神話に卑弥呼がいた
〈始めに〉
「倭人国設立」というを夢を乗せて、ナギ・ナミ夫婦は半島(朝鮮)の慶州から戦乱最中の列島(日本)の故郷の出雲(島根)へ旅立った。
帰って10年後、20数年前に嵐の海に流された長男ヒルコ(当時3歳)の生存を聞かされる。よりによって、ヒルコは海に流されたのではなく、出雲国タカムスヒ王(ナミの父)の親族がヒルコを連れ去って行ったことが判明した。タカムスヒ王は責任をとつて王位を辞任し、後事を「ナギ」に託した。
ナギは、それぞれの親族を呼び寄せ「連合国設立」の準備を公表する。
ナギの子達と親族、タカムスヒの子達と親族らが、当時11歳のヒルメ[ヒミコ(卑弥呼)]と先々おりなしていき、波瀾万丈の卑弥呼女王の一生を綴った物語である。
第一章
第1節「ナギ,ナミ故郷に帰る」
日が水平線のかなたからまだ兆しが見えないうちに、十数隻の船団が曙を目ざして東へ向かっていた。真っ暗な深海の日本海の静けさを打ち破って、櫓のこぐ音だけが一定のリズムになって響き渡っている光景が実に不気味に映る
意を決したナギ、ナミ夫婦(卑弥呼の祖父母)は、一族郎党を率きつれ、対岸の日本列島の出雲に移住を図って慶州から出発した。
韓民族の支配の中、倭人集団の部族長として、慶州に横たわる大河、洛東江の支流が日本海に躍り出る河口付近を治めていたナギは、先祖伝来の土地を見限らねばならなかった。
北方の騎馬民族の「歳」が南下しそうだとの動きを察知したからである。
中国の長江(揚子江)流域の河口、江南から朝鮮半島へ流民として定住し延々四百年の歴史から離別する決意をしたのだ。
「我々の落ち着く先は日本列島しかない!!」と。
事実列島内では古から、倭人集団が各地で活躍しているのだ。ナギ一族も曾祖父の代から列島に定住し始めた。そして、ナギは列島の淡路島で生まれ、出雲で育ちナミを嫁にもらつた。
ところが、慶州で部族長をしていた父が急に亡くなり、ナミを連れて、倭族の地盤確保するために戻っていたのだつた。
「オオ!?どうしたというのだ?」
第二船で櫓ぎでの仲間に掛け声をかけていたオオヤマツ(ナギの義弟)は、列をなしていた船団の後方の一船が、列から離れて行くのが見えて、驚きの声を張り上げた。いや一船だけではない。その後に控え進んでいた二船、三船も追尾していく。
「長殿!後方の船が離れていきます!?」
船団を率いる第一船で、水平線のはるか先にある出雲が、今まさに現れんかと、食い入るように見つめているナギに大声で叫んだ。ナギは踵を返した。
「あれはナムチ達の船ではないか、潮に乗り切れなんだか
?」
四月の始めである。慶州から離れて周りに気づかうことなく進める地域まで来たが、南下する寒流から北上する暖流に乗り切らねばならない難所にさしかかつたのだ。
「スサ、弓矢をとれ!!」
脇にいた息子に声をかけ、素早く小さなうすい板に【宇佐】と刻んでスサに渡した。
矢尻の先に白い布を被せ、その下に板を巻き付けて、スサはおもいっきり引いた。
「ナムチ殿、如何いたしましょう。後ろの船達も潮に乗り切れないようです!!」
義兄のワタツミが叫んだ。計五隻が押し戻されながらもゆっくりと右方向にづれて進んでいる。
「ううむ~!急に寒流の流れが早くなって押し戻されているのだな‼️ワタツミ殿、筑紫
へ向かうしかないか‼️」
ナギの三男ナムチは16歳で船団の一角を率いていた。始めての遠乗りが移住という大仕事になった。
