ヒルメ、娘を産む。
フゲキ達の活躍で、出雲国を中心に、同盟関係を結び、主要な国々との取り決めが、この列島を徐々に進化させているのは確かだ。しかし、それはいろんな人種、民族の寄り合いで成り立っているのだ。
しっかりした組織体制ではない。
権威有る首長が、この列島の統括を行い、各国それぞれの軟弱な部分を助成し、協力し合える体制づくりをして行かねばならない
。
これまで、出雲国の〈フゲキ〉を活用しての行動は、この列島を活性化させ、バラバラであった異種族の意識を、上手く仲間同士としての意識に芽生えさせて行ったのだ。その異種族達に、彼らの生活基盤の地であることを確信させて行った。ということで、フゲキ達の功績は大変重要なことであった。
しかし、フゲキ達のその役目は、この時期で終わった。とナギは結論づけた。
倭人が、この列島の行く末を作り上げて行かねばなるまい。
ナギは、これまでこの列島に、相当数の倭人が首長している国々を集結させ、連合国家を、作り上げねばならない‥、と策動して来た、その成功が間近に迫っていることを、今確信していた。
しかし、難問は現時点で
、ナギの頭では、確たる解決策が見当たらないのだ。
それは、フゲキ達の処遇、そして出雲国との将来の関り合い方である。
「オオゲツのことはさて置いといて‥どうでしょうクニクル殿。以前から考えていた事ですが、この列島を指導して行くのは、私達倭人がやって行かねば成らないのではないかと‥、」
「ええ‥、私もその考えには同調しますが、私などこの葛城の地で虚勢を張っているだけで、何の力にもなりませんよ‥ナギ殿」
「いえいえ、そんなことは有りません。今では、クニクル王有っての葛城ですぞ。これから先、私が進めて行く連合国家作りに、もっともっと頑張って頂きたく、ご相談に来たのですよ
‥、」
「そうでしよう。出雲国の王が、都(筑紫、出雲地方)から離れた山の中の村に、わざわざご出向いて来られたのには、何か訳が有ると思っていましたが、そうですか、今連合国を作っていると‥目安が付いたのですか‥?」
「今、この列島の主要国で、倭人が王に成っている国々の連合国家です。まだ十五ケ国ほどですが、まずはそれからということで
‥、」
「それで、国王はナギ殿が成られる。ということで‥、」
「いや、私は今の出雲国の王のままですが、クニクル殿に初代首長としてお願いしたいのです」
「何を言ってるのですか
‥、!筑紫に伊都のオシホミミ、奴国にアシナカツ王と立派な方々が居られるのに‥、いや、其れよりも、ナギ王が率先しないと‥、
皆、納得せぬのではないですか‥?」
「そこで、クニクル王に頼みたいのです。私の孫のヒルメを王として祭事を司り、クニクル殿には政〈まつりごと、政治〉を受け持つて欲しいのです」
「ええ‥、!ヒルメ様が女王に‥!?」
[当時、正室の末の息子が跡を継ぐ仕来たりで、ヒルメはナムチの娘(男でなくても良い)なので跡を継ぐ筆頭となるが、次男のスサにも権利は有る。ナムチが山の神を目指しているので、跡を継ぐ意思が無い為]
「そうです。当然、ヒルメは独身を通さなければなりませんが‥、二、三年後にはこの葛城に住まわせます。其れでクニクル殿、頼み事の一つは、巻向(まきむく、桜井市)の地に、ヒルメの館を造って置いて欲しいのです。ヒルメの父のナムチが、初瀬(桜井市)で山の神としての修行を積んでいるので、側に置いて遣りたいのです。三年前、貴方のご子息のオオヒヒ殿
も、巻向から春日(かすが、奈良市)の方で館を造って頑張っていると聞いています。又、その地については、クニクル殿の正室ウツシコメの兄様であるウツシコオ(天理市一帯の長)殿にも、その旨了承を取って戴きたいのです‥、」
「分かり申した‥、ナギ殿
。息子のオオヒヒ(妃はイカガシコメ)に造った今の館の三倍も四倍にも大きな館を造らせましょう。で‥、直ぐでは無く、二~三年後とは‥?」
