表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ほんとうはこわい異世界転移  作者: 紫苑 翠
10/11

#10 異世界チート、いただきました! そのチート、大丈夫ですか? (前編)

 知らず知らずのうちに身につけていた天然チートのせいで、異世界を滅ぼしてしまった俺。

 世界を滅ぼしちゃうようなチートなんて怖いから、現地の人くらいに制限して欲しいって女神さまにお願いしたんだけど、ちょっと無理だと言われてしまった。


 出来ないものは仕方ないから、自分で気を付けるしか無さそうだね。

 異世界に行ったら、そこの常識を早急に入手する方向で対処しようと思う。


『はい。それでは、新たな世界での活躍を期待していますよ』



 ◇



 目が覚めた。ぱっちりと。


 そこは、久々の室内だった。

 石造りの壁かな? 打ちっぱなしじゃなくて、綺麗に表面が処理されている。色もかなり白くて、ちょっと高級そうな感じ。

 部屋はとても広い。広すぎて、何本も天井を支えるための柱がむき出しになっている。パルテノン神殿の柱みたいな感じだね。むき出しと言いつつも細かい装飾がなされていて、見事な作りだ。パルテノン神殿よりも数段ほど精緻な感じだけど。

 天井もクッソ高いね。下手したらフロアを五階分くらいぶち抜きにした感じだ。天面には明かり取りのガラスらしきものが全面に嵌め込まれている。


 周囲には、西洋人っぽい人たち。二十人くらいかな。もう少し多いかも。

 半分くらいの人は、中世風の貴族っぽい衣装を身に纏っている。残り半分は騎士っぽい鎧だ。腰には剣を下げている。

 貴族と護衛かな? 護衛なのか騎士団の人なのか、そんな感じ。


 貴族っぽい人の中に二人、輪をかけて豪勢な衣装の人が居るね。


 一人は中年の渋い男性だ。イケオジって感じ。

 他の貴族と比べても装飾過多な衣装に、豪勢な赤いマント、頭にはキンキラキンのでっかい王冠。細かい装飾が施されていて、宝石もふんだんに嵌め込まれてるね。

 手には見事な錫杖。魔法使いの杖じゃなくて、装飾品としての杖っぽい感じがするね。何やら細かい模様が全体に施され、鷹っぽい精緻な意匠が先端に見事に彫り込まれてる。鷹の目の部分を始めとして、これまた宝石がこれでもかっていうくらいに嵌め込まれている。

 うん、どう見ても王様だな。テンプレ乙。


 もう一人は、美少女。

 白を基調とした清楚な雰囲気のドレスを身に纏っている。清楚なんだけど、よく見るとゴージャスな仕様だね。あまり目立たないけど見事な模様がそこかしこに編み込まれていたり、フリルっぽい布が重なるところにさりげなく宝石やら何やらの装飾品が隠れるように付けられたりしている。チラリズムか? チラリズムなのか?

 頭には、これまたキンキラキンの王冠。ティアラって言った方がいいかな? 女王様とか王女様がよく付けているあれだ。サイズこそ王様の王冠には負けてるけど、装飾の精緻さとか嵌め込まれている宝石の豪華さなんかは決して負けていない。

 うん、どう見ても王女様だね。テンプレ、判り易くていいと思います。


 改めて、自分の周囲をチェックしてみる。

 足元には魔法陣っぽい幾何学模様。召喚陣ってやつかな。前の時に見たものとは随分と異なってるね。世界が違えば魔法陣も変わるんだろうかね。

 前の時は、魔法陣の周囲をずらっと人が囲んでたけど、今回はそういう人は居ないっぽい。

 誰が召喚したんだろね。それっぽい魔法使いな格好の人は見当たらないんだけど。

 異世界モノだと王女様が召喚することも多いから、美少女な王女様かな?


