ヒルメがホホデミの子を身ご持つた‥?叔母のオオヒルメは姪の行く末を案じた。そして、活動を制限されたフゲキ達(巫-巫頁、女と男)の運命は‥、!
「母様‥!お久しゆうございます」
「まあ~~タギリビメ、よう無事で立派になって‥、!」
謁見の後、皆それぞれ身内同士や、知り合い同士が連れ合い、各部屋に別れた。
オオヒルメとヒルメ、トヨウケジとタギリビメは身内同士。ホホデミと兵士三人は、ククノチがワタツミの親友の為同席し、イナビ、ウガヤ、タマヨリ等はオオヒルメ側近の西都原王家の重鎮達と同部屋で寛ぐことになった。いや、彼らの集まりは、これから先のフゲキ達の処遇を、取り決めていかねば成らぬ。重要な話し合いを控えているのだ。
トヨウケジとタギリビメは、ひしつと抱き合いお互いの無事に感謝し、血の温もりを感じあつた。
「ところで、妹のサヨリビメは何方とご一緒なの‥?
‥?」
「ミナトベとおっしゃる方よ。とても立派な方で、オオヒルメ様のお子で、ニニギ様の息子のヒコミコ様を連れていらっしゃるわ」
「それで、どちらの方面へ‥?」
「確か、伊都国から吉野ヶ里へ行って、八代までと聴いているわ‥、」
「そう‥、」
トヨウケジは、伊都国王オシホミミのことが頭によぎったが、今更、貴女の父が居る所よ。とは‥、言えなかった。
「そうそう、タギリビメ‥貴女達が出発する時、オオゲツと言う子に会わなかった‥?」
「ええ、ヒルメ様と仲が良く、ヒルメ様と別れる時、涙を流していたわ。その子がどうかした‥?」
「貴女達の妹よ。そのオオゲツは‥、」
「ええ~~オオゲツが私達の妹‥!?」
タギリビメはびっくり仰天して、目を白黒させ
「母様‥!どうして知らせてくれなかったの‥?妹と分かっていれば、‥、」
タギリビメは、オオゲツには何の言葉も掛けて遣らず、何の感心も無かった自分に腹立たしさと悔しさに、思わず涙が溢れて来るのを止めることが出来なかった。
その様子に、トヨウケジも一緒になって、震える手でタギリビメの手を強く握った。
もう涙声で、
「ごめんなさい‥、ごめんね。その当時は、私の不甲斐なさで、四人の子をどうして良いのか途方にくれている時、叔父のハコクニ様が便宜を図ってくれたの
‥、貴女とサヨリビメの時は、宇美の里の皆さんにはご挨拶して預けたのだけれど、オオゲツの時は、ただハコクニ様の知り合いの子と言うだけで、預かって頂いたの。だから、ヒルメ様のお母様のツクヨミ様もご存知なかったのよ。オオゲツが、どんな辛い思いで幼い頃を過ごしたかと思うと‥!?」
そこまで話をしてトヨウケジは、ククッと嗚咽を漏らし、必死に手を口に当てて泣き出した。
タギリビメも泣きながら
「母様‥、母様‥?」
と、母を思いっきり強く抱きしめた。過去のこととは言え、母の過ちを責める気にはなれなかった。
「ヒルメ‥、食事が余り進まないようだけれど、どこか具合でも悪いの‥?」
「いいえ‥、何でもありませんわ。少し疲れがたまったのかしら‥?」
もしかして‥、ヒルメはホホデミのことが少し頭をよぎったが、顔を上げニコッと笑って叔母を見た。
その表情を見て
[まあ~~なんてことかしら。この子ったら、私とツクヨミを合わせ持った顔をしているわ。当たり前だけれど、表と裏ね]
取り留めないことを考えながら、食事が終わったら、先程の辰韓を攻める‥、という考えをヒルメから聴いて見たかった。
食膳が引いた後ヒルメが「叔母様は、お日様のようなお人だとよくお話を聞くわ、何かお日様から伝わるものがあるのかしら‥?」
と唐突に尋ねた。
「何を言ってるの‥?当然でしょう。お日様あって私達が生きて生活出来ているのですから。お日様が上がれば、恭しく、お礼をしなければ‥、」
「そうですわ、私達生き物の源ですものね‥、」
「何なのヒルメ、急に‥?
