オオゲツ〈十才の時一緒に旅立ったヒルメの親友〉登場
[国を創るということは、どういう事なのかしら‥
大国の攻めに、守り切れる大きな国づくりが、、私達〈倭人〉の祖先に対する責務であり大義でも有るのだ。しかし、この列島はいろいろな人種、民族の寄せ集めで衣・食・住の確保の為に一生懸命働いて、その成果に一喜一憂し、子孫の存続に夢を託しているのだ。それ以上のことを望んでいる訳ではない。現に、隣国の半島(朝鮮)にしても、大国の中国も内部紛争で、他国に攻めいるような状況ではない。この列島で一人「倭人」だけが、そのような危惧の念に陥り、この列島の多民族の思いを理解することなく、制圧しようとしているのでは無いかと‥、]
ヒミコはそこまで考え、
幼き頃に旅立で別れた、オオゲツの言葉を思いだし、阿波(四国徳島県)にいると聞く、オオゲツに会いに行くことにした。
「奥様~~大変です。葛城の〈倭人〉の女王が、この村に来るとの知らせが入りました。何か落ち度でも有りましたのでしようか‥?
奥様に会いに来ると言うことらしいですが、心配でなりません‥、」
奴婢(ぬひ、召し使い)のサキが慌てふためいて、
オオゲツに早口で伝えた。
「まあ~~ヒルメが私に会いに‥?」
十年近く前に、遠賀川で別れて以来だわ。ふ~~ん何か困ったことが起きたのかしら‥私になんかに会いに来るなんて、ヒルメらしくないのに‥、偉くなると悩みも多く成るのかしらねえ~~でも、嬉しいわ。私のことを忘れて居ないのね
。うふふ‥、と含み笑いを漏らした。
サキはその様に驚いて
「奥様~!笑っている場合では御座いませんわ。〈倭人〉はあちこちの村や国を脅して、仲間に引き入れて居るそうですよ。まさか‥
この村をも狙っているのでは‥!奥様大丈夫ですか
‥?)」
「サキ‥大丈夫よ。そんなにぺらぺら喋らず少し黙ってなさい‥、」と、サキにくぎをさした。
畦道の向こうから十人ほどの男女が、この村に歩いて来るのが見えた。
あら‥ヒルメじゃないわ。ヒルメなら輿に乗って来る筈だわ‥、オオゲツは
危ぶんだ。
オオゲツが出迎えに立っているのを見ると、男性の連れを残して、三人の女性がオオゲツに向かって歩いて来た。
オオゲツは、戸惑いながら三人の顔を見比べ
「まあ~~ヒルメ‥、どうしたの!!」
と、その一人に抱きついてきた。
「オオゲツ‥、!!」
と、ヒルメも感慨深く彼女
を受け止めた。
普通の民達の女性が着る〈単頭衣(たんとうい、ワンピース)〉姿に驚いたオオゲツだが、そんなことよりも、幼き頃に別れた〈ヒルメ〉にようやく会えたことに感激し、抱き寄せてくれたヒルメの温もりに
「ワア~~!!」と大声を発し、泣き崩れそうになった
。
サキもヒルメの付き添いの二人の女性も、その様にびっくりして、目を白黒させた。
まさに、幼い時に別れた母親にようやく会えた娘の、悲願が叶えられた一瞬の情景がそこにあった。
「まあ~~オオゲツ‥!本当に昔と変わらず泣き虫ね
‥、」
ヒミコは、束の間の時を与え、オオゲツの両肩を持って身体を離し、じっと涙顔のオオゲツを優しく見つめ、母親のように言った。
オオゲツもヒルメの意図を知り、もう子供の頃と同じゃいけないんだわ‥と感じ、涙を拭きながら
「ヒルメ‥今日はどうしたの‥!女王に成ったんでしょう‥、こんな服装で‥?
