ヒルコは、フゲキ達の移動の禁止と、今後のフゲキ達の活動を指示してきたことに疑問と不満をぶちまけた
「ところで伯父上‥、連合国では、私の弟と聞いていますが、その弟の娘さんが王に成った‥、!」
「そうなんじゃヒルコ殿‥、私もよう分からんが、その〈ヒミコ〉いや元の名は〈ヒルメ〉だったか。その〈ヒミコという女子おなご〉は、とてつもない心霊の持ち主で、まともにじっと見つめられないほど恐ろしい方だと聞いておるのじゃが、私も会ったことが無いので、何とも言えんのじゃよ。おまけにその父親というのが、ヒルコ殿の弟君でナムチと言うのだが、変わっていると言えば変わった人だったのう‥、」
ホヒも〈ヒミコ〉の話となると、何の資料も無いので説明仕様がなかった。
「そうですか‥伯父上が余り〈ヒミコ女王〉のことについてご存知無ければ致し方ありませんね‥、分かりました。それで、話は変わりますが、二年ほど前に〈フゲキ〉仲間達の〈長おさ〉と目されている〈ホホデミ〉と言う人から[フゲキ達は、今後一切移動はまかりならぬ]との通達があったと聞きましたが、伯父上もご承知ですよね。一体、何の為にそんな規制をするのか‥?又、どうして
〈フゲキ〉の本来の目的を台無しにするのか‥、伯父上は、その通達を指示されたのですか‥?」
「ええ‥、!そんな通達が‥?それは、ナギ王が指示したものなのかか‥!?」
ヒルコは、伯父の耳に入っていないとはどういうことなのか不信に思いながら
「いや、分かりません。ホホデミ殿が、勝ってに通達を出したとは思われるませんが‥、」
「確かに‥、ナギ王の指示で動いておるとしか思われんが‥?」
アメノホヒは、自分が知らぬ間に、どんどん情勢が変わっているようで不安を覚え出しててきた。
「伯父上。我ら〈フゲキ〉達は、出雲の教えを流布することに誇りを持って生きているのです。それを[その地に留まって、その村人達を護る〈神に成れ〉]とは筋が合いません。一つ一つの村人達を護ることに異存がある訳では無いですが
、その地に居座れるのは、村人達の要請があつてのことです。一時のお手伝いで、その村に居座ろうなど、フゲキの活動に邪悪を吹込むようなものです。それに、此方の勝手で[女子は〈巫女〉に男子は、その巫女を護衛し、後々世まで〈出雲の教え〉を言い伝えよ‥、]と。いくらなんでも、盗人猛々しい思いがします。又、今のフゲキ達のなかで、占いが出来たり、心霊(肉体を離れて存在する心の持ち主)を感ずる人など少ないのですよ‥、一体、何が問題で、そのような指示を出しているのか理解出来ません」
と、少し憤懣やる方無い思いで、ホヒに訴えるように言った。
「うう‥、ん」
ホヒは、今までの自分の人生で、こんなに考えさせられるようなことはなかった。
今、何が起こって何が変わって行こうとしているのか‥、ヒルコの話に、自分自身が何をしていくのが正しいのか、訳が分からなく為っていく自分に腹立たしさを覚えて来た。
「ヒムココ‥子小父様にご挨拶して‥、お家に戻りましょう」
トヨオカビは、チラツとヒルコに目配せし、食事を済ませ、じっと二人の話を聞いている息子を促した。
「はい、母上。小父様、ご馳走さまでした」
と手を合わせ
「お先に失礼します」
と礼をして立ち上がった。
「おお~~おう、良く出来た子じゃ。いやいやこちらこそじゃ」
と、ホヒも子供に合わせて頭を下げた。
ヒムココが下がった後、しばらく眼をつぶって考え込んでいたホヒが
「ヒルコ殿‥、これはちと考え直さんといかん話じゃな‥、」
