ワタツミとホホデミ(叔父と甥の関係)の再会。二人は卑弥呼女王の側近として一生女王のもとで活躍する。そして、女王の死まで二人で看とるのである
「ええっと姫様‥私達は今から、陸路にて西都原に向かいますが‥、勿論、行き先はご一緒ですね‥?」
「ええそうよ。叔母のオオヒルメ様に、お会いしに行くのよ」
「そうでしよう‥、そうでしよう。それで、これから姫様には、念のため三人の護衛を付けておきますので‥ご安心下さい。私どもは先に参りますので。 そうそう。今、他のフゲキ様達とご一緒のはずですね」
「そうよ。ホホデミ様達は、あちらの舟宿でお休みですわ」
「そうですか。ではちょっとご挨拶して来ますのて」
長身で少々細身に感じるが、がっちりしたその後ろ姿には威厳があった。
「小父様ったら、少し老けたかしら‥?ふぅ~ん」
少し、遠い昔のことを思い浮かべていた。幼い頃のイメージからは、かなりかけ離れているが、ヒルメ
にとっては、忘れる筈がない優しい父だったのだ。
軍の副将のヨンソン、ヨンムの二人に、この辺りの地形を説明してやって欲しい、とヒルメはワタツミから頼まれていた。
援軍を要請したのは、叔母のオオヒルメであろう。ヒルメは、いよいよ戦火が激しく成っていくのを感じた。
「おおう‥!やはりホホデミか‥!!」
「いやぁ!お久しぶりです叔父上‥!!」
ホホデミはワタツミの兄の子だが、ずっと列島で育った。
ワタツミ兄弟の母親は、出雲係の娘だが、父親は倭人だ。
「それで、兄者はご達者かな‥?」
「もう何年も会ってませんので‥、どうなんでしよう
。浪速(なにわ、大阪)の住吉という所に在所しているのですが、ますます鼻息が荒く成っていると、噂に聞いています
」
「おおう、そうかそうか。兄者らしい噂じゃ。ところで、今ヒルメ様に会ったが行き先は西都原のオオヒルメ様宛てじゃな‥、」
「そうですが‥叔父上は
‥?」
「うん、ワシもそうなんじゃが、状況によっては変わるかも知れん。何せ、要請があったのは半年前じゃからのう‥、」
「そうなのですか‥援軍の要請をしているのですから
、何か急な異変を感じたからでしようね、西都原で
‥、」
「う~んそうなのだが、どうしても急には行けなくて
今になってしまったのじゃ」
「ところで叔父上。この美々津のホスセリ様には
‥」
「先ほど会って来て、暫く
十隻の船を預かって貰うことをお願いした。おまけに、この地域も安堵してられぬのに、案内人や兵士十十人を出していただいたのだよ‥、」
「それはようございました。私達ももう五日もご厄介になっております」
「そうか、そうか‥、」
ふつとワタツミは、久しぶりの再会で、周りを気にする間がなかつたのに気づき「おうおう、失礼した。そちらのご三方に挨拶もせず、ご無礼しました」
「いいえ。お久し振りのご対面ですもの‥、」
荷造りしている手を止め、ニコニコ笑ってタギリビメは、ワタツミの気遣いに卒なく返した。
「私はタギリビメ。こちらにいるのがイナビ、そちらにいるのがフキアエズです」
手振り身振りで二人を紹介した。二人ともワタツミが武装しているので,少々怯んだが、手を止め、ワタツミの前に来て挨拶した。
「外でお会いになったヒルメ様の側にいたのが、介護役のタマヨリと申します。ワタツミの小父様、今後とも宜しくお願いしますね」
タギリビメ達も、兵士達の到着にはびっくりしたが、ホホデミの叔父が隊長と知って、ほっとしていた。
「何をおっしゃる。こちらこそ、甥のホホデミのこと宜しく頼みますよ」
