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ヒルメは、霊感でオオヒルメに呼び掛けた。息子のニニギを助けよ、と。辰韓を討つて弁韓を助ける為、伊都国王オシホミミを説得しなければ成らない!

普段着に服装を代えたオオヒルメの変わりように、又ワタツミ達はびっくりした。

 村の女性達と同じ貫頭衣(かんとうい、ワンピース)姿は、裾を上げてしまえば、すぐそのまま田に行っ作業出来る構えだ。

 それでも何という端麗さであろう。ナムチ様が、奥様のツクヨミ様を裏切られたのが、ワタツミには解るような気がした。

 ツクヨミ様は、どちらかというと大人しい賢そうな顔立ちで、誰にでも好かれるタイプの優しい女性だ。活動的で勝ち気なオオヒルメ様とは、姉妹でも大違いだ。容姿端麗で、おまけに国を守る思いと、民達を慈しむ気持ちが、あるじとしての責任ある自然な思いだと、信じての仕草は、誰しもが親しみを込めて信頼するに足りうる姿であろ。と僅かな時間の間に、ワタツミは感心して見とっていた。

「ワタツミ殿‥日向からこの西都原までの道のりで、変わった気配は、感じませんでしたか‥?」

「いえ、そのような気配は、別にありませんでしたが‥?」

「いえね‥、半年前に馬韓の輩を全滅させたのですが、最近になってこの地の北よりに、尾鈴山(児湯郡)という所に、馬韓の残兵が潜んでいると言う知らせを耳にしたのよ。そこは下ると日向に近い場所なので、もしかしたらと気になってね」

「そう言えば、日向の美々津でヒルメ様に道案内して頂いた時に

[イヤだわ‥、西の山々に何かざわついているのか耳鳴りがするわ‥、気のせいかしら‥?]

と、ぶつぶつ呟いていたのが気になります‥、」とヨンソンが、ふっと思い出したように、ワタツミの後ろで、呟くように知らせた。

「ええ‥、ヒルメ様とはそのようなことを‥!それで、そなたはヒルメ様にどう言うことか問い正したのか‥?」

「いえ、お聞きしようとしたら、笑って[何でもないわ。私、時々何か幻覚のようなものが頭をよぎる時があるのよ。イヤアねえ‥、]と言われたので、

それ以上尋ねたら失礼かと思いましたので‥、申し訳ありません」

「いや、それはそうじゃ。気にせんで‥、」

とワタツミは、ヨンソンを宥めた。

「ええ‥、!ヒルメが日向まで来ているの‥!!ようやく来る気になってくれたのね」

 オオヒルメは、姪のヒルメの聡明さは、かねがね噂に聞いていたので、早く逢いたかったのだ

「あのう‥、もしや、ヒルメ様と言うのは、ツクヨミ様のお嬢様のことで‥!?」

 オオヒルメのすぐ横後ろに座していたトヨウケジが、びっくりして問うてきた。そうですよ。トヨウケジ様‥、私の姪ですわ」と

オオヒルメは、にっこり笑って答えた。

「それでは、他のフゲキ達とご一緒なのですか‥?」

 と、ワタツミに問うた。

「はい。私の甥っ子のホホデミと、他の男二人とヒルメ様と他の女の二人の六人連れでしたよ。トヨウケジ様‥、何か思い当たる節でもあるのですか‥?」

「はい。その二人の女性のうちの一人は、タギリビメと言いませんでしたか‥?

「はい。確か、そういうお名前でしたが‥?」

「はい。私の長女なのです。噂で、ツクヨミ様のお嬢様とご一緒だと聞いていたので‥、ああ‥!無事に過ごしていたのだわ‥、」

 ほっと安心したのか、

何年か振りの再会を楽しみにしているのか、トヨウケジの顔にパッと日が射したように赤く染まった。

 驚いたのはワタツミだ。

[ええ‥!トヨウケジ様のお子だったのか‥、道理で‥?]

