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「ヒミコ女王」、〈大和(ヤマト)〉へ

第一章

  第五節

「ヒミコ女王」〈大和ヤマト〉へ


 「兄上‥!〈女王ヒミコ様〉が津(港)に着きました」

 イワレヒコが、息を切らして館の王の間に入った。

「そうか‥、無事に来られたか。これ、イワレヒコ‥館の中では走ってはいかん‥、」

 ニニギは二十才以上も離れている弟に、苦笑いしながら

「家人達には、粗相がないよう図らって、ご案内するよう伝えてくれ」

「はい、兄上‥!」

 今度はゆっくりでも、自然に足早になる。

イワレヒコは、兄であっても父のように慕うニニギには、怖くても憧れの存在だった。

 半時(一時間)もせぬうち、〈ヒミコ〉は館に到着した。

「まあ、ニニギ様。お久しぶりですね。〈宇美の里〉でお会いして、もう十年になりますか‥、」

 同級の〈ヒコミコ〉の父親のニニギには、ヒミコは面識があった。

「ええ‥、もう十年になりますか。あの時はまだ〈フゲキ〉として旅立っていなかった頃でしたね。昔から

しっかりしたお子と見受けていましたが‥、やはり並みのお嬢様では無かったんですね‥連合国の王に成られるとは‥!?」

「嫌だわ小父様様‥そうじゃ無いのよ。祖父ナギが私を隠れ蓑にして、自分は好き勝手にやりたい放題という図式とは思いませんか‥?」

「いやぁ、飛んでも無い〈ヒミコ様〉‥、貴女の霊感の威力と、状況判断の的確さには、私ども凡人には魔術としか思えない、驚きの連続でしたから‥、祖父様ナギ[ニニギはオオヒルメの子、ヒミコはツクヨミの子。母が姉妹なので二人は従兄妹同士でもある

]の決断は間違っているとは思われませんよ」

「そうかしら‥、でこの御仁は‥?」

 チラツと後ろを振り向いて、イワレヒコを見つめた。

 イワレヒコは見つめられ

、ドキッとして一歩後ろへ下がり

「はい。ニニギ王の弟のイワレヒコと申します」

 少し口ごもったが、しっかり答えた。

「まあ~~小父様に、こんなに年の離れた弟君がおいでとはとは知らなかったわ‥、」

 ヒミコが、上目遣いで問うてきたので、ニニギはこっくり頷いた。

「イワレヒコと申しましたね。しっかり兄上様の教えをお勉強なさい‥、」

ヒミコは自分の唯一の弟であるこのイワレヒコに、明かせないのは残念だったが、自分の立場もこの先不透明である事を考えると、今ここではぐつと我慢することが賢明であると思った。

「イワレヒコ‥後の段取りを皆に確認しておくように‥、頼むぞ」

とニニギはイワレヒコに指示し、ヒミコに目配せした。

 ヒミコもこくりと頷いた。

「ところで小父様‥今の半島の情勢は‥?」

 ニニギは、先の戦で〈弁韓〉の地は倭人の地となり、今息子のヒコミコが、アキツヒコ王の手助けをして〈イ加-イ邪郡カヤグン〉の国づくりに勤しんでいることなど、詳しくヒミコに状況を説明した。


 筑紫から宇佐に帰って一ヶ月後に、ヒミコは葛城(奈良)の巻向(桜井市)へ向かっていた。

白装束の襟、袖、裾に金縁の飾りを縁取り、きりっと引き締まった腰に巻いた帯は、金と銀に真珠を繋いだ豪華な作りだ。髪は腰の下まで長く垂らし、頭の上には黄金の冠に鳳凰が鎮座していた。

 眩しいほどの美しさに、周りの側近達もまともに見ることは出来なかった。

 道沿い村々の民達は、隙間もなく居ならび、平伏して列が過ぎ去ると口々に

「おい。どなたがお出でになったのじゃ‥!?」

と互いに訳も分からず、顔を見合わせて問いただしていた。

 遠くからも、田畑の作業を中断して眺めていた民達も[どちらのお偉いさんが

来られたのじゃ‥?]と、

不信も含め興味津々に見守っていたが、ヒミコの〈輿〉が見えて来ると、良く見えぬ筈なのに、正に目の前を通り過ぎて行くのを見ているかのように、その主の余りの気品のある美しさに、「おお~~!」「おうおう‥!!」「おおう‥!?」と驚きの声が波

のように上がり、そのうねりは、誰かの指揮で示唆されたかのように、ざわめきの中でリズムが付けれていた。


 「まあ~~本当に広いのね‥、この〈ヤマト〉の地は‥!巻向に来る前に竹内峠から二上山に登って見渡したのですが‥、この巻向の近くに鎮座する〈大神山(三輪山)〉など遥か彼方に小さく見えただけでしたわ。それに南の吉野山の連山もうっすらと山々が重なり合って居るのが小さく見えるだけだし、北の春日山など地平線の彼方なのか、影も形も見ることは出来なかったぐらいですもの‥、