「ナムチ殿、長の船から矢を射たようで、こちらに飛んで来ますぞ!」ワタツミは、まだうす暗い空を見上げ、矢尻の先の白い布を目ざとく見届けけ叫んだ。
うなりを上げた矢は、数十メ-トル先の海面に突きささつた。瞬時にワタツミが飛び込んだ。
海中に飛び込んだ矢がどんどん沈んでいく。ワタツミは矢の位置を目指して泳いだ。その速さは部族一と言ってもずば抜けてすごい、たちまち矢を見届ける。
しかし、矢はある程度沈ときびすを返し、ワタツミから逃げるように離れて行った。ワタツミと矢の競争となった。
海上の五隻から仲間達は、うす暗くて良く見えない海面にワタツミの動きだけを感じとる
ように、固唾をのんで見守っていた。
なかなか姿を見せない。ワタツミと言えど、仲間達も段々心配になってくる。海面に顔を出せばわずかな音でも分かる。しかし潜っている時間が長すぎる。
「海ん中でも潮の流れが変わっているんじゃないか!?もう矢などほつといて上がってこいや!!」誰かが思わず叫んだ。周りの者も不安になって口々に後をついで叫び出した。
ナムチもワタツミが心配であつたが、仲間達の船が漕ぎでを止めたので、少しずつ海流に押し戻されているのを見、「皆の者!船が押し戻されているぞ!?思い切り日に向かって漕いてくれ‼️」手振りで東を指した。
皆、はっとなって漕ぎでに戻る。まもなく、矢が飛び込んだ位置よりかなり先から、ワタツミが矢を振っているのが見えた。
「やっぱりワタツミ様だ!?泳ぎはそんじょそこらの魚より早いもんな‼️」そんな冗談も
出て「万歳!!万歳!!万歳!!」の三唱となった。
船が漂流しそうな危険時を、とっくに忘れているようなはしやぎぶりであった。
帰りついたワタツミは、矢をナムチに渡し「長は伊都[福岡県]ではなく、宇佐(大分県)に行くようにとのご指示ですが、ナムチ殿には以前、何か思い当たることがある場所なのですか?」
「いや、特別に宇佐に誰がいるかは聞いてはいないが、渦潮に巻き込まれる恐れのある玄界灘を避けさそうとしたのではないかと思うのだが?」
主なる倭人集団が所属する列島での国々の位置は父のナギから何度も聞いている。
「しかし、この厳しい潮流で筑紫(北九州)のど
こにたどり着けるか
だ!?」
「ねえ~ねえ!それでヒルメのお父様達は無事に宇佐にたどり着いたの!」
「ううん~~知らないのよ。お母様はその後のことは何も話してくれないもの?でも、私が比の〈宇美の里(出雲国の筑紫の拠点)〉にいることは、筑紫のどこかに無事に着いたことは確かだけどね!」と、クスッと笑った 。
「さあさぁ準備できたの。早く出ないと又咜られるわよ」ヒルメは幼なじみのオオゲツをせかせた。
玄界灘に近い遠賀川流域のこの村では、六才になると目ざとい子等に『月』・『日』・『田畑』について学ばせた。勿論、村全体の子等に対しても、他の村と同様、部族の存続の為の生活の知恵を、親兄弟等のやっていることを見て、自然に見よう見まねで覚えていくことが最大の成長の糧として捉えていたが、この列島の民が存続、生長していく為には出雲の教えが古から求められていたのだ、という責務を自負していたのだった。
それで、特別に学ばせた子等には、十才で『巡礼(出雲を中心とした国造りの協力と宣伝』に出る、という厳しい定めがあった。
「今日はお月様のお勉強ね」オオゲツが後ろを振り返えりながら言った。急いで小高い丘の集会所へ向かう道すがら、幾人かの子らもついて来る。