「よくぞ参られた、異世界の方よ」


 イケオジな王様(仮称)が、俺に話し掛けてきた。

 おー、なんか威厳のあるっぽいバリトンボイスだ。乙女ゲーに出てきたら人気出まくりな感じ。


「突然の召喚、申し訳なく思う。だが、どうか我々に力を貸して欲しいのだ」


 感心している間にも、イケオジ王様の話は続く。何だかテンプレ召喚っぽいね。

 俺も、しっかりと王様の目を見て意思表示しておく。先ずは話を聞かせてくれたまえよ。


 長々と続いた王様の話を纏めると、こんな感じ。


 この世界は、テンプレ魔王が無辜なる人間達にテンプレな危害を加えるテンプレファンタジー世界らしい。

 テンプレ魔王はテンプレ魔物軍団を使ってテンプレ大災害を引き起こしたり、テンプレ極大魔法でテンプレ天変地異を引き起こしたりしてテンプレ好き勝手したい放題。

 人間達も国家という垣根を超えてテンプレ団結してテンプレ対抗したんだけど、テンプレ強大な魔王の前にはテンプレ人類軍などテンプレ弱小軍隊に過ぎず、テンプレ敗北しっ放し。

 敗北に次ぐテンプレ敗北により、テンプレ人類軍はテンプレ崩壊寸前。もはやテンプレ現地人のテンプレ(ぢから)でテンプレ魔王に対抗することはテンプレ不可能。かくなる上は、テンプレ勇者召喚でテンプレ異世界からテンプレ救世主を喚び出す以外にテンプレ手段が無い。

 そうして実際にテンプレ召喚が行われ、テンプレ喚び出されたのがテンプレ俺というわけだ。


 ふぅ。なんだかテンプレがゲシュタルト崩壊しそうだぜ。


 しかし、せっかく召喚してもらって何だけど、俺は特別な力なんて持ってない、ごく普通の人に過ぎないんだよな。

 残念だけど、期待に応えることは無理っぽいじゃんね。


 そう思って、自分の無力さ加減をイケオジ王様に伝えてみる俺。

 しかし、イケオジ王様は、笑みを浮かべながら俺に答えた。


「うむ。そなたの心配も道理であるな。だが、勇者として召喚される者には、必ず勇者の力が与えられておるのだ。安ずるが良い」


 ほえー。

 これまたテンプレっぽいね。勇者専用スキルが貰えるとか、そんな感じ?


 テンプレな展開すぎて逆に驚いている俺に、王女様が微笑み掛けてきた。


「勇者様の力に関しては、(わたくし)から説明致しますわ」


 おー。王女様、透き通った綺麗な声だね。

 女神様の声とはまた違った魅力がある。柔らかくて優し気で、人を安心させる力を持っている感じがするよ。

 まあ、女神様の方は本当に声として聞こえているのか微妙なところだけど。


 王女様の話を纏めると、こんな感じ。


 テンプレ勇者には、テンプレ召喚のテンプレ副次効果として、テンプレ勇者パワーが与えられる。

 具体的には、テンプレ勇者の剣をテンプレ召喚することが出来るようになるらしい。

 テンプレ勇者の剣はあらゆるテンプレ魔物をテンプレ両断できるテンプレ凄い名剣であると同時に、テンプレ勇者パワーをテンプレ引き出すためのテンプレキーアイテムでもある。テンプレ勇者パワーを引き出すには、テンプレ勇者の剣を手にした状態でテンプレキーワードをテンプレ唱えればいいらしい。

 なお、テンプレ勇者の剣はテンプレ勇者にしかテンプレ扱えず、仮にテンプレ盗まれたりテンプレ破壊されてしまったとしても、テンプレ勇者がテンプレ再召喚することによってテンプレ完全なテンプレ状態でテンプレ勇者のテンプレ手にテンプレ戻ってくる。


 ふーむ。

 ゲシュタルトしたテンプレ崩壊は置いとくとして、女神様が言っていた「チートを無暗に削るのは駄目」っていう話が少し理解できた気がするぞ。

 もしチートが削られちゃってたら、今回の勇者パワーも削られる対象になっちゃうもんね。せっかく現地の人が呼び出した勇者が何の力も持っていなかった……なんてことになったら、そんなのはちょっと酷い仕打ちだ。


 そんな風に、勇者とは別の方向で納得していた俺を見て勘違いしたのか、王様が話し掛けてくる。


「理解してもらえたようだな。では、そなたの勇者としての力を試させて欲しい。場所を変えさせてもらうぞ」

「わかりました。どこまで出来るかは判りませんが、微力を尽くしましょう」


 ちょっと格好をつけて王様に返事した俺は、先導する王様たちの後に続いて移動することになった。


 ◇


「神撃の剣よ、我が手に!」


 右手を高く掲げ、王女様から教えてもらったキーワードを叫ぶ俺。

 その手がびかびかっと派手に光ったかと思ったら、ぶおおんという音とともになんか格好よさげな片手剣が出現した。柄をぐっと握りしめて、眼前に掲げてみる俺。

 おー。テンプレとは言え、この演出は格好いいね。剣の装飾も無駄に格好いいぜ。実用性が無さそう……どころか、いっそ剣を扱うのに邪魔になりそうなレベルで派手な装飾がバリバリに施されていて、俺の厨二魂をこれでもかってくらいに刺激してくるぜ。

 でも大丈夫かなこれ? 剣を振ったら腕やら頭やらに装飾が刺さったりしないだろうね?


