叔父に犯されたナミの運命は。そしてヒルメの激しい恋の行方は?
「オオナムチ‥私 ヒルメに会いに宇美の里に行きたいの。貴方一緒に行ってくれない」
「ええ‥、私が‥?姉上、ヒルメに何用で会いに行くのですか。ナギ王も葛城に行かれ、私まで留守にすると、ナギ様が帰って来られたら、私が叱られますよ」
「大丈夫よ。出雲は、ヤツカ(すえの弟)に任せておけば‥、彼はもう立派な武将に成っているわ。出雲国のぐるり、要の各所に砦や狼煙台を設け、警備体制は万全よ。おまけに、その連絡網は抜け目ないわ。そして、もうすぐスサ(ナミの次男)も帰って来るのよ。オオヒルメ殿の文にもそう書いてあったわ‥オオナムチ お願いよ‥ご一緒して‥、!」
「もう‥姉上には敵いませんな‥、」
「ありがとう‥オオナムチ。一生恩に着るわ‥、!
」
ナミは、オオナムチが一緒なら、カグツチも付いて来るとは言わないだろう。憎い男に犯され、その屈辱の報復も考えぬ間に、自分が負けてしまって二度の罪を犯したのは、紛れもない事実だ。自分の弱さが暴露され、無抵抗のまま放置する訳にはいかない。もうオオナムチに頼るしかなかった。
数日後、二人は数人の付人を連れて、宇美の里へ旅立った。
「ところで姉上。カグツチの叔父と何かあったのですか‥?」
「ええ‥、何故‥?」
ナミは、急にカグツチの名が出たのでびっくりした。
「いや、出発する前。どうしても自分を宇美の里へ連れて行けと‥、姉上を自分が護らねばならぬと、しきりに頼んで来なすった。私は、姉上も大事だが、弟のヤツカを守ってくれた方が良いと断ったのだが、なかなか引き下がらなかったので困ってしまいましたよ」
「叔父様が‥、!?」
ナミの顔が、真っ青になったのをオオナムチは見逃さなかった。
「ホホデミ様‥もうお別れね‥、」
「そうだね‥しかし、そなたが宇美の里へ戻ると聞いて残念に思っているのだよ‥、」
「どうして‥?」
ヒルメは、分かっていてもホホデミを困らせたかった。
二人は、村はずれの高台まで、互いに誘うこともなく歩いて来た。
数日後には、ヒルメが宇美の里へ戻ることが決まっていた。
「うん、、私も近々住吉(すみのえ、大阪市)に帰って、先々の事を考え見直そうかと思っていたのだ。そなたも一緒に、来て貰いたかったのだが‥そうも行くまい。そなたは、大王の孫だからなあ‥、」
「あら‥、ただ、私が欲しいだけじゃないの‥?」
「いやぁ‥、それはそうだが‥自分の行き先を、そなたに占っても欲しかったのだ」
「それでしたら、今でも占って差し上げてよ‥、」
「ええ‥、!もうそんなことまで分かっておるのか‥?」
「もう‥馬鹿ねえ~~ホホデミ様ともあろうお方が‥
あくまで、私の考えている先に、ホホデミ様がおいでだとの願望の占いよ‥うふふ‥、」
ヒルメは、愛しいホホデミが、慌てているのを楽しみながら答えた。
「もう~~私を馬鹿にしおつて‥、ところで、この国(西都原)の主のオオヒルメ様もご一緒だと聞いたが‥、宇美の里に何かあったのか‥?ツクヨミ様かハコクニ様に‥、」
「いえ‥そんなことは聞いてないわ。そうでは無いのよ。私の〈霊〉が、オオヒルメ様に辰韓を攻めるように促している様なの」
「ええ、ヒルメ‥!そなた
、韓の国の事情まで占うのか‥?」
「占ってるんじゃ無いわ。知らない間に、呟いていたらしいの‥?」
「それを、オオヒルメ様が真に受けて、辰韓を攻めに行くのか‥!?」
「ホホデミ様‥!落ち着いて‥、」
ヒルメは、ホホデミが自分の前では、子供のような発想しか出来ないのを危ぶんだ。
フゲキ達の現場のリ-ダ-格として、この時代に皆から期待されている御仁だ。素直に話し合わなければ成らない。彼は、私のような巫女と会うのは初めてだろう。
[美しく才が有り‥、霊魂の宿り方が尋常では無い
]
「ホホデミ様、私を抱いて‥、」
「ええ‥!今ここでか‥?