ヒルメとオオゲツは、もう年長組にはいつていて、『巡礼』に出る年も近付いていたのだ。
「ヒルメの母さまのツクヨミ様ね、今日の先生は」
「私、嫌だわ母さま、私にだけとても厳しいんだもの!」
「そりゃあそうよ。あなたは特別によく出来るもの!」と羨ましそうにヒルメを見つめて「私なんてからっきし駄目。お月さまが夜にしか出てこないのが不思議できた、それ以上のことは頭に入らないもの!」
「そんなことはないわ。私だつて不思議に思っているのよ。お月さまを見て、いろいろことが分かるなんて?今の私にはとても想像出来ない和。でもオオゲツ、あなたは田畑のこととても良く知っているからまだましよ」
「うん、皆より少しはね。実際畑で野菜を作ったり水田で稲を作るってむずかしいでしょう。私も早く覚えて自分で作ってみたいのよ」
「良いわねオオゲツなんて、それが出来たら一生食いはぐれないわよ」
「何、言ってるのヒルメ、その前にちゃんとお月さまやお日さまのこと分かっていないと作物なんて出来ないのよ。ヒルメなんて頭が良いんだから、私の代わりに頑張ってもらわなくっちゃっ!」
二人は丘の長上に立ち、ずっと見下ろす先の平地に、稲穂が緑の絨毯のように広がつているのを、夢うつつかのごとく、暫くじっと眺めていた。
古から筑紫[つくし(九州北部)]は半島(朝鮮半島)の南端の部族とは交流が盛んで、時期によっては互いの王が両地域を統括していた頃もあった。
二百年ほど前には、半島の『弁韓』という国が『奴国(なこく、福岡』あたりまで勢力を張っていたが、倭人集団の浸透によって撤退を余儀なくされ、以来互いの分割がはっきりしだしてきた。
奴国、伊都国と力をつけてきた歴代の王達によって、筑紫は列島の先住民(大陸北方系種族と太平洋側南方の島々の種族との混血による種族)との同化を積み重ね、その主力として倭人集団が国作りに頭角を現してきていたのだった。
一方、同じ倭人集団でも、出雲から陸奥[むつ(青森~新潟)]の沿岸地域に浸透していた部族は先住民(アルタイ・ツング~ス系)の勢力に押されながらも存在感をアピールし、特に出雲においては先住民との混血と同化を繰り返しながら、確たる勢力を維持していた。
北方の人種は、数千年前からエミシ(北海道)、陸奥(青森・秋田県)を中心にこの列島(日本列島)の地盤を確保して支え続けた歴史ある人種には間違いない。
そして又、その出雲国は、列島の各地域に巡礼を送り他の種族との協調と同化を率先して行い、かなりの同盟国を確保していた。先住民と倭人達との連合集団と言える。
しかし、出雲国を舞台にした同盟各国も、倭人集団との思惑の違いで常に火だねはもつており、反発勢力として一触即発
の危機を水面下では蠢いていたのである。
第一章
第2節
「ナミの憂愁」
「ヒルメの旅立ち」
ナギ達が出雲に帰って
、もう10年近くになる。その間ナギ・ナミ夫婦はナミの父出雲国王タカムスヒに依頼され、出雲同盟国巡察の為よく旅に出ていた。
久しぶりに帰ったある日。
「のう~ナギ殿、昔、嵐の海にさらわれたヒルコのことだが~最近になって北の陸奥あたりで見かけたという者がおってのう~?」と話しかけてきた。
「ええ!ヒルコが!?」ナギとナミは、絶句した。
25年ほど経とうか、最初の子を海に流され、その頃の二人の嘆きは大変なものであった。まだヒルコ三才であった。
嵐の三日前
「ヒルコ、外に出ては駄目よ!きつい風がたまに吹いてふきとばされちゃうわよ‼️」
ナミは笑いながら飛んでまわるヒルコを追いかけていた。
