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ナギは、葛城国の別称「山門ヤマト」を「大和」と

その頃にはナギも、葛城のヒコクニクル王の館に入っていた。

「ナギ殿‥いや、出雲国の大王が、はるばるこの片田舎の葛城に何用です‥?」

「いやいや、生まれ故郷の

〈アワジ(淡路島)〉に十五、六才の頃立ち寄ったきりなので、四十年ぶりに行って見たのですよ。アワジまで来て、葛城に立ち寄らない法は無いと思ったものですから、久しぶりに、皆さん(奈良各地の長)にも機嫌伺いを致しませんと

‥、と思いましてな」

「それは、それは何とも有難い心遣いに恐れ入ります‥、ぞ」

 クニクル王も、ナギが何らかの思惑で立ち寄ったのは想像はつくが、葛城の宗主国と自負する自分の国へ、一番にナギが来てくれたのを喜んだ。

「最近の作物の出来は如何ですかな‥?」

「いやぁ~~十五年ほど前に、奥様のナミと来られ、葛城のあちこちの村に、稲作の改良に尽力されていたのが、昨日のように思われます。七~八年掛けられて

、今までの稲作づくりの不備を指摘され、一緒になって育ててくれましたね‥、

あれから大雨や日照りが続いて不作の年も有りましたがこの葛城全体が大きく変わったのは確かです。もういまは、からの国やかんの国へ〈二上山フタガミヤマの黒曜石

(こくようせき、ガラスのように艶の多い石。当時珍重がられていた)〉等を持って交易船を利用する村も

出て来ましたよ」

「ほほう、それは大したものですなあ‥、」

 ナギは、その変わりようを息子のナムチからも聞いていたが、この山門やまとの地[奈良は、西方は葛城、生駒山地を抜けると大阪湾を見渡せるが、あとの三方は果てしない山々に遮られ、奈良盆地を山々の連なる〈入り口〉もしくは〈山門の地〉とも

言われていた]に将来、倭人の国の拠点として、此処から列島を統合し支配することを夢見ていた。

筑紫や出雲では、余りにも大陸に近すぎ、一気に攻められればひとたまりも無い

。しかしこの〈山門ヤマト

〉は、海に面した〈波速なにわ大平地だいへいち〉を抱えているが

‥、現在の列島の中心地、

筑紫(北九州)の平地群を圧倒している。筑紫とは遠く離れているが、内海(瀬戸内海)で一直線で結ばれており、波速なにわとは違いその内海の海路は穏やかな海上で船便が良く、連絡網さえ整備出来れば、大した不敏さを感じないだろうとナギは考えていた。

 そして、いざ敵陣が攻め込んで、大地(大阪平野)に辿り着いても、防波堤のように、生駒、葛城山地が遮っているのだ。山向こうの平地は広々とし、川が幾筋も流れ、稲作にもってこいの条件が整っているのだ

。それらの構図は、〈海・平地・山・平地〉との景観が、見事に〈大きく和合〉しているように見えるのだ

その地をナギは〈山門〉から〈大和〉と命名した。

「ナギ様‥、今日は、奥様のナミ様はご一緒では‥?

「そうなのですよ。私の故郷のアワジにも連れて行ってやりたかったのですが、どうしても、筑紫にいる孫に会いに行くと言って、聞かなかったもんで、代わりと言っては何ですが、今日は義弟のオオヤマツを連れて来ました」

 オオヤマツは、慌てて威儀を正して、クニクル王に目礼した。

「いや‥こちらこそ宜しくお願いします‥、」

 クニクルも同じように挨拶したが、何を宜しく頼むのか分からず、ナギに二タツと笑われてしまった。

「所で話が変わるのですが、クニクル王‥、」

 それ来たか、とクニクルはびくっとして、ナギの顔を見つめた。

「死んだと諦めていた、長男のヒルコが生きていましたよ」

「ええ~~!!」

 クニクルにとって、危惧する話ではなかったが、それでも驚いた話だ

「それは、それはようございました‥、それで又、今頃になって分かるなんて‥

、何処においでになんて居られるのですか‥?」

「いやぁ~~二十年以上、何をしていたのか分かりませんが‥、最近は、武蔵(むさし、東京近辺)辺りに居ると聞いております」

「それでは、未だお会いになっておられないのですか‥?」

「いや、生きておることは、六~七年前に聞いたのですが、未だ会いに来ようとはしません‥そうですわな‥、いろいろ事情も有るでしようしね」

 ナギも、自分から探しに行きたいのはやまやまだが、息子の為に、今抱えている事業を手放してまでとはいかない。

「そうですか‥喜ばしいことですが、心配も一緒に抱えましたか‥、」

 クニクルも、同じ七~八年前に、息子のオオヒヒが、自分に刃向かって、家を出て行ってしまった記憶を思い出し、内容は違っても、ナギの寂しさが分かるような気がした。

「ええ~っとご子息の‥?