」
ヒルメは、ゆっくり体を倒した。
戸惑いの言葉とは裏腹に、ホホデミはヒルメに素早く抱きついていた。
ホホデミは、ヒルメを優しく愛おしさに溢れた愛撫を繰り返した。
ヒルメは、堪らなくなって身をよじらせ体を重ねるよう促した。
ホホデミも頷くように体を重ねた。
「あっ、あ‥!」とヒルメが小さく叫び、体をホホデミに押し上げた。
ゆっくりした軽いリズムから、しだいに動きが激しくなり、ヒルメは、喜悦の嗚咽を漏らしていたのが、激しい息遣いになり、堪らなくなって獣のような悲鳴を上げて、意識を失った。
ホホデミも、ぐったりなってヒルメに重なった。
早鐘のような動悸や激しい息遣いも少し収まり、気づいたヒルメは、満足そうに
「ねえ‥ホホデミ様‥!
」
と、自分の身体に覆い被さって、ぐったりしているホホデミに優しく呼びかけた。
「うん‥?」
ホホデミは、激しい営みに疲れて、返事も虚ろだ。
「お父様の居られる住吉って、どういう所なの」
ホホデミは、ヒルメと重なっているのに気づき、このままではヒルメが重たくて息苦しいだろうと、体を起こして、じっと彼女を見た。
今まで気づかなかったが、この女性は、その場その場の状況に合わせた表情が、出来る女性なのだ。何も作っている訳では無い。意思とは別に、気持ちと言うか心が瞬間に変化し、見る相手に動揺させない表情が、自然に出来てしまうのだろう。
「ヒルメ‥、疲れないか‥?」
激しい営みに、彼女も疲れ切っている筈だ。
「何故‥?貴方が頑張ってくれたから、私はすごく幸せよ‥、」
「そうか‥、ええっと今、私を呼んだね」
「ええ‥、夕日がすごくきれいので、貴方にも見せて上げようと思ったの」
「いつもきれいだけど‥
」
「私の母の名はツクヨミよ。いつも母を見ている様なの。お月様を見るとね‥、」
「そうだね‥、今日は、特別きれいに見えるね‥、」
二人は、普通の恋人同士の会話に、終止符を打たねばならなかった。
「ホホデミ様、住吉に戻ったら、タギリビメ様を妻に娶って、お父様にお預けになり、自身は、葛城の初瀬(奈良県桜井市)の私の父ナムチの元へ行って下さらぬか‥?」
「ええ~~今、何と言ったのだ‥、!私の行き先が見えて来たのか‥?」
「‥、」
「ヒルメ‥、答えてくれ‥、!」
「それ以上のことは分かりませぬ。愛しい貴方には、私は祈るしかないのです。私は、生きるがままに、心のままに、心霊の導くままに‥、なのです」
「ヒルメ‥、どうしたのだ。私を見捨てるのか‥?」
「ホホデミ様‥、弱気は駄目です。貴方の中には、もう私は居りませぬ」
「ええ‥、!?」
ホホデミは、ヒルメの恐ろしさを始めて知った。
「オシホミミ殿‥、船を出してくれまいか‥!」
伊都国王オシホミミに、スサは強く要請した。
「スサ殿、それは無理と言うものだ。我が国が今、辰韓に戦を起こせば、慶州他辰韓内にいる倭人達が危険な立場に陥ることは、目に見えているではないですか
‥、
「しかし、今辰弁韓の一部が、辰韓に略奪されているのですぞ‥、!」
「それは、辰韓と弁韓の争いであって、我等倭人としては預かり知らぬことだ。韓の国にいる倭人が、両国のどちらが勝利を収めようと、上手に立ち回れば良いことではござらぬか。これまでの歴史でもそのようにして来たからこそ、今日が有るのですぞ‥、!」
「それは今までのことで、これから先のことは分かりませんぞ。現に、辰韓は弁韓にいる倭人達を捕虜にして扱っておるのですぞ。事前に今、辰韓の動きを止めぬと、韓に居る倭人達の先行きは、保証しかねますぞ
‥、!!」
互いの応酬は、益々激しくなる。
但し、オシホミミには、
スサがこれ程までに、我を喰いかかって来るのは何故か‥、その真意は計り知れなかった。
「それで、どうなさいます。スサ様」
「ふうむ‥、困ったもんじゃ。相変わらずの頑固者じゃて。現状の泥沼にどっぷり浸かってしまっておる。おまけに、この地(伊都国)には、弁韓人の民も多く居るというのに、配慮しようという気持ちも無い」
「弁韓の地が、一つ一つ占拠されて行っているというに、オシホミミ王は、それでも助け船出さぬと‥!」
「それでスサ殿。オオヒルメ様は何と‥?」
「言って来ておることは、難解なことばかりじゃ。しかし、姉上には恐れいつたよ‥、もう奴国に着いてられるのかな‥?」
「ええ‥、オオヒルメ様が
、もう筑紫に来ておいでなのか‥、!」
二人とも、びっくりして顔を見合わせた。
「母上が何用で‥?」
ニニギは、母のオオヒルメとは、母子としての互いの情がとんと記憶が無い。




