ミナカミヌシの弔問からの帰りにオオナムチとワタツミは宗像に向かい、美女三人に面会する‥?
「ヨシ、この衣を姫に持って行って、すぐ起こすのよ‥、」
「はい‥、」とヨシは慌てて、タキツビメのもとに走った。
広い浜辺から、傾斜の先の平地の向こうの高台を越えて、直ぐの所に彼女達の住まいの在る村が有るのだが‥何か用で来たとしたら、首長の館の在る陸〈福岡古賀市。いずれ現在の宗像市に本拠地を移す〉からなのだ。
「何かあったのかしら‥?
」
いつの間にか、タキツビメが横に来ていて、イワナガヒに尋ねるともなしに呟いた。
あっと思い、イワナガヒは後ろを振り向いたが、ヨシの言う男は居なかった。
「姫様あ~~館にお姉様方がお目見えです‥、!」
ヨシの父は、近づくと大声で叫んだ。
「ええ‥、お姉さま達が
‥!三人とも来たの‥、!!」
「いえ、お二方です‥、」
ヨシの父が残念そうに答えた。
「とすると、オオゲツのお姉様は来なかったのね
‥?」
「はい‥サヨリビメ様とタギリビメ様お二人です」
「そう、ありがとう‥タスケ。すぐお家に戻って、支度して館に行くわ‥、父様にそう伝えて。お姉さま‥
早く行きましょう!」
とイワナガヒを急がせた。
ハイハイと答えて、イワナガヒはヨシに目配せした
。さあ~これから忙しく成るわよ‥、という合図である。
〈伊都国(筑前前原市)〉や〈奴国(福岡市)〉の館に一回りも二回りも小さい造りの宗像の館に、タキツビメが着いた時、二人の姉は何かしきりに話し合っていたが、末の妹の顔を見るなり
「まあ~~タキツビメ‥、大きく成って美しゅう成ったわねえ‥、!」と、二人とも同時に声を発し、抱きついてきた。
二人に会うのは、タキツビメにとつては、別々に六、七年ぶりの再会であり、サヨリビメとタギリビメの二人の再会は、実に十三年振りにもなる。
ヒルメ達を連れて「宇美の里」を旅立った日から、二人は一度も会っていなかった。その為の積もりつもった話に尽きようがなかったが、その中でも、あの時に居た〈オオゲツ〉が自分達の妹であったことが、大変なショックであった。
二人に取って、大いに悔やまれる出来事であったのを、泣きながら残念がっていたのだ。特にサヨリビメは、父も一緒であり、父が伊勢に行く前に、オオゲツが生まれて居たことを知っていたのだ。
それが何と、彼女が十才の旅立ちの時会って居たのに‥、タギリビメも同じく、彼女が、二人の班とは違うグループで四国へ旅立ったのを[母はどうして知らせて呉れなかったのだろう]と、西都原(宮崎県)で母に泣きながら、その悔しさを訴えたのをサヨリビメに話して、又、二人で先ほどまで泣きじゃくっていたのだ。
「まあ~~お姉様‥!?」
二人の顔を見て、先ほどまで涙を流して居たのがすぐ分かった。
「ええ‥!どうかされたの
‥!?」
びっくりして二人に問うた。
「ごめんね‥タキツビメ。会ったそうそう泣き顔を見せるなんて‥、馬鹿な姉達だわ」と、ニッコリ笑ってサヨリビメに相槌を促した。
「タキツビメ‥何でもないのよ。心配しないで‥、」
「でも何かあったんでしょう。お姉様達も互いに久しぶりに会われたのでないの‥?」
「そうよ。もう十三年に成るかしら‥?」と、サヨリビメが、懐かしそうに昔を思い浮かべるように言った
。
「でね‥その時に私達は、妹のオオゲツに会って居たのよ。二人ともその時知らなく、私がヒルメ‥そう今は倭人の女王に成っている方だけど、その方を連れて日向の西都原に行った時、母に会ってその事を知ったの。もう、悔しいやら腹立たしいやらで、何度も何度も母を責めたわ。どうして
〈宇美の里〉を旅立った時に教えて呉れなかったのかと‥、さっきそんな話をサヨリビメに話をしていたのよ‥だから心配しないでね
‥、タキツビメ‥」と優しい眼差しで、じっとタキツビメを見つめた。
彼女は、四人姉妹の長女である。
「それでは、母様は何故に
お姉さま達には、お話出来なかったのでしょう‥そして、オオゲツのお姉さまは