 自分が、タギリビメの魅惑に陥りそうになった時のことを思い出し、じわっと額に汗を忍ばせ、徐々に顔が赤らんで来るのを、必死に抑えようとする様を、じっと自分を見つめているオオヒルメに察知されているのを感じた。

「まあ~~そんなにタギリビメ様って、魅力的な方なの‥!?」

 ワタツミの焦る様を見ながら、女性特有の嫉妬の混ざった冷やかしを、ワタツミに浴びせた。

「いやぁ~あ何をおっしゃいます。あの方が、トヨウケジ様のお子だったのでびっくりしただけです」

「まあまあ‥そろそろお食事にしますので‥、オオヒルメ様、宜しゆうございますか‥?」

 トヨウケジも、自分の娘のことなので余り長話になるのを避けようとした。

「ええ‥、!そうね。お料理にワタツミ殿の慌てようで、良い魚の当て」」が増えて、今朝は楽しい御膳になりそうですわ‥、うふ

ふ‥」

 オオヒルメの〈タガ〉は緩まなかつた。


食事の後での馬韓に対しての戦況の話し合いで、ワタツミ達は日向に戻り、船団を率いて大隅(鹿児島)経由で八代に向かうことになった。

 馬韓のヨンギジヨンが、済州島へ戻って戦の準備を整える前に、八代の馬韓の村人達と話し合いし、和解策を講じることが出来るか。

 もしくは、ワタツミ達が八代に到着する頃にはヨンギジヨンが戻り、再び西都原攻撃を準備して、もう侵攻しているか。

 はたまた、ヨンギジヨンが済州島を出発して、八代に向かって来ている途中なのか‥、と。

 それぞれの情勢に応じての戦略を確認して、ワタツミ達は、西都原を後にした。

 オオヒルメは、兵士百人ほどの半年分の食料を持たせ、ワタツミ達の武運を祈った。


 ワタツミ達が去って、十日後にヒルメ達が西都原に到着した。 

 フゲキ六人と兵士三名が、高床式建屋の大広間に案内された。

 正面には、正装したオオヒルメが、大理石を施した椅子に座り、泰然と構えていた。

 左の側には、トヨウケジを筆頭に国の重鎮が、青銅でこしらえた背のない椅子に順次座り、彼らを出迎えた。

 ホホデミが先頭にオオヒルメの前に立ち、

「オオヒルメ様、お初にお目にかかります。暖かいお出迎いありがとうございます。これから私達九人、この西都原の国で村人達と共にその一員となって、足手まといとならなぬように、大いにお役に立てるよう頑張りますので、宜しくご指導下さるようお願い申し上げます‥!!」

 それに続いて来客全員が

「宜しくお願い申し上げます‥!!」

と、声を合わせて挨拶した。

「おほほほう‥、なんと皆様、ご丁寧に‥、よくご無事でいらつしやいましたわ。この国を、ご自分のお国と思って、遠慮なくご自由に生活して頂くと嬉しいわ‥、ねえ~~トヨウケジ様‥!」

「はい、オオヒルメ様。皆様‥、どうぞ遠慮なく、何でもご相談下さいね‥、」

 来客の一人一人の顔を素早く見とって、優しい笑顔で答えた。

「トヨウケジ様のお蔭なのよ‥、皆様‥、!この西都原が昔のように、平和な国に戻ったのは。彼女の豊富な知識とずば抜けた知恵を生かして、豊かな土地に作り上げてくれたのだわ。それでも、まだまだ先は不安が一杯だけどね‥、今、こうして皆様とお会い出来るようになったので、とつても幸せよ。そうそう。そろそろ‥?皆様、お座りになって」

 右手を差し伸べて言葉をかけた。

「はい、有難いお言葉に感謝します」

 ホホデミは、そう言葉を返して振り向き、皆に座るように合図した。

「それはそうとホホデミ殿。父のナギが出雲の王に成って以来、フゲキ様達の環境が変わったのではありませんか‥?」 

 今までの女性としての優しい表情から、打って変わって、厳しい、女主おんなあるじとしての表情に変わった。

「いえ‥、そのようなことは‥、」

「遠慮入りません。ワタツミ殿から、大用おおよその話は聴いています。私が知りたいのは、フゲキ様達の貴い願いを、父が、知らぬ訳が、ありません。父も今までフゲキとして活躍していたのですから‥、何故、今になって父は、フゲキ様達の功績を無視するような動きをしているのかしら‥?」

