツミに同意を求め、タギリビメには優しい眼差しを送った。
ワタツミは黙ってうんうんと頷き、ヒコミコの勇姿を思い出しながら、ヒコミコの顔を見て、満足そうに笑みをかけた。
「とんでも有りません。私は少々お手伝いしたくらいで、〈海戦〉で辰韓の船団を追い散らし、〈慶州(辰
韓の首都)〉に乗り込んで、辰韓国を威圧し、〈倭人国〉成立の交渉を成功させたのも皆、ワタツミ小父さんのお陰なんですから‥、」
と自負もあるが、さすがワタツミを前に置いては、余りの褒め言葉は控えて貰うよう一言、言っておかねば‥、と。
元々目立ちがりやで、タキツビメに似て天真爛漫な性格なのに、後々自分の発言に規制がかかっては、ちっとも面白く無いのだ。
その時、ドアが開いて女性が付き添いを連れて入って来た。
客人に一礼して、アズミの側に来て、手に持った竹を繋いだ束を渡した。暫くアズミは順番に一つづつ竹に刻んだ文字に目を通し
「オオナムチ様、ワタツミ様‥ナミ王妃、ヒミコ女王様からの贈り物、誠に有り難く頂戴致します。お帰りに為られましたら、王妃、女王様に、この片田舎の宗像族が、どれほど光栄であったかをお伝えお願い致します」
三人とも立って目礼を交わした。
「それでは皆様、後はごゆりと団らんの宴を楽しまれて下され‥、」
とアズミは、二人を連れて部屋を出た。
「で‥今の二方の女性は何方なのですか‥?」
と、紹介も無しに退室したので、ワタツミが不思議そうにサヨリビメに尋ねた。
「はい‥一人は、母親を早く亡くした従妹のイワナガヒの乳母〈めのと(実母の代わりに乳を与える女性)
〉だった女性で、付き添いの女性は、先ほどお出迎えに出ていた少女の母親ですわ‥、
と答え
「めのとの〈ハヤスヒ〉様は、父〈アズミ〉のお妾さんみたいな立場ですの。父はまだ正式に嫁として、部族の皆さんに発表していないのですよ。だから、ワタツミ様やオオナムチ様にも紹介出来なかったのですわ‥、」
とサヨリビメは、わざとワタツミの名を先に上げた。
二人の立場上、オオナムチは次期「出雲国王」に成る身であり、年もオオナムチの方が嵩んでいる。
サヨリビメは、先ほどの
オオナムチとタギリビメの
二人の睦まじい様子を伺い
[自分はワタツミ様に取り入らねば‥と。事実ワタツミ様もその気で私に声を掛けてくれた筈よ]
サヨリビメは、ニッコリ控え目に艶っぽく笑ってワタツミに説明した。
[何と色香のある美しい女性だわ‥、]
とワタツミも、昔出雲の会議で会った母親のトヨウケジを思い出し、ほんに母親にそっくり似て、何と魅力のある女性なんだろう‥、と思いながら
「そうですか‥次に会う時は、お嫁さんとしてアズミ様は紹介してくれそうで、楽しみですな‥、」
[しまった~~!]と思ったが、時既に遅し
「まあ~~ワタツミ様‥、一目みてもうお気に召したのですか‥、!」
とサヨリビメは、ちょっと子憎らしげにワタツミを睨んだ。
「いやぁ~~飛んでも無い!!サヨリビメ様の足下にも及びませんよ、その美しさは‥、」
と。
咄嗟にワタツミは、サヨリビメの機嫌を取り戻そうと、あらぬ失言を口走ってしまった。
周りの女性群は
「まあ‥!?」
と合唱のように咎めと羨望の混じった、驚きの声を上げた。
「ほほう‥、ワタツミ殿は
、何食わぬ顔でずっと静観を決め込んで居られたが、
実は、サヨリビメ様に何時
告白するかの気を狙っていたのですな‥、」
オオナムチが、女性群に相槌を打つようにワタツミを追い詰めた。
「何をおっしゃいますか。そんなことは有りませんよ
。たまたまの話の流れでの失言です‥、」
と又、訳の分からぬ答えに
、座はどっと湧いた。
事が終わって身繕いしながら、まだ息の荒い男の丸出しの陰茎あたりに、そっと布を被せた。
「本当に、ちっとも昔から変わらないわね‥、」
「何が‥?」
「そうでしよう‥もう自分の欲望を吐き出すだけで、相手の事など少しも構わないんだもの‥、」
「そうかな‥貴女だって、かなり激しく燃えていたじゃないか」
「バカねえ~~女はそういう風になったら自然に夢中に為ってしまうものなのよ
」
「それで良いんじゃないの
‥?」
「そうじゃ無いのよ‥、女の人は、男の人に愛されていると感じながら行うのと
、互いの欲望を吐き出すだけの行為とは意味が違うの
‥、」
「‥?じゃあ、私は貴女を愛していないというの」
「ふ~~ん、愛しているの‥?まじで私を‥!」
女の事の後の薄く桃色に染まった艶っぽい微笑みに、男は目を輝かして、再び挑んで来た。
「ええ‥!又あ~~」
再び激しくぶっつけ合う
ように絡み付き、互いに貪り合いながら飽くことはなかった。無我の域に陥った女は絶頂に達し、思いっきり叫び声を上げた。
男は慌てて自分の唇を女の口にぶっつけ、思いっきり吸い込んだ。
二度目の事が終わって、
互いに荒い息づかいが収まった頃を見計らい
「もう‥、これでお終しまいにしましょう‥、」
ぐったりして身体の上に乗っかったままの男の横顔に、優しく声を掛けた。
「ええ~~どうして‥!?