」
「いえね。私としては、人に男と女が有るように、この世に有るものは、全て一対で成り立っていると思いますの。右手があれば左手があり、右足があれば左足があり、昼があれば夜がある‥、というように」
オオヒルメは、ふふ~んそれは母のツクヨミの教えね、と読み
「あらヒルメ、そなたの母のツクヨミがお勉強しているお月様のことがきになるのね‥、」
ヒルメはどきっとし
「いえ、そうでは有りませんわ。叔母様がお日様の代弁者のように伝えられているのは、非常に危険なことも併せ持っているのではないかと心配しているのですわ‥、」
「ほほう‥、では、ヒルメは私がお日様のように夜には居なくなるというのが不満なのね」 オオヒルメは、少しヒルメをちゃかした。
「そうではないわ、叔母様。お日様もお月様も東から上がって西に沈むわ。だから、お日様とお月様は一対の理から外れていないの。だから叔母様も、お日様をお祈りするのと同じように、お月様が出る時お祈りされたら‥、どうかと思って‥、」
「ふ~~ん。ヒルメって面白いことを言うのね。私に神様を二つ持てと‥?」
「‥、‥?」
「そうよ。人は、いや生き物は信じて崇めるのは一つのものにしないと迷って生きていけないのよ。お日様とお月様は一対ではなく相反するものかも知れないわ‥、」
初めて、オオヒルメは、ヒルメに意見を見いだすことが出来た。
ヒルメは、これ以上オオヒルメとの会話は無理が生じると思い、叔母の力強さを大いに発揮出来る問題点に話を変えることにした。
その前に、どうしても確かめたいことがあつた。
オオヒルメはオオヒルメで
[何と頭が賢い子なの‥!お日様のことでは何とか切り抜けたが、私なんてとてもこの子には叶いつこないわ。これ以上話を続けたら、自分自身の自信が、一辺に無くなりそうになるわ‥、」
と、ヒルメの次の発言に不安を覚えた。
「叔母様、タギリビメ様はトヨウケジ様のお子だったのですか‥?」
「ええ~そうよ。トヨウケジ様の最初のお子で、姫様が四人いるのよトヨウケジ様には‥、トヨウケジ様は、先の出雲国王のお嬢様なの。そして、貴女の祖母のナミ様の妹さんなのよ」
「ええ‥!それじゃあ、私の大叔母様に当たるのね‥?」
「そうよ‥、何と世間は狭いのね。と思わない」
オオヒルメは、ヒルメが、又急に話を変えてきたが、世間話に戻ったのでほっとした。
ヒルメは小さい頃、自分は宇美の里では母が教師だったので、それなりの生活を過ごすことが出来たが、幼なじみのオオゲツは、いつも身内が居なくて泣いてばかりいたのを思い出す。オオゲツの両親は、どうしてオオゲツを見捨てて現れないのだろう。ヒルメは幼いながらも、いつも不思議に思っていたが、母が何も言わないので、出来るだけオオゲツを大切に思って、寂しさを紛らわせるようにしていたのだった。
六年前、宇美の里を出発する前の日に、ハコクニ様にこっそり会いに来ていた女性がいた。ヒルメは何気なく、校長の家の前を通りすがりに、その女性が、[ええ~オオゲツが‥?]と驚いて嬉し涙を流していたのを見た。あの時の女性は確か先程叔母のオオヒルメの側に居たトヨウケジ様だった。今から思うとあの時彼女は、娘のタギリビメに会いに来たのではなく、オオゲツに密かに遠目で会いに来たのではなかったか‥?
「叔母様‥、トヨウケジ様の四人のお嬢様のお一人は、オオゲツと言う名ではなかったですか‥?」
ヒルメは確信を持って、
思いきって尋ねた。
ヒルメは、オオゲツの幼い頃の不安定な生き様が、心の奥に自分の魂と霊が染み付いているのを良く知っていた。
「ええ、そうよ。末娘さんはサルタビコ様とのお子で、オオゲツと言う名前だったわね‥。ヒルメ、オオゲツをどうして知っているの‥?」
「私の親友です‥!」
ヒルメは、頭のもやもやがすっと引き、オオゲツとの掛け合いや、遊びごとが
瞬時に、ずっと頭をよぎり、オオゲツの仕草や笑み、寂しさが自分には関係なく、オオゲツの思いが如何ばかりであったか‥、自然にヒルメの目に涙が積もり始めた。
そう言えば、昔ツクヨミとトヨウケジ様とのやり取りを思い出し、オオヒルメは納得したが、しかし
「ヒルメ‥、どうしたの‥!?」
オオヒルメは、姪が何を思って重い沈んでいるのか
‥?トヨウケジ様のお子オオゲツと言う子とヒルメに何があったのか‥?オオヒルメは、思わぬ展開に言葉出なかった。
[それで、叔母様。ニニギ様は今どのように‥、]
はっとオオヒルメは、ヒルメの霊が話し掛けて来たので、
[この子と話をしていると、自分を見失いそうだわ‥、]
と少し怯んだが、姪の行く末も案じ始めた。それに、先程の会食の進まぬ様子のことも気になり‥、ヒヨツとして
誰方かの子を身ごもったのではないかと‥!?