と、前にいるタギリビメの麗しい凛々しさに、自然に自分の身が引き締まるのを感じた。切れ長で、きりっと引き締まった眼の奥の瞳から放つ光は、面長の顔立ちに、相手を安堵させる優しい表情を醸し出していた。
ワタツミは、自分がタギリビメに惹かれていくのを隠すように、ホホデミに向かい
「そなた達は、もう少し船で下って、新富の津から西都原へ上がったらどうかね。我々は、十隻の船が置けるのはこの津しか無いのでね‥、!」
その慌てぶりに、三人ともクスッと目で笑った。
それには気づかず。ホホデミは
「ええ、私達もその予定です。此処からでは陸路では遠すぎますし、危険が多そうですよ。ところで叔父上。それよりも、この戦いに入って各地を巡っているフゲキ達の動揺が増しているようですが‥、」
「うん‥そうだろうな。今まで少々の小競り合いがあっても、大きくにもならず、長引きもせなんだからな‥、」
「ナギ様は、どのように考えておられるのですか」
タギリビメが真剣な目付きで問うてきた。
「いやぁ、ナギ様のお考えは壮大で、私どもには計り知れません」
ワタツミは返答に困った。
ナギ様が出雲国王に成られた五年前の会議では、列島の要と成る数ヵ所に、倭人が確かなリ-ダ-シップを取れるような戦略を指示されたが、なかなか思うようには捗っては
いないようだ。
列島の各地域の土着民の根強さ、中華係や朝鮮係の先住的氏族の浸透の深さが余りにも予想より根深い。
倭人が媒体とする出雲のフゲキによる教えや田畑の改良による生産の技術で導くのは、時間がかかりすぎている。
下手に急ぎ仕掛けると、倭人への警戒心が強くなり、現状で各地域の倭人の王達への足を引っ張ることに成る。
ワタツミは、そこら辺りを考えて
「なになに、ナギ様はあらゆる状況を考えて指示されています。皆さん、心配することはありません。フゲキ様達は、今までどおりに活動なさって頂ければ、先は見えて来ると思いますので‥、」
「叔父上もそれを信じて‥
私達が、今までどうりの行動を取れば良いと‥?」
「勿論、しかりじゃが、但、戦況が厳しくなって来ると各地域の民達も穏やかでないはず。ホホデミ。何らかの方法で、各地域に散らばっているフゲキ達に、現在いる場所から離れず、移動されぬように伝達してくれぬか」
「ええ‥!?」
四人とも驚きの声を発した。
倭人達が目指している思惑と、フゲキの行動は別物では無いのか‥、と。
それ以上立ち入らず
「はい。それはいいのですが、出雲国王の承諾無くして、動いていいのですか‥?」
「ナギ様には、私の方から事後報告ということで知らせておく。承諾を得る自信が有るので、心配せずとも良い」
「分かりました。戦況が落ち着くまで、現在居る地で、民達の動揺が少しでも安まるよう、導いて欲しいと各地地域のフゲキ達に伝えましよう。もう土着民と共に、その地で息ずいているフゲキ達も多かろうと思いますが、いずれにせよ、こういう事態にも切り開いて行くことこそ、我々巫
巫頁〈(フゲキ)、巫は女、巫頁は男と解釈〉のフゲキたる所以だと信じていますので‥、」
ホホデミは、幾世代も続いて来たフゲキ達の活躍で、この列島の民達の生活の向上や、仲間意識の芽生えに、大きく貢献したことを自負し、出雲国の教えによって、列島の大きな国づくりを目指して行けるだろうと信じていた。
「そうか。そうであろう。その確信があるが故の、フゲキ達の強靭な行動力の現れなのであろう」
ワタツミは、幼い頃に半島に渡った為に、余りフゲキ達の存在には気づかなかつたが、列島に帰って来て、親族達がほとんどフゲキとなって、列島の各地域を巡っていることに驚いていた。
しかし、その活躍もそろそろ終わりにせねばならない。