〈河内の国〉の倍くらい有りそうですね‥!」

 二上山で、反対側の大阪平野の一部も臨んでいたのだ。

〈ヒミコ〉が住まいする〈巻向の宮〉は、数件の高床式建屋(柱を数本、等間隔で長方形に打ち並べ、地上より三~四メ-トル上に家屋を造る)が建ち並び、一番奥手近くに五十人ほどがゆうに入れる建屋が有り

、その奥の高台には、祭壇ようの建屋と〈ヒミコ〉の

寝食と居間用になる建屋が

こじんまりと建ち並んでいる。その廻りには、警護に就く兵士達の竪穴式住居が

取り巻いていた。

 数十メ-トル上の山手には、望楼(物見やぐら)が二台立てられ、真ん中に一段と高い烽火台のろしだいを設けていた。

 館の南側に流れる幅十メ-トルほどの川沿いには、高床式の倉庫群が建ち並ぶ。又その川を利用して、百メ'トルほど下の平地に、西側から北側に掛けてL字形に、幅、深さ共に三メ-トルほどの環壕ほりがぐるり五百メ-トルほどの長さで取り囲み、内側には一メ-トルほどの盛り土を積み、敵の攻撃への防御策を万全にしていた。

 大きな高床式建屋は、平地に建てられた館と棟続きで造られ、正面から見ると立派な二階建ての屋敷に見えた。

 広間には、三十人ほどの白装束で連合国の重鎮が、二列に並んで座っている。

 正面には、肘と背の付いた椅子に、金糸を織り交ぜた絹で出来たクロステツチが敷いて有り、そこに座っていた〈ヒミコ〉が、この地の広さに驚いた表情で、[緊張して座っている重鎮達を]賞賛するように、女王としての感想を述べたのであった。

 列の一番前で、対面に座っていた、ナギとクニクル王が、えっと驚いてヒミコの顔を見た。

「女王様‥、その〈ヤマト〉と言われました地とは、この葛城のことで‥、

」とクニクルが、不思議そうに尋ねた。

「ええ‥、そうですわ。先ほどお二人で、そのようにこの国のことを呼んでいたのを聞いていましたのよ」

「さすがに女王様じゃ‥、小声で話していたのに、良く聞こえたものじゃ。千里眼では無く、ええっと千里耳とも言うべきか‥!」

「何を馬鹿なことをおっしゃってるの曾祖父様‥、そんな言葉など有りませぬ。おまけに、何が小声なもんですか。クニクル王様とお二人で、自慢げに周りの人達に、葛城をヤマトという名にしてはどうかと話しているのを、皆様はもうご存知ですわ」

と、曾祖父のとぼけた顔に追い討ちをかけた。

「いやぁ~~参った、参ったわい‥、」と、子供のように頭をかいた。

 その仕草に、場内はどっとわいた。

緊張感に張り詰めた雰囲気を、和らげる為のナギのワザであった。

「ナギ王‥、皆様にご挨拶をお願いします‥!緊急に、各王様方のご判断を仰がねばならぬ事態も御座いますれば‥、」

 末席から〈ワタツミ〉が、ナギの配慮を知ってか知らずか、進行の重大さを告げた。

 場内は一瞬静まり返った。

「いやぁ~~尤もなこと‥だ」

 ナギも我に返り

「皆さん‥遠方やよりはるばるこの葛城‥、いや先ほど申しましたように〈ヤマト〉とこれから呼ぶことにします。ご足労を煩わし、申し訳なく思っております‥、さて、古に我々のそせんが、大陸の中国の長江(揚子江)上流地域に端を発して、もう幾千年にも成りますが、同じ中国の〈黄河こうが〉流域に、人類の文明を早々と開花させた民族が、〈インシユウ〉という王朝を築き、大国として君臨していた頃、〈殷〉の六代皇帝〈夏后少康〉の子が、江南地方(上海シヤンハイ付近)に對ぜられた時、我々の祖先の一部は

一気に揚子江の下流に下り、その配下について活躍したと伝えられている。その後、周、秦、漢と続き、漢王朝は揚子江流域を攻め

その地の殆どを領土として治めたのです。

 漢人は背が高く、我らの祖先は背が漢人より劣っていたので、彼らから〈倭人〉と称せられたのか、自らが〈倭人〉と名乗ったかは定かではありません、ただ〈倭〉という字のおんは〈和〉の音に通じるので、敢えて反発も無く甘んじたのかも知れません。その証拠に、現在我々も、

堂々と〈倭人〉として、祖先から受け継いでおるのだと思います。そして、領土を支配された為、大量の〈倭人〉が四方八方に逃避したと聞いております。勿論、漢王朝の時代の前にも、我々の祖先は、半島や列島には移動していたらしいが、いづれにしても〈倭人〉の国は、もう元には戻らなかったというのが、これまでの歴史ということです