「それで、そなた達はヒルメ様やフゲキ様達の警護の為」に同行しておられるのか‥?」
ククノチは、兵士三名に問いかけた。三人とも、昔慶州から出雲に向かう途中、ワタツミやククノチ達と同様、本体から外れて宇佐に、流されたもの達だ。
「はい、馬韓の残党が潜伏しているかも知れないとワタツミ様のご命令で同行しております」
三人のリ-ダ-らしき男が答えた。
「いやいや、私共よりもヒルメ様のことを案じての計らいですよ。叔父が我々フゲキ達のことまで気を遣う人ではないですよ」
ククノチはニコッと笑って
「ホホデミ殿は、ワタツミ殿のご気性を良くご存知で
‥、」
「いえ、幼い頃一度だけお会いしましたが、豪傑と言うより、頭が切れる方だと、幼心に感心していましたから‥、」
「そうですな‥、ワタツミ殿の確かな判断力と素早い決断力は、他者達よりずば抜けていましたなあ‥!」
三人の兵士達も、うんうんと同調の相づちを大きく打った。
「それで、ホホデミ殿‥?
」
「はあ、‥?」
ククノチが、何となく喋りにくそうにしているので、
「何でしよう、ククノチ様。叔父が来て、何か変わったことでも言いましたか‥?」
「いえ、そうではなく‥、フゲキ様達の待遇というか環境が変わっていくのを非常に困ってらしたように思えるのですが‥、どういうことなのですか‥?」
「いや、実は私もはっきり分からないと言った方が正しいでしよう。直接出雲国王のナギ様に聞かなければ、どのような思惑でおつしやつているのか‥、今のところ、叔父のワタツミとナムチ様のお嬢さんのヒルメ様のおっしゃることだけですから‥、!」
「すると、ナギ王から各フゲキ達へ、直接通達が届けられた訳ではないのですか
‥?」
「はいそうです‥、」
「そうですか。しかしそれではお困りでしょう‥、でも先程、ヒルメ様のお言葉を拝聴しましたが‥、ナムチ様のお嬢様ですね。西都原の女王オオヒルメ様もたじたじでしたなあ~~。ところで、実際どのような違いが起こるのですか‥?」
「いままでは、出雲か宇美の里から旅立つ時に、ある程度ル-トを決められ、フゲキ達の活動が定められていたのですが、これからは現在滞留中の場所から離れてはいけないということです」
「それでは、これから先、新しいフゲキ様達の活動は中止ということになるのですか‥?」
「そう言うことに成りますね‥、しかし、フゲキでも女性は巫女としてのみ旅立つ可能性は有りますね。男性はその護衛ということであれば‥、但し、今の戦が静まってからでしようが‥、」
「それでは、現在滞留されているフゲキ様達でも、男子は巫としてやっていけないのですか
‥?」
「そう言うことに成ります。女子は元々、感性が豊かなので占いや霊に対して敏感に出来ているようなのです。勿論、誰でもと言う訳ではありません。選ばれた女性達のことですが、従来のフゲキとしての役割である畑作の知識や、人としての生き方の知恵を、土着の民達に教えていくことには限度を設けると思います」
「その分野は、男に任せていくように‥、とのことで‥?」
「ええ、ただそれだけでなく、男子は兵士として、その地域の護りを固める役に回ると‥、」
「ということは‥?」
「ええ、今居る村や国の守護神として生きて行かねばならない巫女と護り、その地に代々巫女の子孫を絶やさぬようにということでしょう‥、」
ククノチは、ホホデミとの遣り取りの中で、出雲国王のナギの思惑に不安を覚えた。昔、半島(朝鮮)の慶州から出発した時、ナギ様の決死の覚悟は、この列島(日本)を制覇する事ではなかつたか‥、当時十六、七才だったククノチやワタツミには、ナギの凄ましい勢いに圧倒され引き連れられて来たのだ。確かに、この二、三百年前からの倭族の進出は目覚ましい。強大な力となって列島に人脈を張り巡らし、他の先住民族(中国人、韓人)を圧倒して各地を牛耳っている。土着のいろいろな種族の民達も、倭族の勝れた技術力や博識に率先して同化を辿って来ているのだ。ククノチは、ナギがこの時期に一気に列島のリ-ダ-シップを取るべく、国作りを仕掛けていると感じとった。[ナギ様は、その戦略の遂行に、フゲキ様達が足手まといになると懸念しての荒療治をフゲキ様達に押し付けたのだ]
「ホホデミ殿。ここんところは辛抱のしどころですな‥、」
「はい。私もそう思って戦況を見守って行こうと思っております」
ククノチもホホデミも、戦の行き先が、飛んでもない方向へと進んでいるとは知るよしもなかつた。