「そうです。今、息子のスサに、半島の弁韓の地に、倭人の国づくりを急がせています。勿論、弁韓人伴にですが、王は倭人としてです。其れには、もう二~三年掛かるでしょう。韓の南端〈金海〉から、筑紫、出雲、内海(瀬戸内)の両側国(四国と山陽地域)を経て波速(大阪)〈大和やまと〉‥、と。取り敢えずこの範囲を連合国の礎にしたいと思っています」
「ええ~~!?弁韓を倒して倭人国を作るのですか‥!?」
もう、それこそ体がひっくり返りそうになつたクニクルは、驚いてナギを見た
[何と大胆なお方だ]
びっくりしながらも、この葛城が日の目を見るチャンスだ‥、と思い巡らした。
「‥、~~」
ナギは黙って何度も頷いた
「それと、今の話の最後にこの地を〈ヤマト〉と言われたような気がしましたが、この葛城のことですよね」
「そうです。私は、これからこの地を大和と呼び、この列島の中心地として、大国づくりに励みたいと思っているのです」
翌日、ナギは息子のナムチに会いに、三輪山(桜井市初瀬)に向かった
第一章
第四節
〈ヒルメ、娘を産む〉
ヒルメは、祖母のナキワサメ(ナギとの間にツクヨミを産む)の地、宇佐(大分県)で可愛い女の子を産んだ。母のツクヨミが、嬉しそうな目で、じっとヒルメを見つめていた。
[まあ~~本当に母様は、私が普通の女の子として、
成長して行って欲しいと願っていたのだわ。〈やや〉の顔よりも、私の顔ばかり見てニコニコしているわ。
お祖父様や伯母様
(オオヒルメ)の世界に、私が紛れ込むのが嫌だったんだわ。私が子を産むことで、全ての魔術が解けたと思っているのね。バカな母様‥、うふふ~~]
「ツクヨミ‥、ナミ様がお見えよ‥!」
普段おっとりしていて、物静かな母のナキワサメが、慌てたようにヒルメと
〈やや〉が添い寝している部屋に入って来た。
ナミにしてみれば、ナキワサメは夫ナギの先妻であるが、その娘のツクヨミは、自分の三男の息子ナムチの嫁なのだ。
ヒルメは、ナギ、ナミの内孫なのだ。
ツクヨミとナムチは、腹違いの姉弟同士で結婚したらことになる。
「そう~~直ぐいくわ‥」
ニコニコしてヒルメを見ていたツクヨミは、少し緊張した面持ちでゆっくり立った。
[孫が産まれた時など、音沙汰も無かった
のに〈ひ孫〉が産まれて慌てたように来るなんて‥やっぱり、ヒルメの様子伺いと言う訳ね‥、]
少々高台になつた場所から見ると、緩い傾斜になつた道の先に、二人連れ❗男の方が女の手を引っ張りながら上がって来るのが見えた。
「まあ~~オオナムチ様もご一緒だわ‥大事な〈ヒルメ〉が子を産んだので、ナギ家は大騒ぎね‥、」
ツクヨミは、何となくくすっと笑ってしまった。
「ツクヨミ‥どうしたの。難儀しながらお出でになって居られるのに笑うなんて‥貴女もお手伝いして上げたら‥、所で、あの男の方は何方なの‥?」
「ええ、ナミ様の弟君よ。オオナムチ様と言うの」
「オオナムチ‥、!」
ナキワサメは、娘の夫のナムチに似た、同じような名前なので、びっくりしたようだ。
直ぐ、ツクヨミは下に駆け降りて、ナミの手を引っ張りながら
「お久しぶりです‥、ナミ様。こんな遠い所までわざわざ来られ、有がとうございます」
「まあ~~ありがとう‥!ツクヨミ殿。本当に、もう五~六年経つのね。出雲での寄り合い以来だわね‥でも、こんな坂ぐらいでへこたれるようじゃ、私ももう年ねぇ‥、」
「いえいえ、まだまだお若いですよ‥オオナムチ様まで、遠路ありがとう御座います」
ナミの手を引っ張っていた手を譲り受けて、オオナムチに挨拶した。
「いやぁ~~お久しぶりです。初め〈宇美の里〉に向かっていたのですが、途中で〈宇佐〉に居られると聞いて、此処まで来てしまいました‥、あはははあ‥」
「申し訳有りません。宇美の里が、伊都(福岡)の方に引っ越ししてしまったので、母の元の方が良いかと思って‥」
「そうですよ、そうですとも‥それは良かったです。