 事情説明の前置きに長くかかりましたが、そうです!今ここに、この列島で

〈倭人〉の国を創ることが出来たのです。今日は、その設立の記念日として、祖先の悲願を全うした記念日として、皆様と御祝いしまいと思います‥、!」

「おお~~!?」

 場内は一気に盛り上がり

、大きな歓声と同時に、酒が飛びまじつた交じった。

 祝い杯が出回って、少し落ち着きを取り戻した機を見計らって、オオヤマツが

立ち上がって発言した。

「静粛に‥、!皆様。酒を酌み交じわしながらで結構ですが‥、今、ナギ王が〈連合国〉の設立で〈倭人国〉が、この列島(日本)にて大きな礎に成って行くことを祝い宣言されました。しかし、これからの先行きが、決して容易で無いことは皆様もご承知のことと思います。実に〈ヒミコ女王〉が筑紫(九州)から

この〈ヤマト〉へ来られるまでの旅は、決して安穏では御座いませんでした。それに、このヤマトの地も全て平定している訳ではありません。北の富雄や三郷、

西の高田、東の吉野と、この葛城周辺も、虎視眈々と

〈倭族〉の連合国設立に不安を覚え、攻めいる隙を狙っています。今日の目出度い日に、聞き入れる内容では御座いませんが、本日は

特別ということで、今からワタツミの方からの状況報告をお聴き下され‥、」

 オオヤマツは、この祝いの日が来たことが、どんなに喜ばしいことか重々承知の上で、皆には厳しい発言であったが、顔はニコニコ

してワタツミの方に手を振った。

 さすがにワタツミの方は、挨拶も抜きに、皆に一礼して話し出した。

「私は宇佐から内海(瀬戸内海)航路で、〈ヒミコ女王〉をこの葛城までお連れする役を承りましたが、和泉の国の住吉しみのえ津に着くまで、三度海路で遮られました。伊予(愛媛)、〈革丙とも広島〉、明石(兵庫)です。いつせんを交えはしませんでしたが航路を何隻かの船で塞がれたり、〈ヒミコ女王〉の乗船する船に向かって[帰れ‥、!帰れ‥!!

帰れ‥!?筑紫に帰れ

!?]というシュプレヒコールを叫んで付きまとったりで、こちらも威圧して追い払う訳にはいかず、静まるまで待つしか有りませんでした。彼らは殆ど、出雲国の同盟国として、今まで協力し合った仲間達なので、何とも言えず歯がゆい思いの連続でした。当然、出雲の同盟国は全国に散在しており、倭人の連合国となると彼らには抵抗が有るでしょう。おまけに、出雲国の〈フゲキ〉達の動向を

規制したり、首長国の王を

葛城の王(クニクル王)にしたりして、出雲国を無視した決定に、不安を感じ、

抵抗したり反発して来るのは致し方の無い事情であり

心情であると理解しております。故に、この歴史的会合にお集まりの王様の皆様には、お国へ帰り隣接する

国々に多大なる温情を持って接して頂きたいのです。〈倭人国〉の将来は、列島に住む幾多の人種、民族の

協力無くして成り立ちません。紆余曲折の難儀を、皆様に背負って頂きたくお願い申し上げます。僭越ながら、〈ナギ王・ヒミコ女王〉の代弁者として、このワタツミが、厳しい状況の中での設立祝いであることを、肝に銘じてご挨拶致しました」

 一瞬シ-ンとなったが、正面の上座から、ヒミコがニッコリ笑って、パチパチと手をたたいた。

 それにつられて、ナギ、クニクルも慌てて拍手をし、場内はワタツミの弁舌に惜しみ無い賛同を送った。

 此処に集まった倭人連合国の王達のなかで、一人だけ倭人で無い王がいた。周防(山口県)のイクサツ王だ。宇佐(大分県)のミナカミヌシ王の甥で、大海(日本海)から内海(瀬戸内海)に通ずる周防灘を取り仕切る、重要な位置に有る国の王である。中国(秦族)の子孫で、ナギ王とは

ミナカミヌシ王を通じて兄弟同様の間柄で有り、ヒミコ女王の小父(ヒミコの母のツクヨミの叔父)に当たる。

 ナギが、倭国の各王達を

説得して、宇佐と周防を連合国に加えたのだった。

 他に伊都国のニニギ、奴国のアシナカツ、〈カヤ〉のアキツヒコなど二十名の王達と、このスサ、ハコクニ、ホホデミ、オオヤマツワタツミと〈ヒミコ〉の身内の面々や、葛城の王達の他、ワカタケヒコ、オオヒコ、ウツシコオ、ワニ達〈クニクル王の親族〉が列席していた。

 ヒミコが立ち上がって

「皆様方‥、誠にこの良き日にお集まり頂き、この日を機に、我々子孫に大きな夢を与えて行けるように、

吾(あ、私)の心霊が、神から授かったことに有り難く思っております。若輩の

吾が、皆様方をこの難しい情勢のなかを、導いて行けるとはとても思ってはおりません。ただ、生きとし生けるものは、何らかの形で神の思し召しに縋らざるを得ない場合か多々あります

。そのような思し召しを吾

が、神から指示を得て皆様に伝えられるよう、尽力を致しますので、宜しくお導き下さるようお願い致します‥、」と正式に、〈女王〉としての発言をしておもむろに座った。

「万歳‥、!万歳‥!!万歳‥!?」

と、場内は、若きリ-ダ-の言葉に感心したり半信半疑で喜んだりで三唱し、期待を込めて拍手を送った。













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