「おい、あの子がナギの子か?」
「はあ~なかなか利発でかしこい子らしいですよ」
「そりゃいかん。ナミ姫様を倭人に取られ、その上息子がしつかりしとつたら、我々一族の先はどうなる。皆、追い出されるかも!?」
「いやぁそれはないでしよう。でも、タカムスヒ様は何故倭人の息子に姫様を娶らせたのかね?」
「そりゃあ、最近の倭人の勢いはすぞいもんじゃ。あっちこっちの国で倭人が王になっとるもんな。タカムスヒ様もその辺りのことを考えてのことかのう。倭人は稲のことをよく知っとるし、占いもよく当たるし‥!」
カグツチ、ハニヤマ、ワクムスヒの先祖は遠く陸奥の三内丸山[さんないまるやま(青森県)]の出で、越後[えちご(新潟県)]、能登[のと(石川県)]を経て出雲に移り住んで、もう幾百年も経つ。国王のタカムスヒとは親戚筋にあたる。
「おまけにタカムスヒ様もナギの父親とは仲が良かったものね?」
「そりゃあナギの父親のトコタチ様は、同盟国を作るのに大働きをされたもんじゃ。この出雲の国が大きくなった大変な貢献者じゃよ。
「そう言えば、トコタチ様の姿が最近見えませんわ。どこか旅に出すったか?」
「何を言っとる。トコタチ様はとっくに慶州(朝鮮半島)に帰られたわ。四年前にナギが姫様を娶った時、タカムスヒ様にナギとナミ姫様を託されたのじゃ」
「そうだったのか。それで、なぜ急に帰りなさった」
「何でも、ナギの祖父様が病気がちじゃて、国の面倒が見れなくなったと‥何せナギの祖父は慶州の倭人達の族長だと聞いておった」
「そうかそれで急いで帰ったというのか。それで話しは変わるが、肝心のタカムスヒ様の世継のオオナムチはどこへ行ったのやら‥?」
「越(こし、石川県)の国に嫁探しじゃ。まだ14歳じゃが倭人に負けておられんでのう‥」
それから2日後
「ヒルコ!ヒルコ‥!」
ナミが髪を振り乱して、丘からかけ降りてきた。
「姫様‥どうなされた~!」
「ああ‥カグツチ様。息子のヒルコがどこにも見当たりません。浜辺にでも行ったかと!?」
「何に!今日の海は大荒れじゃ‥まさか‥!」二人は急いで浜辺へ向かった。
「ほれ‥あそこの舟にヒルコが!」
「ああ‥!ヒルコの葦の舟が‥!!」
ナミ絶叫はした。
「ヒルコ!ヒルコ!!ヒルコ~!?」
いつも父に遊んで乗せてもらっていた葦の舟の綱が引き止めから外れたか、砂辺から数メ-トル先に浮かんでいた。
「姫さま~危ない~!!」
もう葦の舟は沖へ返される波に乗ろうとしていた。
「ヒルコ!!ヒルコ!!ヒルコ‥!?」
もう絶望の声を張り上げながら、ナミは引潮に押し流され舟に向かった。足元を奪われ倒れた。うつ伏せになって返す波に乗った。
カグツチは、咄嗟に浅瀬ながら泳いでナミにたどり着き、ナミの袖を引っ張りながら波打ち際まで戻した。
葦の舟はあっという間、数十メ-トル先に浮いて次の引き波を待っている。
もう引き戻す全が無くなった。
あれから25年経つ。
「なんですつて‥長さま。ヒルコが生きているつて~!?」
ナギは何か聞き違えたかと耳を疑い、 タカムスヒ に聞き返した。
「25年も経つのに、どうしてヒルコだと分かるのですか父様?」
ナミも驚きのあまり、信じられない思いでタカムスヒの言葉を待った。