「ヒルコ様です」

 すかさず、オオヤマツが、助け船を出した。

「ええ~ええ、そのヒルコが様が居なくなって、スサ様、ナムチ様を授かり、二人とも立派に成長されたので、十五~六年前に、葛城に来られた時は、ナミ様も元気を取り戻されていたのでしたね‥、」

「ええ。当時は私よりも、民達への思いやりやら作物の育て方の知恵を親身なって教えていましたねえ‥、楽しそうでした」

 ナギも、当時のことを思い浮かべながらも一方、最近のナミの複雑な心境に不安を覚えていた。

「先王のヒコフトニ様はご達者で‥、」

 ナギは、自分に戻って、さて本題に差し掛からないと‥先に進めんわ。ヒコフトニにも会って置かねば、葛城をまとめることは出来まい。

「ええ~~ええ。相変わらず口うるさくて、困ってますよ‥、」

「ほう‥、それはお元気なことの証拠‥ようございました。今でも田原本に‥?

「ええ。周りの民達と相変わらず畑仕事に励んでいるようで‥年を考えてもらわねば困ります。たいてい民達も迷惑だと思っておりますよ」

「あはははあ~~」

 ナギは久しぶりに大声で笑った。

オオヤマツも、何と親孝行な息子だと、ナギに追笑した。

「ナギ殿、少し噂で聞いたことですが‥、お孫さんのヒルメ様とはどう言うお方ですか‥?」

「噂ですと‥、どのような

?」

「はい。今年は、日照りの年になるから、早めに対策を‥とか。大風(台風)が

、いつもの年より大掛かりであるとか等を、亀甲や鹿の肩甲骨を割って占いをするのですが、それが又、良く当たるらしいです。おまけに、心霊術まで心得ている。と専らの噂が、この葛城にも入って来ているのです。そんなもんで、さすが大王の孫だと皆感心しているのですよ」

「それは、交易船の船乗り達の話ですか‥、!」

「はい、その経路も有りますが、阿波(徳島県)の国に〈フゲキ〉の〈オオゲ〉

と言う女性がおりまして、

彼女が四国中を旅歩いて、ヒルメ様のことを真しやかに言い伝えているそうです

「一体何者だ!そのオオゲツとは‥?」

 ナギは喜んで良いのか、何か策略が有るのか判断に戸惑っていた。

「もしや‥、トヨウケジ様

の末娘さんのことではないですか、ナギ様」

 オオヤマツが、思い出したように言った。

「そうか‥、トヨウケジ殿

には、四人の娘が居ると言われていたな‥確かにその末娘は、ヒルメと同時に十才の時、〈フゲキ〉として

旅立ったと‥、」

 ナギも何となく思い出した。しかし、何ゆえわざわざオオゲツが、必要でもない噂を流すのだ‥?」

「所がそのフゲキのオオゲツという女性は、大変な人らしいです‥、」

 クニクルは、喋る前から、びっくりしたように目を丸くして言った。

「大変な女性ですって‥!

どう大変なのですか‥?」

 ナギも連れて、驚いた風に尋ねた。

「フゲキ様達の活動は、田畑の改良を指導してくれたり、村づくりの為の〈人の道〉を教えてくれたりしてくれているのは、国中の者達が皆分かつています。しかし、そのオオゲツ様は、山や原地に咲くいろいろな雑草を良く見分けして、皆が雑草として見向きもしな

かった草や木を、火や水を利用して食材にしてしまうのです。それに、木の実が出来る雑木林を山間の一角に集中させて、その保護の仕方を教えていると聞きます。そんなことで阿波の国は勿論、讃岐(香川県)、

伊予(愛媛県)、安芸(高知県)と四国中の村人達に大変喜ばれ尊ばれているそうです」

「ほほう‥、それは大したものですなあ」

 ナギも母親のトヨウケジのことは、良く知っているので、やはり血は争えぬはなあ‥、と感心して聞いていた。

「ナギ殿、それだけではございませんぞ。場所によっては、年に二回も稲作が出来る(二期作)ことを、実験して成功させたそうですわ‥、!」

「ええ‥、!年に二回も稲作が出来る方を見つけたと

‥!?」

 さすがにナギも、今度はは目を丸くしてびっくりした。

「それは、阿波の国での話

ですか‥?」

「いや、それは聞いておりません。その年の気候に合った場所で有ることは間違いないと思いますよ。その為に、四国中の村々から代表が、阿波詣でをしているとかで、大変な噂ですわ‥

!」

「そんなオオゲツが、何故、ヒルメの噂を‥?」

 ふとナギは不吉な予感がした。

「いや、分かりません。幼なじみのヒルメ様が、大王の孫に成られ、大変な霊感の持ち主で有ると聞いて‥

いや、幼い時からもう知っていたかも分かりませんが、嬉しさの余りの行動だと、私は思っておりましたが‥、」

「そうですか‥それもそうかも分かりませんなあ‥」

 一年前に、ワタツミがフゲキ達の移動を中止する指示を出したのを思い出した。

 ナギは、オオゲツがその指示をヒルメに相談して、

移動の中止を差し止めたい

思いでの行動だ‥、と確信した。



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