何が閃いたか?、真剣な顔でヒルコに相談するように問いかけた。
「何と!〈イワレの里〉に兵を率いた倭人が〈長〉に成ったと申すか‥!?」
ナムチは驚きの声を上げ
て、父ナギの迅速な行動に舌を巻いた。
それは、ナギが葛城の地の制覇に、並々ならぬ事を示唆する第一歩だった。
ナギが初瀬をから去って三ヶ月後だ。
イワレの里は、巻向の南に、初瀬の西にと、等間隔の距離に位置する。
ナギは初瀬を去る前に民達に事情を説明し、当時の〈長〉には、これからの葛城の将来の為にと身を引いて貰って承諾を得ていた。
勿論、兵五十人分の食い扶持を確保する為、兵士達が来る前に開拓の場所を選別して貰っていた。
「和泉の国(大阪府)の住吉より参りました、〈ワタツミ〉の甥のホホデミに御座います」
「何ですと‥、ワタツミ義兄上の甥じゃと‥?」
[ホホデミの父とワタツミとは兄弟。二人の父は、ナムチの父ナギと従弟同士である]
ナムチは、新任の長が、ワタツミの甥と聞いて一変に不安が吹っ飛んでしまっていた。
「ワタツミ殿は、元気で居られるのですか‥、もう七年も会ってないし、何の沙汰も入って来ないのだが‥、」
「はい。叔父上には二年前に日向の西都原でお会いしましたが、すこぶるお元気でした。何やら軍船を率いて、列島のあちこちの国々を廻っているとのことでした」
「ほほう、そうですか。ワタツミ殿に相応した仕事ですな」
「それでナムチ様。後三ヶ月後に、女王〈ヒミコ〉様が巻向の館にお着きに成ります」
「ヒミコ‥?ヒルメでは無いのか。私は父からヒルメを王にすると聞いていたが
‥、!」
「はあ‥、曾祖父様が、伯母(ヒミコの母のツクヨミの姉)のオオヒルメと間違いやすいと言うことで命名されたとか」
「ほほう‥、ミナカミヌシ様がのう‥、」
ナムチは、ミナカミヌシの名が出たので、二の句が継げなかった。
「ホホデミ殿‥何故‥、葛城なのですか‥?」
「それは‥私にもナギ王の考えて居られることは分かりませんが‥、言えることは、あの恐ろしいほどの霊力の持ち主の〈ヒミコ女王〉が何の反発も無しに、
〈ナギ王〉の指示に従って行動しているのを見ると、私らの考えも付かない理由が有るのだと私は信じています」
「うう~~む‥、そう言えば何年か前にヒルメから〈文〉が来て、葛城の情勢や、どれくらいの里があって、その国の主な王達の性格を報せて欲しいと言って来たことがあったなあ」
「ええ~~本当ですか‥!?
」
「そうなんだ。一介の娘が、何を考えているのかさっぱり分からんかったが
‥、今思えば、その頃には、ヒルメは父〈ナギ〉の動きを察知していたんだなあ‥私はそんなことも知らず、嬉しいやら懐かしいやらで、不思議に感じたのを忘れていましたわな。何の挨拶も無かった。[元気ですか]ぐらい言って来ても良さそうなもんじゃに‥、あはははあ‥、」
ナムチは、ヒルメと言う娘が自分とは、かけ離れた存在に思えたのが、不思議に安堵感を覚えさせてくれたのに気が付いた。
自分は現実から離れようとしているのに、娘は、その現実に真っ向から立ち向かって生きようとしているのだ。
連合国の王として、祖父から指名依頼されて、半年後にいよいよ〈ヒミコ〉は葛城に向かうことになった。
しかし、向かう前の当日までじっと待っていた訳ではなく、その間にヒミコは筑紫へ立ち寄っていた。
始めに、幼き頃育った旧宇美の里(遠賀川流域)へ寄り、恩師の〈ハコク二〉に会った。
出雲国の歴史と、〈巫-巫頁、フゲキ〉達の活動の真の目的は何かとか、そして、その将来は何を目指しているのだろうか‥?