、その事を知って要らしたのですか‥、」
「いや、勿論知らなかった筈よ‥、母が打ち明けられなかのは、当時〈フゲキ〉としての身の自分が、余りにも自由奔放に生きた罪の深さを意識した為、娘達を
犠牲にしてしまったと悩んでいたわ。そして、オオゲツは今でも私達姉妹のことを知って要るかどうかなの
‥?ただ、最近の噂によると、オオゲツはヒルメ、いや〈ヒミコ〉女王のもとで
〈葛城〉や〈難波〉の田畑の収穫を増やすのに苦労している、と聞いているわ。だから〈ヒミコ〉様は、西都原で母のトヨウケジに会っているし、その母が仕えている、西都原の女王として君臨しているオオヒルメ様とは、〈伯母〉、〈姪〉の仲だから、私達の母のことは良く知っていると思うのよ。だから、今頃はオオゲツも私達四人姉妹であることは分かっていると思うの」
一気に喋ってタギリビメがほっとした時に、ヨシを連れてイワナガヒが入って来た。
「まあ~~お姉様方良くいらっしゃいましたわ。お帰りなさい。もう何年に成りますかしら‥?お元気そうで何よりですわ‥、」
と本当にに嬉しそうに挨拶した。
イワナガヒにも姉達が帰って来たので、タキツビメの面倒も少しは解き放たれるかも知れない‥、という期待もこもって要るのである。
「本当にお久し振りですわ
‥、イワナガヒ様。私達、何とか無事に生きて戻って来れましたわ‥、」
と冗談も含めて、サヨリビメが抱きついて来た。
「まあ~~お姉さま‥、益々色っぽく成って、殿方達を丸め込んでいるのでしょう‥?」
とこれ又、タキツビメと一緒の時には考えも付かない言葉が口に出て、自分で口を押さえて、恥ずかしげにタギリビメに救いを求めた。
「あら‥!イワナガヒ様も言えるように成ったのね。そうよねえ~奔放な妹の面倒ばかりじゃあ、ストレスも堪るわよねえ~~タキツビメ‥?」
と言われ、如何にも自分の為に姉の〈イワナガヒ〉
が困っているかのような言葉に
「まあ~~お姉さま‥、そんなに私のことで苦労しているの‥!」
イワナガヒに、不思議そうに尋ねた。
イワナガヒの父は、この宗像の国の王である。
父の兄の「サルタビコ」が伊勢に行ってしまったので次男の父「アズミ」が跡を継いだ。[当時は、種族や民族によって、長男か末息子が継ぐかまちまちで、末息子を継がせるのは、長男が父と年が近いので、
安全を考えての狙いであった。将来、儒学の浸透により長男に統一させる]
そして、兄の嫁が
、娘達四人を先代の王の〈シイネツヒコ〉にたのんで出雲に帰ったので、シイネツヒコ亡き後、イワナガヒの父〈アズミ〉が、四人の父親代わりと成って現在に至っている。
[トヨウケジは、宗像の王に頼んだものの、娘達の父親が、シイネツヒコの息子のサルタビコだけでは無いので、不安が残り、自分の父(タカムスヒ王)を継いで「出雲の王」と成った〈ナギ〉に、「四人の親」として面倒見て貰えるよう〈シイネツヒコ〉に確約を取って貰っていた]
サヨリビメとオオゲツは、アズミの兄のサルタビコだが、タギリビメは大国の伊都国の亡き王オシホミミであり、タキツビメの父スサは、これ又大国の出雲国王ナギの息子で、倭人達連合国の重鎮である。そして、兄の嫁のトヨウケジさえ、出雲王国の先代王の娘ときている。
片田舎の小さな国の王としては、位負けしてしまうのである。
しかし、娘達は〈アズミ〉を本当にの父のように慕っているのだ。
自分達の故郷であり、「宗像」は帰って来なければ為らない里であることに、疑いを持って居ないのだ。
その叔父のアズミ王の娘がイワナガヒであり、イワナガヒはその四人姉妹とは、姉妹のように育つた。
しかし、イワナガヒには四人姉妹に対しては、逆に遠慮があって、控えめに対応していたのだった。
タキツビメ以外、タギリビメもサヨリビメもオオゲツも姉になる。まだ二十才を越えたばかりだ。ちなみに奴婢のヨシは十三才。
皆で、朝の食事の支度を整えて父のアズミを呼んだ
。