」
急な思わぬ言葉に、男は抱いていた手を放し体を起こした
女はじっと彼を見上げ
「貴男は、タキツビメと一緒に為りなさい‥、」
「ええ‥!!」
「そして同時にイワナガヒにもよ」
「ええ~~又‥なにを言ってるの‥!?」
ヒコミコは、彼女の前では男になったり弟に為ったりするのだ
「そして、お姉様はオオナムチ様と旅立たせるわ‥、」
「‥!?」
矢継ぎ早に、もう何を言い出すのか、ヒコミコの頭は真っ白に為った。
「オオナムチ様は出雲にかえれは、お嫁さんは何人かいるわ。お姉様も、住吉(大阪)に男の子を残して帰って来ているのよ。どちらも、寄り添うのは難しいように見えるけど‥、そうでは無いわ」
「何故、そう言えるの‥?
」
「お姉様の夫ホホデミ様(父が住吉の王)は〈ヒミコ〉さんが女王に成って付きっきりの生活で、もうお姉様とは〈夫婦〉という名ばかりで冷え切ってしまっているわ。お姉様は、住吉の義父オオワタツミ様に子を預け、ホホデミ様に別れを告げて宗像に帰って来たと聞いたわ」
「ええ‥!そうなのですか
‥すると、ホホデミ様はヒルメ、いや〈ヒミコ女王〉と一緒に為る積もりですか
‥?」
「イヤ‥、ヒミコさんは結婚などしないわ。例え、男と女の関係に成ってもね‥、」
「女王は結婚出来ないと
‥、!」
「そうでしよう。ヒミコさんは、私達と違って、恐ろしいほどの霊感強い持ち主と聞いているは。女王に為られのは、その霊力に止まらず、ずば抜けた学識を備え、物事の判断に他を圧するほどの説得力を持ち、その判断についての実行は、他に有無を言わせない決断力を兼ね備えていると聞くわ‥、それを見込んで、お祖父様の出雲国王〈ナギ〉様は、〈倭国連合〉を成功させられるのは彼女しか居ない‥、と決められ、女王が誕生した‥、と聞いているのよ。私はだから、ヒミコさんが結婚したり、子を産んだりしたら霊力が薄れるのは目に見えていると思うのよ‥、」
「‥、」
ヒコミコは、幼い頃ヒルメに、「宇美の里」からの旅立ちの時、[無事に戻って来たら俺の嫁さんに成ってくれよ‥、]と言った事を思い出し、懐かしさと寂しさが同時に込み上げてきた。勿論、当時はナンシヨウメに対する当て付けが混じっていたが、自分もヒルメに対しては少なからぬ好意を寄せていたのだ。
そんな‥ヒコミコの回想など頓着せず、サヨリビメは話を続けた。
「それに、オオナムチ様の嫁達にも問題があるのは、
嫁にしている女性達が、玉造族(新潟姫川)や三内円山族(青森市)、越(こし、石川県)の国の娘ばかりで出雲出の女性は誰も居ない‥、ことなの。これは次期国王としては問題よ。姉は、オオナムチ様の姪に当たるのよ。偶然にしては出来すぎじゃない〈彼女の母はオオナムチの妹〉。二人が一緒になるのは、理に叶ったお話しと思わない‥、」
サヨリビメは満足そうに、画策のやりがいがあることを、ヒコミコに同意を得るように目で促した。
「それで‥、それで、貴女はどうされるのですか‥?
」
先ほど、自分(ヒコミコ
)とはもう終わりにしようと言った。何か魂胆があるはずだ。
「う~~ん‥私はワタツミ様についていくわ」
「ええ‥!?」
ヒコミコは、唖然として
言葉が喉に詰まった。
[何と言う人だ‥、姉の夫
(ホホデミ)の叔父に、今度は妹の自分が迫っていくというのか。そして、姉には次期出雲国王をあてがって王妃を狙わせ、この私には、二人の嫁を同時に娶らせて、私の父(伊都国王ニニギ)の国と、祖父(奴国王アシナカツ)の国とを統括する準備をせよと‥、何という縮図を画策しようとしているのだろう‥、]
ヒコミコは、自分の体の下で楽しく微笑みながら喋っている「サヨリビメ」が、もう自分には手の届かない、今まで会った事が無い空恐ろしい女に見えた。
三日後に、オオナムチ、ワタツミは出発した。それぞれ、新しい嫁と呼ぶべき女性が側にいた。
ヒコミコは、宗像王のアズミに、タキツビメとイワナガヒを同時に嫁にしたいと申し出た。
びっくりして始めは反対していたが、タキツビメとイワナガヒの二人に意見を聞いて、という条件で受けてくれた。
アズミとしては、世間知らずのタキツビメに、しっかり者のイワナガヒを付けてくれるという事は、有難い申し出であったのだ。
そして、以外にも(?)
二人とも反発もせず承諾してくれたのだ。
全て、「サヨリビメ」の思惑どうりであった。
それは何も驚くことではなくただ彼女が、母親代わりに〈宗像家の娘達〉の伴-イ呂を無事引き当てた。という役を果たしたに他為らないのだ。それでもその画策は見事であった。
それから二ケ月後、〈ヒミコ〉が「宇佐」に〈ホホデミ〉を伴って、曾祖父「ミナカミヌシ」の弔いに来た。