「そうじゃのう‥我も何を馬鹿げたことを‥と。しかし、確めさしたらそうでもないらしい。その者の言うには、行商の仲間達とこの度遠く出雲へ稲の買い出しに行く話しをしていたら、越後から来た5~6人の旅の者の中に、〈自分は出雲の出で両親が倭人のナギ、ナミである〉と言ったそうな。その者も始めは余り気に止めていなかったそうだが、その旅の者達が三内丸山の国で稲を上手に育てたという噂を聞いて、もう一度会いたいと探したそうだが、もう村を離れたと聞いて残念がつたそうな。なんでも、ただいつも稲の種の〈もみ〉を小袋に入れて腰に下げ、各地で稲の育て方を教えて回っている、と。そしてその者達の旅の先は陸奥を下って遠く武蔵[関東]に行くと聞いた。そういうはなしだ‥どうじゃ、ヒルコが生きて大きくなっていると思わぬか」。 葦の舟がどこかの岸辺にたどり着き、ヒルコが助かって、何人かに育てられたと言うことですか‥そんな大嵐に助かったなど!?」
「いや‥三才で居なくなった子が、25年も経つて現れたと聞いても信じられないだろうが、今思えば、あの嵐の日からハニヤマとワクムスヒの姿が見えなくなったなも、今から考えると解せんことじゃ?」
「それでは、その時ハニヤヤマとワクムスヒがヒルコを連れ去ったことも考えられると‥!」ナギは空を
見つめて歯ぎしりし、両手のこぶしをおもいっきり握った。目は爛々と輝き次第に憎悪と化していった。
「確かにあの時‥ヒルコの姿が見えたとカグツチ様は言ったわ!?」ナミは余りにも話しの展開が、見に迫る気配になり、ヒルコを案ずる間も許されず、身の毛がよだつて、おもいっきり大声で泣き叫んだ。
春三月、梅の盛りも過ぎ去り、遠賀川流域の川筋に数十人の群れがにぎわいを見せていた。川幅を大きく取った浅瀬に四隻の船が立ち並ぶ。
今日は10歳になった子らの巡礼の出発は日で、親族がお祝いと不安の入り混じった顔で出発の準備をしていた。
校長の「ハコクニを」が、指きを取って準備の点検を急がしている。
ハコクニの子の【ナンシヨウメ】、ホノニニギの子の【ヒコミコ】、サルタヒコの子の【オオゲツ】、ナムチの子の子の【ヒルメ】の4名が、緊張の面持ちで出発の時を待っていた。
準備を終わり、ハコクニが一通りの旅立ちの心構えを述べ、無事の帰還を天の神にお祈りした。
ナンシヨウメは、伊都国(福岡)から唐津(佐賀)を経て海を渡り、弁韓の金海(釜山)、ヒコミコは前原[まえばる(福岡)]から吉野ケ里(佐賀)を経て肥後(熊本)へ、オオゲツは海を渡って伊予(愛媛)から阿波[あわ(徳島)]へ。ヒルメは宇佐[(宇佐)大分]を経て日向西都原[ひむかさいとばる(宮崎)]へそれぞれのの行き先を告げられた。
付き添いのフゲキ(巫、巫見)[巡礼者の正式名こ称-祖霊-先祖の霊魂-の言葉を聞いてこれを人間に伝える(男も女もいる)]三人ずつが各船の前に立ち、連れの子(ヒルメ達)が向かって来るのをニコニコして待ち構えていた。
次号へ
先の時代を担う子等に期待を込めているのであろう。別に自分達の役目も果たすなか、貴方達は安心して付いて来なさい‥と。オオゲツとヒルメには介添え役の女性を一人別につけていた。
旅の期間は、一様定めているが、あつて無いようなものだ。旅先で長居し、居座って一生その地に留まっても構わない。
目的は巡る国々で自分達の必要性を説き、生活の為の知恵や祖霊との会話など、あらゆることから実情を判断し、実践して共に行動して分かつてもらうことなのだ。
その為の知識と実践力は皆兼ね備えている。当時の出雲は、あらゆる面で先進的で、文化も他の国々より優れていた。
出雲の国を中心とした国どうしの団結で、部属、繁栄が望めるのか‥?
