ヒルメ、〈ヒミコ〉と改名す
本人が親から与えられた大事なお名前なんですから‥
」
「そうですが‥、この際、ヒルメの名を変えてはどうかと‥、思ってな‥」
「ええ!勝手に変えて、ツクヨミ殿とナムチに何と説明するのですか。それに承知するかどうか‥?」
「何もこの年に成って、口はばったい事を言いたく無いのですが、身内が困っている時に、黙って見過ごす訳にはいかないんですよ。
私の性格上ね‥、」
「まあ~ミナカミヌシ様ともあろうお方が、そんなに
お悩みに成ることなんですか‥?」
「いや、このヒルメという子は、この列島(日本)の
将来を決め手行くような気がして、少しでも、身内として出きることはして置かねば‥、と」
「で‥、今、何と言う名が浮かんだのですか‥、」
「オオナムチも、流れに添わせるのが上手な人だ。本人は、余り難しい事は避ける性としか思っていなかったが、今回のミナカミヌシの発想も一理あると踏んだ。
「いや、昔ヒルメはよく〈ヒメミコ〉と呼ばれていたのは承知していたが、漢語で書くと〈姫巫女〉という幼稚な名だ。だから、思い切って〈ヒミコ〉と名付けようと思っている」
「漢語で、どう書くのですか‥?」
ナミも、漢語に関しては熟知している。
「う~~ん‥、そうなんじゃ。民達が喜んで貰えるようでなくてはならん。そこでじゃ。日、月の〈日〉に魅了の〈彌-み(倭人流の漢字)〉、そして、歓呼の〈呼〉‥と。そう思いついているのだが‥、」
「まあ~~〈日彌呼-「卑弥呼」は中華風の呼称〉ですか‥良い響きで、厳かな漢字ですわ‥、日(太陽)を不思議な力で呼び起こす‥という意味ですわね‥、」
ナミは嬉しそうに、ミナカミヌシに相槌を打った。
「それで‥、ナギ様、ナムチ殿、ツクヨミ殿が納得されるのですか‥?」
ミナカミヌシの考えに、
ナミの同調とは別に、オオナムチは、肝心の父母や祖父を差し置いて、決めて良いのか注文を付けた。
「ああ~オオナムチ殿。その事に関しては心配することは有りません。子の名を付ける責任は、古から一番長生きしている者の役目なんですよ。ナギ殿の親御さんの〈トコタチ〉殿が居られれば、話しは別ですが、遠の昔にお亡くなりになって居られるので、私が最終の役に回ったということですから。改名せざるを得ない‥、と言う時も同じなのです」
「ははあ~~いや、それは存じていませんでした。申し訳ありません」
オオナムチも、少し教えられた。
「それでは、ヒルメ達を呼ぼうか‥、」
「ミナカミヌシ様。この席に今まで、ナキワサメ様やツクヨミ殿、当のヒルメを
同席させなかつたのは、何
かお考えがあってのことですか‥?」
ナミは、話の内容からして、彼女達には直接関係無かったかも知れないないが
ヒルメにとっては、大変なことが先に起こって来るはずなのだ。
「そうでね。お話はごもっともなことなのですが、そういう訳にはいかなかったです」
「何故なのですか‥?」
勿論、二人ともの顔はそうなのだが、どちらが発言したのか分からない。
「弁韓や辰韓での戦の作戦を指揮したのは、オオヒルメ殿だったが、この戦略、戦術をオオヒルメ殿に示唆したのは、当のヒルメだからです」
「ええ~~!?」
二人とも、口が開いたまま閉じることは無かった。
少し間を置いて、ミナカミヌシは、付け人の娘に目で指示した。
「さあ~早く食事を召し上がらないと、娘のナキワサメが悲しみますよ」と、二人に急かせた。
二人は呆然としたままの
自分達に気付き、慌てて膳
にかぶり付いたが、味も素っ気も無く皿ん治めた。
ナキワサメ、ツクヨミ、ヒルメが順に部屋に入って来た。
「あら、吸い物がまだ‥」
と言いつつ、付人の娘に目配せした。
二人は、慌てて飲もうと