当のアズミが、少し暗い顔をして部屋に入って来た。
「お父様、どうかされました‥?」
とタギリビメが、心配そうに様子を伺った。
「イヤ、先ほど〈文〉が届いて‥、宇佐の〈ミナカミヌシ〉様が亡くなられたそうじゃ‥、!」
「ええ~~ミナカミヌシ様が‥!?」
タギリビメは昔、ミナカミヌシと会って話もしている。「ヒミコ女王」の曾祖父であり、立派なお方だったことを記憶している。
「なぎ王とヒミコ女王の代理で出雲から〈オオナムチ様〉、葛城、イヤ今は〈ヤマト〉だったな。そちらから〈ワタツミ〉様が急ぎお悔やみに行かれたらしい。そして、その帰りにオオナムチ様とワタツミ様が、この宗像に寄りたいとおっしゃってきたんだ。お二人が来られるのは嬉しいことだが、ミナカミヌシ様は、昔私の父のシイネツヒコが若い頃に大変お世話になったと聞いていたので、機を見てご挨拶に行こうとしていた矢先だったのだ。非常に残念に思っているのだよ‥、」
と、考え深げに両手を合わせて目を閉じた。
三日後の早朝に、宗像の津の入江に大きな船が停泊しているとの知らせが館に入って来た。
タギリビメ、サヨリビメ、イワナガヒは慌てて津に向かった。
三人が、いやヨシも入れて四人が津に着いてみると、入江を入った入り口付近に、二~三十人がゆうに乗れるような船から、三隻の小舟が津に向かって来るのが見えた。
「まあ~~何て大きな船なの‥!今まで見たことは無いわ‥!?」
と、タギリビメが感嘆の声を上げた。彼女は今まで、難波の住吉で暮らして居たので、いつも船は見ていたが、せいぜい大きくても十人そこそこしか乗れない交易船しか見て居ない。イワナガヒも、この宗像の交易船を常に見ていたが、同じ思いだった。
「本当に大きな船だこと‥、!」
サヨリビメも、吉野ヶ里から筑後川をくだって有明の海で見ていた交易船とは、比べものに為らないのでびっくりして言った。
三隻の小舟が着いて、二人の男が降りて、此方に向かって来た。
「お嬢様~二人ともお年寄りですよ‥!」
とびっくりした眼差しで、小声でイワナガヒに訴えた。
「ええ‥?ヨシ、何言ってるの‥!」
「だって、お姫様方のお見合いの相手のお方達って、
私聞いていましたよ‥こんなお年寄りなんですか‥?お相手は‥、」
「バ~~カ、何言ってるの。誰がそんなことを言いふらして居るのかしら。タギリビメやお姉様方の恩人で、。他所の大きな国の王様くらいにお偉いお方達なのよ。若い訳が無いじゃない‥それに、お見合いのお相手ではないので、変な目であの方達を見ては駄目よ‥!」と、厳しく言いつけた。
船から上がって来た二人は、迎えが女性ばかりだったので少し驚いた様子を見せたが、唯一タギリビメと面識のあるワタツミが
「おお~~貴女でしたか!
もう住吉からはお戻りになったんですな‥、」
「ええ~~!叔父様。四~五日前に戻って来たばかりです‥でも、ミナカミヌシ様が、お亡くなりになった何て残念ですわ。此方に戻る前に宇佐に寄れば良かったと、つくづく後悔していましてよ‥、」
「そうでしたね‥、甥のホホデミ、いや~貴女のご主人ですが‥〈フゲキ〉時代に立ち寄られたと聞いていましたよ‥、実に残念です。私もヒルメ〈ヒミコ女王〉様が生まれて暫くの間
、ずっとお世話になりっぱなしでしたので‥、もう二十年振りに成ります。宇佐に戻ったのが‥、」
と、会う早々二人の会話は湿っぽくなった。
「まあまあ~~お二人とも‥それは残念な事でしたが‥、どうでしよう。美人のお嬢様方の出迎えに花火でも上げたいくらいなのですが‥、」
と少々ふざけ気味であったが、場を戻そうとした。
「おほほほ~~本当に面白いお方‥、」
と、サヨリビメがオオナムチをカバーした。
「オオナムチ様、ワタツミ様。お疲れと思いますわ‥、どうぞ、館へ参りましょうか‥、」
イワナガヒが、場を取り繕うように皆を促し、館の方へ足を向けた。皆が歩きだすと、自分はヨシと一緒に一番後ろへ付いた。