」と、しっかりした口調で尋ねた。
〈ヒミコ〉も、そのオオゲツの言葉に反応し
「そうよ、オオゲツ‥今日は、田畑のことを貴女に教えて貰いに来たのよ」
とニッコリ笑って答えた。
[筑紫の〈宇美の里(福岡県直方市近辺)〉を旅立ってもう十年近くになる。当時十才に成ったオオゲツは
、ヒルメ、ヒコミコ、ナンシヨウメの四人と共に、〈フゲキ(巫-巫頁)として地方へ先輩の〈フゲキ〉達に連れられ旅立った。
それぞれ四組に分けられ、
オオゲツ達は四国へ。伊予
(愛媛)、讃岐(香川)、阿波(徳島)、土佐(高知)を三年掛けて巡り、その地の村々を訪ね、出雲の〈教え〉である〈村と村、国と国の共存共栄〉や〈助け合い〉が如何に大事であるかを説きながら、田畑の改良を手伝った。季節ごとの天の恵みに感謝し、逆に天の怒りを静める雨乞いなど、占いの仕方を教え歩いた。
オオゲツは十三才を過ぎた頃から、田畑の耕作について、並外れた知恵を発揮し、二度目の巡礼には、各村々に具体的な指示を与えられるように成っていた。
[どの村もどの国も今、与えられた地形の中で田を耕し、水田で稲作をしているが、これでは、それぞれの民達の食い扶持しか生産できていない状況だわ。天候不良で、大雨が降り田畑が流されたり、日照りが続き
雨が降らない日が続いたら、一変に飢餓にに成ってしまうだろ。早く水田に為る地を増やさなければならない。しかし、稲作には広い土地が要り、水が常時絶やされない造りにして
置かなければ為らない。おまけに年毎に改良を施さないと、安定した稲作が出来ないのだ。
又、畑は少ない耕地面積で生産が可能だし、水は適当に有れば育ち、寒冷にも耐えられる種類も有る‥、が何せ、まだこの列島で分かっている食材になる木や草が、少なく限られている。もっともっとその地域地域で、食材になる草木を調べ、他国へも持ち出せるようにするのだ。
そして一番大事なことは、土壌を育成していくとだ。そのままの地では、当たり外れがあり、畑では肥やしを、水田では水が地に沈んで行かないように工夫して行かねば為らない。そうしないと、種を蒔いたり、苗を植えても充分育たなく食材にならないのだ。
私は、それに気が付いたのだわ‥、]
「へえ~~ヒルメ‥、女王様に成っても、田畑のことをお勉強しなくちゃあならないの‥?」
オオゲツは、ヒルメがその頭の良さと、霊力の鋭さで、女王として成り立つ思っていた。
「これ!女王様のお名前は〈ヒミコ〉様です‥、」
と口を挟まれた。
オオゲツはぺろっと舌を出して
「そうですよね‥済みません。ついつい幼い時の名しか思い付かないもので‥、」と、少々年増の女性に頭を下げた。
「ヤマトビメ‥いいのよ〈ヒルメ〉で。オオゲツは私の唯一の幼なじみで親友ですよ‥、ヒルメで良いのです。
それでオオゲツ‥、少しばかり此処に居て、貴女がやっている田畑の育て方を見たいのよ」
「そりゃあ良いけど‥、少しばかりかじっても、田畑を自分で作れるものじゃないわ‥?」
「うん。それは十分承知よ
。それで‥相談が有るのよ
」
「何て‥?」
貴女に葛城に来て欲しいの‥、」
「ええ~~!それは無理よヒルメ‥!!これでも私は〈伊予の二名の島(四国)〉で大変忙しくして回っているのよ‥、今此処を抜けることは出来ないわ。おまけに〈倭人の国〉でしょう葛城は‥?いやだわ‥
出雲を蔑ろにしている国にいくなんて‥、」
「そうですよ女王様。奥様は、この四つの国の民達が皆、奥様にしょっちゅう遠い所からはるばる来られて、相談に預かって居れますのに‥奥様が此処を離れたら、その方達がお可哀想ですわ‥、」
サキがすかさず、オオゲツの援護で反発する。
「サキ‥!もう黙ってらっしゃい‥、!」
オオゲツが、恥ずかしそうにヒミコを見てサキを叱った。
「まあ~~頼もしそうな奴婢ね‥オオゲツ!」
ヒミコはクスッと笑って
、真っ赤に成ったオオゲツを冷やかした。
自分が仕えている主人の会話に、口を挟むのは、当時も当然ご法度だったので、オオゲツの奴婢に対する躾が問われることになるのだ。
「ごめんなさいねヒルメ‥
イヤ、ヒミコ様。もうこの子ったらべらべら喋って、私の言うことなんかちっとも聞かないんだから‥、」
と〈サキ〉をキッ‥と睨み付けた。
サキは、少々出過ぎたか
‥と頭を下げ、こそこそっと尻から逃げて、客にだす為の「水」を取りに行った。
ヒミコもオオゲツも、二人の付き添いの女性達も、
顔を見合せてクスクス笑いだした。
「ねえ‥オオゲツ‥、私達は、生まれた時から親の言うままに〈出雲の教え〉を学んで、〈フゲキ(巫-巫頁)〉として旅立ったわ。
でも〈出雲の教え〉や〈フゲキの活動〉とは何だったのかしら‥?」
「何を言ってるのヒルメ!