「いえ、私どもにはよく分かりませんが、ナギ王は先行きを考えての指示を、フゲキ達に与えた‥、と私は考えております」

「‥、‥?」

「叔母様‥!この列島の行く末を案じての決断。と私は考えております」

 末席にいたヒルメが、突然話の中に入った。

「ほほう‥!ヒルメがそのように思うのは。どういう行く末になると案じてのことかな‥?」

 オオヒルメは、ヒルメをじっと見据えた。なんと、急に遠くに居るはずの彼女が、目の前に居るような錯覚を覚えた。徐々に、初めて会う姪の顔だけが、辺りを闇に包んでくっきり浮かび上がった。

[叔母様‥!お初にお目にかかります。ツクヨミの娘ヒルメです。年は十六才に成ります]

 はっとオオヒルメは周りを見渡したが誰も居ない。というか見えない。不思議に思いながらもオオヒルメは

[もう十六才成ったの。私がツクヨミから知らせを受けたときは、貴女が三つの時だったわ。昨日のように思えるわ‥、]

[叔母様‥!この西都原は、もう安心ですよ。馬韓に攻められることはありません。叔母様は、お子様のニニギ様を助けて、辰韓を攻めるべきです]

[ええ‥!辰韓を‥!?]

 その時

「叔母様‥!叔母様‥!?

 ヒルメの呼ぶ声が別に聞こえてきた。

何と!今、辰韓を討てと言っていたのではなかったか‥?どうして、別から彼女の声が聞こえるのだ‥!

 そして、ざわめきの声が大きくなり、オオヒルメは、夢から覚めたように、大きく瞼を上下に動かした。

 左右を見る

「オオヒルメ様、如何なさいました‥!?」

 トヨウケジが、心配そうな顔で、自分を見ている。

「叔母様、大丈夫?」

 ヒルメが、遠くから声を掛けていた。

いやこれは、先ほどヒルメをじっと見た時、彼女が無意識に霊感を発する、その領域に入ってしまったのかも知れない。

 ヒルメより劣るが、自分も霊感の要因を携わる身だ。ヒルメの吸引力には凄みがある。

「ええ、ヒルメ‥、それで、列島が案ずる先行きとは、どういう状況に陥った時のことを言うのかえ‥?

「叔母様、この列島に大きな力のある国を作らねば、半島や中華に乗っ取られてしまう‥、ということだと思っています」

「成る程‥、それで、内部を固めて先手を打って〈韓〉を攻めると‥、」

「ええ‥!韓の国に戦を仕掛けるのですか‥?」

  ホホデミがびっくりして尋ねた。周りの人達も、同じようにびっくりした面持ちで、オオヒルメを見つめる。

「いや、そうではない。ヒルメが言っているのは、韓に居る倭人の力を一つにまとめるということだと‥そうねヒルメ‥、」

「はい叔母様、」

「それで内部を固める為に、フゲキ様達の協力が必要だ‥、という訳ね」

「はい叔母様‥、」

ヒルメとオオヒルメが、互いに感じ始めている、ナギの心情から‥、これからの戦略に、フゲキ達が足手まといになる、という決断を二人は察知し、そこまでは二人共話を詰めなかった。

[ヒルメの霊は、辰韓を攻めろと言った。しかし、ヒルメの態度は、その霊の言葉が本人には無意識に発言したとしか思えない]

 オオヒルメは、ヒルメの霊感は、本人の意思とは別に一人歩きしているのか

‥と案じた‥、が、いやいや彼女は全て理解して、自分の霊を自由に発動することを望んでいるのだ‥と。

そこまで推察していくと、思わず身震いした。

「さあ~~皆様‥!旅を疲れを癒して下され。各部屋に、トヨウケジ様が作られた美味しいお料理が待っていますよ」

 とオオヒルメは、謁見の

お開きを告げた。


   



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