私も、宇美の里だとツクヨミ殿が難儀するかと思って来たのですが、お母上がお出ででしたら安心ですわ‥
お手伝いではなくお見舞いに来た事に成りましたわ‥、おほほほう‥」
「本当に我がままな姉で、困って仕舞いますよツクヨミ殿‥、まあ~~噂のヒルメとヒルメの子に会うだけも、良かったと思いますがね‥、」
「あらあら、オオナムチ様‥そんなこと、姉上様に
言うもんじゃ有りませんわ。オオナムチ様も、うちのナムチも一つん所に居た
試しが無いんですもの。たまには、姉上様の孝行をしても罰が当たりませんわ‥、」
「そうですよねえツクヨミ殿‥もう旅の間中愚痴ばつかりよ‥!オオナムチ、反省しなさい」と、笑ってオオナムチを優しく睨み付けた。
「良くいらっしゃいましたわナミ殿‥、」
初めて顔合わせする先妻と後妻だ。おまけに、嫁親と息子親でもある。ナミが躊躇する間に、すかさず
「オオナムチ様もお疲れですこと‥ありがとうございます」
互いに恐縮しながら挨拶を交わし、ヒルメの部屋に入った。
「まあ~~可愛い‥〈やや
〉。ナムチにそっくりだわ
‥、」
どういうところから、そんな発想が出るのか、ヒルメもツクヨミもニタツと笑いあった。
ナミにしてみれば、ヒルメもその子も皆ナムチに似ていなければ成らない。どんな顔をしていても、皆そのように見えてくるから仕方がないのだった。
[まあ~~何て上品な顔立ちだこと。伯母様も気品があって妖艶だけど、祖母様も
、まだまだ色気もあって若いわ。確か伯母様よりも、お年が嵩んでいるはずなのにねぇ‥!]
ヒルメは、日頃から母や祖母を見慣れているせいか、彼女等の容貌には関心が余り無かった。
[実際、他人から見れば二人とも、美しい女性なのかな‥、]
そんなことを考えていて、自然に笑みが出ていた。
「ヒルメ‥!何が可笑しいの。御祖母様(お婆ちやま-ナミ)に失礼よ」
ツクヨミが、まだ一言も話ししていないヒルメに、
ご挨拶を促した。
もう布団の中で、居ずまいを正して座っていたヒルメは
「御祖母様、大叔父様、わざわざ遠い所から来て頂いて有難うございます。長旅でお疲れでしょうから、どうぞごゆりとして下さいませ」
一通りの挨拶をした。
「どう致しまして‥、初めてね、貴女に会うのは‥貴女が産まれた時は、よう来れなかつたけれど、ようやく会いに来れたのよ。もう嬉しくって、旅の疲れなど吹っ飛んでしまったわよ。ねぇ~~オオナムチ‥、」
「ええ。そうだともヒルメ。何とか今回は、姉の我が儘に引き連れて来たけれど、本当に良かったよ。貴女に会えて‥、」
「まあ~~小父様もお上手なこと‥、私に会っても何の足しにも成りませんわよ
‥、」
突然、ナミが急かされたように
「ヒルメ、身体は何とも無いかえ‥?」
ナミは訝った。
これは、私の言葉では無い。この問いは、もつと先に自分が気にしていることを、物静かに尋ねようと思っていた言葉だ。
「ええ、大丈夫ですよ御祖母様」
ヒルメは、ナミの主旨を読みとつているのか、笑顔だが真剣な目付きで答えた
。
ヒルメにじっと見つめられ、ナミは思わず目をそらした。
ツクヨミは、ふと二人の様子に不自然さを覚え、何の会話をしているのか案じた。
[ナミがまともにヒルメの視線を受け止められない、ということは‥、!ツクヨミは、自分の空喜びを恥じた]
「姉上‥何も心配することは有りませんよ。この元気そうな顔を見て下さい‥、
」
オオナムチは、ナミの意図する心配を他に知ってか知らずか、彼も又、笑って姉を安心させようとした。
オオナムチは、ヒルメに接して
[この娘は一体何者なのだ‥、!たった一言で姉を支配してしまった。姉は必死に逃れようとしているが
、無抵抗のままだ。それは、人を惹き付け、又近づけさせない違和感が、妖しい安堵感を覚えさせるのか。そして彼女のその存在自体が、自然と調和しているように思えるのだ‥、本当にに、噂に偽りがなかった‥、!」