今更‥!?」
オオゲツは、〈ヒミコ〉が〈倭人の女王〉に成ったので、出雲の教えやフゲキ達の活動を阻止する為に、
無意味な教えであると疑いだしたと思った。
「出雲は、大昔から大海(日本海)の列島の海岸沿いに栄えた村々の中でも、最も勝れた国々の一つに育つたと聞いたわ。それは、
半島や中国の大陸から移住して住み着いた人々の知識の中でも、道教(老子)の教えや儒教(孔子の教え)の教えをかじった人々が、実際の生活を助ける畑作、稲作の勝れた耕作の仕方を、早々と取り入れて、少しずつ成功していった為だと聞いているわ。そして時代が経つと、陸奥の三内円山(青森)や姫川(新潟)からも大量に移住して来て、出雲国がより大きくなり他の地域の人々にも、その恩恵を分け与えねばならないのだ、と。そのように、〈出雲の教え〉の生き様を私は理解して居るのよ
‥、〈ヒミコ〉様が〈倭人の女王〉に成ったので、そのような歴史のもとの〈出雲〉が邪魔になって、そんな風に考えるようになったのね‥?」
ヒミコは、オオゲツの最後の言葉に少しギクッとしたが
「そうではないわオオゲツ
‥、出雲の歴史は、その時代、時代に添った的確な判断と決断を持って行動し、立派な国づくりをしたと私も思っているわ。今でも、私は当然〈出雲の巫〉として自覚しているのよ‥、それと〈倭人の国づくり〉とは、別問題と言いたかったの」
「というと‥、それはどういうこと‥?」
「私達の曾祖父の生まれた頃よりずつと前(約百五十年前-西暦五十年頃)から、この列島の情勢が変わって来たのよ。列島のあちこちの村々が合併して国となり、その勢いで半島や大陸に〈交易〉し出したのよ
。それより以前からも多少は行き来していたとは思うけど、実際、半島(朝鮮)も大陸(中国)も海一つ隔てているだけで、航路が出来ていれば、大昔から死を覚悟してでも行き来はしていた筈だわ。ただ、それは、百五十年ほど前とは、
目的も規模も違ったはずよ
」
「それが‥〈倭人の国づくり〉にどう結びつくの?」
オオゲツは、ヒルメが何を説明しようとしているのか、少々戸惑った。
「ごめんね‥話が少し長くなってしまって。要するにねオオゲツ‥、〈出雲〉の活動では、この列島を一つの国に纏めることは出来ないのよ。今まで、各地域の村々や国々に大きな援助をしてきたのは確かなことだけどね‥、」
「どうして‥?各地域が栄え、安定していけば、同盟関係がもっと進んでいき、話し合いで一つの大きな国として成り立つのじゃないの‥、」
「そうじゃ無いわ。この列島はいろんな人種、民族で成り立っているのよ。自ずと彼らの歴史があつて、皆、別々の趣向の元に子孫を確保して行かねば為らないと考え生活しているのよ
。その人達を〈将来〉この列島の一つの歴史と同じ趣向とを持合せて行こうとするのは大変なことなの。〈共存共栄〉や〈仲間意識〉では、大きな一つの国づくりは出来ないわ」
「その国づくりを、〈倭人〉では出来ると言うの‥?」
「私はそう思っているわ」
〈ヒミコ〉の目がキラッと光った。
オオゲツは咄嗟に目を反らした。
「おお‥、!強バラ‥強バラ‥、もう少しで、ヒルメの魔術の世界に引き込まれそうだったわ‥、」
ヒミコはニコッと笑って
「バカねえ~~オオゲツ。久しぶりに、私の世界に入って来たら‥、」