「おお、流石は勇者様だ」

「なんという濃密な神気を纏った剣なのだ。あれなら魔王とて……」

「勇者様ステキ!」


 遠巻きに俺の様子を見ていた人たちから、感嘆の声が漏れ出てくる。

 ふっふーん。これは気分いいねぇ。これぞ勇者って感じがする。テンプレ万歳だね。

 ちなみに、ステキって言ってたのは野太い男性の声だったりするので、無視しようと思う。


「良かった……勇者様、きちんと召喚できていました」


 遠巻きの人達よりは数歩ほど近くにいた王女様からも、安堵の声が漏れた。

 言葉からすると、王女様が勇者召喚したのかな? ホント、女神様がチート排除をしないでくれて助かったね。こんな可愛い子を失望させるところだったぜ。


「勇者よ。その力を見せてもらえるかな?」


 王女様の隣に立っている王様が、俺に声を掛けてきた。

 もちろんオッケーだぜ。勇者パワーとやらがどれ程のものか、この俺に見せてもらおうか。


 王様に頷くと、あらかじめ標的として指示されていた遠くの山に向かって剣を大きく振り被り、キーワードを唱えながら振り下ろす!


「|神撃覇王焔龍滅魔咆哮斬さいきょうのいちげき!!」


 カッ――


 剣を振り切った瞬間、俺の正面に眩いばかりの光の球が生じる。

 直径二メートルはあろうかという光球は急速に収束し、指先サイズの光の弾となる。


 ――キュ、ドンッ――


 光の弾からレーザーのような細い誘導線が走ったかと思うと、次の瞬間には光の弾が音速を突破し、衝撃派をまき散らしながら標的の山へと突き進む。


 ――ッドゴオオオオォォォォォン!!


 山に直撃した瞬間、轟音と共に光の弾が大爆発を起こした。

 爆発の衝撃は凄まじく、大質量なはずの山を跡形もなく粉砕し、その構成物質を直上へと噴き上げている。

 そして、その数秒後には、大爆発によって生じた衝撃波が、威力を維持したまま俺のところまで到達するはず。


 このままでは、巻き込まれてしまう。

 観客のつもりで見ていただろう貴族の人たちから、悲鳴と怒号が沸き上がる。

 我先にと逃げ出そうとするが、迫り来る衝撃波から、人の足で逃げられるはずもない。


 でも大丈夫。

 だって、これは勇者の一撃だから。人に害を成すはずがない。

 俺にはその予感があった。勇者の直感ってやつかね。


 俺の予感の通り、相当な威力を維持しつつあらゆるものを巻き上げていたはずの衝撃波は、俺の手前まで来た途端に威力を極端に減じた。

 かつて衝撃波だったものは、まるでそよ風のように人々の間を優しく吹き抜けていく。

 巻き上げられ、あるいは巻き込まれていたはずのアレコレも、いつの間にかどこへともなく消えてしまった。


 おー、すげぇな勇者パワー。

 これなら魔王も一撃じゃね? 魔王の城ごと殲滅できちゃいそうな感じ。

 少しばかり発動が遅いとか、剣を振ってるのに何故か弾丸っぽいのが出てくるとか、光なのに音速なのかよ普通は光速なんじゃねとか、光なのに音速の壁を超えたら衝撃波が出るのかよとかいろいろツッコミどころは多いけど、そこはテンプレだから仕方ないと思う。

 あと、ちょっと環境破壊が著しい気もするけど、魔王にやられるよりは良いよね?


 恐慌の一歩手前まで来ていた人たちからも、やがて歓声が上がり始めた。

 王様も「見事なり! 流石は勇者!」とか叫んでるし、王女様も潤んだ瞳で俺を見つめていたりする。

 俺としてもドヤ顔することしきりだ。借り物の力だけど、貰った以上は俺のもんだぜ。


 そんな俺たちのお祭りムードを。


『ふむ。魔王(ワレ)に仇なす勇者とやらは、貴様か』


 地の底から響くような恐ろしい声がぶち壊した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