倭人の連合国設立によって、出雲国としてはどう対処していく積もりなのかを問うた。
ハコクニにとって、出雲国の存続を果たしていくのは自分の義務で有るが、倭人の連合国設立は、今後のこの列島(日本)にとっての行く末を決めていく大きな力と成っていくことも願っているのです‥、と答えた。
〈ヒミコ〉は、祖父のナギ王と違って、このハコクニの苦渋の理解が、全てを物語っていると直感した。それは、決して出雲と倭人とは両立し得ないのだ‥、と
〈ヒミコ〉はこれからの自分が、どれだけのことが出来るか不安を持ちながらも、キイツと眼を見開き、ハコクニににっこり笑って頷いた。
「校長先生‥、何も案ずることは御座いませんわ。これから先も戦は続くでしょうが、出雲の先も倭人の先も時代決めて行ってくれます。今居る私達が、判断と決断力を、大幅に逸さなければ、この列島の行く末が見えて来ますわ‥、」
「ええ~~ヒミコ様‥先のことがもう見えているのですか‥?」
ハコクニも女王に成った〈ヒミコ〉には、言葉づかいに遠慮しなければならない。
「まあ~~校長先生。何もそんなにかしこ張らなくても‥ヒルメ‥!何を言ってるのだ‥!!と起こらないんですか‥?」
「何をおっしゃる‥、ヒミコ様に、そのような見識で
、世の流れの道筋をお聞きすると‥何とはなしに、何も心配することなど無いのだと、感じて来るのですから‥、」
「うふふふ‥まあ~~先生ったらお口のお上手なこと‥、」
〈ヒミコ〉は、ハコクニにはそう答えたが、出雲の先は[茨の道を歩まねばならない]だろうと感じていた。
次に、〈奴国(福岡市近辺)〉のアシナカツ王に会い、先の辰韓との戦況を具に聞きいった。アシナカツはまるで自分が戦っていたように、[妻のオオヒルメ]が辰韓の船団を迎え撃つた時、大声で「口上を述べ」、その一喝で辰韓軍が敗走した様子など自慢げに話した。
〈ヒミコ〉も男勝りの伯母
(オオヒルメ)には少々驚いたが、何か自分もアシナカツと同じように、自慢げにうんうんと頷いていた。
「いやあ~~息子の〈イワレヒコ〉も、その時の母の様子を見て、恐ろしかったと驚いて話をしてくれましたよ」
「〈イワレヒコ〉‥?ニニギ様では‥?」
「いや、ニニギは私との子ですが、イワレヒコはオオヒルメとナムチ様‥、ええ
‥!?ヒミコ様にはご存知無かったのですか‥!?」
アシナカツはそこまで喋って、びっくりして唖然と
してしまった。
「父と伯母との間に産まれ
た子ですか‥?その〈イワレヒコと言うのは‥、〉」
〈ヒミコ〉は、かなり驚いた様子を呈したが、しかししっかりした口調でアシナカツに問うた。
アシナカツは言葉に出さず、うんと頷いた。
飛んでも無い事を喋ってしまったようだ。とアシナカツは悔やんだが、気を取り直して
「ええ〈ヒミコ様〉の腹違いの弟君です。もう十二才
に成られました」
と、はっきり答えた。
「はい。そうでしたか‥」
昔、宇佐の曾祖父のミナカミヌシが、[オオヒルメ殿に会えば分かる]と言ったのは、そう言う事だったんだわ。あの時、イワレヒコはもうアシナカツ様に預けていたのだわ。それで
伯母は敢えて私に話そうとはしなかったのね。
〈ヒミコ〉も、自分が知らなかったのを恥じるように、アシナカツににっこり微笑んだ。
アシナカツもその笑顔に助けられ
「立派な若者に成られていますよ‥、」と。これからの〈ヒミコ女王〉の手助けが期待できる弟であることを匂わせるように言った。
「そうですか‥それで今は何処に居るのですか‥、」
「はい。近くの伊都国(福岡県伊都島近辺)に居ります。兄のニニギ王の元で
修行中です」
「それでニニギ様は、その事はご存知なのですね」
「はい。もう前から知っていた見たいですよ。只、本人のイワレヒコは知りませんので、会われましても〈ヒミコ〉様のご判断で対処していただければ‥、」
「ええ‥そうしますわ。ニニギ様も、その事は明かして居られないと言うことですね」
「はい。私との子として弟を見守っています」
「分かりました。有り難う御座いました。アシナカツ王様に会っていなければ、
将来いつ知らされるか分からなかったんですもの‥、
」
「いやいや‥、飛んだ失言で悔やんでいますが、そのお言葉で助かった思いです‥、」
噂で聞いた恐ろしいイメージなど微塵も無いので、
アシナカツはほっとしたが[実の恐ろしさは、こんな状況では見えないのは良く
分かっていた]
何せ昔、嫁に貰った時の美しく可憐なオオヒルメで、
経験済みのアシナカツであった。