それが目的の行脚である。
遠賀川を四半時(30分)
ほど下った辺りで、縦一列に流れていた船が徐々に列を乱れ始めた。
子供達が離ればなれになるのをフゲキ達が、別れの場を作ってやろうという、親心の風情を楽しむかのようにその場を設けたのだ。
まず、最後尾のナンシヨウメの船が、列を離れて前を走る船に並んだ。
「ヒコミコ‥余り無茶をするなよ~ほつといても目立ちすぎるからな‥!」
「分かった分かった。お前こそ生真面目すぎていかん。良い子がいたら離しちゃあいかんぞ‥!」
「バ~カ!相変わらずの奴だな‥元気でやれよ!」
「お前もなあ~!」そして
前の船に並ぶ。
「オオゲツ、韓の国に行ったら新菜を見つけて、必ずお前のもとに送ってやるからな‥今度会ったら美味しく料理してくれや!」
「ありがとうナンシヨウメ必ず送ってね‥お元気でね!」
「オオゲツもなあ!」先頭の船に追い付き
「ヒルメ、身体に気をつけろよ!たまに男みたいに滅茶するからな~又、いろいろな仕組みが分かったら教えろや‼️」
「ナンシヨウメ、ご無事でね‥また会える日を楽しみにしているわ!」
「俺もだよ、、ヒルメ元気でな!」ナンシヨウメの船が先頭に立ち、次にヒコミコの船が列から離れてオオゲツの船に並んぶ
「ヒコミコ、余り女の子をいじめたら駄目よ。もうお兄ちゃんなんだから!
」
「何言ってんだ。お前こそ大飯食らって太っちょになるなよ。デブっちょになって戻ってきたら、もう会ってやらないからな‥!」
「もう失礼しちゃうわね‥!良いからいいから、私がどんなになっても貴方は会いたがるんだから‥生きて帰って来るのよ!」
「相変わらずのオオゲツだよ、まったく。よう‥無事でな!」と手をふった。そして前に出
「ヒルメ、親父のナムチ様に会えるかも知れんな!」
「どうかしらね‥もう五年も会ってないから。今は葛城(かつらぎ、奈良)
の方じゃないかな?それよりヒコミコ、貴方は吉野ケ里や肥後のほとんど山の中を歩く旅路よ。しっかり食べて身体を大事にしてね」
「まかしときなって。体は誰にも負けないからな‥ヒルメ、今度会うときは俺の嫁になってくれよな~!」
「うふふ‥、立派なお仕事をして帰ってきたらその時‥考えるわ」
「よっしゃ、無事に戻ってこいや!」
「貴方もね!」船は先頭にまわり、次にオオゲツの船が横に出た。
「ヒルメ‥、もうお別れね‥!」オオゲツはヒルメの顔を見るなり泣き出した。
「もうオオゲツったら泣き虫なんだから‥、伊予か阿波で、もし私の父に会ったら元気だと言っといて」
「分かったわ、私がいつも側にいるって思っていてね‥」
「勿論よ‥それより貴女の方こそ、私がいつも側ににいることを忘れないかなでね。私には特別に感が働く力があるのよ」
「うん‥、ありがとう」
オオゲツは、日頃からヒルメにじっと目を見つめられると、全ての自分が見透かされていることを感じていた。又、たまには空をじっと見据えて、何か訳の分からぬことをぶつぶつ言ってるのも見掛けた。後で問いただしても、ヒルメは何も答えなかつた。二人は手を振って別れを告げた。
オオゲツの船が先頭にたった頃潮の香りとともに、目の前に大海原が姿をみせ、船を吸い込むように待ち構えていた。
女子どもは右へ、男子の二組は左へ別れ、お互いに手をふって安全を祈った。
オオゲツは父のサルタヒコが新しい妻を連れて伊勢へ旅立ったのを知っていた。ヒコミコの父ホノニニギを伊都国の王に推挙して筑紫から離れた。「宇美の里」に、下の娘が寂しく引き取られることも知らずに‥、
阿波からは伊勢は近いは。うまく行けば、いつか伊勢に行けるかも。母が出雲に帰ってしまっているので、幼い時からオオゲツは家族の愛に餓えていた。
一気に在地住人と倭人との間に不信感が蔓延しだした。互いの疑心暗鬼は極度に達し、出雲王国の中枢は一触即発の危機に陥った。
ハニヤマとワクスヒの縁者十数人が罪人のごとく取り調べられ、共謀と隠蔽の罪で全員牢に入れられた。ハニヤマとワクムスヒの両親は、石見(いわみ、島根県西部)へ流罪となった。族長のタカムスヒは責任を取って出雲王国の王の座を退いた。ナギは慰留したが、タカムスヒの意思は固く、後事をナギに依頼した。
タカムスヒは同盟国に文を出し、出雲国の王にナギを任命したことを知らせた。