したが
「お止めなさい‥替わりのものがすぐ来ますので‥、
」
ナキワサメが、吸い物の
茶碗を下ろすように二人に
促した。
さすが、すぐ暖かい吸い物が来たので、二人はゆっくり味わいながら飲んだ。
「父上様‥、食事もろくに為されないようなおはなしを、客人にしてはなりませんわ‥、」
と父をちらっと笑みを浮かべて睨んだ。
「いや、何も話をして居らん。少し、筑紫(福岡)の
話をしただけじゃ‥、」
と言いつつ、ナミとオオナムチに、助け船を出すよう
目配せした。
「はい‥ナキワサメ様、私達二人とも、いくらお年を
嵩まられても、そのお話の
面白さに夢中になっていただけですわ。お食事も、とても美味しく頂きましたわ。ご馳走様でした」
「いや誠に、この地の食材に合わせたお料理の味は、出雲には無い美味でした。ありがとうございました」
と、オオナムチもすかさず
馳走の礼をした。
ナキワサメは口に手を当て、笑いをこらえるように
「いいえ‥お粗末でした」
と頭を下げた。
二人はびっくりして、一歩後ろに下がって丁重に頭を下げた。
それを見ていたツクヨミとヒルメが、
「祖父様‥罪滅ぼしに母上さまに一言」
ツクヨミの言葉に、ヒルメが素早くミナカミヌシの
前に行き、手をマイクようにして、発言を促した。
「まあまあ~~そう怒るな
。今、三人に来て貰ったのは、ヒルメの改名を相談しようと思ってのことなんじ
ゃ」
「ええ!ヒルメの名を変えるのですか‥!?」
ツクヨミが、慌てて食らい付くように祖父を見た。
「何故に‥、お祖父様〈ヒルメ〉という名に、何か不都合でもあるのですか?」
「いや‥、」
「姉のオオヒルメと間違われるからですか‥?」
ツクヨミがズバリ、単純な誤解を生む素を正した。
「そうだ。ヒルメではまずく成って来た」
「それで‥?」
ツクヨミが、真剣な目で祖父を見る。今では、子の名に関しては、一番権威が有るのは、彼であることをツクヨミには分かっている。〈改名〉に関してもその範疇にはいる。
「そうだな〈ヒミコ〉と名付けようと思っている」
「ヒミコ‥、」
興味深げに
「漢語で、何と書くのかしら‥?」
ナキワサメがニコニコして尋ねた。
「うん。お日さんの〈日〉に、人々を引率して行く〈巫、(倭人風の名づけ)〉という字でどうかな
‥、と」
「〈日巫〉それとも〈日弥呼〉ですか‥?」
「そうだ 。どちらでも良い。ヒルメの気に入った方を取りなさい」
側で、これらの遣り取りを観察していた、ナミとオオナムチは、四代に渡るこの家族の在り方を羨ましく見守っていた。
ツクヨミが、黙って見ていた娘に声を掛けた。
「ヒルメ、どう‥、」
「母様、嬉しいことよ。私の名にこれだけ皆が関心を持っていてくれて‥、」
毅然とした態度で、おもむろに頭を下げた。
「祖父様‥ヒルメは、いや
〈ヒミコ〉は問題ないそうですわ‥、」
ツクヨミは、自分の娘は、人にさらけ出されるのは嫌だったが、もうここまで来たら、一生掛けて守らねば‥、と決心していた。ほんに目の前のナミ、オオナムチのヒルメを見る目が、先ほどと違っているではないか。祖父は二人に何を言ったのだろう。
頃合いを見計らっていたのか、急に
「ヒルメ、いや〈ヒミコ〉
は‥、王に成るのだ‥!!」
ミナカミヌシは、大声で皆に発表した。
三日前に〈ナギ〉から〈ヒルメ〉を王に立て、連合国設立の報が届いていたのだ。
「ええ~~!!」
全員、驚きの声を発し〈ヒミコ〉の顔を見た。
ヒミコは黙ってニコッと笑い、皆を見回した。
「何も変わりはしないことよ。ただ、方向を少し変えて行こうかと‥、」
ミナカミヌシ以下、皆。ヒミコの発言がこれから列島
(日本)を変えて行くだろうことを確信した。




